第10話 命
思えば、ここまで一度も落ち着いて自身の置かれた環境を整理した事がなかった。
どうせ、今なにもできないのであれば、ゆっくり考える事にする。
今までの私は、研究に全てをかけてきた。
なにせ、それしかする事がなかったし、しなければ、行く所もなかったからだ。
そのせいか、大事な事をたくさんなくしてきたと自覚している。
仕事の同僚は、どんな汚い手を使っても蹴落とし、上に上がる事だけを考え、
部下は、とことん使い倒した。いったい何人の若者を潰していきたのだろう。
それでも、私はやめなかった、良心の呵責がなかったわけではないが、
それを凌駕する使命を感じていたからだ。
私には、両親がいない。
正確には、いなくなった、決して捨てられた訳ではなかったが、事故でも事件でもなく、突然と姿が消えた。
気が付いた時には、ある人に、拾われ救われた。
それからは、両親に認められたい一心で、その人に尽くし、主任を命じられた時は、本当に嬉しかった。
私の生きがいだったのだ。その人が姿を消し、風の噂が溢れかえった。
それだけ、存在感があった人だった。
不思議なもので、人は、姿が見えなくなると「死んだ」と認識するらしい。
そして人は忘れる生き物だ。
激動の日々を超え、いつしかその人の名前も噂もなくなり、忘れ去られた。
誰も覚えていないほどに。
私は、怒りを覚えた。これほどの人をなぜ忘れる事が出来るのか。
あるプロジェクトに掛かり切りだった私は、この結果を出し、きっとどこかにいるあの人にメッセージを送る事にした。
「私はここにいる」
早く戻ってきて欲しい、その気持ちだけで更に私は加速した。
何度、眠らない夜を超え、朝を迎えた事だろう。
時間も日にちの感覚も失われ、プロジェクトの初期メンバーが総入れ替えになったその頃、
ようやく実験の段階まで到達をした。
プロジェクトの名は「星再生化計画」
第6次世界大戦において、電子核兵器を使用された。
地球は、環境はおろか、電子ネットワークを破壊され、さながら原子時代にさかのぼるほどに文明が壊れてしまった。
人々は、身を寄せ合い互いを守ったが、おろかな程に争い合う宿命なのだろうか。
人よりも、優れていたい本能か。
やはり、同じ道筋をたどり始めたのだ。
世界を国境で区分していた明確な国はなくなり、世界は0になったが、
100年もすると、それは再び姿を現した。
そんな世界で私は生まれ、再び、かつての地球を復活させるため、このプロジェクトが誕生した。
時間を逆行させ、全てをなかった事にする。
頭がどうにかなっている人間の発想だが、私には好都合だった。
もう一度あの人に会える。
それだけが私を支えた。
しかし、どこかではわかっていた。
どんな事をしてもあの人に会う事は無理なのではないか。
認めてしまえば、私が壊れてしまう気がした。
その手を止める事はできなかった。
☆★☆★
「こいつは俺がやる」
その大男は、俺の目を見て、殺意たっぷりで言い放った。
その決定は、決して覆る事はないと、はっきりわかった。
俺はここで終わるのだ。
アイには、申し訳ない事をした。まったく関係がないのに、俺の性で道ずれになる。
恐ろしくて、アイの顔を見る事は出来なかった。
今までの事、後悔をして死ぬしかないのだと。
「団長!生まれました!」
それは、考えたくもない事。
そうであって欲しくない。
絶対に。
「勇者の子供です!団長お戻り下さい!」
俺の子供が、ミミが、ここにいる。
「うむ、貴様を始末するのは、そのあとでよいか。」
大男は、女騎士を見て、先ほど、俺たちに向けた倍近い殺気を出しながら言った。
「シャア、余計な事はするな、この子供、そして勇者については、私が貰い、魔王様へ報告をする。貴様とて邪魔すれば、切る」
「はいはい、怖いね」
女騎士以外はいなくなり、命救われたと思ったその時。
「でも、その約束は聞かないよ」
私は、命を奪われた。