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タガタメ  作者: ゆきうさぎ
少女は歩みを止めない
38/43

共闘そして強襲

「大丈夫かーい?」


 吹きすさぶ雪の中、少し離れたところでクロードさんの声が聞こえる。

 山に入ってから数時間。クロードさんの手引きで山を進んでいく。なるべく最短で目星をつけた場所へ向かうためかなり強行突破している。道というより岩壁をよじ登ることがほとんどで身軽な私とシーラはともかく、重装備のアレンと運動が苦手なカガリはかなり苦戦していた。とはいえアレンはさすがというか遅れずについていけている。


「はい、姿は追ってるので大丈夫です。そのまま進んでてください」


 遅れているカガリに私は合わせているため、お互いの距離がだいぶ開いてしまった。節約したいところだが、さすがに遭難して死ぬよりかはマシなので《解析眼アナライズ》を使って、クロードさんの位置を補足する。幸いちゃんと魔力を持っているのであとは足元にさえ気を付ければ問題なく追える。


「カガリ、どう? いける?」

「うん……どうにか。雪を歩くのがね。やっぱり慣れないや」


 なんとか元気を取り繕ってる感じがする。このまま一緒に行くのもいいけど、あんまり距離を離すのものなぁ。


「仕方ないなぁ」


 私はカガリの腕をつかむ。そしてこちらに引っ張ると、彼女に背を向け、倒れそうになる彼女を背中で受け止め、おんぶした。


「ティアナ?」

「敵が来たら言うからその時はお願い」


 それだけ言って、雪の中を全力で駆ける。《解析眼》を頼りにクロードさんの位置を把握し、滑ったり落ちたりしないように細心の注意を払う。

 いつものように全力で走れないので、互いの距離がなかなか埋まらない。雪もだんだんと強くなり、視界はかなり不安定だった。


「ティアナ大丈夫?」

「へーきへーき。……っと」


 私は一度足を止める。クロードさんたちはもう少し先にいるみたいだけど……別のものを補足した。


「カガリ、右斜め、えーっと15mくらい先に攻撃を」

「え? わ、わかった。――《雷撃スパーク》」

 

ひとまず私の指示通りにカガリは魔法を放ってくれた。雷の塊は一直線に私が行った場所に飛んでいき、すぐに「ぎゃ」という低い悲鳴が聞こえた。


「もしかして敵?」

「うん。数は……今の入れて5かな。斥候みたいだね」


 カガリを下ろして、私は刀を抜く。敵の魔力量はそんなに多くない。大したことのないかもしくは肉体でモノを言わせるかのどっちかだ。斥候なら前者かな。


「おっと、その前に」


 一度武器を下ろし、事前にクロードさんに渡されていたものをとる。はぐれた時に敵と遭遇したら使うよう言われたので早速使うことに。思い切り地面に投げつける


 ビーーーー!


「ひゃぁ!?」


 地面についたと同時にさく裂し大きな音を出した。さらに煙が立ち込める。


「耳が……」


 かなり大きい音だったから耳が痛い。思わず耳を抑えていたら眼のほうに反応があった。


「来る!」


 片耳だけ外して刀を構える。敵との距離は確実に縮まる。しかし雪と今起きた霧でまだ見えない。


「シャアア!」


 左から一体現れた。狼のようなしかしどことなく人型のそれは右手を振りあげ、とびかかった。向こうは虚をついたつもりかもしれないが、私にはバレバレだった。このくらい余裕で対応できる。そう思い、迎撃しようとした瞬間、私の手は止まった。


「え、なにこれ」


 思わず絶句する。カガリもだった。

 私を襲おうとした魔族は私に届くその前で突然血しぶきを上げた。まるで細かく切り刻まれたかのように体中から激しく血をまき散らし、私に届くことなく地面に落ちた

 その光景に唖然とする私たち。相手方も同じようで動きが止まった。


「今のうちに……」


 敵が動こうとしないうちにこちらから仕掛ける。耳ももう大丈夫なので改めて攻めようとする。


「ティアナ、動かないで!」


 カガリが声を上げて制止した。


「わわっ!」


 スタートを切ろうとした体を慌てて止める。前のめりになるものの何とか大きく動かずにすんだ。


「どうしたのカガリ?」

「たぶんこの煙、いや霧のせいだよ」

「何が?」

「今敵がやられたのだよ。煙かと思ったけど霧だ。しかもこの寒さで凍らないなんておかしい。たぶん誰かの……クロードさんの魔法だと思う」

「クロードさんの? でも魔力は少しも見えないんだけどな……」


 《解析眼》は何も反応しない。カガリと他敵の4体だけだった。


「とにかく、この霧には迂闊に触らないほうがいいかも。クロードさんが来るのを待って……」


 カガリが言い終える前に残った魔族たちが雄たけびをあげた。かたき討ちなのかもしれない。というか逃げないあたり斥候でもなく、単なる野良なのかな。

 相手は私たちが動かないことを好機と思ったのか、まとめてとびかかってきた。

 グシャッ

 私の耳には確かにそう聞こえた。敵は私たちの前で先ほどの一体同様に切り刻まれ、絶命した。


「………」


 私が何かするまでもなく謎の現象によって敵は殲滅された。これがなんであるかわからない以上、不用意には動けない。


「完全に置いていかれたかな」

「かもね。見えない?」

「うん。このまま大人しく待とうか」

「そうだね。動くわけにもいかないから……《篝火トーチ》」


 カガリが右手をかざし唱える。手のひらの上に小さな炎が現れた。この吹雪の中でも消えない魔法の炎。これで少し暖を取ろうというわけだ。


「救出が先か。凍死が先か……」

「物騒なこと言わないで!」




「いやー、まさかここまでいるとはね」


 アレンとシーラは視界の悪い中、近づいてくる魔族をなんとか倒していた。

 ティアナたちが見えなくなり、それからすぐに大きな音が鳴った。クロードさんがひとまず合流しようといったところで突如大量の魔族に襲われた。慣れない環境での戦いは非常に苦しく、シーラにいたっては銃が凍ってまともに使えなかった。


「君たち大丈夫かい?」


 そんな中、クロードは身軽に戦っていた。近づいてくる敵を的確に相手していく。飛び道具や魔法もぎりぎりにならないと見えないにもかかわらず容易くかわしていた。


「はい、自分の身を守る程度なら。それよりもティアナたちは大丈夫なんですか?」

「さっき音がしたでしょ? あれ私特製のトラップだから大丈夫よ。彼女たちなら仕組みにもすぐ気づくでしょうね。それよりも!」


 クロードは持っている武器を大きく横に薙ぎ、彼女に迫っていた2体の魔族を一撃で切り伏せた。ティアナが使っているものよりも一回り以上長く大きい刀を彼女は木の棒のように軽々と振り回している。


「ああくそ! 銃が使えないからやりづらい!」


 遠距離戦を主とするシーラにとって銃が使えないのは致命的であった。それでももしもの時のために所持していたナイフと素手で魔族の攻撃を凌いでいた。アレンは自分への攻撃を盾で捌きながら、シーラの取りこぼしを仕留めていた。


「やっぱり親玉を仕留めないとだめなのか……。このままじゃ埒が明かない」

「うーむ。仕方ない。アレン君、シーラ君。下りるよ」

「「えっ?」」


 驚く二人を無視してクロードは近くにいた魔族を一掃し、二人の元へ近づいた。


「《紅霧ワープミスト》」


 そうつぶやいた彼女の周りに紅い霧が発生する。この寒さの中、凍ることなく霧は彼女をそしてそばにいた二人を包む。


「動かないでね」


 そう釘をさした瞬間、景色が暗転した。




「何事!?」


 身を寄せ合い、暖を取っていた二人だが、突如周囲を漂っていた霧が一か所に集まりだした。そして霧が晴れるとそこにはクロードさんとアレン、シーラがいた。


「えっ? えっ!?」

「お、大人しくいてくれたね。さすがといったところかな」


 アレンとシーラも困惑していて、唯一クロードさんだけが満足そうに笑みを浮かべていた。


「さて、と。仕込みは済ませた。少し休憩してから行こうか」

「クロードさん! いろいろ説明してください!」

「あーごめんごめん。休みながら説明するから、ね?」


 私たちは近くの岩陰に入った。寒さを防ぐことはできないが、雪は降りこんでこなかった。

 けが人はいなかったので、持参した携帯食を食べながら、カガリの魔法で暖をとり、ひとまず一息ついた。


「ケガはがなくて一安心だね。それじゃ今後のことについて話そうか……の前に」


 クロードさんは私たちの方を見て、苦笑する。


「アレン君たちが見た霧、それからティアナちゃんたちが見た霧、どちらも私の魔法さ」

「やっぱり……」


 カガリは得心したようにうなずく。


「私は『霧属性』の魔法を得意としていてね。アレン君たちに見せたのは《紅霧ワープミスト》という霧から霧を渡る転移魔法。有効距離がそこまで長くないのが難点かな。で、ティアナちゃんたちに渡した玉に仕込んでいたのが《斬霧ペティーミスト》といって細かい霧状の刃を散らばせる魔法。敵味方関係なく巻き込んじゃうから、二人がじっとしてくれてよかったよ」

「カガリが気づかなかったらやばかったですけどね」


 『霧魔法』か……初めて聞いたな。私の『空魔法』みたいに珍しいのかな。後でカガリにでも聞いてみるか。

 とはいえ、前もって言ってほしかったなぁ。特に《斬霧》だっけ? 下手したら大惨事になってたから渡してくれた時に言ってもいいのに……。


「よし、みんな暖まったね。これからについて説明するよ」

「そういえばさっき仕込みがどうとか……」

「そうそう。ここに来るときに生き残りの敵に霧を纏わせておいた。今は離れているから無理だけど、ある程度近づけばすぐにそこへ飛べる。まずはそのあたりまでゆっくり進みましょう。あとは運よく親玉のところに行けたらいいんだけど……」


 大胆すぎる作戦だ。というか作戦でも策でもない強行突破だよこれ。私でももうちょっと考えて決めるのに……。


「もし見つからなかったら……?」

「そりゃ虱潰しにまた探すよ。適当に敵を泳がせて後を追えばいずれはたどり着ける。簡単でしょ?」

「…………」


 隣のカガリが耳打ちしてきた。


(ティアナ……なんかあの人に似てない?)

(あーそれ私も思った。どこの国にも一人はいるんだね……)

(今はそのおかげで助かってるけど、普段だと……)

(多分それ以上は言っちゃダメなやつだ)


 どこかの知り合い並みの脳筋思考に私たちは苦笑するしかなかった。




 それからしばらく休んだのち、改めて揃って行動することにした。

 現在地は山の中腹あたりらしく頂上まで登るにはあと数時間はかかる。頂上に巣を作ることはないだろうから途中にあるとクロードさんは言っていたけど、この山遠くから見てもかなり大きかったよな……。

 虱潰しで最後まで探す羽目になった時のことを想像してぞっとする。この寒さの中を歩き回るのだけは勘弁願いたい。私も『眼』をフル活用して魔族の気配を確かめる。

改めて自分のこの魔法は便利だなと思う。こんなにも視界が悪いのに魔力さえあれば存在を感知できるのだから。まあ、岩なんかの遮蔽物には気づけないから気をつけないといけないのだけど。

 休憩を終わらせて再び私たちは山を登りだした。カガリはともかく私たち3人は雪山の歩き方をそれなりに理解してきたため最初のころに比べるとだいぶ歩きやすい。カガリは相変わらずなので、もう私がおんぶすることにした。

 道中、魔族に会うことは一度もなく、気配すら感じることがなかった。


「おかしいね」


 クロードさんはぽつりとつぶやいた。


「何がですか?」

「さっき急に大量の魔族に襲われたというのに今度は全くだ。山もだいぶ登ってるから会わない方がおかしいんだけどね……」

「これが向こうの策だという可能性はないのですか?」

「どうだろう。話を聞いた限りではそこまで知能が高そうに思えないけど……。でも待ち伏せなら、それに適した場所は大体過ぎたよ」

「みんな巣穴に引き籠ったのかもしれないですね」

「それなら一網打尽できて楽になるわね」


 それからさらに登る。途中休憩を挟みながら頂上に向かうが、終始魔族と遭遇することはなかった。


「………きた」


 クロードさんがそう言ったのは、山を8割くらい登った時のことだった。


「みんな集まって」


 ようやく反応があったのかな。私たちは急いでクロードさんのそばに近づく。


「着いたらすぐに戦闘になるかもしれないから準備は怠らないように。それじゃいくよ」


 ごくりと息をのむ。カガリにはおりてもらい、刀の鞘を握る。


「それじゃあいくよ。《紅霧》」


 紅い霧が私たちの周囲を漂い、やがて視界全てを覆いつくす。それから数秒後、ふわりと浮いた感覚が起こり、すぐにストンと落ちた。

 時間にしておよそ10秒ほどだろうか。霧が晴れ、そこには……




「なに………これ」


 目の前にあったのは『赤』だった。

 山腹のどこかの洞窟だとは思うが、地面、壁一面が真っ赤だった。しかも、地面には何かが積みあがってもいる。


「どうなってんだこりゃあ」


 こっちが聞きたいくらいだ。だけど、目の前の『これ』を見たらそうも言いたくなるのはわかる。


「これ全部死んでるよね?」


 そう目の前に積みあがっていたのは魔族。しかも死んでいた。それは私の『眼』が積みあがる魔族たちに何の反応を示さないことが証明していた。死霊系の魔族でもない限り、死ぬと魔力反応が消える。だからこの魔族たちはもう……。


「私が霧をつけたのもここにいるね。しかし一体誰が……」


 私たちと同業者かな。だとすれば向こうに先を越されたことになる。ちょっとショックだな。


「みんなおいで」


 なんてことを考えているといつの間にか奥の方へ進んでいたクロードさんに呼ばれた。彼女のもとへ行くまでにも魔族の死体がいくつも転がっていて、かなりの惨状だった。そうしてクロードさんのところへ行くと、そこには一体の魔族がいた。やはり既に死んでいるが、一体どうしたのだろうか。


「これ見て」


 死体をまじまじと見るのは気が引けるけど……。言われたとおりに注意深く観察してみる。


「………あっ」


 カガリが何かに気づいた。続いてシーラも気づいたようで怪訝そうな表情をした。


「どういうこと?」


 よくわからない。これをやった誰かの痕跡でも残っているのかな。……そういうのは頭の回転が速いみんなに任せるか。


「あ、私ちょっとあれ探すね」


 タントさんに頼まれていた青い玉。もしかしたら魔族が隠し持ってるかも。ということで洞窟内を適当に探す。もしかしたら魔力のあるものかもしれないので《解析眼》もしっかり使う。

 洞窟内をぐるりと見渡し、カガリ達以外に魔力の反応がないか確かめる。それなりの広さの洞窟だが、端から端までが見えるほどではある。だけど、


「ま、さすがにそう都合よく見つからないよね……」 


 反応はなし。うーん、どんなのなんだろうな、大きさもわからないし。実ほ情報がほとんどないのでは……。


「あなたたちが探しているのはこれでしょ?」


「!!?」


 突然隣から声をかけられた。はっとその場を退いて振り向くと、そこには見知らぬ女性が立っていた。白いシャツに黒いズボンとスラリとした大人っぽい見た目に合う格好だが、およそこの雪山にはふさわしくない服装でもあった。しかしこの人は少しも寒そうな素振りは見せないでいた。


「えっと、あの……」


 女性は私に手を差し出していた。その手の平には青色の玉が乗っていた。


「これ、探してるんでしょ?」


 優しい口調だが、表情はどことなく暗い。感情があまり見えない。でも私はそんなことよりも意味の分からない出来事にただただ困惑していた。


 どうして私たちがその青い宝玉を探していることを知っているのか。

 どうしてこれだけの魔力を持っておきながら、ここまで近づかれるまで私の眼に一切の反応がなかったのか。


 なおも表情を変えない女性。この異常事態に気づいたほかのみんなもこちらにやってくる。


「ティアナー? どうしたの……えーっとどなたでしょうか?」

「手に持ってるそれって、まさかあなたがここの魔族たちをやったのですか?」

「え、なんでわかるの?」


 確かにこの雰囲気、すごく強そうな感じがするけど……。


「さっき見た親玉らしきやつ、体に丸いくぼみがあったんだ。探してた宝玉はこいつが持ってたんだろうって。で、その人が持ってる玉と大きさが似てるからもしかしてと思って」


 私は女の人を見た。薄い、白に近い水色の髪をたなびかせ、静かに立っている。


「……ええ。ここにいたのはみんな私が始末した。邪魔されたくなかったから」


 邪魔? なんのことだろう。


「私はアイザ。訳あってここに来たのだけど、これには用がないの」


 アイザさんは名乗り、それから私を軽く一瞥した後、順にアレン、シーラ、カガリと見ていく。そして手に持っていた宝玉をアレンに向けて放り投げた。慌てて受け取ろうとするアレン。そのわずかな間に私は2つのものが動くのに遅れて気づいた。

 気づいた時は金属と金属がぶつかり合い、大きな音を立てていた。


「いきなり斬りかかるとはどういうつもりかい?」

「………」


 アイザさんはいつの間にか手に刀を握っており、振り下ろしていた。一方はクロードさんがそれを受け止めている。その刃先はアレンに向けられていた。


「みんな下がれ。それから武器を! こいつは敵だ」


 クロードさんは叫ぶ。その声に我に返った私はアイザさんから一度距離を取り、刀を抜いた。《解析眼》も改めて発動しなおして臨戦態勢をとる。


「一体何者なんだい?」

「………やはりあなたが邪魔するか……。でも今回は違う」

「っ! クロードさん危ない!」


 私はものすごいスピードで近づいてくる何かを感知して叫ぶ。動こうにも速すぎて間に合わない。


「くっ!?」


 咄嗟にクロードさんはそれを武器で防ぐ。しかしその隙を敵は見逃さなかった。


「邪魔者にはどいてもらう」


 一瞬の出来事だった。すぐに防御に徹しようとしたクロードさんよりも速く、正確に彼女の胸を貫いた。


「クロードさん!?」

「みんな……逃げ、るん………だ」


 口から血を吐き、後ろに倒れる。明らかに致命傷だ。生きているかもわからない。すぐに助けに行かないと……。すぐに駆け寄ろうと私は動き出した。


「あなたも邪魔」


 敵は私の方を振り向くとその場で思いっきり刀を振るった。同時に私の目の前に壁が現れ、勢いよくぶつかってしまった。


「ぐぁ……!?」


 なんで、壁が? ……違う。これは……氷?


「アレン! シーラ! カガリ!」


 氷の壁は私の目の前で洞窟の奥を塞ぎ、完全に分断されてしまった。かなり分厚いのか向こう側の音が何も聞こえないし、見えない。


「このぉ! 壊れろ!」


 私は氷の壁を蹴ったり、斬ったりする。しかし、氷が欠けることすらなかった。


「みんな……。なんで……私だけ……」


 それでも私は壁を壊そうと何としてでも向こうへ行こうとする。



「あの子はね、君以外の子たちに用があって来たんだよ」


 また知らない声。振り返るとそこには金髪の女性が立っていた。私を見て、楽しそうに笑っている。


「誰……さっきの人の仲間?」

「そうだよ。私はアイザの同僚。年季で言えば私の方が上だけどねー」


 どこまでも突き抜けた明るい声。そこに一切の裏が感じられない。だけど私にはわかる。この人はやばい。ただものではない。


「君が噂のティアナちゃんか。聞いたよグレンに勝ったってね」


 グレン、それは以前戦った魔族、鬼。『炎獄』の名を持つ『獄王』。死闘の末、奇跡の勝利をもぎ取った相手。

 だけどなんでその名が今。


「あいつもね、私の同僚なの」


あのグレンと同僚……? まさか、そんな……


「それ……って……」

「ふふ、先に言うね。これは敵討ちでも私怨でもないの。本来は私の出る幕でもないらしいんだけど、ここに来たのは純粋な興味。君という存在への関心からの行動だ」


 もう一度彼女は笑う。私はその笑みに危機を感じ、咄嗟にその場を離れる。


「いい反応だ」


 大きな破裂音と共に私がいた場所が爆発する。氷の壁は傷一つなかったが、地面がえぐられていた。


「さて、武器を構えなさい。お話はここまで。これ以上の迷いや油断は死に繋がるよ」


 女の人の周りで光が弾ける。いやあれは単なる光じゃない。魔力がこもった光、それも雷だ。クロードさんを襲った光速の何かも、さっきのも雷だったのか。


「行くよ、ティアナちゃん。私はイシュラ。『獄王』が一人、『雷獄』のイシュラ。安心しなさい。半殺しにするだけだから」

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