受験生です、高3です (留羽目線)
―――――それは、予備校の自習室での出来事だった。
「あの、」
隣の席から、足元に消しゴムが転がってきて、私は、それを拾った。
「これ、落ちましたよ?」
気だるそうに顔を上げたその人に構わず、私は消しゴムを机の上に置く。
「どうも…」
気だるそうに顔を上げたその人は、
私と目が合うと、驚いたような顔をして息を飲んだ。
「るう」
自分の名前は変わっていると思う。
“留羽”なんて名前、今まで同じ人に会ったことがない。
だからこうして、名前を呼ばれるとそれはどこにいても“私のこと”だと思う。
「どうしたの、お兄ちゃん」
予備校の塾を出たところで私を呼び止めたのは、
二つ年上の兄、然お兄ちゃんだった。
「どうしたの、じゃないだろ?もう21時だぞ!」
――――声、でかくない?
相変わらず、兄は私に対して過保護だ。
とりあえず私のことになると、つい熱くなるらしい。
「変な男に後でもつけられたら大変じゃないか」
いや、すでにお兄ちゃん自身が“変な男”として、視線バシバシに浴びてますけどね。
――――とは、さすがに可哀想なので言わず、
予備校の前でいつまでも可笑しな注目を浴びるのは気まずいのでとりあえず歩き出す。
「お兄ちゃん、バイトは?」
兄は大学生、バーテンダーのアルバイトをしている。
妹に異常に過保護な兄だけど、はたから見ればかなり顔はイケている。
バイト先でも、女の子達に言い寄られているらしい。
「今日は休んだ」
然はなぜかどや顔をして、親指をグッと突き出してくる。
これを見る限り、
まぁ、中身はイケメンと言えるのか怪しいところですが。
「そっか」
とりあえず私は、
会話が面倒になったのでスルーすることにしました。




