大事なあの子(拓目線)
然の親友、拓。
留羽のために地元の大学に進学した然と違い、
東京の大学に進学した拓が帰省したときの話。
※拓はかなりのチョイキャラだったので前書きにて紹介しておきました。
見た目はイケメンではありませんが、中身はイケメンです。
年が明けて、家族で近所の神社に初詣に来た。
―――20才で親孝行する俺、我ながら偉いと思う。
すると、神社の近くでどこかで見たことがある女の子を見つけた。
「…留羽?」
俺の中では中学時代の留羽が最後だったから、少し自信がなかった。
目の前にいたその子は、初詣の参拝客で賑わうこの通りで、周りの人込みの中でも一目で目を惹く程の可愛らしさで、浮いていたから。
「―――あ。明けましておめでとう、拓ちゃん」
俺の自信のない小さな声が届いたのか、スマホから顔を上げた彼女が、驚いた顔をしていた。
――――マジで留羽だったのか。
中学時代は地味で、こんな輝きを放っていなかったのに。
―――まぁ、本人が気付いてなかっただけで、ベースは然と同じ美形だしな。
驚きながらも納得して、俺は留羽のところに歩み寄る。
「久しぶりだなー!…留羽、一人か?」
本当に久しぶりだった。高校卒業以来だから二年ぶりか?
それなのに、新年の挨拶がすぐにできる留羽は律儀なところは変わっていなかった。
「あ、待ち合わせ…してて」
うつ向いてそう答える留羽の表情で、俺はすぐに察した。
「彼氏か?」
――――ま、聞く前から気付いてたけど。
この可愛さの原因は、普通に考えて、“男”だろ。
「…――まぁ」
頬を赤く染めて、留羽が小さく呟く。
―――恋は女を変えるって、本当だな…。変わりすぎだ…。
「拓ちゃん帰ってたんだ?」
留羽が、話を変えようと話題を振ってきた。
「年末年始ぐらいはなー。」
俺は笑って答える。そして、ふとアイツが近くにいないことに気付いた。
「然は?何してんの?」
「お兄ちゃんも、今日はデートだよ」
留羽が何気なくそう答えた。
「“も”って。」
俺がクスッと笑ってからかうと、留羽が自爆したかのように顔を真っ赤にする。
「いや、良かったわー。俺、これでも心配してたんだぞー?」
「?」
俺の言葉に、留羽は首をかしげる。
―――お前があんな失恋して…。とは言えなかった。
今が幸せなら、それでいい。
「で、今の彼氏はどんなやつ?然は知ってんの?」
「うん…」
「へぇ」
―――あいつが認めた?どんな彼氏なんだろうな…。
俺が、そう思っていると、ガシッと乱暴に肩を掴まれる。
突然過ぎて、少し体がぐらついた。
「ちょっとあんた!」
振り返ってみると、…――長身の、しかも然クラスのイケメンが、俺を睨み付けていた。
――――…なんだこいつ、モデルか?
「俺の彼女に気安く話し掛けないでもらえるかな?」
「ちょっと待って奏太」
かなり慌てた様子で、留羽が突っ掛かる彼氏を俺から離そうとする。
「あぁ…ごめんね、じゃあ俺行くわ!じゃな、留羽」
―――彼氏、然みたいなヤツだな…。留羽もブラコンだもんなー。
一人で納得しながら俺は振り返らずヒラヒラと手を振って家族の元へ戻る。
「拓ちゃん…」
申し訳なさそうな留羽の表情に、少し胸を熱くさせながら。




