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放課後ロルプライズ!  作者: 場違い
4章・完全平等の電脳世界
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芦野春飛失踪事件 その6

 怜斗の指示は的確で、弱点属性である冷属性攻撃さえ使えば、ガメオベーラの動きを封じ込めることができるようだ。

 俺も、少々危険かもしれないとは思いつつも、接近してヨーヨーで殴る。

 アイシズリッドによって生まれる無防備時間を使えば、ただの通常攻撃でもそれなりのダメージを通すことができた。


《ナメないでくださいッ!》

「おおっと……!」

《『拒絶のプラネタリウム』!!》


 ガメオベーラは大きいアクションで俺を振り払うと、その肌の色と同じ黒い結界を纏って俺たちを遠ざけ始めた。

 触れると何か良くないことが起こりそうな……あの蝿の時で言うなら、触れると即死というチートスキル、『絶望の血潮』のような真っ黒さ。若干トラウマが刺激されて、身震いしながら後ずさった。

 ガメオベーラが広げた結界に、プラネタリウムの名の通り、輝く星々が映し出される。


「言うまでもないとは思うが、チートスキルだ……。効果は受けるまで分からん、直撃だけは避けろ」

「そうは言っても、あれに触れない攻撃手段なんて、世葉の銃と津森の全体魔法くらいだろ……!」


 世葉が、離れた場所から2発、ガメオベーラに向かって銃弾を放つ。

 現在世葉が使用しているこの『エンシスハイム』という銃弾、ゲームなどのフィクション作品には珍しく、発射の際にちゃんと薬莢の中身だけが飛び出すようになっている。

 もともと銃弾とは、セットするときこそアニメとかでよく見るあの形なのだが、発射する時には外側の薬莢やっきょうと呼ばれる外殻が外れ、銃弾の中身だけが飛び出すようになっている。怜斗がこないだやってたダン〇ンロンパでは、まぁデザイン重視だから仕方ないのかもしれないけれど、薬莢ごと飛んでいたな。


 ともかく、世葉の発射した弾丸は、発射の際に薬莢が捨てられ、中身だけが飛んで行ったのだが。

 『拒絶のプラネタリウム』に触れた瞬間、その弾丸は一瞬そこで停止し、再び薬莢に包まれたのだ。


「は!?」


 発射された瞬間に銃身から排出された薬莢。

 拒絶のプラネタリウムに銃弾が触れた瞬間、銃弾は再び、薬莢を身に纏った。


 そして、また動き出し、薬莢を纏った鈍い回転のまま進み、ガメオベーラの右腕に弾かれた。


「どうなってやがる!? 世葉、薬莢は!?」

「足元に落ちたままよ! 何が起こってるの……?」

《あはははっ! 可哀想、可哀想です! 私よりも可哀想なものができました!》


 ガメオベーラは、手を叩いて喜ぶ。おそらく、中にいる春飛も。

 可哀想……とは、タイミング的に、あの銃弾のことを言ったのだろうか? 薬莢に再び包まれたというだけで、特に可哀想とは感じないけど……。

 何なんだ、あのスキルの効果は?

 撃った攻撃が跳ね返ってくる、とかではなさそうだ。試しに、魔法を撃ってみることにする。


「ボイルリング」


 炎の輪は、ガメオベーラに向かって飛んでいくが、拒絶のプラネタリウムと交わった瞬間、消滅した。


「くっそ! どうなってんだよ!」

「……弾丸は薬莢が戻って、ボイルリングは消えた……」

「なんで、弾丸は消えなかったの?」


 世葉の疑問に、津森は考え込む。拒絶のプラネタリウムを睨んだまま、口元を抑えて。

 ふと、津森の目が見開かれたと思えば、津森はアイテムからウォッキを取り出し、瓶の中身を飲み干した。


「お、お前何やってんだ!?」

「私の考えが正しいんやったら……!」


 津森は警戒しながら、できるだけプラネタリウムに近付くと、空き瓶を、ゆっくりと転がした。

 プラネタリウムに触れた瞬間、ウォッキの空き瓶は……


 中身の液体を取り戻した。


「これ……!」

「……このプラネタリウムに触れると、《《前の状態に戻される》》んやな」

「そっか……だから弾丸は外れた薬莢をまた身に着けて、ボイルリングは発射される前のゼロに戻って、ウォッキは中身を取り戻した……ってことね」


 では、人間がこれに触れたら?

 タイムリープ? 幼児化? はたまた、得体の知れない、『人間の前の状態』に戻される……?

 俺は身震いし、叫んだ。


「怖えええええええええええええ!!」

《いいリアクションですね! きゃははっ、可哀想可哀想。もっと怯えた姿を見せてください!》

「い、いやいやいや! 人間の前の状態って何よ!? 胎児!?」

《果たしてどうなんでしょうかね? 概念としての人間の前の段階なんでしょうか、それとも歴史的に遡って猿人類?》

「お前にも分かんねーのかよ!」

《ま、私が確認したのは、『触れたものを前の状態に戻す』というだけですからね。てゆーか……》


 ガメオベーラは、クラウチングスタートのような体勢になる。

 赤ちゃんがクラウチングスタートを切るとはシュールな光景になりそうだが、そんな冗談を言っている場合ではなかった。

 クラウチングスタートは何のために? 当然、走るためだよな。

 何のために走るのか?

 どう考えても、俺に向かって、体当たり的にプラネタリウムに触らせるつもりだ。


《ダァァブゥゥゥゥゥ!!》

「ぎゃぁぁあああぁああぁぁああ!! こっち来んなぁぁあぁあ!!」

「うひゃあああああ!」

「怜斗何やってんのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 あっ、あのバカ!

 世葉の迂闊な叫び声を聞いて、ガメオベーラの動きが止まる。


《ん? 怜斗……さん…………?》

「あ、あーあーっ! 冷凍ピザ食いてぇなーッ!!」

「そ、そーやなーっ! 安くて薄い冷凍のピザにかけるチーズをふんだんに振りまいてオーブンレンジでチンして食べたいなーッ!!」

「めっちゃ美味そう何それ! 今度やってみよ!」

《そういえばさっきから見なかった……! クソッ、迂闊でした!》

「もう完全に気付かれてんじゃねーか! どうしてくれんだ世葉ォ!」

「ご、ごめん! マジでごめん!」


《今更気付いても遅ぇ!》


《!?》


 怜斗の声がポルトヴェネレ城に響いた瞬間、俺たちの立っている床にプログラムコードが映し出され、ガメオベーラを包み込んでいた拒絶のプラネタリウムが、弾け飛ぶように消えた。

 さらに、プログラムコードが鎖を形作って、ガメオベーラを地面に押さえつける。


《オギャアアアアアアアアアアアアアアア!!》

《クッ……卑怯者ぉぉぉぉぉッ!!》


 さらにさらに、俺たちの全ステータスが大幅にアップし、ガメオベーラの全ステータスが大幅にダウンする。

 チート効果、ハンパねぇ……! ホントにこれで『レベル1』かよ!?


「よっしゃ、畳むぞお前ら!」

「畳んでいいの? 春飛ちゃんは……」

《むしろ畳んでやらないと危険だ。あんな化物の皮はな》


 春飛が身に纏う、全てを拒絶する化物の皮、ガメオベーラ。

 怜斗に言わせれば、いくらガメオベーラを殴ったところで、春飛が傷付くことは一切ないらしい。春飛を傷付けてガメオベーラが影響を受けることはあっても。

 同化しているように見えて、操っているように見えて、ガメオベーラと春飛の間には凄まじい距離があるのだと。怜斗は専門家ぶるように、あえて専門家ぶることで何かを隠すように、言ったのだった。


「や、やっちゃうで!」


 津森が、思いっきり手を前に振って、冷魔法の連弾をガメオベーラに叩きこむ。

 どうせ相手は動けない。俺と世葉はガメオベーラに近付いて、それぞれいつものようにヨーヨー連打と魔法と銃撃を行った。


 凶悪なまでのデバフとバフで、1発あたりのダメージ量はとんでもないことになっており、ガメオベーラを倒し切るまで10秒も必要としなかった。


《オンギャァアアァァアアァァア…………》



 ガメオベーラが消失して、そこに残ったのは、春飛だけだった。

 いや……津森の中にまだ蝿が残っているように、まだ春飛の中には、ガメオベーラが存在するのだろうけれど。

 崩れ落ちて呻く春飛に、俺は手を差し伸べる。


「ぐっ……うぅぅぅぅうううぅう……!!」

「春飛、帰ろう」

「斗月さんっ……!!」


 だが、返ってくるのは、未だ敵意に満ちた視線だけだった。

 差し伸べた手はまたも払いのけられる。


「春飛ちゃん、どうして……?」

「どうしてもこうしても無いですよ! 私が洗脳されてあんなことを言ってるとでも思ってたんですか!? 全部本心に決まってるじゃないですか!」

「本、心……?」


 それが本心だ、人間が信じられなくてゲームの世界に住みたいと願ったのは本心だと。

 それは、そうだ。

 津森の時も、蝿は消えはしなかった。おそらく今もまだ、津森の胸の中で燻り続けているのだろう。蝿は、津森の抱える歪んだ欲望を具現化した存在だと言っていた、歪んだ欲望がそうそう簡単に消えるはずがない。

 だから、春飛のガメオベーラも、本心だ。歪んだ欲望だ。

 だから消えない。


「放っておいてください、私はこの世界で生きます」

「いい加減にしろ、春飛!」

「斗月、抑えて……」

「いい加減にしてほしいのはこっちですよ……どれだけ否定されたって、この世界で生きたいという私の願望は、欲望は、消えません」


 誰の手も借りずにゆっくりと立ち上がった春飛は、顔の前で1回、こちらに手の甲を見せる形で手を振った。

 遠近法。小さな手がギリギリ顔を覆い隠した瞬間。


 春飛の顔に、また黒い仮面が張り付いた。


「なっ……!?」

「嘘……やん……」

「どういうこと!? ガメオベーラは倒したハズじゃ……」


 仮面は膨れ上がる。春飛を巻き込んで膨れ上がる。


「敵をボコボコにして倒せばそいつが改心するなんて……そんなご都合主義、ゲームの中だけですよ。まぁ、ここは斗月さんたちにとってはゲームの世界だから、それで合ってるのかもしれませんが……。

 生憎、私にとってはこっちが現実だ」


 春飛が笑う。

 その年にして、全てを分かってしまったように。分かったつもりになっているだけなのだろうけど、だけどその笑顔は、確信めいていた。

 本気で、世界を、人間を理解しきった気でいた。この、芦野春飛は。


《どうしたんだよ? お前ら、なんで戻ってこない?》

「見りゃわかるでしょ!」

「無駄です……怜斗さんの声はこっちには届いてますが、みなさんの声は、映像は、向こうに届きません》


 喋りながら、どんどん春飛の声はノイズに蝕まれていく。

 膨張する暗闇が春飛を完全に飲み込み切った瞬間、ガメオベーラは、再び俺たちの前にその姿を示した。


《キャハハ! ダブッ、ダァァァアアァアブゥゥゥウウウウゥゥウ!!》


 パワーアップも何もなく、ただただ、2度目だった。


 俺は、考えのない頭で悟った。


 春飛は――


《さぁ、n回目のうちの2回目を始めましょう》


 春飛は、自分の求める結末まで、何度でも繰り返すつもりなのだと。

 まるで、そう。


 あいつの好きな、アドベンチャーゲームをやるみたいに。


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