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12話 魔王


―魔王軍―


魔王様に謁見が出来るのは、数少ない。

親衛隊の中でも極わずかな者しかその姿を拝見した事はないという。

中には存在しない偶像として、なんて不敬を働いているものもいる。

もちろんそんな輩は、しばらくすれば消えていくのだが。


そんな俺も今日初めて、魔王様にお会いする事が出来る。

そのお姿を拝見できるとは思っていないが、会えるだけでもわくわくする。

こんな気持ちでお会いするのは、失礼かもしれないが、

楽しみだ。

あの魔王様が、俺だけの為に時間を作ってくれる事、せめて礼儀作法だけは間違いないようにしなければ。


「タウよ、そう緊張するな。魔王様は、寛大なお方だ。タウの事もよくわかってくれているであろう。硬くならず、素直でいる事だ」


こんな時必ず声をかけてくれるのがトラ様だ。

やはりこの方はすごい、尊敬する。いつか俺も、トラ様のように思慮深く、相手の事を考えられる将になりたいと強く思う。


「はい、トラ様。ありがとうございます!ですが、やはり緊張するなとは無理な事です。あの魔王様直々にお呼び頂き、なおお会いするという事です。これほどの名誉はございません」



「うむ、そうかもしれんな。かくいう私すら、指折り程しか魔王様にお会いした事はない、今回の事も何年振りだろうか。実は、タウ。私も緊張しておるのだ」


やさしい笑顔で、トラ様はおっしゃった。

ああ、なんとお優しいのだろう。今一度、このお方に尽くそうと決意した。

なにがあろうとも、この方は間違っていない。

この命が尽きるまで、この方の力になり、手になり、足になろう。

トラ様のやさしさに触れながら、強固な番人がいる間を通り過ぎ、ひとつの魔法陣の前まで到着をした。


てっきり、この魔王城の最上階にいらっしゃると思っていたが、ここは地下だ。

意外だったか?とトラ様が意地悪なお顔でおっしゃったが、

そういったものだったようだ。

俺も勉強が足りない。

ずっとこの城にいるのに、この地下に気づく事が出来なかった。と悔しがっていたが、トラ様いわく、この地下は認識阻害の魔術がかかっているらしい。


許された者か特別な眼をもっているものしか感じる事が出来ないらしい。


「さあ、タウ。魔王様のもとへ、飛ぶ前にひとつ約束をしてもらう」



「はい、なんでしょうか。俺に出来る事は全て」


「なに簡単な事だ。魔王様を見てもよい、どうせそのお姿はこちらに帰ってくる時には不思議と思い出せぬようになっている。だが、目を見てはいけない。魔王様は特別な眼をしておってな。幻術にかかってしまう。話がまともにできないから気を付ける事だ」


なぜ、その事を知っているのか、きっと見てしまったのだろうと、完璧なトラ様の意外な一面をしる事が出来て、ちょっと嬉しかった。

もちろん同意をし、そもそも、魔王様の御顔をじっくりと見るつもりもない。

問題はないと思っていた。


「では参る。少し気分が悪くなるかもしれんが、向こうに着けば、落ち着くだろう」



初めての転移だった。

全方向感覚がなくなり、今自分が立っているのか、倒れているのかもわからない。

上がどっちかわからないのだ。

風景はない、ただ真っ白な空間。何度か吐きそうになったが、我慢した。

そんな事をして、トラ様にがっかりされたくない。

トラ様の御姿が見えないと思ったが、そばにいるようで、遥か彼方にいるような気もした。


不安な気持ちでいっぱいなり、声が出そうになった、その瞬間。

真っ暗な空間についた、今自分が立っているのがわかる。

転移は終わったと自覚した。



「よお、勇者の子孫」


そこには、想像をはるかに超える、存在があった。

俺のイメージとかけ離れたお姿だった。なにせ、俺たちの同じお姿。

人間のお姿だった。



「トラ、ご苦労。一度下がれ」


トラ様の返事を待たず、その姿は消えてしまった。


「思ったよりチビだな。お前。っていうか、しゃべりづらそうだな。もう少し場所を変えるか」



魔王様の魔法だろうか、真っ暗闇から、見たこともない王宮の玉座の間になった。

それでもやはり、トラ様の御姿はない。


「安心しろよ、小僧。トラのやつはこの空間外に出しただけだ。」



「は…はい」



「面倒くせえやつだな。まあいいや。聞きてぇ事がある。お前勇者やる気ある?」



ちょっと返事を失敗した。もっとはっきりと答えるべきだ。



「あ…あります!勇者になって、魔王軍がこの世界を統一できるように頑張ります!」


陳腐な回答だったのは自分でもわかった。

でも、それが自分にできる精いっぱいの言葉だった。

魔王様は少し考えたようにじっと俺を見た。

かなり怖かったが、目は見ないようにした。

というより、顔を見る事が出来なかった。


「頼りなさそうなガキだな。まあ仕方がない。よく聞けよ」


魔王様は、俺から顔を背け、言いづらそうに言葉を発した。


「勇者とはお飾りだ。はっきり言ってどうでもいい。お前を勇者とするのは、理由がある。ひとつは青の魔女と他の勇者をおびき寄せる、必ず、来る。」


あとひとつは、と言いかけた所で魔王様は急に黙ってしまった。

少ししてからまあいいかと、話をやめ、右の手を上げ、クイぃと指を動かした。

その瞬間、俺の自由が奪われ、強制的に魔王様の顔を見てしまった。

目をつぶろうとしたが、それも出来ない。

魔王様の紫色の目を見てしまった。トラ様との約束を破ってしまったと

一瞬ヒヤリとしたが、それもすぐに魔王様のキレイな目に見入ってしまい、

何も考えられなくなった。



「お前はキレイすぎるな。ちょっと地獄を見てもらおう。その方があいつも好みだろう。このくだらない茶番も少しは面白くなりそうだ」



―魔王城―



「タウよ、ようやく気が付いたのか」



気が付くと、魔王城に戻ってきた。

トラ様の部屋で横になっている、まずいと思い、すぐに飛び起きたが、

体の自由が利かない。



「魔王様の目を見たのだな。幻術をかけられたのだろう。お前の事だ最後まで魔王様の目は見なかったのだろうが、魔王様が無理に見せたのか」



何か意味があるのだろうと、トラ様はいった。

それは何かは俺にもわからないが、わかった事がある。

確かに魔王様と会った事は覚えている、が、そのあとの出来事が強烈だ。


あれは本当に幻術だったのだろうか。

現実的過ぎて、はっきり言って信じる事は出来ない。

それは、勇者と思われる親父と、母上だろうか。


母上は、勇者に虐げられていた。

無理強いを強いられ、強く、その存在を縛り付けられていた。

何度目を背けようとしても、俺の目は閉じることなくその光景を焼き付けた。


そして生まれたのが、俺のようだ。

母上にとって俺は望まれざる子供だったのか。

しかし、物心つくまでは母上は俺を愛してくれた。

あの記憶は間違っていない、だが、気になる事がある。


母上はあの勇者の事を嬉しそうに話しをしていた。

頼りになる存在だと。優しい人だと。絶対に助けにきてくれると。

だが、それは嘘だった。いくら待っても勇者は現れず、あまつさえ死んだらしい。


それを聞いた母上の顔が忘れられない。

あの頃の俺は、疑う事を知らなかったが、本当に母上の気持ちが沈んでいたのか。

もしやそういった類の幻術をかけられそれこそ、いい様に使われていたのか。


そう考えると色々と合点がいく。


ずいぶんと考え込んでいたのだろう。


「タウよ。大丈夫か?」


トラ様に心配をされてしまった。

申し訳ない、この方に心配をかけるわけにはいかない。


「トラ様、すみません。少し混乱をしておりましたが、落ち着きました。」


「うむ、大事の前だ。少し休むといい。私は戻るとしよう、何かあれば、部下に言うといい」



トラ様もお忙しい身だ。

俺などに時間を使いすぎてしまっては、各方面に問題が起きる。

それに、一度ちゃんと考えをまとめたかった俺は、返事をした後に、暗闇の部屋。

じっくりと考えた。


どれだけ考えてもあの光景が頭から離れない。

怒りでどうにかなってしまいそうだ。

目が熱い。


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