過去のしがらみ(然目線)
『お前、つまんねぇ女だな』
『え…圭ちゃん?』
『あの兄貴の妹だから、付き合ってやったのにな』
俺の留羽に、傷をつけたあの男。
アイツが出てくる夢を見るなんて、目覚めは最悪だ。
胸くそ悪い気分で俺は朝、目が覚めた。
あいつのせいで留羽は…ーーーー。
思い出すとマジで殺したくなるから、記憶から消してたはずだったのに…――――。
あんなに泣いた留羽を、俺は見たことがなかった。
身から出た錆び…だったらまだよかったのに…。
現実は、思いがけないところで、思いがけない人が被害を被るんだと思い知った。
俺は留羽を守れなかった。気づいてやれなかった。
自分のことばっかりで…ーーー。
だからもう、同じ過ちは繰り返さない。絶対に。
「おはよう、お兄ちゃん」
牛乳を一気飲みしていると、後ろから留羽の声がした。
「…おはよう」
振り返ると、制服姿の留羽が俺をじっと見つめていた。
…―――か、可愛い。
ん?…――――それに、なんか雰囲気違うと思ったら、
留羽珍しく今日はリップしてるな…。
「行ってきます」
俺がぼんやり分析している間に、留羽は玄関で靴を履いていた。
「ついてこないでね」
そう言うと、家を出ていく。
「あ…」
行ってらっしゃいと言う間もなかった…。
無情にも、ドアが俺の目の前でパタンと閉められる。
仕方ないのでリビングの窓から、そっと留羽を見つめる。
「ッチ」
思わず舌打ちする。
――――家の前に、鳥羽奏太が迎えに来ていた。
「クソ…」
あんなに明るく笑う留羽は…久しぶりで。
でも、その笑顔は俺以外の男に向けられていて。
本当は俺が、笑顔にしてあげたかったのに…ーーーー。
「然くん」
大学の講義が終わると、ざわざわと皆席を立ち、移動を始める。
「おーい、ぜーんくーん」
目の前で手を振られ、俺は我に返る。
「何?」
同じ学科の、氷川志歩だった。
「こ、れ!こないだの授業のノート」
「おぅ、サンキュー」
俺は、お礼を言いつつノートを受け取る。
こないだの朝、留羽を学校まで見届けるために1限目を欠席した時の分だ。
―――どうでもいいけど、コイツ地声より声高くしてねぇか?
「ね、お礼に私とデートしてよ」
氷川が俺の座っていた席の前に座り、机に両手をつく。
「アホか。俺には彼女いるって言ってるだろ」
―――谷間でも見せて、誘惑してるつもりか?うぜぇ。
「彼女にバレなきゃいいじゃん、ね?」
氷川が妖艶に微笑んだ。
なんだよ、めんどくせぇな…。
「あぁ、俺さ…ーーー」
俺は、いつもの営業笑顔を見せて、氷川を見つめ返す。
「そういうやつ、生理的にムリ」




