約束
目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。
そして傍らにはさっきの夢に出てきた猫と女の子が座っている。
「ここはどこだ…?」
つい口から溢れた疑問に、少女が答える。
「目が覚めたみたいね。ここはアリエスっていう街にある私の部屋。あなたの世界から見ると異世界に当たるわ。」
(アリエス?聞いたことがない街だな。それにいま異世界と言わなかったか……?)
「異世界っていうのはどういうことだ?」
「文字通りよ。この世界はあなたが元いた世界とは違う世界なの」
いきなりそんなことを言われてもなぁ……。
「ここが異世界だっていう証拠は?君は誰なんだ?なぜ俺はここにいるんだ?」
「そんなにいっぺんに聞かれても困るわ。質問には答えるから1つづつにしてよ。」
確かに、ここは焦っても仕方ないか。疑問は1つ1つ解決していくとしよう。
「じゃあ1つ目の質問だ。さっき俺を気絶させたのは君なのか?」
「そうよ。だ、だけどいきなりあんなことしてきたあなたが悪いんだからね!」
彼女は何か文句でもあるのかとでも言いたげな視線を送ってくる。
「いや、あれは完全に俺が悪いし君の反応も当たり前だよ。ただ、あの出来事が夢じゃなかったのかを確かめたかったんだ」
「そ、そう?」
彼女はホッと胸をなでおろす。どうやら俺が怒ってるんじゃないかと気にしてたようだ。
それにしてもこの子、さっきは寝ぼけていて気づかなかったけどすごく可愛い。肩のあたりまで伸びた金色の髪に真っ白な肌。年は15.6歳くらいだろうか。
「次の質問だけど、君は誰なんだ?」
「普通はそれを一番最初に聞くべきだと思うんだけど……。私の名前はリリアナ。呼ぶときはリリィでいいわ。」
「俺はコウタだ。よろしくなリリィ」
いきなり名前を呼ばれて恥ずかしいのか、小さな声で呟くようにいう。
「よ、よろしく。コウタ」
と、そこで突然
にゃあ、と猫が鳴いた。そしてそれに応えるようにリリアナは猫に向かって話しかけ始めた。
「えっ?自分のことも紹介してほしいって?そうね、あなたのことも紹介しておきましょうか」
リリィが猫にそう言うと━━にゃーお、と猫は返事をするように鳴いた。
「この子は飼い猫で使い魔のソラ。こう見えてもすごく頭がいいの」
リリィは自慢げに言う。
「今猫と喋ってたのか?」
「そうよ。一部の使い魔は魔術の素養がある人と会話ができるの」
まさか動物と喋れるとは……。流石は異世界だ。
「それで、次の質問は?確かここが異世界である証拠、だったっけ?」
「いや、もうここが異世界だということは十分にわかったよ。それで、最後の質問なんだけど俺はなぜ異世界の、君の部屋にいるんだ?」
俺はリリィが意図的に避けていた話題に触れると、彼女は哀しそうな顔をしながら、これまでの経緯を教えてくれた。
「つまり、召喚術でお金になるものを出そうとしたら何故か俺が出てきてしまったってことか」
彼女は頷く。
「それじゃあ俺はどうやって帰ればいいんだ?召喚術で向こうの世界へ返せたり出来るのか?」
リリィは口をつぐむ。そして暫くして、決心したように静かに話し始めた。
「実は……召喚術は一方通行で、他の世界からこっちの世界に物を呼び出すことしか出来ないの……」
だから━━あなたはもう帰れないの
リリィは目尻に、今にも溢れだしそうな涙を湛え、言外にそう伝えていた。
「俺はリリィを責めないよ。そもそも、召喚されるものはランダムなんだろ?なら、俺が召喚されたのも君のせいじゃない。」
「〜〜っ!」
リリィの目から涙が溢れ落ち、頬に伝っていく。そして、振り絞るような声で言う。
「今は無理でも、いつか絶対に、あなたを元の世界に返してあげる。だから、だからそれまで、この世界で我慢して欲しいの」
「わかった。」即答だった。
「なら俺は君の為にお金を稼ごう。元の世界に返してくれるその日まで。」
この日、俺と彼女は約束を結んだ。俺は彼女の為にお金を稼ぎ、彼女は俺を元の世界に返すという約束を。
こうして、俺の異世界生活は幕を開けた。
今回でプロローグは終わりです。
次回から内容に入っていく予定ですが、次のお話からはもうすこし軽いノリでやっていきたいと思ってます。