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タガタメ  作者: ゆきうさぎ
そして物語は始まる
24/43

VS獄王戦

日々、書き方を意識しているせいで以前と表現の仕方が違うかもしれません。勉強中の身ゆえ、ご了承ぐださい…


敵が腕を振るった。


「離れろ!」


 シーラの声に全員がその場を離れた。動きの遅いカガリはシーラが一緒になってくれた。

 そして私たちのいたところに剣が振り下ろされた。それと同時に地面が爆ぜ、抉られてしまった。


「すっごいパワーだな……」


 パラパラと瓦礫の破片が散らばっている。以前オズさんと戦った時、あの人も地面を破壊してたけど、たぶんそれ以上だ。この敵はその気になれば部屋そのものを破壊することもできるはずだ。

 どうしたものか……。

 とりあえず今は様子見に徹しよう。他の動きに合わせて私も動けばいいし。




「ありがとう、兄さん」


 最初の一撃を躱したシーラとカガリは敵の左側面の位置にいた。


「ああ気にすんな。というか『獄王』っつたよな……。なんでこんなことになるんだよ……」

「うん。『「炎獄」のグレン』は知ってる。あの戦争を生き残った『獄王』の一人。その呼び名の通り、炎魔法に卓越した鬼だよ」

「鬼、か。確か魔族の中でも魔法より力の方が優れている種族だっけ? 今の見ればその通りっぽいけどな」


 シーラは敵を注視深く観察し、対策を練り始める。他の3人とは違い、自分には攻撃の火力が足りない。足りないなら策で補うしかない。だからシーラは相手の隙や弱点を探す。

 図体はでかいけど、最初の一撃を動きから見るに俊敏だな。適当に撃っても防がれちまう……。


「カガリ、『獄王』はその名を冠する属性に対しては強いんだよな」

「うん」

「それなら他の属性はどうだ? 水とか氷なんかは帰って弱点にならないか?」

「たぶん、それは種族によると思う。とりあえずやってみるね」

「ああ頼む」


 早速、カガリは敵に狙いを定める。魔力はストックもあって潤沢だ。一発くらいはいいだろう。


「|《水竜の(ダイタルウェイブ)》!」


 カガリはシーラのうしろから敵を狙って魔法を放つ。水属性の高位魔法。加えて彼女の豊富な魔力を詰め込み、さらに強化させた。その結果、グレンの身長を遥かに超える大津波が一挙に押し寄せる。


「みんな!」


 カガリが叫ぶ。この一撃では確実に倒しきれない。それを理解している彼女は皆に次の動きを指示した。



 もうきた!

 正面、敵の向こう側から巨大な高波が現れた。続いてカガリの声を聞いて私はすぐに駆けた。


「《固定(フィクス)》!」


 前方の空間を自分に覆いかぶさるように固定する。これでカガリの魔法は防げる。そして刀を抜いて大きく飛ぶ。

 狙いは敵の首。鎧で固められていない急所。


「もらったぁ!」

「甘い!」


 目の前に影が落ちる。そして同時に衝撃が発生した。


「!?」


 《固定》で作った空気の壁が破砕された。そしてその衝撃で私は後ろへ弾き返されていた。視線の先には敵の右腕がある。まさか、殴って《固定》を撃ち破った!?

 驚くのも束の間、敵の左方からカガリの魔法が押し寄せる。だけど、


「破ぁ!」


 右手を握り、体を捻って波に向かって正拳突きをした。

 水が弾け飛び、その勢いは急速に失われる。高波はただの水飛沫へと成り下がってしまった。


「魔法を……殴って消した……?」


 体勢を立て直した私は眼前の出来事に唖然とするしかなかった。

 魔法を力ずくで消し飛ばすなんて……。そんなのありえるの? 反魔法なんかじゃない。カガリの魔力以外見えなかった。本当にあの敵の力だけ……。

 敵はにやりと笑うだけで追撃をしてこない。余裕を見せているだけなのか。もしくは攻撃を誘っているのか……。


 いや、悩むだけ無駄だ。刀を持ち直し、立ち上がる。魔法を撃ったカガリは驚いているようだったけど、隙を見せてはいない。皆、また万全の状態だ。そして《解析眼(アナライズ)》で敵を観察する。魔力量は普通の人よりは多いけど、魔族の中では特別多い方ではなさそう。私の眼だとわかるのはそれだけ。それ以外のこの敵については一切わからない。

 ああ、超パワータイプだってことはさっきのでわかったか。

 ということはあのがっしりとした体は筋肉ってことかな。刀、通るかな……。空魔法にそういうのあったっけ……。


 左斜め正面。アレンと目が合う。うん、と頷き合い、一斉に接敵する。

 アレンは正面から、対して私は左側から同時に斬り込む。私たちの動きに敵はすぐには動いてこない。私は敵のカウンターを警戒しギリギリまでは攻撃をしない。

 一方のアレンは先に剣を抜き、斬りかかっていた。その動きに敵は右の拳で迎撃する。だけど、アレンはそれを盾でいなした。一歩間違えれば盾はひしゃげてしまうだろう。その微妙な加減をアレンは器用にやってのけた。そしていなした勢いで体を回し、敵の腕に足をつけた。でも付けたのは一瞬。すぐに蹴りだし、顔に一気に迫る。


「っ!?」


 ところがアレンはすぐに敵から離れた。そして彼のいたところに敵の左手が通り過ぎた。

 これはチャンスだ!

 私は《固定》で空を蹴り、一気に加速する。敵が腕を戻す前に仕掛けるのだ。


「離れろティアナ!」


 刀を握り、斬りかかろうとしたとき、アレンの声がした。何のことかわからないけどかなり切羽詰まっている。とはいえいきなり方向転換なんてできないので、


「っと……《位相転移(ワープ)》!」


 魔法を使って離れる。先ほどまでいた場所に飛び、さらに数歩下がる。それから転移する前にいた場所に敵は肘打ちを放っていた。もちろんすでに退避しているので空を切るだけだったが、撃った直後にブオォォン! と風が唸った。


「あのまま行ってたら直撃だったぞ」

「……ありがと」


 攻撃をずらしたのミスだったな。逆に相手に反撃させやすくしてしまったみたい。いや、同時に攻撃しても対応されてたかもしれない。

 というか図体の割に動きが機敏なんだよな……。こういう体が大きい相手ってあんまり速くないってイメージあったんだけど。


「搦め手、無理だよね?」


 刀を一旦鞘に収め、また様子見に戻る。その間も《解析眼(アナライズ)》は止めない。とはいえ、この敵相手じゃ、奇襲や速攻対策にしかならないだろうけど。いや、それだけでも十分か。当たればただじゃ済まなさそうだし。

 しかし本当にどうしたものか。格上にも程がある。あらゆる面で私たち4人は敵に劣っている。故郷を出て初めて戦った炎竜や『不死王』も格上だったけど、でもまだ埋められる程の差でしかない。でも今回は違う。初めてオズさんと戦った時に感じたあの絶対的実力差。しかも今度は命の保障がない。


 だからこそこんなにも心が高揚している。

 みんなには悪いけど、命の危機とか絶望感とかそんなのよりも私は今強敵と戦えることを心から喜んでる。たぶん、気づかれてるとは思うけど。信用されてるから、ね。もちろん私も皆を信用してる。付いてきてくれるし、助けてくれる。

 なら私のすべきことは一つ。


「いくぞ!」


 戦って勝つ。それだけだ。



 カガリはティアナが再び駆けるのを見た。そしてその動きに曇りがないことにも気づく。


「兄さん」

「わかってる」


 兄にもティアナの考えは伝わっているようだ。何だかんだ言ってよくティアナを見てるから。


「よし、やるか」


 腰から銃を抜き、兄も動いた。遠くでアレンもティアナの動きに呼応していた。私は動かない。でも言葉は紡ぐ。


「《接続(コネクト)》」


 照準を定める。対象は兄、アレン、ティアナの三人。拒否はなし。三人の魔力と自分の魔力を繋げる。


「《風翔(ソニック)》! 《獣眼(ワイルドアイ)》!」


 強化の魔法を唱える。対象は自分じゃない。《接続》で繋いだ三人に魔法を伝播させるのだ。

 他者に魔法をかけるには制限がある。距離や人数など様々でよほどの魔力がないと大人数に同じ魔法をかけるのは難しい。でも《接続》を使えば、魔力の消費が激しくなるけど、その分ほぼノータイムで繋いだ相手に魔法をかけられる。

 今の自分にできるのはとにかくサポートに徹すること。戦局に応じた魔法を使うこと。カガリは戦いの行く末を見守る。



 体が軽くなった。カガリのサポートだ。その前に『接続』を使ったであろう感じもしたし。

 さて、どう攻めるか。否、どこから攻めても一緒か。どうせこの敵は反応する。なら策を弄することも臆することもいらない。


「正面突破!」


 敵の正面で跳躍、カガリの魔法のおかげで体が軽い。その軽さに身を任せて敵に迫る。

 まあ当然迎撃はくる。右方から左拳。私は身を捩って躱す。ついでに刀を抜き、左腕に一太刀。手ごたえはない。《固定》で作った足場を蹴って、一旦離脱。しかしそれはほんの一瞬、新たに足場を作り、今度はそれを使って再接近。敵ははたき落としを狙っている。

 次の行動がわかれば対策など簡単だ。《固定》を使い、足場ではなく私を横に押し出すように壁を作った。攻撃をする敵とは反対側に飛ばされる。こうすれば無理に体を動かすより負担が少ない。そしてそのまま敵の攻撃をすり抜けて今度は両足を斬りつける。鎧の隙間、わずかな間を縫うもわずかに斬れただけで、血すら出てこない。


「硬いな!」


 悪態をつきながら、飛んでくる蹴りを躱す。想像以上の速さに危うく当たりそうになるが、なんとかなった。

 躱した体勢のまま、また斬りつける。やっぱり効果はないみたい。

 これじゃあ、埒が明かないな……。

 何千回斬ればいけるかな。と思うくらいに斬れない。鉄でも斬ってるみたいだ。


「ティアナ! 下がれ」


 シーラの声だ。敵の攻撃に注意しながら離れる。気づいたら頬から血が流れている。蹴りを躱した時に掠ったのかな。いや、風圧か。


「いけそうか?」


 アレンが声をかける。


「無理。硬すぎる」

「そんなになのか?」

「たぶん先に刀が折れるかな。なんとかしないと一生勝てないよ」


 体力尽きて躱せなくなってグシャッ! だね。


「斬る以外でダメージを与えるか……。魔法はさっき効かなかったみたいだが……」

「無効化というより力技で破ったって感じだったね。ただ、ちゃんと当たっても効果があるかどうか……」


 こういう時、攻撃系がない空魔法は不便だ。自分と相性悪い相手には何もできない。対策考えてるんだけどなぁ。


「あとは弱点になりそうなところを探すか……。あの角とか」


 敵の頭についている二本の角を指さす。実はあれがあるおかげで無敵とか……ないよね?


「わからんが、そもそもあそこには近づけないからな。さっきからシーラも何発か撃ってたみたいだが、炎竜の時と同じで弾かれてただけだったな」


 やっぱり魔法、なのかな。


「とにかく対策考えてよ。3人でさ。それまでは私がなんとかするからさ」

「はっ? おい、ティアナ!」


 ここでじっと話していても何の解決にもならない。せっかく下がったけど、勝つためには戦わないと。

 私は再び敵の元へ走った。見上げる敵は余裕の表れか笑ってる。だから私も笑ってやった。


「面白い!」


 上から拳が降ってくる。スピードを緩めることなく方向転換をする。逃げた先にも次の拳が落ちてきた。さらにスピードをあげて落ちてくる前にその下を抜ける。抜ける際に刀で斬りつける。もちろん大した効果はない。一旦ブレーキをかけて減速。そのタイミングでまた敵の攻撃。私は加速した。振ってくる拳のスピード、精度はどんどん上がっている。私も負けじと針を縫うようにその一つ一つを躱していく。そして隙あらば刀で斬る。

 アレン達が対策を考えるまでだ。それまでは何としてでも耐えてみせる。




 アレンはティアナが敵の方へ走ってすぐ、シーラとカガリの元へ行った。


「おい、いいのかあれ?」


 シーラがティアナを指さす。今、ティアナは敵の攻撃を全力で躱していた。


「今はまだ大丈夫だろう。だがいつまで持つか……。早いところ対策を考えよう」

「対策って言っても、剣も銃も通らねえ。魔法も効きやしねえ。そんな相手にどうしろってんだ」

「俺は剣と盾(これ)しかないから正直攻撃に関しては手詰まりだ。せいぜい庇うくらいしかできない」

「俺だって同じさ。あの図体じゃ、罠張っても大した効果なさそうだ。一応手段には入れるけどよ。で、カガリ。お前は?」


 え? とカガリはこの状況にそぐわない間の抜けた声を出した。


「『え?』じゃねえよ。お前はあれに対して何か対策でもあるか?」

「対、策かー。さっきのがダメだった理由はなんとなく想像ついたけど……」

「敵が何かしてたのか?」

「ううん。たぶん魔法の形質の問題」

「形質?」

「そう。別に魔法以外でも言えることだけど、同じ大きさの力でも、面と点ではかかる力が違うの。面は広いけど、威力が抑えられる。逆に点だと狭いけど威力はその分凝縮される。さっきのは面の攻撃だったから、力だけで壊せたんだと思う」

「……つまり?」

「一点狙いで撃つ。それだったらいけるかもしれない」


 カガリは敵を見据える。あの体躯ならそこまで精密でなくとも当たるだろう。だが、

 動きが速いし、妙に勘が冴えてる……

 自分たちが常に敵から視線を外さないように、向こうも自分たちを決して無視していない。細心の警戒を払っている。

 だから無闇に撃ったら逆に危ない。


「兄さん、アレン君」


 二人に耳打ちをする。確実に攻撃を当てる、その作戦を伝えるために。



 グレンは視線の端で3人が動き出すのを見た。何か策でも思いついたようだ。だが、それは正面から撃ち破ればいいだけのこと。それよりも今は自分の足元を走る少女だ。こちらは一発でも当てられればいいだろう。あのか細い体はそれだけで砕けてしまうに違いない。だが、相手は走り、止まり、駆け抜ける。そうして自分の攻撃を躱していき、さらには隙あらば反撃もしてきている。大した傷ではないが、その度胸と技術には素直に感心する。

 やはり我の目に狂いはなかった!

 グレンは喜びに震える。今回のように迷い込む人間は昔からいた。その度に勝負を挑んだが、逃げるか何もできずに殺されるかのどっちかだった。それが今回はどうだ。臆するどころか果敢に攻めてくる。魔界というところにいきなり迷い込んでも生きて帰ろうとする強い意志。

 ああ、なんと喜ばしいことよ!

 あまりの嬉しさに加減を忘れそうになる。今本気を出し過ぎてはいけない。それは単に相手を舐めているのではなく自衛のためだ。少しずつリミッターを外さないと体に負担がかかってしまう。

 だがそれは同時に

 このままでは我に勝てんぞ? 人間たちよ。

 グレンは期待する。自分の想像を超えることを。そして、

 『あの戦い』を超える喜びを得ることを。



 拳が頭に触れそうになる瞬間、加速する。地面を突き刺す一撃を抜け、無理やり上半身を後ろに捻った。同時に刀を振り、勢いのまま腕を斬る。


「ああもう硬い!」


 わずかに斬り口がつく程度。血も出てこない。気を抜く間もなく反対の腕が横払いでやってくる。思考を切り替え、迫る腕に向かって走る。そして一気に跳んだ。足元を通り過ぎるのを確認して、着地。敵の両足の間を通って背面に向かった。


「まだかな……」


 どのくらいの時間が経ったのかわからない。何回躱して何回斬ったかも覚えていない。《解析眼(アナライズ)》が3人が行動を始めたことを教えてくれるけど、準備にどれくらいかかるかわからないし、私がどうすればいいかもわからない。

 私個人としては早めにしてほしいなと思うところ。この敵、段々と動きが良くなってきている。精度と速さが上がってきている。まさかまだ本気じゃなかったとは……。

 どこまで速くなるのか未知数だからさっさとけりを付けたい。

 敵が体を反転させながら右蹴りをしてくる。速い。《解析眼》とカガリの魔法がなかったら絶対躱せない。右足を超えるように跳び、《固定》で足場を作り、それを蹴って速度を上げる。


「やばっ!?」


 しかし、左から飛来する存在に気づき、慌てて《固定》で自分の体を下に突き落とす。そのすぐに上空で敵の左肘打ちによって《固定》が破壊された。気づくのがもう少し遅れていたら私が木端微塵になっていただろう。

 ひやひやするなぁ!

 地面に降り、一度距離を取る。呼吸を整え、次の動きへ転ずる。

 いざ動き出したその時、乾いた音が鳴る。シーラの銃だ。だけど、相手は腕の鎧で銃を弾くだけで大した攻撃になっていない。それでもシーラが動き出したということは、


「次だ!」


 シーラが叫ぶ。撃つ手を止めないまま敵の周囲を走っていく。一方でアレンも動いていた。私みたいに速くではないけど、足元に潜り込み、斬る。相手の反撃に対しては盾を使っていなしながら攻撃の手を止めない。そしてカガリはというと……

 どこにもいない?

 いや、いるけど見えていない。《解析眼》が彼女の魔力を感知して教えてくれるが、肉眼ではその姿を見ることはできない。おそらくシーラによるものだろう。

 ということは二人は陽動。カガリが本命かな。どっちに加わるべきか……。撹乱は多い方がいいな。思い立ったら即行動。私も敵に向かって走る。その途中にシーラがいたので、ちょっと跳んで、彼の肩を足蹴にする。「おい!」と若干キレた声が聞こえたけど状況が状況なので致し方ない。

 宙を蹴り、敵と目が合った。向こうは楽しそうに笑っていた。笑いながら私を殴ろうとする。当たる瞬間に合わせて拳の上側を手で払う。そして空中で一回転すると腕の上に着地する。刀を腕に突き立て、引き摺りながら走る。全然斬れてないけどというか途中で鎧に突っかかってうまく斬れない。ある程度走ると再び跳躍。顔の前まで到達した。しかし、敵は笑みを崩さない。何か嫌な予感がする。

 アレンとシーラを見る。二人は陽動に徹し、攻撃を続けている。片腕は今私を狙っていたので、足による攻撃をなんとか躱していた。カガリもまだいる。

 その時だった。敵が動いた。残った片腕を振り上げる。そして狙いを定めたかのように『そこ』を見た。私も視線を動かす。いや、動かさずともわかった。


「カガリ!」


 敵は迷いもなく、カガリの方を見ていた。肉眼では見えないはずなのに。そして私たちの攻撃を意に介さずその拳をカガリに向かって振り下ろした。

 まずい!

 このままじゃ、追いつけない。アレンもシーラも気づいたけど無理だ。カガリも回避できない。今間に合うのはもはや自分しかいない。やらねばカガリが死ぬ。でも自分は……

 いや、考えてもダメだ!


「《位相転換(チェンジ)》!!」


 叫ぶと同時に景色が切り替わる。正面からは敵の拳。完全に躱しきることは不可能。ならば……


「っ―――!」


 直後、衝撃と轟音が全身を襲った。



「ティアナ!?」


 カガリは迫りくる拳から一転、宙に放られた。突然の敵が自分に向けて攻撃してきた。兄によって隠れていたはずなのに。見えないはずなのに。それにもかかわらずまっすぐ向かってきた。回避もできず、諦めかけたが、瞬間景色が変わった。直感でティアナのおかげだとわかった。『魔力圧縮』を繰り返すうちに私の魔力にティアナの魔力が混ざる様になっていた。だから彼女の《位相転換》の対象に自分はなれたのだ。

 今、自分の代わりにティアナが敵の一撃を受けた。無事か心配だ。だけど今駆け寄ることはできない。


「カガリやれ!」


 下から兄の声がする。目の前には敵の顔。絶好のチャンスでもある。準備はできていた。あとはタイミングだけだった。

 だからカガリは叫んだ。


「《水神槍(スサノオ)》ォォーー!」


 ストックしていた魔力一つ分を込めた水の槍。さらに魔力を込めて鋭さを上げた。細く鋭く、しかし決して脆くはない一突き。カガリは持てるすべてを込めて投げた。



 水の槍が敵を貫く。狙いは幸か不幸か喉。急所だった。槍は彼の首を貫き、勢いのまま地面に倒れた。カガリは浮力を失い落下する。が、途中で落下は止まった。


「兄さん……」

「大丈夫か?」

「うん……。しっかり当てたよ」

「そうか。よくやった」


 シーラはカガリを抱えたまま地面に降りる。隣にはアレンもいた。


「無事か?」

「私は大丈夫。それよりもティアナが……」


 カガリは辺りを見回す。そして一際破壊が激しい場所さっきまで自分がいた場所を見つける。未だ砂煙をあげているせいでティアナの姿は確認できない。


「ティアナ!」


 カガリは向かおうと走り出す。が、その前にシーラに止められた。


「兄さん!?」


 シーラの顔を見ると、彼は真剣な表情で首を振った。


「まだだ」


 彼は一言そう言うと、シーラを抑える手を放し、武器を取った。見ればアレンも武器を構えたままだった。


「えっ……?」


 カガリは倒れた敵を見る。投げた槍はすでに消えていた。そして敵の姿も消えていた。


「どういうこと……?」

「どうもこうもまだ終わりじゃねえってことだ」


 砂煙の向こう、何か動いているものが見える。しかしそれはゆらりと動くとその姿を消した。


「構えろ!」


 アレンが叫んだ。その瞬間、ドンッと音がしたと同時に彼が後ろに吹っ飛んだ。


「ちぃっ!」


 直後シーラがカガリを突き飛ばす。カガリが地面に倒れ込むと彼もまた背後に吹っ飛んだ。そして彼女に影が差す。


「今のはいい一撃だったな。久しく感じなかった命の危険とやらだったぞ」


 そこには赤髪の男が立っていた。先ほどまでの大男とは違い、かなりスリムだ。だが、格好は完全に一致している。


「だが遅かったな。我の体も十分暖まった。完璧に躱すことはできなかったが、この程度の傷で済ませられたぞ」


 そう言う彼の左肩は鎧が砕けていて、さらに大きく穴が開き、血が流れていた。だが、さも何事もなかったかのように平然としていた。


「先ほどまでは本気を出せなかった。その非礼を詫びよう。そしてこれから我の本気を見せよう。勇気を持って立ち向かうお主らへの礼としてな」


 敵は腰に差してある大剣を取った。そしてそれを軽々と振るい、カガリへと振り下ろした。


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