想定外の出逢いでした(奏太目線)
――――危ない…もしかして気づかれたか?
あの子と一緒に帰っているお兄さん、ただもんじゃない。
いやいや、そうじゃないよな…
帰る方向がたまたま同じだっただけなのに、
なんで俺はストーカーみたいな罪悪感を抱いているんだ…。
数時間前の出来事を、頭の中で再生する…――――。
『あの、』
最初話し掛けられたとき、正直「またか」と思った。
自意識過剰とか自惚れではなく、俺が女の子に声をかけられる時は大抵向こうに下心がある時だ。
告白、ナンパ…ーーーいつもの、その類いの話かと、うんざりしながら顔を上げた。
――――でも、違った。
『これ、落ちましたよ』
俺の机の上に消しゴムを置いた、その女の子は…ーーー。
清々(すがすが)しいほど、俺になんの興味も持っていない目をしていた。
「どうも…」
すべてが全く想定外で、それしか言葉が出てこなかった。
それから隣の女の子が気になって、受験勉強に集中できなかった。
えぇっとこの問題は…ーーー、
あ、そういえば隣のあの子、同じ高校の制服だな…ーーー
「!」
じゃなくて、この問題の場合に使う公式は…ーーー
俺のこと、知らないのかなー、さっきのあの反応からして…ーーー。
「!!」
じゃなかった、クールな横顔だなぁ…。
って、俺の頭の中、もはや雑念しかない!!!
仕方ない、続きは家に帰ってやることにしよう…。
俺は軽くため息をつくと、諦めて帰り支度を始めた。
すると、ちょうど同じタイミングで、隣の女の子も、鞄にペンケースや参考書を入れ始めていた。
――――そうだ、さっきのお礼を…ーーー。
話すきっかけに、と思って、彼女のあとを追うように予備校から出たときだった。
「るう」
男が先に声をかける。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
彼女は立ち止まって、驚いたような声を出した。
―――お兄さんか…良かった。
るうちゃん※のお兄さんは、背もすらりと高く、茶髪で今時の見事なまでのイケメンだった。
(※名前を知ってしまったので、俺は心の中で勝手にるうちゃんと呼ぶことにした。)
それだけに、一瞬るうちゃんの彼氏かと思った俺は、ホッと胸を撫で下ろす。
で、その後にハタッと気付いた。
――――ヤバい…完全に好きになってるじゃん、これ…。
そして何となく同じ方向だったから、二人の後ろをある程度の距離を保ちながら歩いてた訳だけど。
「まさか留羽のストーカー!?
もしそうなら絶対に許さない。
俺の天使には、指一本触れさせないからな…!」
え、なんだろう、悪寒がする…―――。
そして何より、前を歩くお兄さんからただならぬ殺気を感じる。
ストーカー?
え、俺ストーカーだと思われてる?
誤解だし…。
でも、まぁ…るうちゃんには好意を持ってますけど…。
――――あれ?
でも、るうちゃんに近づくには、この“妹溺愛の”お兄さんを攻略しなきゃじゃない?
どうやら俺は、前途多難な恋をしてしまったらしい。




