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胎動  作者: 蒲焼き鰻
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バスの中

クラクラしていて自分がどこにいるのかすぐには理解できなかった。慎太郎はバスの薄暗い最後部席に座っていた。熱を持った霧が脳みそを包んでいるような感覚。まだ酔っているようだ。慎太郎はなぜ自分が酔ってバスに乗っているのか分からなかった。バスは「ゴウン、ゴウン、ゴウン、ゴウン」と不機嫌なエンジン音で車体を大きく揺らし夜道を走っている。乗客は誰もいない。

車内中に張り巡らされている濃いオレンジの捕まり棒は体内の血管を連想させ、慎太郎はバスという巨大な生き物に飲み込まれてしまった気がした。


「ックション!」

慎太郎は身震いをした。見上げるとクーラーがついている。首筋にずっと冷風が吹きかけられていたらしい。慎太郎はギロリと前方をにらみつけた。車内灯が切れているようで、運転席周りは暗く運転手の姿はよく見えない。3月上旬にクーラーをつけるなんてどうかしてやがる。慎太郎は「チッ」と大きめに舌打ちをして座席上に設置しているクーラーのつまみをクイっと回し冷風を止めた。

外は真っ暗だ。たまに街灯らしき光が窓を通り過ぎるだけ。随分スピードが出ている。

「これ、深夜バスか、」

慎太郎は独り言ちた。

千絵が帰ってきたのがいつも通り夜中0時頃だった。慎太郎の彼女の千絵はデザイン会社でデザイナーをしており、いつも終電で帰ってくる。前の職場では印刷会社でオペレーターをしていた。退社時間も早く給料もそこそこ安定していたが、千絵はもっとデザインの仕事がしたいと3ヶ月前に転職しデザイン会社に入社した。彼女が選んだ会社は業界では有名なデザイン制作会社だったが労働時間も長く、休日出勤もしょっちゅうだった。それでも責任のある仕事を任せられることを喜び、ずんぐりとした鼻と化粧気のない頬を赤くさせて仕事のことを熱っぽく語る彼女を慎太郎はただ鬱陶しいと思っていた。


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