身に覚えがないのに呼び出された(留羽目線)
「にしても、楓は変わってるよね」
何度思い出しても笑える。
まさか、あの超絶シスコンなお兄ちゃんと付き合いたいなんて。
というか、
あの本性を知って、なお告白するなんて…ーーー。
「お兄ちゃんと付き合えるの、楓ぐらいだわ」
お兄ちゃんの彼女、柏木楓。
高校1年では同じクラスだったが、去年も今年も隣のクラス。
しかも高校1年の時は、話したことすらなかった。
元々人と話すのが苦手な私は、友達と呼べる人も居なかった。
有名すぎる兄を持つ妹として、地味な私でも、どうしても周りから好奇の目で見られていた。
『留羽ちゃん。来年から私が見張りますから』
付き合う条件に、妹の私に“変な虫”がつかないように見張ると提案した、変わり者。
『付き合おうか』
兄もすっかり心を許して、がっちり握手を交わしていた。
告白後に、オッケー出して握手するカップルなんて、初めて見たわ。
というか、そもそも付き合う主旨がずれている気がする。
「ちょっと留羽ちゃん?さっきから何笑ってるの?」
「あぁ、ごめん」
楓が兄の話を出すと、ついこの告白のくだりを思い出してしまう。
私が笑うのを止めると、クラスの女子が話し掛けづらそうに私の席にやって来た。
「あの…七瀬野さん」
「はい」
私はクラスメイトの方に顔を向ける。
「5組の鳥羽くんが呼んでるんだけど…?」
「え!?」
なぜ楓がそんなに驚いたのか、よく分からずに楓の方を向く。
「ちょっと留羽!いつの間にあのイケメンと知り合いに?」
楓が興奮して言う。
「知り合いになった覚えはないし。てか知らないんだけど誰?」
そもそも知り合いなんて、楓以外どこにも居ない。
私の態度に、楓がやれやれというようにため息をつく。
「鳥羽奏太くんだよ…この学校で然くんの次にイケメンだと認定されてるの!え、マジで知らないの?」
何で知らないの?本当にこの学校の生徒?とでも言いたげな表情をしている。
「いやなんかごめん…」
とりあえず楓の迫力に謝ってみた。
でも、知らないんだから仕方ない。
「ちょっと押さないでよっ」
楓が無言で私の背中をグイグイ押して、ドアのところまで無理矢理連れていく。
「あ、留羽ちゃん…」
「…―――」
あ、やばい。自然に眉間に皺が…。
でも、私がイラッとしたのも無理ないよね?
だって、なぜに初対面の私の名前を“ちゃん付”で呼ぶわけ?
「昨日はありがとう」
鳥羽くんが、突然お礼を言う。
「何の事ですか?」
―――というか、人違いじゃないですか?
私が真顔で言ったので、鳥羽くんは焦ったように補足する。
「ほら、予備校で消しゴムを拾ってくれたよね?」
「―――そうでしたか?」
そう言われても、さっぱりピンと来ない。
「ちょっとすみません、柏木楓って言います。」
私と鳥羽くんの間に割って入るように、楓が立ってくれる。
「この子に話しても無駄です。私が変わりに話を聞きますよ?」
笑顔でなんてこと言うんだ、と思ったけどあながち間違ってもいないか…とすぐに思い直して、私は楓に後を任せた。




