Star-3
「いやいや、こいつがまた強くてさ」
「でも最終的には勝ったんでしょう?」
「まぁ、俺達の敵じゃあなかったな」
鹿狩りを終えて20分後、俺達は森の入り口前まで戻り雑談をしていた。
そして雑談をしながらもグルウィさんは1人でポーションを作っていた。
なんだろうね、この全部任せちゃってる感。
「ほい、これで最後ね」
ちょうど話に切りがついたタイミングでグルウィさんが全ての調合を終わらせた。
そしてバッと勢いよく立ち上がるのは俺の妹ことラグナ。
「それじゃあ話も切りがついたところで、今回の戦績発表を行いたいと思いま~す!
まず、今回手に入った『レギ薬草』は31個!
そして『そよ風の角』が27個!
よって今回の『グリーンポーション』は27個!
これを各自に9個ずつ配布するんだけど、お兄はこのポーションをどうする気?」
「そりゃあ、折角作ってもらったんだし大事に使わせてもらうよ。
後衛職だから多分HPの伸びも悪いだろうし、デスペナは嫌だ」
このゲームにもデスペナ、デスペナルティはあるようで、内容は安定の経験値減少だそうだ。
「お兄ならそう言うと思ってた。
まぁ、そういうのはお兄の良い所だと思うよ?
でも今のお兄はガンナーで金が必要なんだから、3個は残していいから6個は売る事」
「というより、こういうのって結構上位の物以外は3割残して7割売るっていうのが主流なんだよね。
時によっては全部売っちゃう時もあるぐらいだし」
まぁ、金が必要なのは事実なんだよな・・・
5発売ったから、1レベ上げるのに250Gの出費か。
これからもどんどん金が溶けてくんだろうなぁ・・・
「はい、お兄さんの分ね」
グルウィさんがそう言うと青のメッセージウィンドが出てくる。
受け取るか受け取らないか、勿論受け取る。
「1個が80Gで売れるから480Gと予備のポーション3つだね。
残ってるのが確か220Gだから、これで700Gまで回復出来るね」
そんな金も弾14発で消えるんだけどな・・・
「ちなみにラグナはどう使うの?」
「私はやっぱり『風のリング』に使おうかな。
アレなら中盤まで使えるからね」
「リング系かぁ・・・私はもう一冊魔道書買おうかリングにするか迷ってるところなんだよね」
「まぁとりあえず爪で戦うなら『ブラインドネス』は欲しいよね」
分配を終えて町へと帰還。
前方を歩く2人の会話の邪魔にならないようにずっと黙ってたけど、案外黙ってるのって辛いな。
「あ、そだそだ、お兄さんとまだフレンド登録してなかったよね」
「ん?あぁ、してないな」
「今後のためにも、ここは一つよろしくお願いしまーす」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
その後一旦別れてお互いに買い物に。
とりあえずあの店に行くかな。
「おじゃましまーす」
「やぁ、いらっしゃい。」
あら、今は爺さん1人か。
まぁ弾買うだけだから問題は無いんだけどな。
「お爺さん、弾薬の10発セットを1つお願いします。はい、500G」
「あいよ、それじゃあ頑張ってね」
1時間ほど前にも聞いた言葉と共に弾薬を受け取り店を出る。
さてと、これから何をするか・・・
「野良パーティーに参加して狩りをするにもこの装備だとなぁ・・・」
「まぁ、確かに銃は不評だからなぁ・・・
新参はまず組まないだろうし、β勢はお互いの顔を憶えておるからな、新参の銃使いなどパーティーに入れんだろう」
「ですよね・・・って、ん?」
ちょっと待て、俺は誰と話してるんだ?
周りを見るが誰もいない・・・いや、通行人はいるけどさ。
「おい、どこを見ている・・・我はここだぞ」
ぐいっと服を引っ張られて気づく、なんかちっこいのが俺の隣にいた。
「え~っと、誰ですか?」
「はぁ・・・この姿では分からんか。
紅蓮を極めし者、白夜の支配者、新緑の女神・・・これぐらい言えば分かるか?」
「え?いや、その・・・何を言っているかさっぱりなんですが。
あの~、人違いじゃないですか?」
なにこの幼女・・・中二病?
いや、ただのアバターなだけだから背後が本当にそうかは分からないけどさ。
「おいおい、まさか忘れたわけじゃないだろうな?」
いやいやそんな不安そうな顔で見られても困るって。
ってかなんかかわいいな。
いや、俺はロリコンじゃないぞ?断じて違う。
「いやあの~、だから人違いなんじゃ・・・」
「間違うものか!!
その目その髪その態度!間違いなく暁の聖槍!
ルルーク、どうして分からんのだ!」
おい待て、暁の聖槍だと?
それは昔やっていたMMORPG内での俺の二つ名・・・
ん?確か白夜の支配者って・・・当時同じパーティーにいた魔法使いの二つ名だったような・・・
よくよく思い出してみれば他の二つも別のMMORPGで仲間だった魔法使いの二つ名だ。
っていうか今にも泣きそうな顔をするな、なんか罪悪感が湧いてくる。
「あの・・・もしかしてフラムさんですか?」
うん、確かそんな名前だったはずだ。
すると幼女の顔がパッと明るくなる。
うん、当たりらしい。
「ようやく思い出してくれたか・・・我は嬉しいぞ。
それで、これからの事なんだがな、さっきも言った通り、その装備では狩りに参加し難いだろう。
そこでだ、我のパーティーと共に来ないか?丁度新人の育成に東の平原にでも行こうかと思っていてな」
新人の育成か・・・武器の性質を他人に知られるのは避けたいんだけどな・・・
まぁ、折角会えたんだしな、誘いに乗ってもいいか。
「いいですよ。
役に立てるかは分かりませんが、ボクなんかでよろしければ」
「まったく、相変わらずだな。
どうせ銃の性能についても知っているのだろう?
安心しろ、今回行くのは我と貴様、それに新人の3人だけだ。
ほら、さっさと待ち合わせの場所に行くぞ」
何故ばれたし・・・
とりあえずはついていくか。
それにしても・・・フラムか、懐かしいな。
俺がファンタジー系のMMORPGで男の娘として巨大なギルドに属している時は、いつも彼女が隣にいた。
最近は血なまぐさい銃の世界にばっか行っていたから完全に忘れてた。
フラムとの思い出を頭の中で振り返りつつその後を着いて行くと10分ほどで東門に着いた。
東門に着くまでにも少しフラムと話たが、相変わらず色々なファンタジーMMORPGで魔法使いとして暴れているらしい。
二つ名がさらに4つ増えたと上機嫌に話ている時のフラムは本当にかわいかった。
おい、誰だやっぱりロリコンだろって言ったの。
「おぉ、いたいた。
待たせたな、リンドウ」
「あ、フラムさ・・・ん・・・」
「・・・・・・」
おい待て、なんでお前がここにいるんだよ・・・おせっかい茶髪プレイヤーさんよ。
「ん?2人ともどうかしたのか?」
「い、いや何でもないです。はい。」
「フラムさん、この方がさっき言っていた?」
「あぁ、後に我が創設するギルドのメンバーの1人で魔法戦士志望のリンドウだ。
リンドウ、こっちは我が以前別のMMORPGで共に戦地を駆けた戦友のルルークだ」
「ルルークです、今回はよろしくおねがいしますね」
おせっかい茶髪プレイヤー改めリンドウににっこりと微笑む。
多分リンドウにはこの笑顔が威圧しているように見えていることだろう。
「よし、さっさと平原へ向かうぞ。
平原の狼は経験値効率が高いからな」
狼か、まぁ動きが速そうだが、どうせ噛み付くぐらいしか攻撃方法は無いだろうし問題はあるまい。
一応経験値のことを考えると2人が攻撃した後に攻撃した方がいいだろうな。
町を出て風の気持ちいい草原へ出た途端、急に殺気を感じた。
FPSでいつも感じている敵からの殺気と酷似しているそれの先を見ると、4匹の狼がこちらを向いていた。
「エリアに入った途端にエンカウントか、どうやら我らは運がいいようだな。
私とルルークで援護してやる、リンドウ、お前の好きなように動いてみろ」
「は、はい!」
そういって狼の群れに突っ込んでいくリンドウ。
小さな盾を構えて狼の攻撃を防ぐと、もう片手の剣で狼を切り裂こうとする。
が、相手は群れだ。1匹の攻撃を防いでもすぐに次の攻撃が来る。
結果、カウンターは決まらずに別の狼の攻撃を喰らってしまった。
ここの狼は噛み付かずに引っ掻いてくるのか・・・
「ったく、馬鹿な奴よ。
ちょいと手を貸すか・・・『サンダー』」
瞬間、快晴の空から一筋の雷が狼の1匹に当たり、狼は倒れてしまう。
「ほら、ルルークも撃ったらどうだ?」
「はぁ・・・それじゃあ遠慮なく!」
森での狩りを思い出しながら両手で銃を構え、狼の頭を狙う。
パスッという軽い音とともに別の狼が倒れる。
「これで1体2、奴もかなり楽になったであろう。
たかが狼4匹相手にこれとは・・・先が思いやられる」
「フラムさんは相変わらずのスパルタですね」
いや、これが本当にスパルタなのだ。
以前別のMMORPGで会った時は後輩に1人でボスを討伐して来いとか命令してた。
ここでもそのスパルタぶりは健在らしい。若干嬉しい。
「ええい、これならどうだ!『フラッシュ』」
フラムと同じくリンドウも魔法を唱える。
某狩猟ゲームのアイテムのような激しい光が辺りを包み込む。
「フラムさん、あの魔法は?」
「なんだ、魔法については調べていないのか?
まぁ貴様はいつも完全な物理で戦っていたしな。
あれは指定した10m以内の地点から1m以内に存在するキャラクターに激しい光を浴びせる魔法だ。
光が目に入ればスタン状態になってしばらく動けなくなる」
「・・・・・最初からそれを使っていれば・・・」
「我らの援護無しでも楽に倒せたであろうよ」
はぁ、どうやらリンドウはかなり馬鹿なようだ。