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タガタメ  作者: ゆきうさぎ
そして物語は始まる
20/43

報告

前回で終わらなかったのでほんの少し書き足し。これで初依頼編は終わりです。

 翌朝、もといお昼過ぎに私はようやく目が覚めた。それはカガリも同じだった。私たち二人とも魔力切れのせいですっかり寝過ごしてしまった。


「だらしなく寝やがってから。しっかりしろよ」


 なんてシーラから軽口を叩かれたりもした。とはいえ、『不死王』を倒した今、残るは魔族の残党、しかもそいつらが来るかもそもそもわからない。消化試合といった感じなので特に焦る必要はないのだ。


「お祭りは日が沈む頃に始まるって言ってたから、それまでは休んでおくといいよ。魔力まだ回復し切れていないんだろ? フラフラで倒れられても困るし、時間が来るまで大人しくしとくといい」


 シーラと違い、アレンは優しく労ってくれた。……たぶん、二人とも叱ったら私たちがしょげるからだろうけど、なんとも優しい奴だ。

 ということでお言葉に甘えて私はもう少し寝ることにした。実際まだ魔力は回復し切れておらず、頭もぼーっとしてるからね。


「それじゃ、おやすみ」


 私は改めて眠りについた。





 小さい村ながら毎年行っている祭りだけあってものすごい盛り上がりだった。今年は魔族の心配もなく、近隣の村からも参加しているからひときわ賑わっているらしい。


「これも全部嬢ちゃんたちのおかげだよ。ほら、食った食った! 今夜はサービスしてやるからたくさん食えよ!」


 おじさんが料理をたくさん渡してくれる。この村で採れた野菜をふんだんに使った料理。うん、おいしい。


「ありがとう。ほら、カガリもどう?」

「あ、うん。もらうね。ありがとうございます」

「気にすんな! なんてったって嬢ちゃんたちは村の英雄だからな。これくらいしかお礼できねえのが逆に申し訳ないぜ」


 豪快に笑ってくれる。その声に他の人たちも続々と集まり、私たちにお礼を言いながら料理をくれた。落ち着いたころには両手いっぱいの料理を抱えていた。


「あはは、どうしようかこれ」

「とりあえずアレン達の所に行こうか」


 落とさないように気を付けながら二人の元まで行く。


「……二人もか」


 そこには私たち同様両手いっぱいに料理を抱えた二人がいた。


「……食べきれるかな?」


 せっかくもらったのだから残すのは勿体ない! ということで四人で分けながら料理を食べ進める。村の広場では伝統の舞踊と言って若者たちは踊っている。それを眺めながら、ようやく一息ついた。そういえば、ここに来てからここまでまったりしたことなかったな。


「俺の索敵にも引っかかってないみたいだし、もう来ないんじゃねえか?」

「それだといいが……。みんなはどう思う?」

「私は心配かな。もう1日2日は様子見た方がいいんじゃないかな?」


 うーん、どうだろう。『不死王』とその手下を見る限り、あれは無理やり従わされている感じがしたんだよな。だとしたら攻めてこなさそうだし、でも仇討ちとか変な義理立てするとなぁ……。


「ティアナはどうなんだ?」

「そうだねー。たぶん大丈夫じゃないかな?」

「その根拠は?」

「あの魔族たちは『不死王』に従わされてたって感じだったから。報復とかもないと思うよ。来たとしても大したのじゃないのかな?」


 私一人でも全然余裕で倒せるくらいのしかいなかったし、たぶん問題ないと……。


「そっか。なら出発は二日後にしよう。それまではお祭りを楽しもうじゃないか」

「そうだな。元々長く滞在するつもりだったし、いいんじゃねえか?」

「賛成! じゃ、こんな話は終わり! 祭りを楽しもっか!」


 私は適当に料理を頬張り、踊っている人たちの輪に加わりに行った。周りの黄色い歓声を浴びながら、見様見真似で動きを合わせる。


「ひゅー! いいぞいいぞぉー。様になってるじゃねえか」

「ほらほら、他所者(よそもん)の嬢ちゃんに負けてるぞー! しっかり踊れ踊れ!」


 盛り上がる祭のムードに踊りが白熱していく。村中に笑い声が響き渡る。祭の夜は冷めぬ熱狂に包まれたまま朝まで続いたのであった。



「お世話になりました」

「気にするな。お前たちのおかげで村は助かったんだからな。正直、もう少し報酬を増やしたいくらいだ」

「いやいや、ここまでよくしてもらったのに……。むしろこっちがお礼をしたいくらいですよ」

「それならまた遊びに来てくれ。みんな歓迎してくれるだろうからな」


 祭から二日後、行きと同様にクーガさんにアルサーンまで送ってもらった。帰りも特に魔族などに襲われる事無く、のんびりとしている内に帰り着いた。


「依頼に関しての報酬は本部に届けている。そっちで受け取ってくれ。それじゃあな」


 そう言ってクーガさんは去っていった。


「さて、俺たちも帰ろうか。オズさんに報告しないといけないしね」

「そうだな。久しぶりにあの人の料理も食べたいし、さっさと帰るか」


 私たちは『思い出の家』と戻る。オズさんにはなんて報告しようか。依頼が無事に達成できたことはもちろんだけど、あの人が倒すことができなかった『不死王』をみんなで倒したなんて言ったらきっと驚くだろう。

 そう考えているとわくわくが止まらない。それに今回の依頼で村の人にはたくさん感謝された。仕事だからと言われればそうだけど、やっぱり自分が悪者を倒してみんなから感謝されるのは『英雄』っぽいな。少しだけど夢に近づけたかもしれない。


「おいティアナ、一人で先に行くな」


 自然と足取りが速くなってしまう。気を付けないと。


「全く浮かれやがって……」

「ふふ、兄さんも浮足立ってるよ」

「ば、ばか言うな! 俺をあいつと同じするな」

「全く、少しは落ち着きなよ」

 


 やいのやいのと騒いでいる内に『思い出の家』の前までついた。中は明かりがついている。中にきっといるようだ。


「ただいま戻りましたー!」


 勢いよく扉を開ける。相も変わらずお客さんはいない。オズさんがカウンターに座ってお菓子を食べていた。


「ん……。おお、もう戻ってきたのか。おかえり」


 私たちを見て、立ち上がりそのまま私たち4人まとめてぎゅっとハグしてきた。


「いやー君たちがいなくなってここも静かで寂しくてね。ランドたちも全然来ないからほんと毎日一人でさ。やっと帰ってきてくれてほんとにうれしいよ」

「そんな一週間ちょっとなのに……大袈裟ですよ」

「いやいやそんなことないよ。……それで依頼の方はどうだったのかい? 僕の見立てではもう少しかかると思っていたんだけど」


 私たちを放し、オズさんはカウンターの奥に一旦移動する。それから人数分の飲み物を用意してくれた。


「さ、座るといい。お土産話、聞かせてくれ」


 オズさんに促されるまま、今回の依頼の顛末を話した。最初は苦戦したこと、それから力を合わせて『不死王』を滅ぼしたこと。その後、祭を楽しんだことまで。全部包み隠さずに話した。

 その話をオズさんは真剣に聞いてくれた。そうして話し終えた後、満面の笑みを浮べた。


「そうなのか。君たちはあれを滅ぼしたのか。うんうん。僕の見立ては間違いなかった。本当にお疲れ様」


 屈託のない笑顔を向けてくれる。なんだろう。驚かせようと思ったけど反応が違う。


「毎年あの村は魔族に悩まされていた。僕も何とかしようにも追い払うしかできなかった。それがこれで何とかなると思うと僕も安心だ」


 オズさんは私たち一人一人の頭を撫でてくる。少し照れくさいけど、同時に嬉しかったりもする。


「だけど、君たちの取った作戦、一歩間違えれば全滅だってあり得たんだ。無茶はしないでくれよ。君たちはうちのホープなんだから」


 最後に厳しい口調でそう言った。


「す、すみません」

「ごめんなさい……」


 立案者だったカガリが小さくなって謝る。私もそれに続いた。


「ま、無事だったからいいけど。くれぐれも気を付けるように。――さて」


 オズさんが立ち上がった。


「お腹すいてるだろう? 今から簡単に作るから荷物を置いておいで」

「「はい!」」


 料理を食べながら、さっきは言わなかった。自分たちの活躍をオズさんに話す。興味津々に聞いてくれ、自分の過去の依頼の時のことを話してくれた。

 その後、どこからか報せを聞きつけたランドさんとアマネさんも訪ねてきてくれ、結局夜遅くまで騒いでしまった。


 そして依頼達成報告や報酬受け取りが遅れたのはまた別の話である。


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