誤解しないで(留羽目線)
今日は、学祭。
奏太と過ごす最後の学校行事だし、良い思い出にしたいと浮かれたいところだ。
でも、どうしても素直に楽しめないのは…ーーー。
そう。一般来客でお兄ちゃんが来るからなのだ…。
「大丈夫だよ、お兄さんに殴られるようなことしてないし」
奏太が優しく私の不安を取り除くように言う。
「うん…」
―――…そうだよね。
毎日真面目に勉強もしてるし、成績も奏太と早朝勉強して上がってきているし。
何より、奏太と私はお互いちゃんと想い合ってるから…―――。
――――はっ、自分で回想して、赤面するとか!!
「留羽、顔赤くして何考えてたの?」
付き合いはじめて5ヶ月。
奏太はたまに、こうしてオオカミに豹変する。
どうしたらそうなるのか切替わりのスイッチはよく分かっていない。
「―――…な、んでもない!」
甘い関係も含め、順調だけど、こっちの奏太と居ると心臓が持たない。
「ふぅん…」
顔をわさと近づけて、まじまじと見つめながら奏太が笑う。
「奏太、人が来るから…ちょっと止めて」
キスされそうな距離まで近寄られて、私は目をそらして言う。
「どうしようかなー」
愉しそうな奏太の声。
―――…うぅ…。弱いなぁ…私。
「留羽ーっ」
その時、遠くから私の名前が聞こえた気がした。
――――…空耳だよね?
―――ほら、お兄ちゃんの声みたいな幻聴が…。
「留羽っ」
「お兄ちゃ…っ」
ガツッ!!
すごい速度でお兄ちゃんの姿がこちらに向かってくると気が付いた時には、すでにお兄ちゃんは奏太を飛び蹴りでぶっ飛ばした後だった。
「あ、お兄さん!どうも…」
吹っ飛んだ奏太は、どうやら正気に戻ったようだ。
幸い、怪我はしていなくてホッとする。
「どうも、じゃねぇ!お前、今留羽が嫌がってただろーが」
お兄ちゃんが奏太に掴みかかる。
「お兄ちゃん、違うの!!」
―――…確かに奏太に「止めて」と言ったけど、
私は…――――。
「恥ずかしかった…だけで…」
私がそうポツリと呟くと、奏太もお兄ちゃんも、
暫く動かなくなっていた。




