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タガタメ  作者: ゆきうさぎ
少女は歩みを止めない
36/43

未来へ

声色自体はいつもと変わらないが、壁に寄りかかり、顔色もよくなかった。


「ティアナ?起きて大丈夫なの?」

「うん。ちょっと体が痛いくらい。うまく受け身取れてなかったのかな。でも特に痕も残ってないから安心して」


さて、とティアナはゆっくり3人の元へ歩み寄る。


「今のこの状況はわかるよ。だから、これからのことは私自身が話さないといけないかな。それにいつ次がくるかわからないし」


適当な椅子に座ると彼女は静かに頭を下げた。


「ごめんね。みんなには迷惑かけちゃった。……いつも迷惑かけてるけど、今回のはやりすぎた……。先にしっかり謝らせてくれるかな……」


彼女にしては珍しく殊勝な態度だった。悪いことをしても笑ってごまかすところを今は違う。今までに見たことのないくらい真剣なものである。

そんな彼女に対してアレンたちはことの重要性を改めて感じる。小さく頷き、彼女の言葉を促した。


「ありがと。……みんな、ほんとうにごめんなさい」


深々と頭を下げた。誰も何も言わない。フロア中が沈黙に包まれる。彼女はまだ頭を下げたままだった。


「…………」

「……もう大丈夫だよ」


アレンが声をかける。ティアナはゆっくりと頭をあげ、3人を見た。


「ティアナに迷惑をかけられることには昔から慣れっこだからさ。きちんと説明してさえくれればこれ以上咎めたりはしない。それにーー」

「それに珍しくお前がそんなしおらしい態度をしてるのが珍しいからな」

「兄さん!」


アレンを遮り、シーラが軽口を叩く。それに対してティアナはいつものように怒ることはなく、苦笑すると


「みんな、ありがとう」


静かにそう言った。



「で、結局お前はあの時どうしたんだ?」


それから少し落ち着いて改めてティアナの話を聞くことになった。


「2人はカガリから10年前のことは聞いたよね?」

「………ああ」

「それならその辺りは省こうか」


そう言って一度言葉を切る。大きく息を吸い、短く吐いた。


「そうだね、私はカガリを『行きすぎた感情移入』だと思ってる。過剰なまでの他者への庇護心から起こる感情の同化、そして自傷。カガリにも直接言ったことあるけど、弱さゆえのトラウマってのだね。で、私はその逆。自分で言うのもなんだけど、強さゆえのトラウマなんだ」


強さゆえのトラウマ。カガリは周りが傷つき、守れない自分に耐えられず自傷行為を繰り返していた。ではティアナは一体……。


「『行きすぎた正義』というのが一番近いかな。私は不条理を許せない。罪なき人が理不尽に虐げられる様を見ることに耐えられない。山賊や犯罪者のような人たちが自分の欲のために他人を傷つけるなんてもってのほか。見てると段々と心が苦しくなって……」

「今回やあの時みたいに暴走してしまうってことか」

「うん。学校にいた時もいじめをしてた上級生を相手に乱闘騒ぎ起こしてたよね。あれも同じ理由。虐げる人を見ると抑えが効かなくなるの」


自嘲でもなんでもなく、ティアナは自分の全てを吐露していく。

アレンは思った。確かにティアナとカガリは正反対だと。カガリの場合、その矛先は自分へ向かう。一方のティアナは全て相手への攻撃となっている。どちらも不味いが、ティアナの方が周囲に害が及ぶ分たちが悪い。 それを2人は理解しているようだった。

だからアレンが聞くべきことはただ1つであった。


「2人とも、事情はわかった。だけど、聞かせてくれ、どうして今まで誰にも言わなかったんだ?」

「それは……」

「別に俺たちにってわけじゃない。信頼できる別の人に相談できたはずだ。どうして黙り続けたんだ…」


カガリは言い淀む。アレンの言う通りだった。ティアナの母親、学校の教師。相談できる大人はたくさんいた。しかし2人は誰にも相談することはしなかった。


「周りに言えばもう少しは楽になれたんじゃ……」

「…………ねえアレン」


アレンの問いにティアナは答えた。決して怒りも悲しみも後悔もなく、毅然とした表情で彼女は皆を見た。


「私思うの。弱きを傷つける人を許さずにこうやって悪い人たちを殺してしまった私はどうなんだって。確かに弱い立場の人たちを守ることはできてるけど、私も自分より弱い人を傷つけてるだけじゃないかって。私も同類じゃないのかって」


真剣な眼差しでアレンを見る。


「そう思うと言えないの。自分までそういう目で見られるんじゃないかって。怖くて……さ」


今度は少しだけ目を逸らし、しかし声色はそのままでティアナは続けた。


「だから私とカガリの2人の秘密にしてたの。そうやって押し殺してきた。私の方は何回か抑えがきかずにみんなを危ない目に遭わせてしまったけど……」




良くないとわかっていても、オズワルドは彼らの会話をこっそりと盗み聞きしていた。初めて会った時から感じてきた不安。その一端が明らかになったのだ。

ランドルフからは見守ってほしいと頼まれていた。もちろん頼まれずともオズワルドはそうするつもりではあった。かつての自分たちを重ねてしまう。同じ過ちは犯して欲しくなかったのだ。


「……どれだけ強くても、どんなに強大な敵を倒せても、所詮は16.7の子供。心は未熟なんだよね。頼ることもうまくできず、抱え込んでしまう。そうしてやがてほんとうに壊れてしまう。……君たちは幸運だよ。今それを知ることができたのだからさ」


さて、今回の件についてどう誤魔化そうか。オズワルドは盗み聞きを続けながらこれからのことについて考え始めた。




ティアナの言葉を最後にまた沈黙が4人を包む。ティアナは待っていた。みんなの言葉を。自分は言うべきことを言った。あとは待つだけ。なにを言われても覚悟はできていた。


「………」


そうして最初に動いたのはやはりアレンであった。彼は立ち上がり、ティアナの前に立つ。


「ティアナ」


彼女の名を呼ぶ。ティアナはアレンを見上げた。


「一発だけだ」

「へっ?」


アレンは右手でティアナの左頬を全力でひっぱたいた。

身構えていなかった彼女はその勢いのまま床に倒れた。


「お、おいアレン」


あまりに唐突な出来事にシーラとカガリは戸惑うことしかできなかった。当のアレンは叩いた右手を軽く振り、それからその手をティアナに差し出した。


「俺たちが2人の抱えていたものに気づけなかったことと黙ってたことでお前が今までに迷惑をかけたかとを差し引いた結果だ。そしてこれも言わせてくれ」


アレンは小さくため息をつき、そして笑った。いつもの彼の笑みだった。


「俺たちは4人で一人前だ。未熟で当然なんだ。だから困ったら頼ってくれ。あらゆる手を尽くして助けるからさ」

「………アレン」

「なにもティアナに限ったことじゃない。カガリもシーラもそして俺もだ。足りないところは互いが補い合うんだ。1人でできなくても4人ならできるかもしれないだろ?」


アレンがそう言えると、床にへたり込んでいたティアナはふふ、と小さく笑った。


「もっと早く言っておけばよかったのかもね。ほんとアレンらしいんだから」


アレンの手を掴み立ち上がる。埃を払い、もう一度皆と向き合う。


「ありがとう。私はもう抱え込まない。臆面なく皆を頼るから。だから皆も私を頼りにしてね」

「はぁ……これでこの話は終わりでいいんだな。ったく、迷惑かけさせやがって。カガリもお前もだぞ。俺は兄貴なんだからそんな隠し事するな」

「うん……ありがとう兄さん。それにアレンくんも。私も頑張るね」



話が落ち着き、4人はしばらくそのまま座ったままのんびりとしていた。カガリは飲み物をいれ、ティアナは改めて傷がないか確かめていた。

そうしてある程度時間が経った頃、アレンが話を切り出した。


「さて、今回のこと、というかはさっきティアナがやらかしたことだが……突然のことだったから衛兵の人たちにあの場を預けてしまったけど、どうしようか」

「やっぱり私出頭……?」

「大方そうだろうな。いくら相手が犯罪者とはいえやりすぎだったからな。とりあえずオズさんにでも相談を……」



「ああ、その必要はないよ」


計ったかのようなタイミングでオズワルドは会話に加わった。


「このことについてはもうランドと話をつけた。悪いけど君たちにはすぐにここを発ってもらうよ」


そう言って、4人がいるテーブルに一枚の紙を置いた。


「この国はね罪の贖いについて3つの方法がある。一つは罰金。軽い罪はこれだ。一つは禁錮。重い罪になるとこれだ。罰金と併用され、最悪肉体的刑罰も加わる。そして3つ目が労役だ。前の2つでうまく処理できないことに対して課される特例だ。ティアナちゃん、君はあくまでも罪人を捕まえるために過剰な攻撃を行った。これにより重罰は避けられた。だけど軽罰ではない。だから君には労役をしてもらう」


オズワルドが置いた紙はいつも見る依頼書であった。


「えっと、依頼をこなせということですか?」

「ああ。これはこの国から出た依頼でね。労役にぴったりだ。ちなみに報酬はでない。これはあくまでも君の犯した罪に対する罰だからね。悪いけど他の3人も、だ。監督不届きというやつさ」


諦めろと言わんばかりにオズワルドは楽しそうな笑みを浮かべた。その笑顔に4人の表情は引き攣るだけだった。


「……みんなごめんね」

「困った時はお互い様だよ……。ね?」

今回本当は一つにまとめようと思いましたが、色々と考えて二つに分けました。

長さ的には1話分なんですけどね…

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