戦士たちの休息
さて、それからの話をしないとね。
翌朝、私たちは無事に近くの街まで辿り着いた。それからそこである程度回復するまで一週間滞在し、それからようやくアルサーンへと帰り着いた。アレンとシーラは打撲がひどく、骨にひびが入っていたけど、治癒の魔法を幾らか受けたおかげで治りは早かった。一週間もすればほぼ全快になっていた。カガリも激しい打撲と肋骨を折っていた。彼女の方も粗方治ったけど、二人よりは回復速度が遅く、十全とは言えなかった。そして私はというと……
「左腕がかなりひどく折れてますね。魔法で治すのもいいですが、それでもしばらくは使えないでしょう」
と宣告された。他の怪我はあっという間に治ったのだけれど、酷使しすぎた左腕はアルサーンに帰り着いてからもずっと吊り木で固定したままだ。おかげで鍛錬ができやしない。
と、このように私たちは無事にアルサーンに帰り着いた。まず『思い出の家』に帰ると、オズさんが迎えてくれた。「君たちにしてはやけに遅かったけど観光でもしてたのかい?」と言われた。事情を話したかったけど、たぶん他の人にも伝えた方がいいと思ったので、後日ランドルフさんたちも呼んでもらえるようお願いした。
その後、依頼達成の報酬をもらった私たちはようやく本当に落ち着くことができた。
「ほんっとに何度思い出しても、辛かった……。ここを出る前の自分に会えたら全力で止めてやりたい……」
「途中まではよかったんだ。大体は……」
アレンとシーラ、二人が私の方をじっと見てきた。
「もう何回目だよ! その話になる度にさぁ! でもあれは仕方ないよ。私から首を突っ込んだわけじゃないしさ」
確かに『異幻の穴』を見つけたのは私だけど……巻き込まれたのは完全に事故だし……。
「ま、ティアナもそんなんだからしばらくは平和に過ごせそうだ」
「あとひと月は外せないんだっけか? そんなにひどかったのか」
「なんかところどころ骨が砕けてたんだってさ。こっちは鍛錬できないから困ったもんだよ」
固定され、包帯でぐるぐる巻きにされている左腕をあげる。最初の頃は痛みがあったけど、今はかなり落ち着いた。とはいえ無茶してひどくなるのはごめんだから大人しくすることに決めている。
「それで、この後だよね? ランドルフさんたちに会うの」
「ああ、ここに来てもらうらしいよ。今オズさんは買い物に行ってる」
カガリもついていってるらしい。通りでさっきからどこにもいないわけだ。
「一応、依頼のことは全部報告してるし、言ってないのは『あれ』だけだ」
「アレン頼んだよー」
「あーはいはい。わかってるよ」
それからしばらくして、オズさんとカガリが戻ってきた。その後、もう少し経ってからランドルフさんとアマネさん、それからディルムッドさんも来た・
「久しぶりだね。噂は聞いてるよ。難しい依頼をどんどんこなすエースがいるってね」
アマネさんはお土産といってお菓子をたくさん持ってきてくれた。それとオズさんたちが勝ってきたものを机に並べて全員が席についた。
「オズもいいもん拾ったな。これだけ優秀なら騎士団でもらっておけばよかったぜ」
「ディルは自分が楽したいだけだろ? それにこの子たちにはちゃんと目標があるんだ。その邪魔をしちゃダメじゃないか」
「わかってるよ。あーあ、副団長も楽じゃねえな」
「普段からサボってるくせによく言うわ」
「そうだそうだ。僕だってこんなに一生懸命働いてるんだ。少しは見習えよ」
なんだろう。すごい既視感というかデジャヴというか………。自分たちを見ているように思える。自分たちも大人になってもあんな感じなのかな……。
「さて、と。アレン君たちが何か報告したいことがあるって話だったよね? 早速聞かせてもらえないか?」
ようやく本題に入った。私たちはお互いの顔を見合わせて頷く。
それからアレンが代表して話し始めた。炎竜を倒した後、『異幻の穴』に迷い込み魔界に言ったこと。その後に出会った二人の魔族、いや鬼。ヤコノエとグレン。そして彼は『獄王』の一人であったこと。なぜか戦う羽目になり、紙一重で勝利したこと。
あの時起きた出来事をアレンは全て話した。
その間、ランドルフさんたちは黙って聞いていた。途中に言葉を挟まず、アレンの話が終るまで真剣な表情で聞き入っていた。
そうしてアレンが話を終えると、しばらく間を置き、ランドルフさんがようやく口を開いた。
「その話は、本当なのかい?」
「……はい。僕らの怪我のほとんどがその時のものです。特にティアナは、そうですね」
「そう……なのか」
ランドルフさんはまた黙り込んでしまった。
「それ、他の人に話した?」
「まだです。まずはみなさんに通した方がいいかと思って……。それでオズさんにお願いしたんです」
「賢明な判断だね……。いやー君たちがちゃんと考えられる子でよかったよ」
「とはいっても……どうしましょう。これ、簡単に片づけられる問題じゃないわよ」
各々反応を示していたけど、みんな動揺をしていた。私たちはなんて言われるかと内心ビクビクしている。
「今ここで私たちが何か言える問題ではないのは間違いない。ひとまずこの件は私たちに預からせてもらえないだろうか? ある人に相談しようと思う」
「ある人?」
「私と昔から交流のある人だ。元老院の一人でもある。その人ならば何か考えをくれるかもしれない。それまでは君たちはこの件を誰にも言ってはダメだ。話題に出す時もここで、しかもオズ以外に誰もいない時に限ってだけだ。混乱を生まないためにも協力を頼む」
「わかりました。面倒をかけてしまってすみません……」
「いや、気にすることはないよ。ただちょっとあまりにも規格外過ぎて、ね」
「俄に信じがたいけど、あなたたちの今までを見る限り本当なんでしょうね。……で、ティアナちゃん」
「はい?」
「その、アレン君の話を聞く限り、あなたかなり危なかったらしいわね」
「そう、ですね……」
かなりというかあと少しで死んでたんだよなぁ。
「もっと精密に検査するからこの後一緒に来てもらおうか。後遺症がないかも診ないといけないし、引き摺ってでも連れていくから」
「え、あ、わかりました……」
大丈夫とは思うんだけどな……。でも余計な心配かけたくないし、うん。ちゃんと行こう。
「しっかし、君たちは本当にとんでもないことをしでかしてくれるな……。他人に実害を与えない分、まだマシなんだろうけど」
「まったくだな。だけど、面白いじゃないか。昔のオズみたいで懐かしいな」
「トラブルを持ってくるのはみんなそうじゃない……。私がどれだけ尻拭いで走らされたか……」
ははは、とアマネさんを除く三人が笑った。それに対し、「笑い事じゃないでしょ!」と猛抗議していた。私たちはそれをただ眺めるだけだった。
その後も四人の思い出語りが続き、私たちのことがこれ以上言及されることはなかった。それがわざとなのか偶然なのかはわからないけど、この日以降もしばらくはいつもと変わらない日々を送るだけとなった。
もちろんあの後、すぐにアマネさんに連れられて検査に向かった。結果は異状なし。見本にしたいくらいの健康だったらしい。
とはいえ、腕はまだ治っていないのでしばらくの間は絶対安静。支障がない程度に体を動かしたり、お店を手伝ったり、空魔法の勉強をしたりと平穏な日常を送ることとなった。
第2章終了。次回からは第3章です!




