プロローグ
「…………」
なんで私こんなところで倒れているんだろう。雨がこんなにも強いのに。私の体はどんどん濡れていってる。冷たい。冷たい。冷たい?
おかしい。だんだん冷たくなくなってきた。誰かが暖めてくれてるのかな。でもわたしのすぐそばには誰の気配も感じない。じゃあなんでだろ……。
しかしその原因を考える間も無く、今度は別の感覚が襲ってきた。
「ああ……ぁ、痛……い。痛い…よ…」
全身に響く痛み。しかもただの痛みじゃない。それをわたしは知ってる。
死に繋がる痛みだ。このまま放置していたら間違いなく死ぬ。それだけの大傷をきっと私は今負っているのだ。
「痛い……苦しい……助け………て、」
すぐに治療しないと。私はそう思って止血の魔法を使おうとする。だが、魔法が使えない。
「え……な、んで……」
紡いだ言葉はただの言葉となり、求めた結果とはならなかった。
「うっ、ぐ…」
血を吐く。いけない。このままでは危険だ。
かろうじて動く体をなんとか動かす。よろよろと這いつくばって進む。どこにでもいい。休める場所へと私は進む。
しかし、
「逃げるな!!」
誰かが私の頭を抑え、地面に叩きつけた。
「きゃっ!?」
さらに両腕も抑えられた。身動きが全く取れなくなる。激しく抑えられ、鈍い痛みが一瞬体に走った。
「な、なんで……」
しかし私は抑えられたことによる痛みはすぐにどこかへ行き、私を抑えた人物に対する驚きしか感じられなくなった。
それは私のよく知る人。私が信頼していた人。その人が今こうして自分に刃を向け、殺そうとしてきている。
その現実に私は雨の冷たさも傷の痛みも何も感じられない。ただただ心に深く突き刺さる"何か"が私の頭の中を埋め尽くしていた。
その感情が何のかはわからない。ただ、今まで感じたことのない、おそらく”抱いてはいけない感情”だということだけはわかった。
よく見ると彼は涙を流していた。私をこれから殺そうとするのになんで涙を? 私は信じていた。ずっとずっと一緒だと信じていた。だけど、裏切られた。こんなこと絶対に起きるはずがないって思ってた。
なのになんで!? なんで私がこんな目に遭ってるの!?
私が何をしたの? 私はただなりたかった。そうでありたかっただけだったのに。
憧れていた存在に、私はただなりたかっただけだったのに……。
「うぅ……ぐすっ……。嫌だ。死にたくないよ……。まだやりたいこといっぱいあるのに……」
私は目一杯に涙を流す。命乞いをする。そうだ。これからだったのに。
「すまない……すまない……」
彼は涙を流し、謝罪の言葉を何度も何度も重ねる。だが、剣を持つ手は力が籠められ、今にも振り下ろされんばかりだ。
「…………」
何とか顔だけでも上を見上げ、彼の顔を見る。悲壮な表情で、とても辛そうだ。
「……やめよう、よ。仲間、だよ、ね……?」
「……仲間だからこそ、なんだ」
駄目だ。彼は覚悟を決めた目をしている。『仲間』だからこそ知っている。
「…………」
諦めるしかないの……? それしか、もうできないの……?
そうして彼は剣を私に振り下ろそうとする。
その時、私はようやく気づくことができた。
私の中で蠢く感情。これが
『絶望』
なんだということを。
このお話のあらすじを友人に話したら主人公にめっちゃ愛着持たれました。
そんなお話です。