揺れる想い(留羽目線)
繋がれた手は、どのタイミングで離せばいいんだろう…ーー。
この甘い時間が、くすぐったくて…――――
そして、ものすごくいたたまれない。
「そういえば留羽はどうして予備校に?」
街中を歩きながら、鳥羽くんが話をふってくる。
「あ…、ーー―私勉強出来ないから。」
―――出来の良いお兄ちゃんとは違って。
私は取り柄とかもないし、全てが平均的。
「大学、行きたいなと思って」
――――お兄ちゃんには敵わないけど、
でも妥協しないで少し無理でも自分が頑張ったと思えるところには行きたい。
なんて…これはただの意地かもしれないけど。
「俺で良かったら解らないところ教えるよ?」
鳥羽くんの言葉は、私の気持ちを明るくする。
「こう見えて一応学年では上位だから」
わざと偉そうな口ぶりで、鳥羽くんが笑う。
「じゃあ今度お願いしようかな…」
だから私も…――気付くと笑顔になってるんだ。
「うん」
私の言葉に、鳥羽くんが嬉しそうに頷いた。
駅前のドーナツ屋さんに入り、いよいよ本題に入ろうとする。
忘れかけてたけど、今日の帰り一緒に帰っていたのは、
ダブルデートの時に不自然にならないための作戦会議という名目だった。
お兄ちゃんのことだから、きっと質問攻めに遭う。
「鳥羽くんは…」
「その前に、二人の時もお互い名前で呼ぶようにしない?」
私が話し出そうとした時、ニコッと鳥羽くんが笑顔で提案する。
「え?」
「その方が自然でしょ」
「…そうだね」
恥ずかしいけど…、その通りだ。
「じゃあ早速、お互い好きな食べ物でも言い合うところから始めよっか」
「うん」
――――――奏太は、優しい。
彼氏のふりなんてこんな馬鹿げた無茶苦茶なお願いを、快諾してくれて。
こんな私のことを、好きだと言ってくれた。
ひととおり聞かれそうなことはお互い話終えて、
一息つくと、奏太が言う。
「――――他に、聞きたいことある?」
少し迷ってから、私は答える。
「…ううん、無い」
無いと言えば嘘になるかもしれない。
――――本当は、あの時の言葉がずっと気になってる。
『俺、留羽のことお兄さんに負けないぐらい大事にしますから』
あの台詞は、本心だったのかということ。
私はすぐに本気になってしまうから…ーーーー。
信じることが怖い…。
あれは演出?
本当に本当?
聞きたくても、勇気がなくて聞けない質問。
「あげる」
奏太が突然私のお皿に自分の皿にあったドーナツを置いた。
「え、なんで…」
「留羽、チョコレート好きって言ってたから」
「いい、貰えない」
私は奏太にドーナツを返そうとする。
「良いから。彼女の好きなもの分かった記念にプレゼント」
片手に頬杖をついたまま、そう言って奏太が微笑む。
「あ、ありがとう…」
なんだろう…ーーー不思議。
――――奏太の隣は不思議と居心地が良い。
本当に彼女になれたら、きっと幸せだと思う。
でも…ーーーだからこそ、私は信じることが怖いんだ。
以前にも確かに、こんな気持ちになったことがあったから…―――。
『俺たち付き合おう、るう』
好きだと思っていた人に告白されたあの日。
『好きだよ』
同じ気持ちだと、信じていた日々。
そして…ーーー
『たいしたことなかったわ』
それが、全部嘘だったと知った瞬間。
あの頃の出来事は過去で、もう関係ない。
―――――分かってる。
奏太は、“彼”とは違う人だ。
―――――分かってる。
奏太は信じても大丈夫。
だから…もう一度、恋する勇気が欲しい…――ーー。




