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15話 青の魔女

―魔人族の里―


「助けてー!」

「いたいよお…」


魔人族の里は壊滅状態にある。

それは、この青の魔女の手によるものだった。

突如として現れ、何の前触れもなく焼き払った。


あるものは許しこい、あるものは逃げ出した。

そのことごとくを滅殺された。


「ユウ…逃げて」

「母上!気を確かにして下さい!今、転移魔法を使いますから!」


魔法陣を展開、どこでもいい、とにかくあの悪魔から少しでも遠くに飛べれば…


「魔法が、、、展開しない?」


「ユウ…」

そこから一目散に逃げ出した。

とにかく走った。

このまま逃げられると本当に思っていた。でも、


「みぃつけた」


それはすぐに終わりを告げた。


「あんたは…見逃してあげようかな?麒麟知ってる?」


この悪魔は何を言っているのか、母上をこれ以上ないまでに殺し、しかも私を見て、

すこし驚いてから意味のわからない事を言う。


「…まだ、なのね。いいわ。待っていてあげる」


私を残し、魔人族の村は壊滅をした。



―エルフの里―


「魔女が出た!」

「戦えるものは準備をしろ!」


先の帝国での戦いの後、目的を失ったエルフ族は、日々を怠惰に過ごしていた。

もはや、勇者の敵討ちをしようなどと考えるものは誰一人いなかったのだ。

二つ名をもつエルフも姉が大戦で命を落とし、妹の方が残った。

勇者と姉、その双方を失った妹アイは、もはや生きる気力をなくし、

その目に生命力を感じない。


そんな中、急遽魔女が現れた。

なんの前触れもなく、突如として里を焼き払った。

躊躇なく始まった虐殺に、生きる希望もないエルフのほとんどが命を散らせた。


「アイ様!どうか立ち上がってください!ユイ様がいない今、戦えるのはアイ様だけです」

「やめておけ。もうそいつはだめだ。そんな時間があるなら、一人でも多く避難を誘導しろ!」


それでも大賢者の二つ名があるエルフである。

そのまま、というわけにはいかず、里の一番底。大底室へと隠された。

運ばれている最中も懸命な呼びかけがあったが、眉一つ動かさず、まるで人形のように放り投げられた。


そうしてエルフの里は1日と立たず、消滅をした。

たった一人の少女を残したまま。


―帝国―


「報告ご苦労。下がっていい。」


先の戦いで大事な愛弟子を失いながらもその捜索と破壊された帝都、その残党狩りとトラは時間が足りず、悔やんでいる時間はなかった。

そのどれもが片付かず、次から次へと問題が増え続けた。

1日に5回から6回の報告が来て、その倍以上の承認が求められる。

こんな時なのに魔王は一切の関与をしない。

騎士団団長であるトラがこの帝国を支えていた。


それには理由がある。

もはやこの帝国で騎士を名乗れるものがトラしかいない為だ。

あの帝都での暴動の折、トラ以外の騎士団長は全て殺害され、ほとんどの団員もその命を落としていた。

全ての騎士団長が帝都にいたわけではない。

それにも関わらず、各地で暗殺や毒殺、撲殺。ひとつとして同じ死に方をしていなかった。


同時発生の反逆。

しかしそれにしてもそのタイミングが良すぎる。

トラは密かに、青の魔女 シャアの手によるものと確信をしていた。

我が愛弟子である、タウを連れ去ったやつこそ青だと見たからだ。


今すぐにでも探しに出兵したい所であるが、この帝国に自分しか指揮をとれるものはおらず、帝国に張り付けにされている。

まさに青が考えそうな策略である。一刻も早く帝国を復帰させ、同時にタウの行方も明確にし、自らが迎えにいくと、そうトラは希望をもっていた。


しかし、入ってくる報告は驚きのものばかりである。

魔人族は壊滅をした。

突如として出現した青により、魔人族の里は壊滅。

転移魔法が使える自称勇者の子供も、その行方がわかっていないらしい。

その特性から転移による離脱が考えられるが、たった一人ではなにもできまい。

里に調査にでた騎士団員によると、魔人族の長の死体が確認された。


その数日後には、エルフの里も同様に壊滅。

先の大戦で大魔導士ユイを屠ったが、今回はそれが効いていたのだろう。

しかし大賢者アイの死体は確認できなかったそうだ。

こちらもなんらかの方法で離脱したに違いない。

だが、そのもぬけの殻具合も聞いている大した脅威ではないだろう。


ここまでくると帝国への襲撃も時間の問題だ。

この世界は狭い。

魔人族、エルフ族ときたら、次、帝国他はない。


刺し違えても、このトラが青を止めなければならない。

そう覚悟を決めるしかなかったのだ。


―緑の森―


「タウ、魔眼の調子はよかったね。」


俺はエルフの里を焼き払った。

この魔眼の力を制御する事が出来なかったからだ。

それでも帝都にせめてきたエルフ族を焼く事になんの躊躇いも感じなかった。

むしろ、エルフの里で大きな戦になればトラが助けにきてくれるかもしれないと

淡い期待もあったが、冷静に考えて、そんな余裕がない事もわかっていた。

俺はただ、新しい自分の力を試したかっただけだ。


だが、わかった事がある。

俺はハーフエルフだ。


間違いがない。

母の家があった。母の写真があった。間違いなく俺はエルフの子だった。

同族を焼いた。

自身の罪に言い訳をしながら、俺は間違いなく取り返しのつかない事をしたのだと

自覚している。

それでも、俺を攫ったこの魔女に逆らう気になれなかった。

勇者の子供だと、持て囃され、図に乗って偉そうな態度をし、身分が低い者を迫害した。

そうしているうちに少しずつ気持ちがよくなっていた。

俺は選ばれたものだと、この立場がなくなればもうどこにも行けないと思っていた。


それが今はどうだ。

虚勢を張る相手もいなければ、母のようにとはいかずとも、やさしくそれでいて妖艶な魔女がいる。

この能力を与え、使えば褒めてくれる。

子供のようだが、嬉しかった。今までトラ様を含め褒めてもらった事などなかったから。


「あんた、いい眼を開眼したね。コントロールも出来るようになったし、次は帝国にいくとしようか」


いずれ、必ず来ると思っていた。

魔人族、エルフと滅ぼして、帝国になにもしないわけがない。

エルフの里での俺の力を見て、この魔女は俺を少し信用している。

トラ様と合流し、この眼の力で、自分の力で騎士団になってみせる。


俺は首を縦にふり、言葉は出さなかった。

口元が緩んでしまいそうだった。


― 幽遠の丘 ―


ここに来るのはどれくらい久しいのだろう。

私が青の魔女と呼ばれ、本名を捨てたあの日以来だろうか。

私はもともと、ただのエルフだった。

他のエルフと違うのは、魔力が異常に高くマナが見えた事だけだった。

たったそれだけなのに、私は異常なエルフとして扱われた。

母も父も私が物心つく頃には、そばにいなかった。

危険だとかで、村の一番最下層に一人でいた。

そんな私にも楽しみがあった、一日に3回食事をもってきてくれる男の子。

名前は確か、リクだったか。

リクは、化け物扱いの私を怖がることなく、接してくれた、外の話もたくさんしてくれた。

そのどれもが経験したことない話で、いまいち理解できなかったが、

楽しそうに話すリクが好きだった。


ここからはよくあるパターンだ。

親しくなりすぎたリクが私に操られるとかで、追放された。

多分、命はない。

リクの両親が私に怒りをぶつけてきた、自慢の息子をかえせとかなんとか。

当然私は何もしていない、リクが善意で満天の星空を少しだけ私に見せてくれようと

それだけの事だった、私も興味があったし、そのまま逃げる事も考えていなかった。

明日もリクと会いたかった。


そんな子供通しの計画がまかり通ることなく、私は物理的な罰を受けた。


しばらくリクの両親からの罰が続き、あきたのかぱたりのなくなった。


それからはずっと退屈だった。

一日3食の食事が2食になり、1食になり、

2日に1度になった事には、私からほとんど肉がなくなった。

それはいい。別に動く事も話す相手もない。

このまま死を迎えるとそう思っていた、早くリクに会いたいと思っていた。


余計な事をする奴が現れた。

そいつはリクの意思を継いでいるという。

名は聞かなかった、言っていたと思うが覚えていない。

私は外に出る事ができた。


その空は目の前いっぱいの満天の星空だった。

外に出してくれたやつから、食事をもらい、誰にもバレる事なく私達は森を出た。

その連れ出した男は、森を出るやいなや、私に迫ってきた。

こんな体のどこがいいのかわからないが、別にどうでもいい。

私は静かに目を閉じて、それが終わるのをまった。

男は、涙を流しながら、そんなつもりではなかった、リクの為だったというが、

終わってからで、何か意味がある言葉だったのだろうか。


男は、耐えられないと村に一人で戻り、私はまた一人になった。


初めての自由。

何をしてもいい。

何がしたいのかわからない。

もう見たかった星空は見た、一緒にみたい人はもういない。


復讐だ。

私を戒めたやつらを、リクを殺したやつらを破滅させてやる。


それから数年が立ち、気に入らない事は魔法で全て解決した。

町もいくつ消したか覚えていない。

青の魔女と言われるようになったのは、それからすぐの事だった。


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