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タガタメ  作者: ゆきうさぎ
少女は歩みを止めない
32/43

暗闇探索

新年初投稿。今年もよろしくお願いします。

「ここが最初の人たちが入ったところ?」

「ああ。で、早速入るわけだが、準備はいいか?」

「ああ、いつでもいける」


 翌日、私たちは揃って地下水路へと向かった。犠牲になった人たちが入ったとされる入り口は中心地から少し離れた路地裏にあった。地面に穴が開けられ、鉄の蓋がされている。周囲には人気がなく、少々鬱屈としていた。

 万が一のためにオズさんとカサブランカさんにはそれぞれ場所を伝えている。何もないとは思うけど……。


「基本は俺とカガリで索敵。ティアナも《解析眼(アナライズ)》頼んだぞ。で、アレンが先頭だ」

「了解!」


 シーラが蓋をどかす。中は真っ暗で底が見えない。下りるための梯子は見えるけど、少し先しか見えない。


「灯り使うか?」

「片手がふさがると危ない。魔法を使った方がいいかもな」

「じゃあ私が使うね。兄さん、索敵魔法お願い」


 カガリが魔法で灯りをつけた。今は外が明るいのでよく見えないけど。


「よし、いくぞ」


 アレンを先頭にカガリ、シーラ、私の順番で中に入っていく。



 中は真っ暗でちょっと臭い。暗さに関してはカガリの魔法で何とかなったけど、全体的にじめっとしてる。入ってすぐにシーラが索敵魔法を私は《解析眼》を使った。

 今のところ反応は3つ。私とシーラとカガリ。アレンは魔力がないので反応しない。他に反応はなかった。


「シーラどう?」

「生体反応はないな。鼠一匹もいない」

「そっか。じゃ、どう進む?」

「死体が見つかった場所まで進もう。何もないからといって油断するなよ?」


 アレンの言葉通りに進んでいく。地下水路は真ん中に水が流れていて左右は人が通れるようになっている。私たちはその側道を進んでいくことにした。側道は少し濡れているが滑るほどではなかった。


「しかし何がいるんだ……?」


 反応が全くない。動物すらもいないみたいだ。だけど、依頼には上がっている。実際に犠牲者も出ている。

 シーラの声がただ虚しく水路内を木霊していく。


「ねえ、シーラ」

「ああ、なんだ?」


 周囲への警戒を怠らないようにしながらシーラに声をかける。


「水路が張り巡らされているのはわかるけど、どうしてここまで複雑化してるの? いろんなところと繋がってるからうまく水が流れなさそうだけど……」


 地図を見た時から思っていた。あまり馴染みがないので網目のようになっている水路の構造が理解できなかった。


「……誰のためだと思うか?」

「誰? 何のじゃなくて?」

「ああ」


 誰、か……。市民? 別に皆に行き届くようにすれば問題ないはず。もっと特定の個人? やっぱり先に目的を考えよう。誰かが使う。そのために複雑化した。複雑化すると通る時に地図がないと迷う……。


「敵が地下から攻めてきても簡単には侵攻されないね」

「まあそうだな。じゃあが逆はどうだ?」

「……ああ!」


 そういうことか!


「地下から逃げやすくするためなんだね。ということはお城の人たちのためか!」

「おそらくな。攻めるに難く、逃げるに易し。じゃなきゃこんな不便な構造しねえよ。無駄でしかない。洪水対策ならどこかに水を溜める場所作ればいいしな」


 さすが首都といったところかな? 意味のある設計をしてるんだ……。


「しっかし、もうすぐ目的の場所に着くぞ? ここまで何もないのは逆におかしくないか?」

「《隠密(ステルス)》の可能性は?」

「それだったら私がわかるよ。気配は隠せても魔力の痕跡は消せないから」


 魔力の痕跡を消せる術があれば別だけど……。いや、アレンみたいに魔力がないなら別か……。まあそれでもシーラの方に引っかかるからなぁ……。


 それから数分歩く。依然として何も見つからない。そしてとうとう目的の場所まで辿り着いた。


「ここで死んでたんだっけか?」

「そうだな。体の一部が欠損するほどの怪我、水路に落ちたという線も考えにくい。やはり何者かによって襲われた可能性が一番高いな……」


 周囲にはこれと言って変わったものはない。変哲もない水路の一端。私の眼にも、シーラの魔法にも何も反応しない。


「やっぱり反応ないね。一体何があったんだろ」

「俺たちの魔法を掻い潜る何かがいるって可能性はどうだ?」

「魔法による感知を防ぐ技術を持ってるってことか?」

「そうだ。肉眼で気付くまでは絶対にわからない。ティアナみたいな珍しい魔法だってあるんだ。そういうものもあっておかしくはないだろ? 魔法があるならそれに対抗できる魔法もあるはず。そう考えれば今の状況を説明できるんじゃないか」


 確かに……。気配を隠すことに特化した魔法……あってもおかしくない。


「で、カガリはそういうのあるの知ってるか?」


 あるならその対策も……。そう思っていたのだがカガリは首を横に振った。


「ごめん、いろいろ勉強してたけど私、そんな魔法知らないよ。姿を消すか、魔力を隠すか。どちらかしかできないはず」

「なら、そもそも襲ってきたやつが生き物でもなく魔力を持たないものだとしたら?」

「そんなやついるの?」


 物体でも操ろうとしたら魔力が必要となる。それに術者がいるはずだ。


「さあな。いても別に不思議じゃねえ」


 とはいえここでとやかく言ってもこれ以上進展はなさそうだ。私たちの魔法にかからない以上、もし何かいても見つけることは困難だ。おまけに地下水路(ここ)はとんでもなく広いし複雑だ。地図があるとはいえ、迷ってしまう危険がある。


「一度外に出るか? 今度は別の場所から入って調べてもいいが……」

「そんなに時間経ったか? もう少し調査してもよさそうだけど……」


 二人もどうするか悩んでいるみたいだ。この依頼、思ったより面倒だな。情報はあるのにわからないことが多すぎる。特に現場に来たのに何もわからないのは……。


「ん?」


 アレンとシーラの二人が話している横でカガリがふと振り返った。


「どうしたの?」


 彼女は水路の奥の方をじっと見ている。集中しているようだった。


「今何か影が差したような気がして……」

「影?」


 私もカガリに倣って奥の方を見る。《解析眼》も合わせて見るが、特に何も見えない。カガリが照らしてくれる光だけが奥まで続いていた。


「気のせいなんじゃないの?」

「うーん……おかしいなぁ」


 カガリは首を傾げていた。


「おい二人とも。行くぞ」


 妙な感覚が残るも、シーラに呼ばれたので先に行くことにした。




 結局、調査を続けることになった。死体があった場所を中心に周囲の水路を一通り歩き回っていく。別のところで襲われ、あそこに死体が流されたという可能性も考慮したからだった。


「けどよ、死体があったのは水路の横、水からは離れていたぜ? それにここ数日、増水はなかったって聞いたしさすがに厳しくないか?」


 水路は私の胸当たりの高さまであるから簡単に流れそうだけど、死体があったのは側道。シーラの言う事はもっともだ。


「まあそうだけどな。いろんな可能性を考えたいんだよ。ありえないと言い切るにはまだ早いしな」

「……可能性、な。それなら気になることがあるんだが、やっぱ死体の損傷具合を聞く限り動物な気がするんだよな」

「軍用生物ではなくか?」

「ああ、何ていうかいろいろ雑なんだよ。怪我の負わせ方、後始末……どれもこれも中途半端なんだよな」

「わかりやすく言ってよ」

「軍用生物は敵の仕留め方なんかはちゃんと教育されてる。たとえ逃げた奴でも後を追われないようにある程度の証拠隠滅はする。だというのに、やり口がどうもへたくそなんだよ」

「まだ十分に教育されてなかったり、わざとそうやって捜査を混乱させたりという考え方はどうだ?」

「目的がわかんねえ。逃げたのならそのまま逃げればいい。わざわざ痕跡を残す理由がねんだよ」


 シーラは首を振った。ふむ、シーラの言っていることはわかった。わかったけど、


「結局犯人はわかったの?」

「んにゃ、まだだ」


 だよね……。ただ犯人が絞れただけマシというべきか……。


「動物ならここを住処にしてるかもしれねえ。やっぱ立て直した方がいいな」

「戻るか?」

「ああ。罠とかも作りたいしな。ちょうど、そこに出口がある。さっさと出ようぜ」


 シーラははぁ、と息をつき、すぐそばにある地上への出口に向かっていった。アレンもそれに続く。


「カガリ? 行くみたいだよ」


 私も二人についていく。ところがカガリが来ない。


「あれ?」


 カガリはまた水路の奥の方を見ていた。


「大丈夫? さっきから変だけど」

「―――り……」


 彼女の傍まで行く。すると何か言っているのが聞こえた。


「カガーー」

「みんなすぐに地上に!」


 突然走り出した。私の腕を掴んで引っ張っていく。何が何だかわからないまま彼女のなすがままとなる。

 一目散に地上への階段を昇る二人の元へ行き、


「二人とも早く!」


 二人を急かしながら自分も昇り始めた。


「ねえ、カガリどうしたの?」


 とりあえず彼女に従って階段を昇るけど、どういうことなんだ?


「やっぱり気のせいじゃなかったの。私たちずっと尾けられてた」

「嘘だろ? 誰の魔法にも反応してなかったぞ!」

「私もそう思った。でも、光を照らしたら確かに影ができた。それよりも急いで、何か来る!」


 カガリの言葉の後、水路の奥からガサガサ、バシャバシャと音が聞こえてきた。それは次第に大きくなり、こちらに迫ってきているのがわかった。

 ところが《解析眼》は何の反応も示さない。肉眼だけがそれの姿を捉え始めていた。


「急いで!」


 すでに先頭のアレンは昇りきっていた。それにこのペースだと間に合うはず……。

 シーラに次いでカガリも昇る。最後の私は昇り終える前に私たちに迫ってくる何かを見ようと覗き込んだ。


「―――っ!?」


 その姿をはっきりと見るやすぐ、私はアレンに引っ張られて地上へと引き戻された。そしてすぐにシーラが蓋を閉める。

 上がった先はどこかの路地裏だった。とりあえず一息つき、それからカガリを問い詰めた。


「ちょっとカガリ、あれ私の眼に反応しなかったんだけど!」

「悪いが、こっちの探知にも引っかからなかったぞ。だが何かいたのは確かだった」

「ティアナ、見たんだよな」


 うん、と頷く。そして私が最後に見たものを伝えた。


「あれは……鼠の大群だった」


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