『思い出の家』
1か月ぶりの更新……。もう少し速度上げないと、ダメですね
ランドルフさんの突然の提案に私たちはその言葉を理解するのにかなりの時間を要した。
「兄上、何を言っているのですか?」
一方のクラリーネさんはすぐに反対の声をあげた。
「何って言葉通りのことだよ。炎竜を少人数で倒すような子たちと、リーネ。どっちが強いのか確かめてみないか、ってこと」
「それはわかります。いきなりすぎるのです。私だけじゃなく、あちらの人も驚いていますよ」
ランドルフさんが振り返る。そして私たちの顔を見て、「ほんとだ」とつぶやいた。
「ランド、馬鹿を言わないの。カガリちゃんたち、今日退院したばっかりなのに、いきなりリーネちゃんと戦わせるのは……。それにちゃんと治ってからって話したでしょ?」
「いい機会だからな、って思ってけど。アマネがそこまで言うなら仕方ない。……っと、その前に」
ランドルフさんは改めてこっちに向き直り、来た。
「君たちもそれいいかい? 急な話で申し訳ないけど、実は初めからそのつもりで連れてきたんだ」
「僕たちをここへ案内してくれたのは、その、クラリーネさんと戦わせるためということですか?」
「そうだ。リーネはうちの騎士団でもかなりの実力者。とはいえ実践不足だから、炎竜と戦った君たちを参考にしたいな、とね」
私たちは互いに顔を見合わせる。みんなの言いたいことはわかった。たぶん私の言いたいことも伝わった。というわけでアレンが代表して答えてくれる。
「僕たちも大丈夫ですよ。助けてもらった上にここまで連れてきていただけたのですから。多少の無茶は構いません」
「そうか、ありがとう」
「ですが、アマネさんがおっしゃたように、僕たちもまだ万全の体調ではないので、さすがに今日すぐというのは……」
私たちも頷く。私もまだ体が痛む。あれの尻尾はかなり固く、木にたたきつけられもしたので、相当な衝撃を体に受けていたようだった。
「そうか。本人たちがそういうなら仕方ない。そうだな、明日はもう予定埋まってるから……2日後、でいいかい? 昼の鐘がなる頃にまたここに集まろう」
そうして話は落ち着いた。一時はどうなるかと思ったけど……。ランドルフさんもこれ以上、この件について何も言わないし、ちょっと抜けたところがあるんだろうと、私はそんなことを思った。
「よし、そうと決まれば次の目的地に行こうか」
そして異様に高い行動力。アマネさんは特に気にする様子を見せないけど、かなり無理やりなところがある。
「リーネ。私たちは次のところに行くが、君はどうする?」
「……私はまだ鍛錬をするので遠慮しておきます。あとで話を聞かせてください」
「わかった。だが、無茶はするなよ? 当日になってケガでできないんて言われたらどうしようもないからね」
「はい、お気遣いありがとうございます」
こうして私たちは駐屯所をあとにした。
それからまた街の中を歩いていく。昼時の忙しい時間も過ぎ、街の中を歩く人たちの数もいくらか減っている。それでも私たちの住んでいた街と比べるとここの繁栄っぷりは比べようがない。
子供から老人までみんなが楽しそうに生活している。誰もが不満なく今の暮らしを過ごしている。そんな風に私には見えた。
「すごく幸せそうだね」
私はアレンに話しかけた。
「ああ。ここの生活水準は俺たちの街よりもはるかに高いみたいだ。やはり首都となるとこうなのかな」
一国の中心地ともなるとそれだけ人もお金も集まる。資源も労働力もそれに見合う報酬も安定する。そして暮らしが安定するおかげで物が買えるから、さらに経済は活発化する。そうやってこの街は発展したんだろう。
だけどそんな私たちの話を聞いていたランドルフさんは暗い顔をした。
「何か不味いこと言いました?」
気になったので素直に聞いてみた。するとランドルフさんは「ついてくればわかるよ」とだけ言った。
そして私たちが連れてこられたのは活気あふれた街の中心部を離れた、狭く暗い路地を抜けた先だった。
「………」
私は言葉を失った。それは私だけでなくアレンたちも同じだった。
そこは華やかな様相とは正反対の、汚く薄汚れたみすぼらしい建物が並ぶ寂れた場所だった。そしてそこを歩く人たちも着ている服はボロボロでとてもじゃないが一般レベルの生活を送れているとは思えない。
そんな天と地ほどある差を見せつけられ、呆然とする私たちに街を歩く人々が群がってきた。
「おお、騎士団長様! 施しに来てくださったのですね!」
「貴方様こそが我々の神。どうかお恵みを……」
「せめて子供の分だけでも……。子供の分だけでも食べ物を……」
まるで餌に群がる獣のように彼らはランドルフさんに集まり、懇願していた。その様は思わず目を背けたくなるほどひどく、醜かった。
これがランドルフさんが黙った理由だった。この街は決してすべてが明るく輝いているわけではなかった。むしろそうあるはずがなかった、私は首都という存在に対して少し夢を抱きすぎていたようだった。
「申し訳ありません。今日はいつものように来たわけではないのです。どうか次の配給まで待っていてはいただけないでしょうか」
ランドルフさんは深々と頭を下げた。嘘偽りのない心からの謝罪。見ただけでそう思えた。そして私にはその姿がとても痛々しく見えた。
どうしてこの人が頭を下げないといけないんだろう? この人は軍を率いて国を守る人なはずなのに……こういうことは別の人がすべきなはずなのに……。
ランドルフさんの謝罪に人々は落胆し、離れていった。中には罵倒の言葉をかける人もいた。そのあまりにも理不尽な行動に私は自分の胸の奥にふつふつと何かが沸きあがってくる感覚がした。
「……見苦しい所を見せてしまったね……。すまない」
苦笑いを浮かべた。
「全ての人が平等であってほしいと、私はそう願っている。でも、やはり限界があるようだ。どうしても救いの手のひらから零れ落ちてしまう人が出てきてしまう。ここにいる人たちがそうだ。ここはスラム街といって、まともに職にありつけない、今日一日の食事にありつくのさえ苦労する、そんな人たちが暮らしているところだ」
ここを紹介しにつれてきたわけじゃないんだけどね、とランドルフさんは最後にそう付け加えた。
「こんなところが……。俺たちの街にはなかったのに」
「君たちが住んでいたような中規模な街はお金と有能な統治者がいるなら民が困るようなことはめったにない。けど、アルサーンのような大都市となるとそう言うわけにはいかないんだ」
「需要に対し、供給が圧倒的に追いつかないのよ。おまけにこの国のトップは下層民のことなんか少しも気にかけない。私腹を肥やすのに精いっぱいだからね」
アマネさんは不機嫌そうだ。
「アマネの言う通り、上は動かない。だから私は時折、スラムに訪れて物資を分け与えているんだ」
「優しいん……ですね」
自分でも気づかないで、そう呟いていた。
ランドルフさんのやっていることは普通の人じゃできないことだ。だけどこの人は続けている。たとえ助けを差し伸べている相手から罵倒を浴びせられても。
―憧れるなー
誰にでも救いの手を差し伸べる。他人のために自分を犠牲にする。そこに見返りを求めない。
『施しの英雄』
まさしくこの言葉がぴったりだ。
……つくづく私は恵まれてるな。こんなにも早く、こんなにも近くに自分が求めている英雄の一人と出会えたのだから。
私たちはランドルフさんの案内でとある酒場についた。スラム街の一角だが、あまり寂れているように見えない。
「ここは……?」
「私の知り合いが経営している酒場だ」
「ランドだけじゃなくて私もね」
「お二人の……?」
この国の重鎮である二人の知り合い……。こんなところに住んでるのか。一体どんな人なんだろう。
「こんな寂れたところにあるけど、ここはアルサーンに数あるギルドの一つなんだ」
「ギルド……!」
その言葉に私の心は踊る。依頼を受けて冒険をする。自分のため、他人のためにその名を轟かせる。私が憧れていた英雄への一つの門。それが今目の前にあるのだ。
「まさかギルドの紹介までしてもらえるのですか?」
確かに。ギルドは活動の危険性から入るのがかなり厳しいらしい。だから基本的にギルドはギルド員か権威者の紹介でようやく入会試験を受けられるシステムとなっている。
私たちはギルドの人と何回も交渉して紹介してもらおうと思っていたのだが、まさかランドルフさんたちが紹介者となってくれるなんて……。
「このくらいは大したことでもないよ。さっきも言った通り、ここのマスターは私たちの友人だから話はすぐに通るし、なにより君たちの実力なら申し分ないだろう」
「ただオズは……ってランド、あれ!」
苦笑いしていたアマネさんだが、何かに気づき、その方へ指を指した。
「こ、こんなところやってられるか!」
「ここなら仕事が多くもらえるって聞いてきたのに……命がいくつあっても足りねえ!」
酒場の入り口が慌ただしく開いたかと思うと、二人の男性が勢いよく飛び出した。遠目でもわかるが、相当怯えていた。
「依頼の危険度が最低でもAって! 駆け出し冒険者を殺す気か!」
「そうだ! Bすらないなんておかしいだろ。ほんとにここはギルドなのか!?」
二人は何やら文句を喚き散らしていた。危険度? A? B? 何のことだろう。
よくわからないことばかりで首を傾げていた私だったけど、ランドルフさんたちは「いつものことか」と言って、酒場の方へ歩き出した。
いつものこと!? 私たちは驚きながらも置いていかれないようについていく。
「そんなんだから誰もここにいねえんだよ! ちくしょう騙しやがって」
「こんなギルドとっとと潰れちまえ!」
相も男たちは叫んでいた。ランドルフさんたちはやれやれと苦笑し、私たちに「気にしなくても大丈夫だよ」と暢気に言ってきた。
しかし、騎士団長のランドルフさんが近づいてきてるのに気づかないなんてこの男の人たち、一体どれだけ慌ててるのやら。
そんなことを考えていると、酒場の中から声が聞こえてきた。
「あーうっさいうっさい! 勝手にどっかに行くのはいいけど、近所迷惑になるのはやめて。それに、僕、最初の説明で『ここは君たちにはまだ早いよ』って言わなかった? 君たちはそれを承知で受けたんじゃないか……。それなのに……まったく自分勝手にもほどがあるぞ」
聞こえてきたのは少しハスキーな声。そして入り口からゆっくりと誰かが出てきた。
「それから! 君たちに心配されなくともここはやってけるから。……まったく、教育のなってないガキどもだ。ほら、出ていくならとっとと散れ!」
見上げなければその顔が見えないくらいに高い身長、そんな体格に少し似つかわしくない若い女性のような顔立ち、真っ赤な髪を頭の左右で結んでいるのまた似合わない。さっきの声も含めて、一目ではどっちの性別かわからない。
そんな大きい人の言葉で二人の男はどこかへ逃げていった。そして私たちの方に気づくと、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「あっ! ランドにアマネじゃん! 久しぶりー!」
ものすごい軽いノリで二人に近づき、そのまま二人まとめて抱きついた。
「ち、ちょっとオズ!? いきなり何するの!」
アマネさんが懸命に振りほどこうとする。ランドルフさんはどこか諦めたような顔で無抵抗だった。
「最近全然来ないから心配してたんだ。ランドは相変わらず真面目そうな顔してから。アマネは大丈夫? 隈、またひどくなってない?」
抱きつくのをやめ、二人をまじまじと見つめ、オズさん? は矢継ぎ早にしゃべっていた。なんだか見た目もだけど中身も濃い人だなぁ。
「大丈夫よ。……さっきのはいつものかしら?」
「そうそう、僕のところを勘違いした阿呆が勝手に騒いでただけだよ。たまにいるんだよねー。ここがどういうところかわかってない人」
ところで、とオズさんが私たちの方を向いた。
「このかわいい子たち、誰?」
ランドルフさんが私たちのことを簡単に紹介し、私たちは酒場の中に案内された。
中は外見通りとても質素でお世辞にも繁盛してるとは言えない。お客も誰もいないみたいだし。
「ふんふん。君たちが昔ランドが言ってた子たちなんだね。もしかしたらもう知ってるかもしれないけど、僕はオズワルド。オズって呼んでくれたらいいよ。一応このギルド、『思い出の家』のマスターをやってる。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします……」
私たちはオズさんのテンションに圧されながら挨拶をする。ものすごい好奇の目で見られてるけど、なんだかこの人、今まで会った人の中で一番変。
「しかしまあ、ランドは才能を見抜くのがうまいねぇ。『炎竜』を倒すほどの逸材を見つけるなんて」
「そう褒めるな。偶然だよ。それを言うなら君の方が見る目あるんじゃないか?」
「ははは、それもそうだね」
認めるんだ……。完全に私たち、置いてけぼりにされてる気がする。
「で、そんな子たちを連れて、どういう用事? 養子にでもするの?」
「バカ言わないでくれ……。この子たちは君に紹介するために来たんだ」
「えっ? 僕に? というかここにだよね……?」
「そうだが?」
「いやー、まあ大丈夫とは思うけど、いきなりここは厳しくない? それにライセンスはどうするの? 話聞く限り、アルサーンに来てまだそんなに時間経ってないよね」
「それならこれから用意させるから安心してくれ。とりあえずここを彼らのしばらくの住居にしてあげたいんだが」
ここでオズさんが「ちょっと待って」と席を外し、カウンターの奥から何やらぶ厚い本を持ってきた。そしてパラパラとページをめくり、何かを確認していた。
「予約は二件だけだし、それもまだずっと先のこと。部屋の空きは……あるから別に構わないけど。この子たちはいいの? 勝手に話し進めてない?」
私たちはオズさんの言葉にただただ笑うしかなかった。
(私たちも言われるがまま流されてるんだよなー)
でもここでそれを言うと、たぶんややこしくなるから何も言わないでおこう。
「……まぁいいや。僕としても頼れるギルド員が増えるのは歓迎だからね。さて、改めてだが、ティアナちゃん、アレン君、シーラ君、そしてカガリちゃん。確認だが、君たちはギルドがどういう役割を果たしているかご存知かい?」
オズさんとランドルフさん、二人のお話が終わり、オズさんは私たちの方に向き直った。
「えーっと、騎士だけでは対応しきれない問題や魔族の討伐を行う組織ですよね」
「うむ。アレン君、わかりやすい回答をありがとう。だいたいあってるね。簡単にいえばギルドは国の雑務を引き受ける下請けだ。ランドたち騎士はいろいろと活動に制限を受けるからね、国民の安全全てを確保できるわけじゃないんだ」
ランドルフさんも頷いている。でも、結構自由にしてる印象があるんだけど……。
「そこで便利なのがギルドだ。国民の要望を国ではなくこのギルドに充てることで面倒な手続きや会議などすることもなく迅速に対応できる。もちろん報酬をもらうけど、国に頼むよりはよっぽど安いんだ。税金もかからないからね。おまけにギルドに所属して名を上げることでちょっとした有名人にもなれる。どっちにもメリットがあるなんとも素晴らしいシステムだ」
「でも、それだと騎士の仕事をみんなギルドが取っちゃうんじゃないんすか?」
「シーラ君、いい指摘だ。意外とバランスは保たれているんだよ。というのも、ギルドの任務は個人が多いから大型の魔族討伐や災害復興は騎士のような集団行動に長けた者たちで請け負うようになってるんだ。適材適所ってやつだね」
「そうなんすか……。ほんとに雑用みたいなことやるんすね」
シーラの言う通り、これだとパッとしない気が……。
「そんなことないよ。中には強力な魔族を討伐して名を挙げた人もいる。未開の地の財宝を手に入れて大金持ちになった人だっている。何が起きるかはわからない。それがギルドのお仕事なんだ」
その分危険もあるけどね。とオズさんが笑う。
なるほど。やっぱり英雄になるには打ってつけってわけだ。
「で、君たちがギルドに入る件はわかった。ライセンスの方もこちらでなんとかするよ。ただこれだけは言っておきたい。もちろんこれを聞いた後でやめるのも全然かまわないからね」
笑顔こそ変わらない。だけど、その笑みからは重い威圧感を感じた。
「ここアルサーンには全部で11のギルドがある。どのギルドもいろんな仕事を受けているんだが、ここだけは『特殊』なんだ」
オズさんは酒場のボードにかかっている紙を数枚とると、机の上に並べた。
紙には討伐や捕獲、配達等の文字が大きく書かれていて、一目で仕事の依頼書だとわかった。
「まあ依頼書なんだけど、大事なのはここだ」
オズさんは依頼書の『危険度』のところを指さした。そこには赤い文字で『A』や『S』と書かれていた。
「この危険度は下からE、D、C、B、A、S、SS、SSSとなっているんだけど、僕のギルドにある依頼の最低はAなんだ」
これ、さっき逃げていった男の人たちが言っていたなー。でもAでなんであんなにビビるんだろう?
「ついでに言えばAとSはこの5枚だけ。まだあと10枚くらいあるけど、それは全部SS以上なんだ」
「なんでそんなに高いものばかりを?」
「それがこのギルドの特徴でね。僕は他のギルドが受けたがらない危険な依頼書をここに回してもらっているんだ。だって誰も受けなかったら困るのは依頼人だろ? だからそういう依頼を集めて、僕がたまに片付けているんだ」
「えっ、自分で、ですか」
「そう。自分で。これでも昔はランドたちと一緒に冒険してたくらいだからね。腕には自信あるよ」
隣でランドルフさんが「オズは私より強いよ」と小さく呟いていた。
「ま、そういうことだから僕のギルドに入ってもやる仕事は危険なものばかり。でも仕事しないと生活していけないし、追い出す。それを承知で、君たちは僕のギルドに入ってくれるのかな?」
私たちは無言で目くばせした。いちいち話し合わなくても大丈夫。
「はい、それでもかまいません。せっかくみなさんがここまでしてくれたのですからそれを無下にするわけにもいきませんし。オズさん、ギルドへの入会、お願いします」
アレンが私たちを代表して私たちの意志を伝えた。そしてみんなで頭をさげる。炎竜を倒したがためにここまでしてもらった。偶然とはいえ、あまりにもできすぎだ。だけど、私たちが逃げなかったから掴めたチャンスでもあるんだ。だから絶対に逃しはしない。
「……そうか。けどダメだね」
「「へっ?」」
思わず椅子から滑り落ちそうになった。なんでダメ、なの? 入る覚悟はあるかいって聞いてきたのに……。
「いやー脅してそれでだめならそこまでだったんだけど、僕君たちの実力を生で見てないんだよね。だからいいよなんて迂闊に言えないなー」
「オズ……。ティアナちゃんたちは炎竜を倒したのよ? それでもダメなの?」
「アマネは甘いよ。話を聞く限りその炎竜は所詮Sランク。ここでは低い方だ。最低でもSSの実力は欲しいんだよ。そうだね……」
オズさんはうーん、何やら考え事を始めた。そしてハッと目を瞠らせ、そして満面の笑みを浮べた。
「ねえランド。君、確かさっき、リーネと戦わせるって言ってたよね」
「そうだが?」
「オーケーオーケー。よし、これでどうかな。リーネちゃんだけじゃなくて、僕とランド、それからアマネとも戦ってもらおうじゃないか! それならいい感じに実力が測れそうだ。どうかな?」
「いや、どうかなって……。何勝手に私たちも巻き込んでるのよ! 私は戦闘向きじゃないのよ」
「いいのいいの。じゃあ、ディルを呼ぶ? そしたら誰がカガリちゃんの相手するんだよ。相性最悪じゃないか」
「うっ……」
「あのー。私たちが皆さんと戦うんですか?」
「そだよ。うーん、我ながらナイスアイディアだ。異論はあるかな?」
無言。なんだかまた勢いに乗せられてる気がするけど……。
「よし! じゃあ決定。確か明後日だったよね? それまではここ使っていいから。二階に部屋があるから自由にどうぞ。ただ2人部屋だから。二人ずつで使ってね。さて、僕は今から夕飯を作るからみんなもよかったら来てねー」
そしてオズさんは奥の厨房へ行ってしまった。
「……ごめんね。オズは人の話を聞かないから」
「い、いえ大丈夫ですよ。それよりもお二人はよかったのですか?」
「私たち? 私はもう諦めたからね。昔からオズの奔放さには振り回されっぱなしだったの。今更どうってことないわ」
「私もそうだな。だが、君たちと戦うのはちょっと楽しみになんだよ。2年前の試験からどれだけ成長したか知りたいしね」
ランドルフさんはそう言って笑った。その笑みはさっきのオズさんのと同じ威圧感があった。ああ、この人とオズさんは似てるんだな。
かくいう私も驚いてはいるが、予想外の展開にちょっと楽しみだったりしている。この国一の騎士、そしてその人から自分より強いと言われている人と戦える。これが楽しみにならないはずがない。笑いが止まらないや。
「さて、私たちもこれで失礼しようかな」
ランドルフさんとアマネさんが席を立つ。私たちも追って立った。
「今日はありがとうございました。首都に連れていただいたことから駐屯所、そしてここへ案内、おまけに当面の生活までいつのまにか確保してしまって……本当にありがとうございました」
なんだか言ってることがおかしいけど、今日はとにかくいろんなことがあって、この二人にとにかくお世話になった。普通じゃありえないことだからこそ、余計にお礼を言わないといけない。
「気にしなくていいよ。私たちが好きでやっているんだから。それから明日、もう一個だけ君たちを案内したいところがあるんだ。私は行けないからアマネが案内してくれるよ」
「気にしなくていいのよ。未来ある若者を導くのが私たちの役目だもの。それじゃまた明日」
そうして二人は酒場を後にした。
このままボーっとしているわけにもいかないので早速私たちは荷物を部屋に運んだ。部屋は2人部屋にしては広く、とても快適に過ごせそうだった。荷物を置いて、中からいろいろと必要な物を取りだして部屋に配置していく。着ていた服も着替えてラフな服装にした。そうしてほっと一息ついたころ、私とカガリはご飯ができるまでのんびり談笑していた。
「ほんとにあっという間な1日だったね」
「うん。まさかこんなことになるなんて。ティアナの我儘のおかげだね」
「……それ、からかってるの?」
「まさか。感謝してるんだよ。私も早く首都に行きたかったから。それに普通じゃ経験できないこともいっぱいできたしね」
カガリはそう言って、ベッドに寝ころんだ。私よりも大人びた彼女が子供のように(子供だけど)寝ころぶのはなんだかおかしい。思わず笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いいやなんでもないよ」
ごまかすために私も寝ころんだ。
「明日はどこに行くんだろうね?」
「お城だったりして」
いや、さすがにないかな?
「でもどこに行ってもきっと初めてのことなんだろうね。そう思うと私、ワクワクする!」
ゴロンと寝返りをうち、カガリが私の方に体を向けた。
「ティアナ、ありがと。私を冒険に連れ出してくれて」
「……でも、危険な目にも遭わせたよ?」
「ふふ、ティアナと一緒なんだからそれくらい覚悟の上よ。それにオズさんの話だとこれからはもっと危険なんでしょ? あれくらいで音をあげられないわよ」
「カガリはたくましくなったなぁ」
昔はシーラにくっついてるだけだったのに……。すぐに逃げて隠れて一人じゃ何もできない弱虫だったのに。
今じゃ、無茶する私に笑顔を向けてくれている。
「……カガリ」
「ん、なあに?」
「がんばって英雄になろうね」
「………そうね。ティアナの夢だもんね。私も全力でついていくわ」
自信満々にカガリは笑った。
ああやっぱりカガリは強くなった。あの頃とは全然違う。
私も変わらなくちゃ、ね。
あの炎竜を倒した日、その前の山賊たちとの戦いのことを思い出す。私の心の弱さでみんなを危ない目に遭わせてしまった。こんなことは金輪際なくさないと。
みんなを守るために。
笑いかけてくれるカガリを見ながら、私は心の中でそう誓った。
オズさんの作ったご飯は今まで食べたどんなものよりもおいしかった。料理上手のカガリですらあまりのおいしさに悔しさを滲ませ、食事後にオズさんに料理を教えてもらえないかとせがんでいた。
断られていたけど。
オズワルドさんはお気に入りのキャラです。