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放課後ロルプライズ!  作者: 場違い
1章・リアルとデジタルを繋ぐ鍵
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ボッチイーター その2

 このゲームの名前は『トゥエルブスターオンライン』。さっき見た公式ホームページの中の宣伝アナウンスでも、『星の物語』などとうたわれていた。

 その大きなひとつのテーマである『スター』と、トランプを使った多くのカードゲームにおいて切り札として扱われることの多い『ジョーカー』……。

 このゲーム内の『奥義』として、この上なくフィットしたネーミングだ。

 さっそく説明を読もうとしたところで、斗月は今度は手のひらで、俺の背中をバンバンと叩いた。


「痛っ、何すんだよ!もうちょいでいけそうなのに!」

「違うって、見ろよアレ!!」

「あ?…………おわあああああ!?」


 一瞬俺はそれを、カラスの大群か何かだと思った。

 しかしそれは、すごい速さで大きくなっていく。

 違う、これは大きくなっていってるんじゃない、近づいてきてるんだ。そう気付いた瞬間、もうひとつひどいことに気が付いた。

 …………これ全部、隕石なの?

 斗月が思い切りヨーヨーをぶち当てることでようやく弾き飛ばせていた隕石弾が、あんなめちゃくちゃな数一気に落ちて来たら、今度こそ回避は……いや、それどころか…………。


「兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆兆」


 ダイダラボッチの言語は相変わらず解読不能だが、なんとなく、俺たちの十数秒後の結末を想像して嘲笑っているようにも見えた。

 急いでマニュアルを読んで、着弾する前に勝負を決めようともしたが、ものの数秒で、自分が焦りすぎてろくに意味を追えていないことに気付いた。文字の上を摩擦係数ゼロで視線が上滑りしていく。

 頭を掻き毟る。クソ、せっかくここまで来たってのに……!


「そ、そうだ!斗月、お前俺に『安心してマニュアルに集中しろ』って言ってくれたよな!?」

「無理!前言撤回!!」

「はーキレそう!そりゃねーわお前!!」

「こっちのがねーよボケ!!あんな流星群止めれるワケねーっての!!つか、『りゅうせいぐん』の扱いならお前のが得意だろ!?」

「いつまで俺の厨パにボコられたこと根に持ってんだよ!ていうかたった5話までで何回○ケモンネタ使ってんだ、あぁん!?」

「知るか!あーもう知らね!!みんなゲームオーバーだバーカ!!」


 夏矢ちゃんに助けを求めようとするも、遠くの方で片手で銃をパンパン鳴らしながら、「アロハ~♪」と笑顔で手を振っていた。や女糞。

 ここさえ乗り切れば勝てるんだよクソッ!ロイヤルが初手で低コスト兵士でガンガン殴れば勝てるみたいに、ここで死にさえしなければ、必勝パターンに入れるんだよクソ!!

 さっきから探してばっかりだ。この絶望的な戦況を打開するためにマニュアルから奥義コマンドを探したり、ピンチを切り抜けるために何か手段がないか必死に脳内を検索したり。

 ふと上を見ると、無数の隕石は等加速度的に落下し、どんどんと迫ってきていた。


「あああああああ、間に合わねえ!斗月、サポートコンボ使え!!」

「あの技じゃこの状況は切り抜けられねぇと思うんだけど……」

「いーから!死ぬなら出せるモン全部使ってからだ!」

「クソが!MMOものなのに全然『俺TUEEEEE』できねえじゃねーか!!」

「メタいこと言ってねーで早く!!」


 閑話休題。

 余談ですが、ネット小説で俺TUEEEEEな作品が一般化しすぎて、作品を読む前の注意書きに『この作品には、主人公たちがピンチになる描写が含まれています』なんて書かれてたりしたらしいですね。困りものです。

 閑話休題終了。


「ナウド!ナウド!助けてナウド!」

「仕方がねぇな……ハインライン!!」


 斗月の頭上に蒼い龍が舞い降りたかと思うと、突如、斗月の装備しているヨーヨーが七色の光を帯びて輝きだす。両手合わせて2つだったヨーヨーは、龍のもたらす輝きによって、次々と分裂し、最終的に計8つに増えた。

 本物のネコみたいに斗月の肩に飛び乗ったナウドが解説をする。


「天秤座のサポートコンボは『武器の強化』……。単にヨーヨーが増えて一撃あたりのヒット数が増えているだけでなく、パワー自体も強化されている」

「お、おおおおお!!これならいけそうな気がしてきたぜ!!」

「え」

「フゥーハハハハハハハ!!フゥーハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


 斗月は俺の前に立つと、落ちてくる流星群を、パワーアップしたヨーヨーをめちゃくちゃに振り回して、ひとつ残らず粉々に砕いてゆく。

 黒い塊がヨーヨーの射程距離を境にバラバラと弾け飛ぶ。その欠片が俺たちを避けて後方へと飛んでいき、まるで真っ暗なトンネルに迷い込んだように視界が黒く染まる。

 ……いや、たしかに助かったんだけどさ。お前らはいちいち発狂しなきゃ必殺技が使えんのかと。


「怜斗!とっとと決めちまえ!!」

「ああ、言われなくてもな!」


 マニュアルには、こう書かれていた。

 『スタージョーカーの発動は、それぞれ次の言葉を詠唱することで可能です。』

 いかにも厨二らしい詠唱文が、各星座ごとに設定されているらしい。

 2秒、3秒、4秒……。双子座のスタージョーカーを発動するための詠唱文を完璧に暗記し、パン、と手を叩いてメニューを閉じる。

 夏矢ちゃんと斗月の視線を感じながら……そして、最後に物言わぬダイダラボッチを睨みつけ、目を閉じる。瞼の裏に浮かぶ詠唱文を、口でなぞる。


「……十二の星座の三番目、神話の導きにより『ジェミニ』の真の力を発せよ……」


 目を見開き、俺はその奥義の名を……。

 ずっと探し求めていた奥義の名を、叫んだ。


「『星の十二人兄弟トゥエルブスタージェミニ』!!」


 俺の影から、11人の『真っ黒な俺』が生まれる。

 身長も、シルエットも完全一致しているのだが、そのどれもがのっぺらぼうで、唯一、不気味なほど端を釣り上げた口だけが視認できる顔のパーツであった。

 全ての俺が、明らかに自分の体に見合っていないサイズの武器を軽々と振り回している。日本刀、釘バット、鎌、ハンマー、バズーカ砲、ライフル、鉤爪、爆弾、モーニングスター、鉄骨、弓矢。

 ウケケケケケケケケケケケケケ、と、背筋が凍るような奇妙な笑い声を飛ばしてくるのに。不思議と、何故か、たくさんの自分がいることに安心を覚えた。


「税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税税」


 ダイダラボッチが、急に地面を殴り始める。敵AIにも、危機感というものがあるのかもしれない。

 反撃とかの妙なアクションを起こされる前に、勝負を決めてやる。


「突撃ィィィィィィィィィッ!!」


 俺がダイダラボッチに向かって走り出すと、それに並行して11人の俺もついてくる。それこそまさに、俺の影であるかのように、正確に。

 正面を見ているだけでは、ダイダラボッチの足元しか見えない。

 ……脳天に集中攻撃を叩き込んで、確実に仕留めるには、どうすればいいか。


「箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆箆」


 ダイダラボッチの右足が上がり、12人まとめて仕留めるつもりなのか、集団のど真ん中を走る俺に向かって振り下ろされる。

 しかし――。


「片足がガラ空きなんだよ!『影よ、敵の体勢を崩せ』!」

『ウケェェェェェェェッ!!』

「外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外外」


 釘バットの『俺』とハンマーの『俺』を使い、右足を上げたせいで1本だけの支えになっているもう片方、左足を思い切り殴って掬い上げる。

 やがり奥義パワーというべきか、ドォォォンッと音が響いて空気が震え上がり、とてつもない重量を持つはずのダイダラボッチの左足は、コントみたくバナナの皮で滑ったかのように地面から離れた。

 だが、体勢を崩したということはつまり、この巨体が地面の上に倒れるということでもある。


「ひぃぃぃぃぃぃぃ!?」

「怜斗!ちょっ……倒れてくるってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「『影よ、仲間を避難させろ』!」


 鷹匠のように腕を払うと、その方向へ向かって弓矢の『俺』とボウガンの『俺』が半ばワープじみた動きで飛んでいく。


『ウケケッ、ウケケケケッ!!』

「ぐえっ!」

「きゃっ!」


 斗月と夏矢ちゃんを、ダイダラボッチの影から外れたところへと乱暴に投げ飛ばすと、またもや光の速さを使って帰ってきた。

 ゆっくりと体勢を崩してスローモーションで倒れたダイダラボッチは、圧倒的な重量と巨体を思い切り地面にぶつけ、俺たちの体をはるか上空へと跳ね上げるほどの大地震を起こした。

 落ちていく体が風を切る。風圧に顔が歪んで目を閉じようとするのを、なんとか我慢しながら……だけど、これがゲームの世界だとは到底思えないくらい、底抜けに気持ちいい。最高の気分だ。

 上から見ると、とんでもなくイカれた光景が見えた。ダイダラボッチの巨体を中心として、地面に、水面のような波紋が広がっていっているのだ。

 しかし……わざわざ、脳天を狙いやすいよう持ち上げてくれるとは。

 いっしょに跳ね飛ばされたらしい夏矢ちゃんと斗月に向かって叫ぶ。


「斗月!夏矢ちゃん!一気に決めるぞ、援護してくれ!!」

「その前に文句言わせろ!」

「なによあの乱暴な助け方!シュワちゃん主演の映画のがまだマシな女性の助け方してるわよ!!」

「うるせえ、決めるぞ!!声揃えろ!!」


 はい、それではクライマックスです。

 自分の好きなカットイン画面をイメージしてください。


『総攻撃だ!!』


 影の俺たちが、横倒しになったダイダラボッチの頭を、それぞれの武器でぶった斬り、殴り倒し、潰し殺し、殺し殺す。

 ハンマーの殴打音、鎌の切り裂くビブラート、鉤爪の弦楽のような旋律。血が飛び散り肉が宙で踊り死が死を呼ぶ……『暴力を越えた乱暴すぎる何か』だけが支配する最悪のフルオーケルトラが完成した。

 当然、仮にもB指定程度のオンラインゲームにそんな残酷な描写は含まれているはずはないのだが……肉を抉られるようなダメージを受けても、一撃で失血死するほど血が出るようなダメージを受けても、痛みばかりを感じて全く肉体的損傷がないなんて……それは、逆にさらに残酷である気さえした。


「オラオラオラオラオラオラオラッ!!」

「死んじゃえっ、死ねっ、死にさらせぇぇぇぇっ!!」


 斗月は早々にダイダラボッチの腹の上に着地し、まだパワーアップ状態の続いているヨーヨーを一心不乱に振り回し、ドンドコドンドコと殴り続けている。

 夏矢ちゃんも微力ながら、銃口をダイダラボッチの肉に突き刺したまま撃つなどして、着実に少しずつ、ダメージを蓄積していってくれている。

 寝転がったダイダラボッチの体の上は、すでに地獄絵図と化していた。


 ……これで、トドメだ。


「『影よ、槍となれ』!!」


 狂ったように武器を振り回していた俺の影たちは、また元の『影』へと変態し、まだ落下中の俺の手元まで集まってきた。

 影が俺を象ったように、俺の握った影は、俺の願う最強の武器へと変貌した。

 紫色に光る、人の手には余る槍。

 巨人にとっては爪楊枝程度でも、人にとっては自分一人分の槍。

 遥か上空から、すべての重力と体重と気合を以て、今、ダイダラボッチの脳天を一突きにせんと落ちていき……。


 爆ぜた。


「祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝祝」


 ダイダラボッチの体は、霧となって溶けていき……。

 草原が、静けさで満ちた。


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