思わぬ出会い、邂逅
「んん……んっ?」
ゆっくりと目を開ける。天井が見える。ここはどこなのだろうか。
「いてて……」
どうやら寝かされていたようなので起き上がろうとしたが、体に痛みが走り、そのまままた倒れてしまった。
「あれ? 私、あの竜倒して……それから……」
それからの記憶がおぼろげで何も思い出せない。たぶん気を失ってしまったのだろうが、それにしてもなぜ私はこんなところにいるのだろうか……。
「おお、起きたか。寝坊助」
カーテンを開けて、シーラが声をかけてきた。
「あれ、シーラ。ここは、一体?」
「これで3回目。アレンとカガリにも同じこと聞かれたな。ま、仕方ないけどな」
はぁ、とため息をついた。
「ここはローズタウン。場所的にいえば、俺たちの行程の真ん中らへんだな」
「えっ? もうそんなところまで来てるの? 何が――」
「あーあー。その辺もまとめて説明するから。それより体の調子はどうだ? 一週間寝っ放しだったが」
「少し痛むくらいだけど……って私そんなに寝てたの?」
「反応がいちいちうるさいなぁ。けどそれくらい元気ならもう大丈夫か。悪いが一緒に来てもらえねえか?」
私は頷き、まだ少し痛む体を起こした。途中倒れそうになったので、シーラに支えてもらい、なんとかベッドから降りた。
「大丈夫か?」
「うん。たぶんずっと寝てたからだと思う……。また鍛えなおさないとなー」
ほぼ毎日鍛錬してたから一週間も動いてないとなると相当衰えているはずだ。
「はいはい、それはちゃんと治ってからにしろよ」
「で、どこに向かってるの?」
「俺たちを助けてくれた人のところだ。アレンとカガリもそこにいる。面倒ごと起こすなよ」
シーラが釘を刺してきた。普段はそんなこと言わないけど、一体どうしたのだろうか。
「ここ、ローズタウンは首都に次ぐ医療設備の整った施設のある街だ。だからここまで運ばれたみたいらしいぞ」
「一気に行程の半分を一週間もかけずに運ぶなんて……。何か魔法でも使ったのかな?」
「そこは俺も分からねえな。なんか仕掛けがあるらしいが、機密事項って言われたよ」
「ふーん……」
そんなこんな話していたら、目的の場所までついた。ここは来客用の応接室らしい。中に入ると、アレンとカガリが座っていた。そして後2人いた。
「ティアナ、目が覚めたんだ。大丈夫?」
「う、うん……。みんなも無事だったんだね」
「おかげさまでな」
よかった。みんな無事だった。私の我儘のせいでみんなにはすごい迷惑をかけちゃったから……もし何かあったらほんとにどうしようかと思ったよ。
「……さて、揃ったことだし話を始めてもいいかな?」
この部屋にいた残り2人の男女、そのうち男の人の方が私たちの方を見て、柔らかな笑みを浮べた。
私はこの人を知ってる。前にも会ったこと、あるもん。
「先に彼らとは話をしたが、君とはこれが初めてだから自己紹介でもしておこう。とはいえはじめましてではないがな。私はセントアース国聖王騎士団、団長のランドルフ=マーレンだ。好きに呼んでくれて構わないよ」
2年前、学校の適正試験で手合わせをしてくれたこの国一番の騎士。その人が今、私の目の前にいた。
「で、こっちが……」
とランドルフさんは隣に座っている女性に目をやる。この人も知ってる。
「久しぶりね、ティアナちゃん。覚えてるとは思うけど私はアマネ。研究者よ」
魔力試験の時にいたアマネさんだ。
「あ、ティ、ティアナ=ウェルレインです……。ええっと、お二方がどうしてここに………?」
この国トップの実力を持つ人たちが自分の目の前にいる。私はそのことへの疑問と驚きで緊張してしまっていた。
「ティアナが戸惑ってるの、久しぶりに見た」
「さすがにこれに驚かない方が無茶だと思うんだよな」
カガリとシーラがなんか言ってる。でも耳に全然入ってこない。
「まあ、そんな固くならなくていいよ。ほら、座って」
ランドルフさんの言葉に甘えて私も椅子に座る。そうして私たちが話を聞ける様子になったのを確認してランドルフさんは話をはじめた。
「まず私たちがここにいる理由だが、君たちが先日出くわした魔族、その件のためなんだ」
『魔族』。この言葉に私はあの時戦った竜を思い出す。今でも全員が生き残ったことが奇跡のように思える。
「あれは『炎竜』。魔族の中でも高位に位置する存在だ。その強さは我々騎士団の中隊から大隊を使ってようやく倒せるといったレベルだ。私たちはその報せを聞いて、討伐のために慌ててあの場所まで行ったのだが……着いてみればいたのは死体となった炎竜とその周りに倒れている君たちだった」
「状況がわからなかったからひとまず君たちをこの街まで運んだの。なかなか目を覚まさないから心配だったけど、無事だったみたいでよかったわ」
「……で、まずは確認だが……。あの炎竜を倒したのは君たちか?」
私たち4人は頷いた。
「まさかほんとに倒したとはな……」
ランドルフさんは驚きに目を瞠らせ、頭を抱えた。私たち、何か悪いことしてしまったのだろうか……?
「そうか……。4人であの竜をか……」
そして顔を覆い、突然笑い出した。
「えっ……?」
私たちは戸惑うことしかできなかった。どうしたのだろうか……。
「さっきも言ったようにあれは50人以上でようやく倒せるような危険なやつだ。私やアマネのような実力の者となるとまた別だが……。とはいえそんなやつをこんなに若い君たち4人で倒すなんて普通じゃ考えられないことなんだ。だからついつい驚いて、笑ってしまった。すまないね」
そう言ってランドルフさんは笑うと、急に真面目な表情になり、私たちを見た。
「――ありがとう」
頭を下げた。
「ラ、ランドルフさん! なんで……」
アレンが慌てている。私もだ。だって、この国一番の騎士が私たちに頭を下げているんだから。私たちの間で動揺が走った。
「頭をあげてください。そんな、そのようなことしなくても……」
しかしランドルフさんは譲らなかった。
「いや、君たちがいなければ周辺にどれだけの被害が出ていたか。考えることすら恐ろしい。そんな事態を未然に防いでくれた君たちには感謝しきれないよ」
「で、でも僕たちは立ち入り禁止になっていたところに入ってしまった結果、遭遇してしまっただけで……。むしろ怒られる方ですよ」
「それでも君たちのおかげで多くの人たちが助かったという事実に変わりはない。それに今回の件は、君たちの罪とは比べ物にならないくらい重いことだったんだ」
「困らせちゃってごめんね。ランドは昔からこうでね、変に頑固なのよ。でもね、あなたたちが倒した炎竜は本当に危険な存在。災害レベルの被害を出すかもしれなかった。あなたたちのやったことは自分たちが思っている以上にすごいことなの。だから私からも言わせて。ありがとう」
頑なに頭を下げるランドルフさんにアマネさんも続いた。
「「…………」」
そんな二人を私たちはただただ見ているだけしかできなかった。偽りのない純真な気持ちだとその言葉、姿勢から感じ取ったからだ。
「聖王騎士団を代表して君たちに最大級の感謝を」
最後にランドルフさんはそう言って、ようやく顔を上げてくれた。
「さて、実を言うと後始末も済んでしまったので今日と明日は思わぬ休暇となったわけだが」
唐突に話が切り替わった。そのあまりの変わりように私たちは目を丸くした。
「それで君たちにはお礼も兼ねて連れていきたいところがあるのだが……君たちの予定のほどは?」
「え、えと……ティアナの体調がよくなり次第、首都に向けてまた旅を続ける予定ですが……」
ほう、とアレンの言葉を聞いてランドルフさんは考え込んだ。
「ねえ、ランド。いいんじゃない? この子たち、十分信用できると思うんだけど……」
「アマネの言いたいことはわかるが、あれはある程度の位がないと使用できないからな………。それとも君の魔法で連れていくか?」
「この人数はかなりの魔力使うわよ? あとで仕事できなくなるけど、それでもいいかしら」
「君がそう言うときは仕事の心配はいらないということだったな。ならお願いしよう」
「はいはい」
二人の話し合いは終わったようでランドルフさんはもう一度私たちの方へ向いた。
「君たちに提案なのだが、いいかい?」
「はい……」
提案? 一体何を提案してくるのだろうか……。雰囲気的には悪いことではなさそうだと思うけど……。
「これからすぐにアルサーンに戻るけど一緒に来ないかい?」
アルサーンは確か首都の名前だけど………? どういうこと?
「戻るって今からですか?」
「ああ。……あ、安心してくれアマネが魔法を使うからあっという間に着くんだ。ティアナ君の体調にも影響はない。君たちの準備ができ次第すぐにでも行けるよ?」
「私はもう大丈夫ですけど……」
私は皆を見る。突然の提案にみんな戸惑っているようだった。突然現れたこの国一の騎士と魔導士。そして一緒に来ないかという提案。正直まだ夢じゃないかと私は思ってる。
かといってこの話は絶好のチャンスでもあった。私たちの今現在の目的は首都に行くこと。それがあっという間に達成できるのだ。欲を言えば、その道中でのハプニングなんかを期待してたけど、今回の一件でさすがに懲りてしまった。穏便に済ませたい……。うん。
「ティアナ」
アレンだ。アレンが私を呼んだ。
「何?」
彼は笑っていた。まるで私の考えがわかっているかのように。「心配するな」とでも言っているかのように。
「どうするかは君が決めな」
「えっ?」
「そもそもこの旅は君が提案したんだ。俺たちはそのサポート。こういうことに関しての決定はティアナ、君が決めるんだ」
「でも……アレンがそうでもシーラたちは……」
そう言ってシーラとカガリを見る。しかし二人も苦笑を浮べていた。
「地図も読めないお前を導くのは確かに俺たちの役目だ。だがな、どこに行きたいかを決めるのはお前なんだ。じゃなきゃ、あの時もっと反対してたさ」
「そうだね。約束、してるし、ティアナの自由にしていいんだよ」
「………」
みんなして私に判断を委ねてきた。
私としてはいろんな冒険がしたい……。でもさっきも思ったけど、あの時みたいな目に遭うのはちょっと……。私一人ならいいけど皆を巻き込むのは……。
私は悩む。悩み悩んで末で私は答えた。
「わかりました。お二人と一緒にアルサーンに行きます。よろしくお願いします」
私はお二人のご厚意に甘えることにした。あくまでも私たちの目的は首都に行って活躍すること。その道中であんまり時間をかけない方がいいだろう。
「そうか。それじゃ、君たちの準備ができ次第行こうか」
ランドルフさんは満面の笑みで答えた。
「忘れ物、しないようにね。さすがに取りに戻れないから。それと着いたら案内したいところがあるから、よろしくね」
「わかりました」
そうしてランドルフさんとアマネさんは部屋をあとにした。残った私たち4人はしばらく黙っていたが、やがてアレンが口を開いた。
「なんだか怒涛な展開だったな」
「巨大な化け物と戦ったと思ったら今度は騎士団長たちと話して、そのまま首都に向かう、か。なんともまあ、できすぎな流れだな」
「そもそも最初の段階で生き残れたことがほんとにすごいよ……。でも、ティアナのおかげだね!」
「えっ? なんで」
カガリがそんなことを言うので私は思わず首を傾げた。
「だって、ティアナが寄り道したいなんて言わなかったら、あの怪物に会うこともなかったし、そうしたら騎士団長さんたちに会うこともなかったんだよ? 最初のティアナの我儘がなければこんなことなかった。ね、ティアナのおかげでしょ」
「おいおいカガリ、それを言ったら道選んだりした俺たちもそうだろ?」
「それもティアナが我儘言ったからじゃないか、シーラ。とはいえ人生そんなもんじゃないかな。どんな選択をすればどんな結果になるかなんて誰にもわからない。だからとりあえず今を頑張るしかないんだ」
「ったく、急に説教垂れんなよ」
ははは、とみんなで笑った。旅の初日から私の冒険は誰にも負けないハチャメチャなものだった。それもこれもみんなのおかげ。口には出さないけど、心の中で「ありがとう」と言っておく。口にすればきっとからかわれるだろうから。
「なにはともあれ、せっかくのチャンスを得たんだ。このまま首都で冒険者ギルドに入れば、ひとまずの目的は達成だ。ティアナの夢に近づくな」
そうだな、とシーラが何やらおかしそうに笑った。
「シーラ、どうしたの?」
私がそう尋ねると、彼は笑いをこらえつつ答えてくれた。
「いやー、ティアナの夢、ねぇ……。アレンにしては珍しい間違いするんだな」
「間違い?」
「ああ、前も言ったじゃねえか」
シーラの言葉にアレンは何かを思い出したかのようにハッとした顔をし、そして申し訳なさそうに笑った。
「そう、だったな。悪い悪い」
「こういうこと、アレン君が一番覚えてそうなのにね」
カガリもシーラと一緒になって笑う。だけど、私には何のことかさっぱりだった。
「シーラ、どういうこと?」
「なんでもねえよ。我儘で自由な勇者志望のあやし方だ」
「なっ! ちょっとシーラ!」
なんて失礼なことを言うんだこいつは! 私はシーラに近づき、その腹に正拳突きをする。私の不意打ちをシーラはもろに喰らい、そのまま地面に沈んだ。
「くそ……。お前少しは加減しろよ……」
「失礼なことを言うからだ! カガリ、アレン。こんな奴ほっといて早く準備しよ! ランドルフさんたちも待ってることだし」
一発殴ってもまだ少しもやっとする。でも、この後があるのでこのくらいにして私は自分が寝かされていた部屋に戻ることにした。
「そ、そうだね」
「……シーラも遅れるなよ」
「お前ら……冷たすぎだろ」
「今のはお前の誤魔化し方が下手なのが悪い」
「うん、弁明の余地ないよ」
「この薄情者どもめ……」
シーラが何やら恨み言を言ってる。でも私もカガリたちもそれを無視して部屋を後にした。
「うん、揃ったみたいだな」
病院を出て、私たちは街の入り口まで来ていた。すでにランドルフさんたちが退院手続きをしてくれていたようだったので、思ったより時間をかけずに外に出ることができた。
「早速、アルサーンに戻ろうか。……アマネ」
ランドルフさんはアマネさんに目くばせする。
「はいはい」
アマネさんはやれやれといった様子で返事をすると、すっと目を閉じた。そして一気に空気がピリッと張り詰めた。《解析眼》を使わずともアマネさんの周りに強力な魔力が漂いだしたのがわかる。それをカガリも気づいたようで驚きと羨望の目で見ていた。
「……すごい」
思わずぽつりとカガリは呟いていた。意外と知識に貪欲なんだよなーと私は親友の様を眺めていた。
「……『繋げ、世界の狭間へ。開け、時空の扉を。我は歩み進み越えし者。我は旅人。あらゆる世界を跨ぐ者。故に我に枷はない。全てを繋ぎ、開こう。―《無限の扉》』」
アマネさんが言葉を紡いでいく。普通は必要としない魔法の詠唱。魔力が足りなかったり、精度を上げるために詠唱は行われるのだが、あの魔力量でそれをしないといけないほどこの魔法はすごい魔法なのだろうか……。
「さ、この中に入って!」
魔法を発動したアマネさんの前に大きな扉が現れた。それを開けると扉の向こうは真っ暗だった。それを見て、当然私たちは一歩引いた。
「ああ、安心して。真っ暗に見えるのはわざとなのよ。行った先が見ず知らずの誰かにばれたらまずいからね。ちゃんと入れば目的地に着くから。ほら! さっさと入る」
アマネさんに押されて私たちは扉の中に入っていく。入った瞬間私たちの視界は真っ暗になった。しかしそれもすぐに終わった。パッと明るくなり、目をあけるとそこは大きな城門の前だった。辺りを見ると、アレン達も近くにいて周りを見ている。そして私たちの後ろにアマネさんが作ったものと同じ扉があった。私たちが呆けてるとランドルフさんとアマネさんがその扉から出てきた。
「よし、みんないるね。ここがアルサーンの入り口。そこの門を抜ければもう到着よ」
「えっ? 直接中には入らなかったんですか?」
カガリが尋ねる。確かになんで外なんだろう。
「あー、アルサーンはね、強力な守護結界が張ってあって繋げられないのよ。だからここが限界」
頬を掻きながらアマネさんは答えた。
「そうだったんですか。結界か……すごいな」
「ん? 興味あるの?」
「え、あっ、はい。結界魔法が使えれば、みんなを守れるので……」
「カガリちゃんなら基本理論さえわかれば、すぐにできるようになるよ。今度教えてあげるから」
「あ、ありがとうございます!」
カガリの顔がパァッと明るくなった。単純だな~。
「ティアナも人のこと言えないぞ」
なんて思っていたら隣から声をかけられる。アレンだった。
「えっ、何のこと……かな?」
「さあな」
アレンは笑っていた。こいつ……!
「アマネ、それはまた別の機会だ。早く行こう」
いつの間にかランドルフさんは城門に立っている衛兵と話をしていたようで、向こうの方から戻ってきた。
「わかってるわよ」
アマネさんとランドルフさんが先に行くので、私たちもそれについていった。
私たちの故郷とは比べ物にならないほどの、見上げなければ全部を見ることができない、巨大な城門。その脇にはしっかりと装備をした兵が何人もいた。
「ここはアルサーンの正門。だからといって説明することは他にないから、このまま中に入ろう」
ランドルフさんたちは進んでいく。
そして門を抜けた。
「ここが、この国の首都……」
「まだ入ったばっかりなのにすごい……」
私たちは驚きと感嘆の声を漏らした。視界いっぱいに広がる人と建物。数えきれない人々が所狭しと行き交い、出店の前で談笑している人たちの声でうるさいくらいに賑わっていた。
「どうだい?」
私たちが驚いていると、ランドルフさんが嬉しそうに話しかけてきた。
「他の街にも商業街みたいなところだったらこういう賑わいがあるかもしれない。でもこの規模はやはりここ、アルサーンにしかないんだ」
「こんなの、初めてです」
「それはよかった。おそらくここが君たちの当面の拠点になるだろうからね。気にいってもらえてなによりだ」
「ランド、まずはどこから行く?」
「そうだね、ここからだったら僕の所の方が近いだろうからそっちに行こう」
「わかったわ。さ、みんなついてきて」
アマネさんはまた入り口からまっすぐ延びた道ではなく、少し脇にそれた道を進んでいく。
「ほんとならしっかりと案内したいけど、人が多いと難しいのよね。だから今日は見せたいところだけ」
それから歩くこと十数分。私たちが「広すぎ……!」と改めて首都のすごさを思い知ったころ、アマネさんはとある建物の前で止まった。そこは別段高くはないが、横にも奥にも広い大きなものだった。そして入り口らしきところには兵士が立っていた。
「ここは……?」
「ここは騎士駐屯所だ」
ランドルフさんが前に出て、私たちの方を向く。
「ここではこのアルサーンの警護、王宮内での貴族のボディーガード、各地方への派遣など軍事に関するすべてのことを執り行っている。無論、ここのトップは騎士団長の私なわけだが、ある程度部門ごとに独立しているんだ」
「軍事全てって……。要はこの国の武を担ってることだよな……」
アレンとシーラは私たちと違ってすごく興味津々そうだった。男の子だからかな?
「まあそうはいっても、さすがに地方までは目が届かないから場所ごとに一任しているところがあるけどね。実を言うと私も結構多忙なんだよ」
じゃあなんでこんなことしてるんだろ……。たぶん今、みんな思ったはずだ。
「ははは、今日は休暇をもらってるからね。よし、本当は騎士しか入れないけど、特別に君たちには中に入ることを許可しよう。こんな機会滅多にないから、楽しみにしてるといい」
「えっ、いいんですか?」
なんともトントン拍子に話が進んでいく。なんで私たちはこんなに丁寧に扱われてるんだろう……。
「ああ、『炎竜』を倒して褒美と思ってもらえればいい。こういう時、謝礼金などがでるけど、ちょっといろいろあってね……」
「大丈夫ですよ。ランドルフさん。私たち、お金よりもこういったことの方が嬉しいですから」
アレン達も頷く。するとランドルフさんはものすごく驚いた顔をした。
「聞いたかアマネ……、ディルに聞かせてやりたい言葉だな」
「無駄よ、ランド。ディルには何度言ったって無理なんだから」
アマネさんと何やら話している。二人の共通の知り合いの話なのかな?
「だよな……。あぁごめん。話がずれたね。うん、君たちがそれで大丈夫なら私も全力で歓迎しよう」
入り口まで来ると、門番の兵士はランドルフさんとアマネさんを見て、二人に敬礼した。ランドルフさ
んは「お疲れさま」と兵士一人一人に声をかけていった。
「今からそこの4人を中にいれて案内したいけど、いいかい?」
「はっ! 大丈夫です! 団長、今日は妹殿が来ていらっしゃいますが……」
「リーネが? それはちょうどよかった。訓練場にいるのかな?」
「おそらく。……して、その者たちは?」
兵士の人は私たちを不審の目で見てくる。まあ仕方ないとは思うけど。
「私の大事なお客さんだ。ああ見えても君たちよりずっと強いぞ」
口調は柔らかいがランドルフさんの凄みに兵士は苦笑いを浮べた。
「そんな固くならなくても大丈夫。それじゃ、仕事頑張って」
「行こうか」とランドルフさんに案内されて私たちは中に入った。さっきまで話していた兵士とすれ違う時、かるくお辞儀をしたところ、笑顔でお辞儀し返してくれた。いい人なのかもしれない。
「ここは仕事によって施設が分かれているけど、訓練場だけは共用なんだ。騎士には男性も女性もいるからそれでも分かれている。さすがに全部回るのは大変だから、今日は訓練場に行こう」
大きな廊下を進みながら、ランドルフさんは説明してくれる。聞いていると私たちの学校に近いものを感じたが、それは違うらしい。
「学校よりはもっと厳しいな。やることは決まっているから訓練以外に自由はない。少し狭苦しいけど、皆騎士になることを望んできてるから、気にしてる人はいないな」
「学校は自分の好きなことをとにかく伸ばす場。自由さだけだったら学校の方がいいわ。ただお金は手に入らないから自己責任が大きいけど」
加えてアマネさんも解説してくれた。そういえばアマネさんは大学に勤めている人だったっけ。
「さすがにそう言った単純な理由でなる人は……滅多にいないけど。……滅多に」
なんだか目が泳いでる。さっき二人が話していたときに出てきた人かな?
「まああれは、特殊だから……ってなんか人だかりができてる」
そう言った視線の先、確かに人が集まっていた。しかもなんだか騒がしい。
「その先は訓練場の模擬戦用のところだけど……」
気になるのでそこへ行ってみることに。するとランドルフさんに気づいた人たちが、一斉に一列に並んで敬礼した。その態度の変わりように私たちは圧倒される。
「団長! お疲れ様です」
「戻ってらしたのですね」
「アマネ様も一緒でしたか! さ、こちらへ」
「ああ、ありがとう」
兵士の人たちの厚い対応でランドルフさんとアマネさんが少し引き気味になっていた。いつもあんな風なのだろうか……。だとしたら疲れそう。
「それで、そちらの子供たちは?」
「きちんと紹介するよ。それより、リーネは?」
「妹殿ならそこで……あっ」
兵士の言葉が止まる。それと同時に後ろの方でわぁっと歓声があがった。
「今やってるところなんだね」
「はい。これで10人抜きです。団長も相手されますか?」
「いや、私は遠慮しておこう。それよりもちょっとリーネに事があるんだけど、いいかい?」
「はっ!」
兵士が道をあける。ランドルフさんは先に進んでいき、奥にいる女の子に向かっていった。アマネさんがついてきてと目配せするので私たちもついていく。
「リーネ」
「兄上!」
女の子はランドルフさんに駆け寄った。
「戻っていらしたのですね。お勤めご苦労様です」
「ああ、ただいま。今日も訓練か?」
「はい。今は組み手をしていました。ところで兄上はどんなご用事で?」
「実は、お前に紹介したい人たちがいるんだ」
「私にですか?」
ランドルフさんが私たちを呼んだ。というわけでお二人のところまで私たちはやってきた。
件の女の子、ランドルフさんの妹らしく髪色は同じ黒色。私と同じくいっぱい伸ばしてるけど彼女の場合はツインテールにしていた。私たちよりも年上かな? なんか大人っぽい。なんだろうカガリと似た美人さんみたいな印象だ。ただ、左目に眼帯をしているのは気になったけど。
「兄上、この方たちは?」
「今回の任務先で出会った子たちだ」
「ティアナ=ウェルレインです。ティアナで大丈夫です。で、隣にいるのが……」
「アレン=クラウドです。初めまして」
「俺はシーラ=モンステン。こっちは妹のカガリだ」
早速、自己紹介をする。第一印象は大事。精いっぱいの笑顔を見せた。
「あ、私はクラリーネ=マーレンといいます。一応聖王騎士団の団員を務めさせてもらっています」
ものすごく丁寧にあいさつされた。昔のアレンみたいだ。
「クラリーネさん、そんなにかしこまらなくていいですよ。見た感じ、私たちの方が年下みたいですし、敬語を使わないで大丈夫です」
しかしクラリーネさんは首を傾げていた。
「すまないね。リーネはこういう付き合いに慣れてなくてね。私情ながら君たちにこの子の友人になってほしかったんだよ。悪い奴じゃないんだ。仲良くしてくれるかな?」
「大丈夫ですよ。ランドルフさん。これから会う機会を増やせばすぐに仲良くなれると思いますから」
なんだか今のランドルフさんの言葉を聞いていると多分この人も友達付き合いに苦労したんだろうなぁとついつい思っちゃう。
「ところで兄上、先の任務で出会ったというのはどういうことでしょうか?」
「ん? ああ、先に帰ってきたみんなから聞かなかったのかな? 私たちが来た時には『炎竜』はすでにこの子たちに倒されていたんだ。で、彼らの介護にあたっていたんだ。その流れでそのまま連れてきたのさ」
「「!!?」」
一斉に動揺が走った。信じられないといった表情だ。
「あいつらの話、本当だったのかよ……」
「たったの4人で炎竜倒しただと……?」
「まだガキじゃないか」
口々に驚きの言葉を漏らしていく。一気に騒がしくなった。
「あー静かに静かに。悪いけど、この話は事実だ。この子たちが炎竜を倒したんだ」
改めて言われるとなんだか照れるな……。
そんな中クラリーネさんは依然として落ち着いた様子だった。やはりなんだか不思議だ。年相応に見えない。
「それで兄上。ただ交友関係を結ぶために彼女たちを連れてきたわけではないですよね?」
「さすがリーネ。察しがいい。今、ちょうど10人抜きしてたところなんだろ?」
ランドルフさんはすごく楽しそうに笑った。なんだろうこっちまですごく嫌な予感がしてきた。
「は、はい……」
「なら、ちょっとこの子たちと戦って見ようか」
「「えっ!?」」
新キャラ登場。
質問やアドバイス等ありましたらコメントお願いいたします。