然の過去 ~可愛い妹の一言が人生変えた~
「すごーい!お兄ちゃんて格好良いね!」
俺が初めて逆上がりができたのは、小学校一年生になったばかりの日だった。
まだ四歳だった留羽が、天使のような笑顔で、
小さく可愛らしい手を一生懸命叩いて拍手しながら褒めてくれた。
あの時の快感がたまらなくて…その日から俺は留羽に褒められたくて何でも死ぬ気で成し遂げてきた。
それが、周りから…留羽以外から認められるようになり、
徐々に環境が変わっていったのだ。
――――中学時代の俺は、正直モテた。
教師たちに“優等生”のレッテルを貼られ、
やること成すことすべて褒められ、皆の手本だと言われた。
気がつけば学校で目立ち、告白されることが絶えなくなっていた。
今思えば、かなり調子に乗っていたと思う。
中学時代の俺はまさに“若気の至り”。
そんな日常に、なに不自由なく過ごしていた俺の女関係は、
「来るもの拒まず、去るもの追わず」。
まぁ、よっぽど可愛くないやつとかは無理だけど。
――――そんな自由自適な性活を送っていたんだ。
あの日までは。
「然っ」
――――あれは高校二年生も残り僅かな、3月のある日のことだった。
「拓、どした?」
息を切らせて教室に飛び込んできた、幼馴染みの石野拓は、
家も近所で、小さい頃からいつも一緒だった。
「お前、妹が同じクラスの一宮圭と付き合ってるって言ってたよな?」
―――拓がわざわざ確認をとる。
拓も知ってるだろ、一宮圭は、同じ中学の後輩。
留羽とは中学一年から同じクラス。
留羽と付き合い始めたのは確か去年のクリスマスだったか…。
俺は特に気に止めることもなく、返事をする。
「言ったけど?」
―――今日の放課後は確か彼女1と約束してたよな…明日は確か2が――――。
俺が携帯電話を弄りながらスケジュールを把握していると、
「あいつ、他に本命いるらしいぞ」
拓が、息を整えた後に、そう言った。
「は?」
笑えないな、その冗談。
俺が無言で拓を睨むと、拓が慌てて言う。
「凛だよ」
「凛?」
…――――どっかで聞いた名前だな。
「お前が去年別れた、元カノの一人だろーが」
聞き返した俺を、呆れるような目で拓が見る。
「然が凛と遊びで付き合ってたの、知って。その腹いせに…ーーーー」
同時に何人もの女と付き合って、それがバレて去っていく女に未練も無くて。
別にどうでもよかった。
中には本気だったのにとか泣いたり、そういう“付き合い”が出来ない女もいた。
別にどうでもよかった。
だって“代わり”は…いくらでもいたから。
自業自得…。
それならまだ納得がいく。
でも…あいつは…――――
一宮圭は、俺の大事な妹に、俺がしてきたことをした。
留羽を好きにさせて、もてあそんで…
留羽は本気だったのに…棄てた。
自分の行ないが、まさか留羽に…――――。
留羽は何も悪くない…、悪いのは俺なのに…ーーーー。
愛する妹を護れなかった悔しさと、傷付いた留羽への執着。
留羽…ごめん。
俺はなんて格好悪い兄ちゃんなんだろうな…。
留羽のために、俺、変わるから。
もう絶対傷付けない。誰にも傷付けさせたりさせない。
お前には、ずっと俺がついてるからな。
『お兄ちゃんて、格好良いね!』
―――――あの笑顔を、取り戻すまでずっと。




