第14話 灼眼の魔眼
―エルフの里―
「姉さん聞いた?明日、魔族で勇者のお披露目会をするらしいの」
ちょっと前までは、私の事を名前で呼んでいたのに、どういった風の吹き回しであろうか。
久しぶりに、ねえさんだなんて。
「姉さん、聞いてる?私、絶対にチャンスだと思うの。どうせやつらの事だから浮かれてきっと隙だらけだわ」
この妹、魔力値だけは相当なものだけれど、どこか抜けている。
心配だわ。
「アイ、ごめんね。あなたに姉さんだなんて言われたのは久しぶりだったから驚いちゃった。お披露目の事だけど、絶対にダメよ。向こうもわかってやっているわ」
「逆に燃えるわ!やつらに目にもの見せてやりたいの!」
勢いだけはあるのよねー。
よほど、勇者の事で怒りが収まらない様子だけど、しかたがないか。
目の前で殺されて、自分だけ逃げてきてしまったのだもの。
里に逃げ帰った時も、ずいぶんと周りから言われていたし。
「このまま、守っているだけもいずれ持たなくなる。ずいぶんと陳腐かもしれないけど、これが私達の最後のチャンスかもね。みんなを集めるわ」
この会議は夜通し行われた。
皆も疲れていたのに、これが最後になる事を理解してくれた。
どうせやるなら成功させたい。
最終的に2つのプランが残り、最終的な計画を完遂する為に、この2つのプランを同時に進める事になった。
姉と妹がそれぞれの立案者で、ちょうどよかった。
タイムリミットまで時間がない、それでも計画は入念に練りこまれ、この作戦は、
カウンターと名付けられた。
―魔人族の里―
「ユウ!いよいよです。明日、魔王陣営は、派手な催し物をする。あなたは、事前に転移魔法で現地へ飛び、深く潜入をしておきなさい」
帝国には、この日の為に一瞬だけ領地に入った。
私の転移魔法は完璧ではあるけれど、制約がある。
それは、一度でも言った場所に限定をされるという事だ。
今回はその日まで時間がかなりあった事もあり、私はすでに帝国に潜入済みだ。
さすがに、当日は警備も固くなる。
私はひと月も前に帝国に潜入をした。
「ユウ様、帝国軍に動きがありました。恐らく、勇者演説の下見かと」
「して、魔王軍の勇者はいたのね。どんなやつなの?」
私の事はもちろん向こうにも知れ渡っているはず、母様がその様に仕向けたのだ。
あの男の計画によって。
「子供です、マナのオーラもすごく、間違いなくターゲットかと」
暗殺する相手の事だから、知っておきたい。
というのは建前だ。
母親が違うとはいえ、同じ父親である事はわかっている。
兄妹という事だ。
その相手を殺すのだから、心中穏やかではない…と自分で冷静に考えられるあたり、
私も相当なものなのだろうか。
正直会ったこともない兄妹など、他人とさえ思える。
一時的に興味がわいただけだ。
物の影からひっそりと見た。
時期的に兄にあたるその人物は、トラと言われる魔王軍親衛隊の隊長と一緒に視察をしていた。
そうとうに信頼している様子が表情から見てわかる。
魔王軍に感化されるなんて、なんと頭のおかしい兄…やつなのだろうか。
「ユウ様、これ以上は阻害魔術も持ちません。ここで我々の存在がばれてしまうと計画に支障が出ます。」
「わかっているわ。いきましょう」
存外興味があったらしい、予定よりも長く時間を使ってしまった。
私情で計画を無駄にしてしまわないようにしなくては。
相手の顔も見た。
最終段階に移行をする事にしよう。
―魔王軍 新勇者誕生の宴 当日―
「よくぞ集まった。魔王軍の精鋭よ。すでに皆も聞いていると思うが、我々に勇者の末裔が誕生した!元来勇者とは我々と相対する存在ではあるが、そうではない。その強大な力を指すことにある。その者を皆に紹介しよう」
トラ様の演説で始まり、魔王様への忠誠を誓った後、紹介をされた。
ここで俺の出番というわけではない。
ここでおめおめで登場をしては、命を狙われている者として、あまりにもお粗末だ。まずは影武者が登場する。その為にあえて、その影武者とトラ様で帝国内を闊歩したまである。羨ましい。それ自体は、向こうにもわかっている事だ。だかいずれにしても動きはあるはず。その者の動きから、相手を割り出すという事だ。俺、出る必要なくね」
「皆!我が勇者の」
それは突然に発生した光。
間違いなく魔術によるものだろう。
あたり一面が真っ白になる、その事自体は想定内ではあるが、この光いつまで光っているのだろうか。
やむことのないその光は、五感を麻痺させ、不安になり、声を上げる魔王軍も出だした。
俺のそばにトラ様だと思う、すっと近づいた人影を感じた。
しかし、それはトラ様よりも細く、やわらかい腕?
しまったまさか。
「静かにしろ、声を出せば喉を潰す。騒ごうとすれば足を潰す。だまっていれば、危害を加えるつもりはない。わかったら、その攻撃的なマナを抑えろ」
生まれて初めて、生の殺気を感じた。
これは本気である、そう確信できる。
俺は発動しようとした魔術を引っ込め、マナを抑え込んだ。
「わかればいい、だが、今のマナの動きでお前の動きはトラにバレた。飛ぶぞ」
一瞬、魔王様へお会いする時のような転移の感覚があった。
実際には、飛行魔法によるものとわかってはいたが、目の前が真っ白に加え、体が浮いた事があれをイメージさせた。
と同時に、光がやみ、周りが一瞬見えた。
エルフの軍勢が押し寄せてくる、あちこちで爆炎が上がり、鉄と鉄のあたる音が広がった。
あの光、どうやら視覚だけではなく聴覚まで阻害していたらしい。
そのあとにすぐ俺を連れ去ったものを見た。
見覚えのない女。
「おや、あまり驚かないのね。」
だが、間違いない。
こいつは、魔女だ。
恐らく魔法で姿を変えているが、状況からみて、青の魔女ではないか。
「いっとくけど、青じゃないからね。青ならすでにお前は死んでるよ」
なにでは。
「自分の素性をあっさりと明かすほど、私はおろかではない。名前と顔で発動する魔法もあるくらいだからね。」
俺はあっさりと誘拐されてしまった。
「アイ!大丈夫!」
「予定狂いまくりだけど大丈夫!この機会に少しでも魔王軍を減らしてやる!」
「そこまでだエルフ族共、個人的な恨みを含めて、お前たちを殲滅させてもらう」
「あれはトラ。私に任せて!」
「おねえちゃん!気を付けて、相当強いから!」
帝国は、争乱に巻き込まれた。
魔王軍、エルフ族、魔人族との三つ巴になった。
もはや、どっちと戦っているのか、誰もわからない状態だ。
まさに地獄絵図。
この戦いは、1年間止まる事を知らず、続いたらしい。
「「楽しそうではないか」」
その戦局に、考えられるあらゆる最悪があった。
「あれは、魔王!」
誰かが言った。
誰も見たことがないとされる魔王ではあったが、その存在感。
間違いがない。
そこからは早かった。
魔人族は数が少なかった事もあり、ほぼ、全滅。
首謀者である、魔人族の長とその娘は捕らえられた。
エルフ族にいたっては、トラと対峙していた大魔導士ユイが最後まで決着がつかず、
賢者アイによって、離脱。
他のエルフ族はチリじりとなった。
魔王軍も相当被害を受け、トラもかなりの深手を負った。
何よりも勇者タウを失ってしまった。
それにも関わらず、魔王は笑う。予定通りという事なのだろうか。
こうしてこの戦争は幕を下ろす。
結果としては、魔王軍の勝利となった。
「さて、勇者よ。お前のその力。まだ目覚めていないのだな。目を閉じよ」
俺に拒否権はない。
目を閉じると、魔女は俺の目を手で押さえた途端。
「熱い!!!!あついいいいい」
目が強烈に熱くなった。焼けている。
眼球を直接あぶっているような痛みと熱さ。
「ちと我慢をしよ。もう少しである」
無理だ!もう視力はとっくに無くなっているに違いがない。
あまりの熱さに目を開けて、のたうちまわる。
あついあついあつい!
「よきころあいじゃな。目に定着したであろう」
魔女はそういうと、今度は、魔術を使った。
途端、目から痛みが抜けた。熱さもあったかい位に落ち着いた。
「おめでとう。灼眼の覚醒である。これでおぬしは炎の王として、詠唱なしで、任意に目にうつるものを地獄の炎で焼く事が出来る。」
灼眼、帝国にいる時に文献で読んだ。伝説の魔眼。
薄情にもこの環境に適応してしまった自分に罪悪感を感じながらも、目の前の魔女が口調が変わり、俺に力を与えてくれるこの環境に少しでも何か得ようと必死になっていた。
トラ様や帝国も心配ではあるが、きっと大丈夫だろう。
あのトラ様が負けるわけはないし、きっと助けてくれる。
それまでは、命を無駄にする事なく、力を溜める事こそ、今俺に出来る事なのだと、
器の小さい、保身的な意識のもと、俺はこの魔女のとらわれていた。