私は――
「どうしたらいいんだろうね……」
「旅の初日ですが、俺たちの旅はここで終了ですね、ってか。冗談じゃねえぞ!」
「兄さん、シャレにならないからやめよ……」
「お前ら実は余裕だろ……っ! 来るぞ!」
違うよアレン、たぶん現実逃避だよ。
怪物はその体躯に似合わぬ素早い動きで私たちに飛びかかってきた。鋭い爪が私たちに襲い掛かる。それを私たちはその場を散開して躱す。そしてシーラが怪物の腕に銃弾を撃ち込んだ。
しかし、カンッと固いものにぶつかる音がするだけで、銃弾は地面に転がり落ちてしまった。
「嘘だろ? どんだけ固いんだよこいつ!?」
「これならどう!? 《大炎鎚》!」
今度はカガリが魔法を放つ。彼女の頭上に巨大な鎚の形をした炎が現れ、怪物に向かって振り下ろされた。傍にいる私たちもその熱量に圧される。
「もう一発! 《大氷鎚》!」
炎が消える前に今度は氷の鎚が怪物をつぶす。炎の熱気で一部蒸発した水が辺りを覆う。
容赦ないなー、カガリ。でもあの気配が消えないということは……。
「……無傷はさすがにないよ………。あれだけの大魔法ぶつけたのに」
怪物は全くの無傷だった。あの固い体に一つの傷も見当たらない。しかも今の攻撃で気を悪くしたのか、視線をカガリに移した。不味い……。
「カガリ! 逃げて!」
ところが魔法の反動のせいかカガリの動きが鈍い。このままでは逃げるのが間に合わない。
同じことをアレンも思ったようだ。だが、間に合わない。あの怪物の動きが想像以上に速いのだ。刀を投げたとしても大した妨害にならない。シーラも同様だ。
「くっ……ティアナ、すまん」
「へっ?」
アレンがいきなり謝ってきた。私はその意味を理解する間もなく、体を抱きかかえられた。
「ア、アレン?」
「頼んだ!」
「え、ちょっ、きゃあぁぁぁぁぁあ!?」
放り投げられた。しかも狙いはカガリの所へ。いややりたいことはわかったけど……、むちゃくちゃでしょ!?
「カガリ!」
私は吹っ飛びながらも、カガリの体を掴んでそのまま地面に一緒に倒れこんだ。そしてさっきまで彼女がいたところを怪物がその全身でたたきつけた。あのままあれを喰らってたらひとたまりもなかっただろう。
「カガリ、大丈夫?」
「う、うん。ありがとう……」
「よかった。で、アレン! 何するのよ! 下手したら私もぺしゃんこだったかもしれないのよ!」
ほんとに焦った。死ぬかと思ったもん。この恨みはらさでおくべきか……! 後で覚えてろよ!
「ティアナならできると思ったんだよ。それ以外方法思いつかなかったし」
「せめて一言言ってくれたら……」
「お前ならできると思ったんだよ」
へーそーか、そーか。私を信用して、ね。理不尽だけど、アレンのその殊勝な態度に免じて仕返しは少し軽くしてやろう。
「ティアナちょろい……」
後ろでカガリが何か言ってるけど聞こえない聞こえない。
「しかしまあ、固いこと」
「私の魔法も兄さんの銃弾も通じないなんて……」
「それって私の刀やアレンの剣もダメってことだろうね」
「じゃあどうやって倒せってんだよ……」
言い争う間にも怪物は私たちに襲い掛かる。幸い動きが速いというわけではないので避けるのは簡単だ。だけど、どこを攻めたらいいかわからないからただただ避けるしかない。
「ティアナ、お前の眼でわかったりしないのか?」
「あれはそんな便利な物じゃないよ。視覚サポートなだけだから。弱点なんかわかんないよ」
「使えねーなー」
「うっさい! シーラだってなんもできないじゃん」
怪物の攻撃をかわしながら、私とアレンは怪物の全身をくまなく攻撃していく。しかし傷はおろかひるみすらもしない。
「こっちは弾に限りがあるからな。ここぞという場面は使いたくねえんだよ」
反論できないこと言いやがって………。とはいえ、ほんとにどうしたらいいんだよ。
私に向かってくる怪物のかぎ爪を躱し、そのまま腕を伝って、背中に飛び乗る。背中は岩のようにごつごつしていて、乗り心地は最悪だ。
対する怪物は私が乗っていることが不愉快なようだ。雄叫びをあげながら体を大きく揺ら祭だした。
「わわっ! 暴れるなこの暴れ……何か!」
掴むところがまともにないので、背中の上を動きまわってバランスを取る。なんだか暴れ馬に乗ってる気分だ。
「やばい、どこにも弱点見当たらない!」
背中を駆け回るもそれらしきものは一切見当たらない。ただただ岩っぽい体があるだけ、ひびとかありそうだからそういうのも注意して見たけど、やっぱりない。
こういう大きい生き物は背中とか弱そうだけど、そうでもなかった。なら腹か……。
でももしほんとに弱点がなかったらどうしよう……。
なんて思っていたら、怪物の体に変化が起きた。背中が妙に温かい。なんかこう岩が熱を持ってる感じ……。
「みんな離れて!」
咄嗟に叫ぶ。それから私もすぐに離れた。やばいやばいやばい………!
みんなは私の声に気づいてすぐに離れてくれた。私もなんとか怪物から距離を取る。
そして怪物を見る。
「ゴァァァァァァァアア!」
気づけば怪物の体は真っ赤になっていた。離れているにもかかわらず激しい熱気が伝わってくる。あのまま傍にいたら真っ黒焦げになってたに違いない。
そして怪物は大きく体を震わすとその全身から白い煙を吹き出した。煙が近づいた木がぷすぷすと煙を上げながら黒くなっている。燻されているみたいだ。
「体内の温度をあげて一気に放出って感じか?」
「炎、氷魔法が効かなかったのそういうことだったんだ。なら、今度は……」
カガリが再度魔法を使おうとする。だけどそれは今はまずい。
「カガリ、ストップ」
「えっ?」
「まだ効くってわかったわけじゃないから無駄打ちはやめよ。魔力消費激しいんだから、ちゃんと弱点見つけてから、頼んだよ」
「……わかった」
さて、どうしたものか。近づくにも何か蒸気吹き出してるし、体固いから斬れないし……。あと視界がめっちゃ悪い。
「………《解析眼》」
魔法を唱える。そうして私は自分の目に魔力が宿るのを感じた。視界には敵の位置、それから距離が数字となって映っている。頭の悪い私にはあんまり必要ないものだけど、これで敵の位置がわかった。
これが私の得意とする空魔法。簡単に言えば、空間把握の強化だ。別に相手の動きが読めるとかそういう便利なものではない。だからあんまり有効打とはならないが……。あとは魔力の流れを見ることができるが、だからといってどうにもならない。
「うーん?」
とはいえ何かがおかしい。魔法使ってから何か違和感を感じ始めた。よくわからないけど、何かある……。もしかして弱点みたいなのわかるかもしれない?
「迂闊に近づけなくなったか……。いよいよこれで手詰まりか?」
「逃げるにしてもあれを放置しておくわけにはいかん。他の場所に被害が出るだけだ。耐えていれば助けが来てくれるはずだから、それまで何とか……」
「来る、かな……」
アレンの励ましもこのどうしようもない状況下では何の気休めにもならない。不安だけが募っていく。
そしてついに煙を出し続けていた怪物が再び動き出した。放出をやめ、こちらに向き直った。
助けを待つよりもこいつを倒した方が速い。私はそう覚悟を決めた。
「一か八かかな? シーラ、援護お願い」
私は刀を構え、怪物に向かって走り出す。どうせ飛びかかってくるならこっちから向かってやる。
「しゃあねえな!」
私の意を汲んでくれたのだろう。そのあとをシーラが続いた。
怪物は口を大きく開けて、その巨体を動かす。大きな腕を振り上げて迫りくる矮小な人間を潰さんとしている。
私は眼で怪物との距離を測る。正確に刻む数字を確認しながら絶好の機会を待つ。そしてその瞬間がきた。
「シーラ!」
「あいよ」
その怪物の横からシーラは銃弾を撃ち込む。弾はあっけなく弾かれてしまうが、怪物の意識がわずかにシーラに移った。
「そこ!」
今だ! シーラに移った意識がこちらに戻る前に、私は全力で怪物に飛び込む。今更こちらに気づこうが遅い。私は怪物の口の中に飛び込み、そして刀を突きたてた。
これが私の狙い。私の予想が合っていれば!
「外は固くても中身はど……う……?」
だが言葉が続かない。勢いよく突っ込んだ私だが、突きつけられた現実に言葉を失ってしまったのだ。
「固っ!? 何これ……?」
見た目はどの生き物とも変わらない普通の口内にもかかわらず、その固さは私の刀を簡単に弾くほどのものだった。
「くそっ! ティアナ、退け!」
「っ!」
シーラの声にハッとする。そうだここは怪物の口の中。早く逃げなければ。
私はすぐに脱出する。幸い無事に抜け出せた。
「大丈夫か?」
「うん。けど、あいつ中も固い……。いけると思ったのに」
「元々の体質か、もしくは魔法で強化してるのか……」
またみんなと合流し、対策を練る。
「魔法だったら、キャンセラー持ってるとよかったんだけど……」
「ないものねだりしても仕方ない。今できることで何とかしないとダメだ」
怪物が飛びあがり、私たちの真上から落ちてくる。相変わらずの速さはこちらが上なので簡単に躱せるが、怪物の着地と同時に起きた衝撃で少し後方に押し出されてしまった。
「でもほんとにどうするの?」
「そもそもあれは一体何なんだ?」
皆黙ってしまう。誰もあの怪物の正体がわからなかった。
「それさえわかれば対策くらいは思いつくのだが……」
互いに膠着状態が続く。だけど避け続けるのにも体力はどんどん消費されていっている。実際、ここでただ助けを待ち続けるのには無理があるのだ。
怪物もそれを理解しているようで休まず私たちを追い立ててくる。どうやら向こうは疲れ知らずのようだ。
「くっ!」
ついに避けるのが間に合わなくなったカガリ。彼女を守るためにアレンは彼女の前に立ち、盾を構えた。
「っつ…………―――ぐあっ!」
しかしついに堪えきれずそのままうしろに突き飛ばされた。その衝撃は傍のカガリにも伝わり、彼女も吹き飛ばされる。
「きゃあ!」
地面に打ち付けられ、二人はそのまま倒れてしまう。
「カガリ! アレン!」
二人を助けようとシーラが近づく。
「だめ、シーラ!」
それは危険だ。私はシーラを止めようとしたが、間に合わない。
慌てて二人に駆け寄ろうとしたが、その隙をあの怪物が逃すはずがなかった。体当たりの要領でシーラに突っ込んできた。
「しまっ――!」
二人に気を取られ、回避が間に合わなかった。
「ぐはっ!」
横に弾き飛ばされ、地面に何度か打ち付けられたあと、動かなくなった。
「みんな……っ!」
一瞬でみんながやられてしまった。そして私もそんな3人に気を取られ、死角から来ていた攻撃に気付けなかった。
「かはっ………」
尻尾で体を殴られた。その衝撃、威力は意識を一瞬持っていかれるほどだった。私も吹き飛ばされ、地面に倒れこんだ。
「はぁはぁ……」
たった一撃受けただけで私たちの体はもう限界に近かった。
「みんな大丈夫か?」
「なんとか……」
答えるのも億劫だった。
「助けを待つのは失敗だったみたいだな……」
「だからって今更逃げるとか言わないでよ……。たぶん逃げ切れる体力ない」
「同感だ」
「……うん」
私の言葉にシーラたちも賛成した。
「……俺も無理だよ」
半ば諦めムードとなっていた。
そして怪物も私たちの動きが鈍くなってくるのに従って、その動きを緩めていった。まるで私たちを馬鹿にしているかのように。
「でも、ここで死ぬ気はないよね?」
「……当たり前だ。俺はこんなところであっさり死にたかねーよ」
減らず口が叩ける分、まだ動けはするみたいだ。
「とはいえあの怪物の知性はすごいな。完全に狩りの仕方を心得てるよ」
「見事に追い込まれたからねー」
私たちは体に鞭を打って立ち上がり、武器を持つ。せめてもの一矢、というわけではないが、こうでもしないと動けなくなってしまいそうになりそうなのだ
私は未だに《解析眼》を使っている。あの最初に見た違和感を拭えないでいるからだ。
再び私たちは怪物と対峙する。明らかに手負いの私たち、勝ち目はほぼ0といってもいい。だけど諦めない……!
「グルッ! ゴァアアア」
突然怪物が唸り声をあげた。低くくぐもった声。
「ゴアアアア! 哀レダナ! 人間風情ガソンナニモ抵抗シオッテ」
「「!?」」
怪物が言葉を発した。今までの獣のようなそれではなく。
「シカシ、コノ俺ヲ前ニシテココマデ生キ延ビルトハ驚イタゾ。俺ガ生キテ400年、久シブリノ骨ノアル人間ダ」
怪物は嬉しそうに笑っていた。突然の出来事に私たちはあっけに取られてしまった。
「ダガコレマデヨ。今マデノ戦イニ免ジテ、楽ニ殺シテヤロウ」
「いやいや何勝手に終わらそうとしてるの!? 私たちまだ降参してないし、するつもりないよ! こんなところで死ぬわけにもいかないんだから!」
怪物が勝手に話を進め始めたから慌てて私は割り込んだ。
「……マダ俺ニ勝テルトデモ思ッテルノカ?」
「当たり前よ! 私はね、まだまだすべきことがたくさんあるの。だから今死んだりなんかしない。むしろあんたが私たちに倒さるのよ!」
そう、私は勇者になる。だからこんなやつに負けるわけにはいかない。倒して、私の英雄譚の一つにしてやるんだから!
「ゴァッハッハッハッハー! 俺ヲ倒ス? ソンナボロボロナ体デカ!? 笑ワセテクレル。貴様ラ人間ガ竜デアルコノ俺ニ勝テルハズガアルカ」
そう言って怪物、いや竜は口を大きく開けた。そしてその奥から光が見えてきた。その瞬間、私の目が『それ』を捉えた。
「我ガ獄炎ノ息吹。ソレデ消シ炭にシテクレル!」
離れている私たちにすら伝わる熱気。あんなのまともに喰らえばひとたまりもないだろう。というか間違いなく死ぬ。
「……で、手はあるのか?」
息も絶え絶えにアレンが尋ねる。それに対して私は頷いた。
「ようやく『見えた』。ううん、今まさに『見えてる』。後はこれさえ凌げば……。一発勝負になるとは思うけどね」
「俺はティアナを信じてるから。俺たちはただお前を信じて死ぬ気でサポートするよ」
「……ありがと。でも死なないでね」
うん、伝わってくる。みんなの期待。信頼。おかげでボロボロな体だけどまだ少し動ける。
「ティアナ、あれが竜ならやっぱり魔法で体を強化してるわ。だから……その魔法さえ何とかすれば……いけるはず。あいつの攻撃、私が何とかするから」
未だ立てずに地面に座り込んでしまっていたカガリがよろよろと立ち上がった。そしてゆっくりと目を瞑り、深呼吸をする。私の眼にはカガリの周りに魔力が集まっているのが見えた。
「俺も準備いいぜ。特製の弾も装填済みだ。いつでもいける」
覚悟は決まった。もう私たちは負けない。勝って生き残るんだ。
「死ネェ!」
竜は口から真っ赤な炎を吐き出す。それは周りのものを焼き払ないながら私たちの元へまっすぐ進んでくる。
当たれば必死の炎。だけど私たちは逃げない。
「《|炎ノ聖楯(セイクリッド=フレイム)》!」
カガリが叫ぶ。私たちの前に巨大な炎の盾が現れた。
「炎竜デアル俺ニ炎デ対抗ダト!?」
竜が驚く。しかし何も驚くことではない。学校で習ったことだ。
『同属性の魔法は魔力の差が小さければ小さいほど、互いにぶつかることで相殺し、威力を減衰させてしまう』と。
あとはそう互いの魔力量の問題だ。向こうは知らないけど、カガリの魔力は誰よりも強い。ならば消滅はできずともある程度の対抗はできるはずだ。
次は私たち3人が動く。アレンの盾に隠れながら、炎の中を掻き進んでいく。まだかなり熱いが、カガリが相殺してくれたおかげで一瞬で消し炭になる温度ではなかった。
そして炎を抜けるとそこは竜とすぐそばの場所だった。私たちに気づいた竜は炎を吐くのをやめ、雄叫びをあげて腕を振り下ろしてくる。
「させるか!」
アレンが盾を構えて、攻撃を受け止めた。今まで何度か喰らったからわかるあの重量でアレンの足が地面に沈むが、必死に耐えていた。その隙に私とシーラがさらに接近していく。
しかしある程度進むと、シーラは走るのをやめた。そして竜の真横から顔面に銃を撃った。今まで同様弾丸は弾かれる。だが、数発は弾かれずに竜の体に張り付くように残っていた。
「特製マーカー弾だ。殺傷力は0だし、ひっつくだけだから弾けねえだろうな」
それから竜の彼への攻撃をかわし、アレンの所まで下がった。
そして私は走り続けていた。狙いはただ一つ。私の《解析眼》が映した魔力の流れ。それはある一点から流れていた。その魔力は竜の全身を覆っていた。初めは全く見えなかったが、あの炎を吹き出す時にようやく視認することができた。おそらく自身が炎の熱に耐えるために魔力を強めたからであろう。だけどおかげで弱点が見えた。唯一魔力が覆われていなかった箇所。そこならば刀が通るはず!
一方の竜はアレンとシーラの妨害のおかげで私に攻撃できないでいた。
「そこだぁぁぁぁ!」
狙うは竜の尻尾の付け根部分。おそらくであろう唯一の弱点。
私は刀を抜き、そこへ刀を突き立てた。
「ギャァァァァァァァァァァァアア!」
竜が雄叫びを上げた。いやどちらかといえば悲鳴に近い。
それもそのはず。私の刀は竜の体に深々と突き刺さっていた。赤黒い液体がじわじわとこぼれだしている。
「貴様ァ! コノ俺ニ傷ヲ、傷ヲツケタナァァ!」
怒り狂った竜は二人の妨害を無理やり抜けて私に襲い掛かってきた。
「許サン! 八ツ裂キニシテヤルゥゥ!」
口を開け、再び炎を吐こうとする。八つ裂きにするとか言ってるくせになんで炎を吐こうとするのかはわからない。
だけど、こいつは甘く見てる。私の仲間を。
「グォォ!?」
竜はまた驚きの声をあげようとしたけど、できなかった。
竜の口は無理やり閉じられていた。アレンが竜の口に剣を突き刺すことで。完全に貫通はできなかったが、攻撃の妨害をするには十分すぎた。
「アレン、ありがとう!」
しかし今度は竜が両腕で私を掴もうとする。
「甘いよ! ――《位相転換》!」
私は唱える。そして目の前の景色が一瞬で変わった。迫りくる竜の腕からここは竜の顔の上。そしてさっきまで私がいたところにシーラがずっと前に竜に向けて撃ったマーカー弾が浮いていた。
私の魔力を与えた物と自分の位置を入れ替える魔法。事前にシーラの銃弾に仕込んでいたのだが、まさかこんな早くから役に立つとは思わなかった。
「私はティアナ! 私はおまえを倒して勇者になるんだ!」
これで遮るものは何もない。私は刀を構え。
「てやぁぁぁああ!」
竜の首に刀を突き立てる。そしてそのまま刀に全体重をかけて一気に振り下ろした。
「ゴオオァァァァァアアア!??」
竜は後ろ足で立ち上がり、空に向かった咆哮した。首が半分以上ちぎれかけ、そこから大量の血が流れだしていた。さらに炎が暴発し、しかもそれを守る魔法もなくなったためか体中からプスプスと黒い煙を吹き出させていた。
「人間ガァ! 人間如キガァ! クソォォォォ! コノ炎竜様ガコンナトコロデ……コンナトコロデェェェーーーー!」
その恨み言を最期に竜の体は一気に燃え上がった。すぐに離れていた私たちはただただその光景を見るだけだった。
やがて炎は収まり、真っ黒になってしまった竜はその場に崩れ落ち、言葉を発することも動くこともなかった。
「勝った……のか?」
シーラがその場に座り込んだ。
「マジかよ……マジで勝ったのか。つーか、俺たちみんな生きてるんだぜ」
「ああ。よかった。ほんとによかったよ。みんな無事で。だけど……」
安堵の息をもらしたアレンだが、ふらりと体をぐらつかせるとそのまま地面に
倒れてしまった。
「アレン!?」
私は慌てて彼に駆け寄る。だけど、彼は「大丈夫」と笑っていた。
「安心したら気が抜けてしまったよ。ごめん、これ以上は動けないや」
よかった。無事だった。カガリもさっきの魔法で全魔力を使い切ったみたいで地面に横たわっていた。シーラが確認したら、気を失ってるだけのようだ。
みんな無事。その事実に私も安心すると、不意に頭がボーッとしてきた。私も体力の限界のようだった。
「私も、もう無理っぽい。シーラ、後は頼んだ」
あーシーラが何か言ってる。でももう聞こえない。それくらい私の意識はあっという間に沈んでいってしまった。
なんとか1話に収めてみました……短いかな
?