井の中の少年少女、大海を知る
いつもはカガリに起こされているのに、今日は自分から目を覚ました。布団から起き上がり、寝起きの重い目をこすりながら、隣のベッドで寝ているカガリの方を見る。
「おはよう。いつもは寝坊助なのに。今日がそんなに楽しみなの?」
「そうみたい……。まだ眠いけど、もう起きようかな」
カガリはもう着替えまで済ませていた。今は髪を結っていた。
私もゆっくりとベッドから降り、顔でも洗おうかと部屋を出た。井戸から水を引き上げるのは億劫なので、湯浴み場に向かった。そこにはすでに水を溜めている壺が置いてあるので、そこから必要な分だけ水を取り、顔を洗った。もう寒くはないとはいえ、朝一番の冷水は顔によく沁みる。まだ半分しか開いていなかった目が一気に開いた。
「うーん。お腹すいたな」
いつもはこんな早く起きないし、起きてもすぐにご飯にありつけるから胃が食べ物を欲していた。
「まだかなー」
持ってきていたタオルで顔を拭き、大きなあくびをしながら部屋に戻った。
途中、アレンとシーラとすれ違ったが、私が起きていたことにものすごく驚かれた。
「ワクワクしすぎで速く起きちまったとか……子供かよ」
「寝起きがひどいティアナがね……ちゃんと寝れたのか?」
「あーあーうるさいなぁー……。心配しなくてもちゃんと寝たよ。目も覚めた」
「起こす手間が省けてよかったよ」
アレンは妹弟の成長を喜ぶような口ぶりだったが、私は眼が覚めたといえ、まだ寝起きのテンションなので、一々噛みつくことはしなかった。
シーラもなんか言ってからかってくるけど、ほとんど耳に入ってこなかった。
「オズさんが、あと10分くらいで朝食ができると言っていたよ。着替えてから下に降りてきな」
「ん。カガリにも伝えとく」
それから二人と別れて、自室に戻る。
「目が覚めたみたいだね。服、出しておいたよ」
「ありがとう。アレンがあと10分くらいで朝食だって。私は着替えて行くから、カガリは先に行ってていいよ」
「わかった。じゃあ、先に行ってるね」
カガリは早々と部屋を出ていった。
「さて、私も着替えるか」
カガリが気を効かせてくれて、服を見繕ってくれていた。機能性を重視したものばかりで、さすがといったところだ。
体にぴったりと張り付くくらいタイトな肘までのシャツに濃い水色の半袖のパーカー。軽い素材で動きやすい。それから薄い生地の長ズボンに白いスカート。スカートは動きにくそうに見えるが、意外とそうでもない。ズボンもはいているから無茶な動きをしても安全だ。おしゃれにも気を遣ってくれるカガリはほんとセンスがある。
「ふむ、ご飯だご飯!」
最後にロングブーツを履いて私も部屋を出た。
オズさんははりきって朝食を作っていた。みんなは「ティアナみたい……」だなんて言っていたけど、私には何のことかさっぱりだ。それにおいしいものをたくさん食べられるのはいいことじゃないか。
「そうそう、腹が減ってはなんとやらだ。しっかり食べなよ」
とはオズさんの言。私はオズさんのお言葉に甘えて、気が済むまで食べつくした。
「そんなに食べて動けるのか?」
「余裕余裕。向こうに着くまでにはお腹すくんじゃないかな?」
「どんな体の構造してんだよ……」
なんて和気藹々と朝食の時間を過ごしていった。
「さて、あまり遅くなっても申し訳ない。そろそろ片付けて向かおうか」
食後の談笑もほどほどにオズさんは片づけを始めた。私たちも倣って片づけをしていく。
「少しのんびりしすぎたかな?」
私たちはオズさんと一緒に駐屯所に向かっていた。すでに市街地は賑わっており、多くの人が行き交いしていた。
「もう少し早いうちにでていれば、かち合わなかったんだけどね」
人の多さで私たちの移動は制限される。人ごみをかき分けながら少しずつ進んでいった。
そうして一時間ほどかけてようやく駐屯所にたどり着いた。
「遅かったな」
入口にはランドルフさんとアマネさんが待っていた。
「いやーごめんごめん。ちょっとのんびりしすぎたよ」
「別に気にしてないさ。それよりも、みんなは準備、大丈夫なのかい?」
「はい、しっかり休んで食べたので元気いっぱいです」
「一週間近く眠り、目覚めて三日でその元気はなかなかどうかと思うぞ。ほんと頑丈なやつ」
「ははは、元気なのはいいことじゃないか。他のみんなも調子よさそうだね。中の準備はできている。早速来てもらおうか」
私たちはランドルフさんに案内されて訓練場に向かった。
「今日は休暇日にしているからギャラリーがたくさんいるだろう。騒がしかったらすまない」
「みなさん、仲がいいんですね」
「……そうだな。おかげさまで団結力なら世界一と自負してるよ」
確かに訓練場の周りには大勢の人がいた。まだお昼くらいだというのにお酒を飲んでる人もいる。おそらく賭けでもしてるのだろうか、お金を出し合っている人たちもいた。
「ただ、ちょっと落ち着きがないのが玉に瑕なんだけどね」
「いいじゃない。みんなあなたを慕ってるのよ。だから自由にやってる」
「そうそう。昔からランドは人望があったからねえ。……そーいや、ディルは? 呼んでたはずだけど」
「遅刻じゃないかしら。あれが時間通りに来るはずもないし」
三人は同時に苦笑した。以前から時々話題に出ていた「ディル」という人。どうやら今日は現れるみたいだが、どんな人なんだろう。ずいぶんひどい言われようだけど……。
「それもそうか。なら、先に始めちゃう?」
「安全のためにあいつには立ち会ってほしかったが、来ないなら仕方ないか。オズ、あいつが来るまでお願いできるか?」
「全然オーケーだよ。で、誰からいくの?」
そう言っていると、ギャラリーもそろそろ始まるという空気を感じたみたいでざわざわと落ち着きがなくなってきていた。
かくいう私も緊張してきた。武者震いまでしてきた。強い人と戦える。わくわくが止まらない。
「まずは私が行くつもりだ。その次にアマネ、リーネ、オズの順で行こうと思うが、何か意見は?」
とランドルフさんが行ったところで、少し離れていたところにいたクラリーネさんがこちらにやってきた。
「兄上! 私が最初ではないのでしょうか?」
「うーん、ディルが来なかったらオズの時に見てくれる人がいなくなるからな。もしかしたら動けないかもしれないだろう?」
「それは確かにそうですが……いいのでしょうか、私なんかが……」
「そんな上下関係とかそういうのは誰も気にしないと思うぞ? 今回のも私の発案にオズが余計なものを加えた単なる催しみたいなものだ。気楽に楽しめればいいんじゃないかな?」
クラリーネさんは、特に反論せずに「わかりました。兄上がそう言うのであれば」と答えた。
「で、私は誰と戦うのですか?」
「それについてはこれから言うから。……ほとんど消去法に近いけど」
「それじゃ、『炎竜』を倒した凄腕少年たちと我らが聖王騎士団団長率いる精鋭との戦い、始まるよー!」
オズさんの言葉にギャラリーが沸き立つ。すごい人と熱気だ。いつの間にか大事になっちゃってる……。
「細かい説明は面倒だから省く! とにかく相手を打ち負かせ! あ、でも殺しはNGだからね」
ルールを省くと、オズさんは言っているけど、私たちは今回の試合について事前にアマネさんから説明を受けていた。
一つ目は、本物の武器は使わないこと。魔法も使用可だが威力は最小限に抑えろとのこと。
二つ目は、負けると思ったら大人しく降参すること。不要な怪我は負うな! と釘を刺された。
三つ目は、相手を殺さないこと。いくら本物の武器を使わないとはいえ、これだけは忘れるな、と言われた。
そして最後は楽しめ、だった。最後の最後に気の抜けたルールだったけど、私たちの緊張を和らげるためだったのかもしれない。
「よし、早速今回の流れをサクッと紹介するよ! 最初に戦うのは我らが団長、ランド、そして対するはアレン君だ。その次は、何やかんや世話好きの頼れるお姉さん、アマネとカガリちゃん。どちらも騎士同士、魔導士同士の対決だよ!」
わーっ、と建物が揺れんばかりに歓声があがる。アレンもカガリもなんだか照れくさそうにしていた。アマネさんは自分の紹介のされ方に不満そうだったけど。
「この中で戦うの? 学校での試合よりも緊張するよ……。ドジしないかな」
カガリが弱音を吐いてる。そういえば、最近そういう機会が減ったから忘れてたけど、人前で何かするの、苦手だったもんな。
「俺も緊張するな。聖王騎士団の団長と戦うなんて普通じゃありえないもんな」
「アレンもカガリも情けねえな! 気楽にやればいいんだよ。これは俺らの実力を測るためなんだし、緊張して空回っても意味がないだろ? いつも通りでいいんだよ。いつも通りで」
「そうそう、こんな機会ないんだから。楽しもっ!」
どうやらシーラはそんなに緊張してないみたいだ。
「それにランドルフさんもアマネさんも聞くに戦い方、二人と同じなんでしょ? ついでに参考にしたら? 見て体験して学ぶのも大事だよ」
って、『魔剣士』の先生も言ってた。
「ティアナのポジティブさがこの時ばかりは羨ましいよ。でも、こうなった以上、俺も腹括るか」
アレンは試合用の模擬剣と盾を取って立ち上がった。ちょうど、オズさんの話も終わったみたいで、試合が始まるようだ。
ランドルフさんは準備がもう終わっていて、そうそうと出てきていた。物腰は柔らかそうなんだけど、戦わない私ですら滲み出る覇気を感じてしまう。
冗談抜きであの人は強い。『炎竜』と比べ物にならないほどに。
「それじゃあ、行ってくるよ。せいぜい恥ずかしいところを見せないようにしないとね」
あの覇気をおそらくアレンも感じているはずだ。でも、アレンは笑っていた。だから私たちも笑顔で見送る。
「がんばれアレーン! 勢いで勝っちゃいなよ」
「そうだそうだー!お前ならできるぜ」
「まったく……。やれるだけやるよ」
最後に苦笑し、アレンはランドルフさんの前にまでやってきた。
(すごいプレッシャーだ)
国一番の騎士の前に立つも、自分の額から冷や汗が流れるのが、止まらない。
絶対に勝てない、とまではいかないが、勝てる気がしない。それほど相手が大きく見えてしまう。
「様になってるね。昔の自分を思い出すよ」
「お世辞はやめてくださいよ。俺はまだまだ未熟なんですから」
「その年であれだけの実力を持っている人なんてそうそういないよ。その才能は稀有なるものだ。謙遜してはだめだよ」
ランドルフさんの言葉に偽りはない。まだ会って数日だが、この人は驚くまでに誠実な人だった。人を騙したり、嘘がつけないくらいほどのだ。
「でも、僕はまだ満足してません。……あいつとはまだ全然差があります」
最後のところは呟くように言った。自分の目標。旅の目的。そのために自分はもっと強くならないといけない。
「高みを目指すことはいいことだ。私にもそんな頃があったよ。……やっぱり君は私に似ている」
そしてランドルフさんは剣を抜いた。正面に盾を構え、一分の隙も感じさせない。
「うん、やっぱり君は見どころがある。私の目に狂いはなかったみたいだ。このまま研鑚すれば立派な騎士になれるだろうね」
嬉しそうに笑う。でも姿勢は崩れない。
「よし、騎士団長としてではなく、元冒険者の騎士として手ほどきをしてあげよう。本気で来るといい」
負けるつもりはないと言っているようだった。なんだかんだいってこの人もすごい自信を持ってる。
だからといって自分もただでは負けない。驚かせてやる。そう決意して構える。守りを主体にしつつも攻めにも転じられる攻防一体の構え、スタイルが同じだが、戦い方は違う。どちらが有利かは使い手次第。漂う緊張感に息をのむ。
「ふむ、準備はいいようだね」
オズさんは少し離れて自分たちを見やる。そして、叫んだ。
「はじめっ!」
一呼吸の後、一気に駆けた。
「お疲れさん。結構いいとこまでいってたと思ったんだけどね……」
長椅子に寝転がっているアレンの額に濡れた布をのせてあげる。アレンははぁー、と大きくため息をついていた。
「いいとこって言うけど、やっぱりレベルが違ったよ。いくら先手をとっても全部対応される。カウンターを予想してもその上をいく動きをされる。国一の騎士は名ばかりじゃなかった。赤子の手をひねるようにやられたよ」
試合は20分近く続いたが、終始ランドルフさんが圧倒していた。アレンが必死に攻めようとしてもランドルフさんの守りを崩すことはできなかった。逆に攻め込まれたアレンはなんとか躱すだけで精いっぱいだった。そんな戦い方を続ければ、アレンの体力が尽きるのも時間の問題だった。結局、最後は体力の限界で攻撃を躱せず、一撃をもらってノックダウンしてしまった。
アレンが弱いわけじゃないと思う。ただ、上には上がいたってことなんだろうね。今戦ってるカガリもそうだ。魔力量や使える魔法の属性の数ではアマネさんに引けをとらない。それでも魔法の使い方や使う魔法の種類で負けてる。カガリの全力をアマネさんは極力最小限の力で抑え込んでいた。逆にアマネさんの魔法に対してはカガリは全力で防いでいる。『解析眼』で魔力の流れを見てるけど、やっぱりカガリの方が圧倒的に魔力を消費している。彼女の魔力が尽きるのも時間の問題だ。
「さすがの差といったところだね。無様に負けるつもりはなかったんだけど」
私だってアレンならいい勝負ができると思ってた。でも、世界は広かった。私たちはとんだ世間知らずだったみたいだ。
「ふふ、でもアレンのおかげで私たちの気も引き締まったよ。少しでも余裕でいちゃダメだってね」
「俺は捨て駒かな?」
「そんなことは言ってないよ。アレンはすぐそういう言い方するんだから……。みんなのために体を張った。それでいいじゃん!」
「わかってるよ。冗談だ。ああ、でももうちょっと頑張りたかったな」
アレンったら悔しそうだ。柄にもない。
「また今度頼めばいいんじゃない? 私達しばらくここを拠点にするんだから」
「馬鹿言うな。アレンさんは聖王騎士団の団長、忙しいんだよ。そう簡単に時間が取れないんだぞ?」
それもそうか。今回は特例って言ってたし……。
いや、ランドルフさんなら「いいよー」と二つ返事してくれそうな気がする……。
「おい、そこでおしゃべりしてないでカガリの試合ちゃんと見てやれよ」
シーラがこっちに向かって叫んできた。全くなんだかんだで妹に甘いんだから。
「で、どんな感じなの?」
シーラの横に立ち、状況を尋ねる。別に聞かなくてもなんとなくはわかるけど。
「時間の問題だな。カガリの体力は多分もう限界だろうな」
私はカガリを見る。カガリの中を流れる魔力の流れはかなり乱れている。本人も息を荒くしており、シーラの言う通り限界が近いのだろう。
だが、まだ目は死んでいない。アマネさんから目を逸らさず、諦めるそぶりを見せない。
「勝負は最後まで分からないからね。決めつけるのはよくないよ」
そう言いながらアマネさんの方を見た。彼女はそれなりに余裕が残っているみたいだ。魔力も安定している。今は完全にアマネさんが攻勢で私でも知っているような下級魔法をカガリに放っていた。
「ほら」
私は指をさした。その先ではカガリがアマネさんの魔法をかいくぐり、距離を詰めていた。
「《風翔》!」
カガリの動きが一気に速くなる。一瞬でアマネさんとの距離を詰め、懐に入る。そして一方のアマネさんは反応が僅かに遅れていた。
「《瀑水》!」
二人の間で爆発が起こる。盛大な音を立てた。そして共に吹き飛んだ。
アマネさんは吹き飛ばされながらも、体勢を立て直し、軽々と着地した。一方のカガリは
「……………」
目を回して倒れていた。あれ? 自滅してない?
「おい、カガリの奴何してんだ? 自分で魔法撃っといたくせに自分がやられてるじゃねえか」
シーラも私と同じように見えたみたいだ。
兵士の人が倒れたカガリの所へ行き、担架に乗せてこっちまでやってきた。
「大丈夫?」
私はカガリの元へ駆け寄る。どうやら気を失っているわけではないようで、カガリはへらへらと笑いながら手を振ってきた。
「うん。威力抑えてたから全然大丈夫。衝撃でちょっと眩暈起こしただけ」
見たところ外傷はないみたい。本人もふらつくだけで動けはするようだ。
「でもなんで最後あんなことを?」
「魔力が尽きそうだったし、『相打ち覚悟!』のつもりで行ったんだ」
なるほど。何とも無謀な作戦だ。
「で、どうだったの?」
「アマネさん、咄嗟に防いだんだ。まさか反応されるとは思わなかったよ……」
カガリはゆっくり立ち上がり、椅子に座り込んだ。それからはぁーっと大きくため息をついた。
「さすが最高峰の魔導士だね。全然敵わなかったよ」
カガリもアレンと似たようなことを言っている。でも二人とも悔しそうだった。
「いいんじゃない? 上が知れたんだから」
「そうだね。真似するとまではいかないけど、参考にはしたいな。でも師事してもらうわけにはいかないしなぁ」
「割と積極的なんだね……」
カガリらしからぬ発言だった。今の試合で何か感じるところでもあったのだろうか。
「あ、何か飲み物でも飲むよね? 私もらってくるよ」
「う、うん。お願い」
私は飲み物をもらいにいくことにした。カガリは苦いのが好きだからあるといいが……。
兵士の人に聞いてとびっきり苦い飲み物をもらった。私も一口もらったが、とてもじゃないが、飲める代物ではなかった。これならカガリも喜ぶだろう。なんて思いながら歩いていると、前からランドルフさんたちがやってきた。他にもアマネさんとオズさん、それから知らない男の人がいた。
「だーかーら謝ってんだろ? 寝坊して遅れてすまなかったって」
「口ではそう言っても反省してないでしょ? ディルはいつも口だけなんだから。今日は大事な日だから遅れるなってあれほど言ったのに……」
アマネさんはかなり怒っているようだ。さっきまでカガリと戦っていたのに……。
「悪かったって。後でお詫びするからさ、今日は俺が皆に飯奢るから、な? それで機嫌治してくれよ」
さっきからアマネさんに謝っている男の人、私は初めて見た。随分野暮ったい雰囲気で、他の三人より老けて見える。でも会話の感じから随分仲がよさそうだ。
と思っていたらオズさんが私に気づいた。こっちにおいでと手を振っている。
私は素直に従ってオズさんたちの所へ行った。
「やあやあティアナちゃん。いいタイミングだね」
「いいタイミングか? 俺は見ず知らずの女の子に情けない所を見られたんだが」
「ディルは黙ってて。いや、ほらほんとはさっき紹介したかったんだけどね。みんなはどこ?」
「あ、向こうで休んでます。シーラは準備中だと思いますが……」
「オーケーオーケ―。ならそこまで行こうか」
私はランドルフさんたちを連れてアレン達の所へと戻った。
「というわけで、みんなに紹介するね。こいつがディル。面倒だから本名は省略するよ。こんな適当で碌でもない奴だけどここの騎士団の副団長なんだ。知ってて損はないと思うから、とりあえず覚えておいてあげて」
随分ひどい紹介の仕方だった。
「内容に間違いはないと言え、もっとまともな紹介の仕方はなかったのか?」
「ディルにお似合いなんじゃないの?」
「ははは、間違ってないんだからいいんじゃないか?」
身内からもやっぱりひどかった。アレン達はそのぞんざいな扱われように戸惑いつつも自己紹介をしていた。(カガリは渡した飲み物が思ったよりも苦ったらしく、飲み干しはしたけど渋い表情をしていた)
「大体の話はランドから聞いてるぜ。無茶をやったガキンチョどもがいるってよ。まあ、なかなか見どころがあるんじゃないのか?」
ディルさんは私達を見回し、それからランドルフさんの肩に手を回した。
「で、実際の所はどうなんだ? 何人かはもう終わったんだろ?」
「そうだね……」
ランドルフさんはディルさんの手を払いのけ、考えだした。
「まだシーラ君とティアナ君が終わっていないからね。評価はそれからにしよう。オズもそれでいいだろう?」
「ああ、構わないよ。リーネちゃんももうすぐ準備終わるみたいだし、まずはそっちからだ」
オズさんの視線の先、振り返るとクラリーネさんがこちらに来ていた。騎士、というには装備が軽い。鎧でも甲冑でもない。私やシーラに近い恰好だった。
「みなさん集まってどうなさったのですか。……ディルムッド殿もお越しになられたのですね」
最初はいつもの丁寧な物腰だったが、ディルさんの姿を見るなり、一気に呆れた声になった。
「おお、リーネ。今からお前の番なのか」
「はい。しかし、随分遅れて来られたのですね」
なんだろう。すごい棘がある。
「相変わらず俺に厳しいよな。もうちょっと笑ってくれないかな~」
「ディルムッド殿がもっと規律正しくしていただけたら考えます」
ああ、なんとなくわかった。真面目なクラリーネさんとどうやら適当な性格のディルさん。合わないんだな。
「ところで、私が相手するのはシーラ殿でしたか」
「ん、俺か? そうだけど……ああ、準備ならもうできてるぜ」
「そうですか。ではそろそろ時間ですので始めましょう。ディルムッド殿、お願いしますね」
「はいはい。遅れた分はきっちりしますよっと」
クラリーネさんとディルさんはそのままフィールドの方へと行った。
「ディルは適当だが、強いぞ。伊達に副団長してないからな。機会があれば相手してもらうといい」
「機会があってもあいつが乗り気になるとは思えないわ」
「それもそうか」
ランドルフさんたちは笑い、そのままフィールドを囲う壁にもたれかかった。
「さて、どうなるやら。楽しみに見てるよ、シーラ君」
「プレッシャーかけないでくださいよ。でも、いいところの一つくらいは見せてみますよ」
シーラは腰に提げていた銃を取り出し見せる。
「じゃ、応援よろしくな」
「ドジするなよー」
「真面目にやるんだぞ」
「迷惑かけないようにね」
私たちも応援する。
「もっとマシなこと言ってくれよ……」
あ、ちょっと凹んだ。でも、いつものやり取りだから気にしない。私たちは笑ってシーラを見送った。
ちょっと長くなりそうなので二つに分けました