届けたいもの(留羽目線)
大好きだったお兄ちゃんのことが、疎ましく思えてきたのはいつからだったろう。
『え、あれが然くんの妹…?』
『意外!なんていうかさ…ーーー』
『…“地味”よね』
中学にあがった私を待っていたのは、好奇の眼差しだった。全くの他人に、期待外れだとクスクス笑われた。
そしてそれは、“劣等感”として私に染み付いた。
容姿はともかく、せめて…大学ぐらいは良いところに行きたい。
お兄ちゃんの大学よりも、上に。
そして周囲に認められたい。
――――分かってる、こんなのただの自己満足。
『 つまらない意地、そして願掛けのようなもの。
でも、K大学に受かったら、胸を張って前に進めるんだ。』
――――そう思って、ずっと頑張ってきた。
バレンタインデー前夜、
私は明日に控えたK大学の合格発表に、
居てもたってもいられず、気を紛らすためにチョコレートケーキを作り始めていた。
「留羽、まさかそれ…奏太にーーー?」
キッチンにバイト帰りのお兄ちゃんが現われ、なにやらショックを受けながら聞いてきた。
「あ、うん…」
明日はバレンタインデーだ。うまくいったらラッピングして奏太にあげるのも、良いかもしれない。
私はお兄ちゃんに言われて、そうすることにした。
初詣の時、人前でキスされたのが恥ずかしくて御守りも買わずに逃げた私に、ちゃんと御守り買ってくれてたしね…。
合格祈願の御守りを買ってから、慌てて追い掛けてきてくれた奏太を思い出して、ふっと笑いが込み上げる。
「あーぁ、ついに留羽のチョコレートを俺以外の野郎も食べるのか…」
お兄ちゃんがイラつきながら、言った。
あげるとは言っていないのに、今年も私から貰えると思っているお兄ちゃん。
――――…何なんだろうこの人。
「お兄ちゃんは楓から貰えるでしょ?」
私が真顔で言うと、
「それとこれは別でしょ!」
お兄ちゃんはムキになって言い返してきた。




