二面性彼氏(留羽目線)
―――――6月のよく晴れた朝。
いつもの待ち合わせ場所に向かうと、奏太はスマホを片手に持ち、既に立って待っていた。
―――奏太…!
私が笑顔で奏太の所に駆け寄るより前に、
他校の生徒が私の前を塞ぐように横から出てきた。
危うくぶつかりそうになった私には目もくれず、
その女子高生は、勢いよく走っていく。
そして、立ち止まる私の前で、それは起こった…ーーーー。
「あの…これ読んでください!!」
先程ぶつかりそうになった女子高生が、奏太に勢いよく手紙を手渡す所だった。
―――大丈夫。楓からさんざん言われていたから。
私はチクリと痛む胸に、そう言い聞かせる。
どうやら私の彼氏、鳥羽奏太は女子生徒に人気があるそうで、私と付き合う前から、これは日常茶飯事だったらしい。
でも手紙を受け取った奏太の表情はひどく不機嫌だった。
奏太は、自分以上に相手に好意を持たれると、嫌悪感を抱くらしい。
今の“あの子”は、奏太にとって初対面。
恐らくいつもこの時間に電車を待っている奏太に一方的に一目惚れでもしたのだろう。
だから今、奏太は嫌悪感を抱いているのだ。
少し離れたところから、私がそんな風に彼を分析していると、奏太は私に気が付き笑顔で歩み寄ってくる。
「留羽、おはよ」
手紙を乱暴に、ズボンのポケットに押し込みながら奏太が言う。
「おはよう…」
―――不思議なのは、なぜ奏太は私には嫌悪感を抱いていないのか。
私も彼女たちと同じで…奏太のことが好きなのに…。
私の好きな気持ちが奏太より上回っていないか…―――。
嫌われたくない私は、最近そればかり気にしてしまい、つい、奏太に素っ気ない態度をとってしまう。
付き合い始めてから、早朝にわざわざ学校の空き部屋を使って、二人で受験勉強する時間を作った。
「ん?」
勉強する奏太を盗み見ていると、顔を上げた奏太とうっかり目が合ってしまった。
「何でもない!!」
私は慌てて参考書に視線を落とす。
何してるの…私!
そんなことより勉強に集中しないと…。
仮にも受験生なんだし。
ぐるぐるとそんな考えを巡らせていると、
「留羽」
奏太が声をかけてきた。
「なに?」
私は参考書に目を通しながら返事をする。
「誘ってるの?」
「はい?」
私は、奏太の唐突な発言に、異常な反応をしてしまう。
―――さ、誘ってる?何を?
「さっきから、可愛すぎる表情して、煽ってるよね?」
私の心を読み取ったかのような言葉が、奏太から返ってくる。
「なっ」
――――何を言い出すの、本当に。
「赤くなる留羽、すっごく可愛い…」
いつのまにか、隣に座っていた奏太の顔が間近に迫る。
「――――や…っ」
奏太の指が悪戯に、私の耳を撫でて、くすぐる。
――――お願いだから、そうやっていじめるの止めてよ…。
――――私…奏太に触れられると…気持ちが止められなくなって…。
貪欲な気持ちが…溢れてしまいそうになるから…。
「奏太がそういうことするなら、私もう一緒に勉強しない!」
苦し紛れに吐いた言葉は、奏太の手をピタリと止めた。




