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タガタメ  作者: ゆきうさぎ
少女は歩みを止めない
31/43

「さすらいのバルコニー」

「完全回復――――!」


 家中に響き渡る自分の声。入り口のドアを開けるなり私は、満面の笑みで叫んでやった。


「うるせえぞ! 病み上がりは大人しくしてろ!」


 当然怒られる。掃除をしていたシーラが雑巾を投げつけた。


「病み上がりの時期も過ぎたのだよ、シーラ。ついに依頼を受けていいって許しもらったの。これでようやくみんなと一緒に行けるんだよ」

「はいはいそれはよかったですね。それなら有り余った元気で掃除手伝ってくれよ」

「おうとも」


 投げつけられた雑巾をキャッチして、そのまま掃除の手伝いをすることに。うん、両手が使えるってありがたいことなんだな。

 ここにお世話になるようになってから一応家賃は払っているけど、他にも便宜を図ってもらっているので掃除や買い出しといったことも率先して手伝っている。というより以前はまともにしてなかったみたいで初めて来たときよりもはるかにきれいになっていた。

 ほぼ毎日してるから当然なんだよなぁ。と思いつつ窓ふきに勤しむ。


「そういえば、アレンとカガリは?」


 てっきりみんな暇してるかと思ったけど、そんなことはなかった。あとシーラ一人留守番は珍しい。


「アレンは鍛冶屋。頼んでた武器ができたらしい」

「ああ、そういえば」


 グレンとの戦いでアレンの剣は燃え尽きてしまった。盾もかなりボロボロになっていた。そこでお金も溜まっていたことだし全て新調することにしたらしい。

 あれ、それって結局私が治ってもアレンの武器ないからダメだったんじゃ……?

 いや、気にするのはやめておこう。口にすればまた何か言われるに違いない。


「剣も魔付加工しないとって言ってたから丁度良かったかもねー」

「しばらくは節約生活らしいけどな」


 まあアレンは元々節約家だからそんなに困らなさそうだけど。いざとなったら貸せばいいし。


「で、カガリは?」

「あいつは図書館。本を返しに行った」

「もう読んだんだ……一昨日借りたばっかりだよね?」

「することないから一気に読んだんだとさ」


 しかもぶ厚い。あんなの数日で読めるわけないよ……。


「今回は勉強目的じゃなくて単純に面白そうな話を見つけたからとか言ってたな。俺は詳しくないから全然わかんなかったけど」

「シーラもおバカだもんね」

「『も』って……。それはお前も含めてるってことだよな?」

「もちろん。そこで意地を張るほど私は見栄っ張りじゃないし」


 わからないことはわからない。自分に必要なら勉強すればいいだけのこと。自分にかかわりのないことなら聞けばいいだけのこと。うん、簡単だ。


「昔はそんなことなかったのにな。随分成長したじゃないか」

「まあねー。いろいろあるとそりゃあ変わるよ。シーラだってそうでしょ?」

「ふんっ」


 鼻で笑われたやっぱこいつ腹立つわー。ぶん殴りたい。でも我慢我慢。私も成長したんだから……心は。


 

 掃除も一段落つき、やることは大体おわったので、飲み物をいれて一服する。

 途中、依頼書を眺めようと探したが、どこにも見当たらなかった。オズさんがどこかにしまったのかな?


「ねえ、シーラ。依頼書知らない?」

「ああ? ……そういや、依頼受けるって言ってるけど、今ないぞ?」

「へっ?」


 依頼、ないの? 今日一の衝撃だった。あんなに意気揚々と帰ってきたのに……。


「ないって、最近まで何個かあったよね?」

「オズさんが全部片付けたぞ。数日で一気に。お前知らなかったのか?」

「少し前に確認して以降は……。オズさんが片付けてもまた新しいのが来ると思ってたし……」

「んなしょっちゅう何か起きてたまるかよ。大人しくしてろってことだよ」


 そんなぁ……。


「依頼がないなんて……。私はどうすればいいんだ」

「そこまでかよ……」


 膝から崩れ落ちるほどに落ち込む私。そんな時、ドアが開いた。


「ただいまー! って何してるの?」


 オズさんだった。荷物のたくさん入ったカバンを下ろし、ふう、と一息ついた。


「おかえりなさい。ティアナは依頼が一つもないから不貞腐れてるだけです」

「そうだったんだ。それはすまないねえ。君たちには休んでもらおうと僕が全部片付けちゃったよ」

「知ってます……。オズさんは悪くないので気にしないでください」

「ははは……」


 オズさんは苦笑するだけだった。とはいえさすがにいつまでも項垂れているわけにはいかないので、立ち上がり、オズさんに飲み物を淹れた。


「ん、ありがと」

「そういえば、オズさん宛に手紙来てましたよ」


 シーラが何通かの便箋を持ってきた。


「僕宛に? 誰だろう」


 シーラから受け取り、宛名を確認していく。ところが、


「これと……これ、あとこれもいいや」


 何通かは宛名を見ただけで捨ててしまった。


「え、いいんですか!?」

「どうせいつものだし……内容はわかってるから無視していいよ。君たちもそこの宛名から受け取ったら捨てていいよ」

「ええー……」


 とりあえず回収する。宛名を見るといろんなお店や個人名があった。本当にいいのかなぁ?


「これは……。へえ、珍しい」


 一枚の封筒を取り、中身を取り出す。そして内容にざっと目を通すとオズさんはちょうどいいや、と笑った。


「ティアナちゃん、依頼だよ」




「よく考えたら他のギルドに行くのって初めてなんだよなぁ」

「俺は何度かあるけど……。ああ、でもここのギルド長には会ったことないな。他は?」

「私はないかな。兄さんとアレン君だけじゃないの?」


 オズさんが受け取った手紙を持って、私たちはあるギルドの前に来ていた。どうやら依頼を代わりに受けてほしいとのことなのだが……。


「でもよ、『さすらいのバルコニー』と言えば、かなり大規模なギルドだよな? それが委託って相当な依頼ってことなのか?」

「さあ? それは聞いてみないとわからないよ。というわけで、行こっか」



 中に入ると、広い部屋に机と椅子が並べられており、どの席にも人が座っていた。食事をしたり酒を飲んだりといろんな人がいる。うちの店よりすごく繁盛してるなぁ……。

 早速、受付に向かい、オズさんの名前と手紙を出した。


「『思い出の家』への依頼委託ですね。少々お待ちを」


 受付の人は奥へと下がっていった。


「なんかいかにもってところだな」

「人が多い分その辺りはしっかりしないといけないだろうからな。うちは俺たちしかいない分、管理は適当でも大丈夫なんだろ」

「そうなのかな……」


 たぶんこの差はオズさんの性格によるものじゃないのかな……。思うだけで口にはしないけど。

 それにしてもこんな大きなギルドをまとめてる人って誰なんだろ。きっとすごい人なんだろうな……。


「ちょっといいかな?」


 ふとうしろから声をかけられた。振り返ると、私たちより少し年上くらいに見える女性が経っていた。冒険者の人なのだろうか。それにしてはちょっと軽装な気がするけど。


「あ、すみません」


 受付の前で待っていたせいであとの人がいけなかったみたいだ。すぐに横に動いた。


「あ、別に並んでるわけじゃないから大丈夫よ? あなたたちに用があるの」

「私たち、ですか?」


 なんだろう? そんなに目立つことしたかな……。


「そう。見ない顔がいるなーと思ってね。新規の子かい?」

「いえ、僕たちは依頼の委託を受けた者です」

「依頼委託……。ああ、じゃあ君らがあいつんとこの子か」


 女性はポンと手を打つと、受付の方へ向かった。すると、先ほど受付をしていた女性が慌てた様子で女性に大声を上げた。


「ちょっとマスター! どこに行ってたんですか! 探してんですから……」

「ははは、すまんねマリー。ちょいと野暮用でね。で、それが資料かい?」


 マリーと呼ばれた女性か紙を受け取り、女性はこちらに向き直った。


「さて、紹介が遅れたね。私はカザブランカ。このギルド『さすらいのバルコニー』のマスターだよ。今回はよろしくね」

「僕はアレンです。で、こちらが……」


 アレンが順に私たちの名前を告げる。その様子にカサブランカさんはへえ、と驚いた声を漏らした。


「あいつのところにいるけど礼儀はなってるんだね。いや、単に反面教師にしているだけなのか……」


 散々な言われようだった。オズさん……。


「まあ、いいさ。で、早速で悪いけど話し進めてもいいかい?」

「はい、大丈夫です」


 ということで彼女に案内されてとりあえず席についた。先ほどのマリーさんが飲み物を持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


 お礼を言って受け取る。頼んでないけどいいのかな……。


「さて、今回オズにお願いしたのはこの依頼でね。内容は確認してくれたかい?」

「いえ、まだ何も聞いてないです」

「あの野郎……説明してないのか……!」


 カサブランカさんは頬杖をついて苛立っていた。


「ああ、君たちは気にしなくていいよ。今度会った時にとっちめるだけだからさ。じゃあ、まずはそこからか」


 と言って一枚の紙を出した。依頼書みたいだけど……。


「元々来ていた依頼は『地下水路に何か住み着いているから調べてほしい』ってことだった。ランクもCと簡単なものだ。そこそこの実力のやつに行ってもらったよ。だが、三日後だ。地上水路で死体が見つかった」

「!!?」


 え、死体? な、なんで……。


「すぐに死因を調べ、それからギルドを通じて地下水路への立ち入りを禁止させた。連絡いってなかったか?」

「え、えーっと……」


 あ、額がぴくってしてる。オズさんまさかあの時捨てた手紙じゃ……。


「まあ、いいわ。で、調査の結果、死因は無数の傷による失血死。しかも体の一部が抉られていたわ。加えて死体の損壊も激しい。おそらく人によるものではないわ」

「人じゃない……? まさか魔族?」

「その線は薄いでしょうね。この都市の周りには結界が張っているわ。魔族が侵入するのはまず無理よ。だから考えられるのは動物。もしくは軍用生物。後者の方が今のところ可能性が高いわ。ということであなたたちにお願いしたいのは地下水路に住む何かの駆除よ」

「事情はわかりました。でも、それはうちに委託するほどなんですか?」

「今、うちのエース級の冒険者たちは別の依頼で出払ってる。かといって中堅に頼むには少々厳しい。だからオズに頼んだのよ。まあ、断られれば私が行くだけだったのだけど」


 依頼と聞いて遠出かと思いきやまさかの街の中……。ただ、内容が不明瞭なのは不安だな。


「他に聞きたいことがあるなら今のうちにね。それと地下水路の地図はこっちで用意してるから使ってね」


 アレンやシーラが詳しいことを聞いている間、私とカガリはもらった地図を覗き込んでいた。網目状に張り巡らされいる水路はいろんなところに入り口がある。死体が見つかった場所と、侵入した場所にはそれぞれ印がされているけど、特に有益な情報にはならなさそうだった。


「あ、そういえば、軍用生物って魔力持ってたりするんですか?」

「まあ動物にしろ魔力を持たない方が稀有だからね。団長様とかがそれだね」


 ほうほう。それなら《解析眼(アナライズ)》で探すのもありか。


「あー、念のために言っておくけど、市街に被害が出るような戦いをしちゃダメよ。難しかもしれないけどそこは頼むわ」

「わかりました。だとさ、ティアナ」

「いや、私は派手なことできないって。どちらかと言えばカガリでしょ……」

「ちゃ、ちゃんと抑えるもん!」


 どうだろか……。最近のカガリの魔法、容赦ないからなー。


「私は基本、ここにいるから報告なんかはいつでもいいわ。頼んだわよ。期待のホープさん」


 初対面なのに随分プレッシャーをかけられるなぁ……。でも、慣れたものか。


「よし、それじゃいったん戻って作戦会議をしようか。カサブランカさん、僕たちはこれで失礼します」

「ああ、頑張ってな」


 『さすらいのバルコニー』を後にして私たちは一旦『思い出の家』に戻った。オズさんには事情を話し、話していなかったこと謝られた。

 それから4人でこれからのことについて話しあった。広さと安全を考えて探索回数は数回に分けることに。それぞれの準備を終えてから明日の朝、行動に移すことで決まった。


「うんうん。すっかり様になったね。僕も一安心だ」

「だからといってサボらないでくださいよ……」

「善処するよ」


 こういう時って絶対やらないよなぁ……。

 食事も済ませ、いつものトレーニングをしようと思ったけど今日はやめておこう。

 それから私は明日の準備もすぐに終わらせる。早めに寝ることにした。怪我が治ってすぐの依頼、頑張らないとね!


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