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放課後ロルプライズ!  作者: 場違い
4章・完全平等の電脳世界
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芦野春飛失踪事件 その2

「ここまで来る道中の間、俺の方でこのボスについて調べておいた」

「wikiか?」

「まぁな。……名前は『カバラの堕落龍』、影属性と冷属性のスキル持ち。行動パターンとしてはほとんどランダムに、『休息』、『体当たり』、『魔法スキル』、『物理スキル』の中から行動を行う」

「休息の時以外で攻撃するスキはあるの?」

「ノーダメージでは厳しいが、可能だ。休息の間にHPが小回復していく『深呼吸』という厄介なスキルを持ってるから、むしろ、休息の間しか攻撃をしない場合はかなり決着が遅くなるだろうな」

「弱点は?」

「属性的な弱点はない。熱属性の攻撃には耐性があるから、効率悪いぞ。攻撃力が高くないのと、挙動が少し鈍いのが弱点か」

「了解。斗月、作戦は?」

「『ガンガン行こうぜ』」

「……それ作戦って言わんから」


 ともかく、やるしかない。

 各々武器を構える手に力を込めて、戦闘に臨む。

 たしか、熱属性の攻撃はあまり効かないんだったよな。……それなら。


「熱以外の物理スキルでゴリ押ししかねぇ! 『双頭断層』!」


 2体の龍……その双頭が、カバラの堕落龍に激突しながら交わり、空間に断裂を作り出す。

 そんな派手なエフェクトとは裏腹に、与えられたダメージは100にも満たない。できるだけ早くこのボスをぶっ倒さないといけないってのに、こんな程度じゃ、何手かかるか分かったもんじゃない。

 怜斗なら、こんなときどうするだろうか……。


「……たしかあいつ、《《バフ》》がどうこう言ってたな」

「は?なんて?」


 隣でボスに向かって銃や魔法を撃ち続ける2人に言う。

 以前、怜斗はRPGについて色々語っていた。ウザいなと思って聞き流してたが、まさかこんな時に役立つとは。

 たしか、ボス戦を早期決着させたい時は、《《バフ》》をかける……つまり、味方のステータスを底上げすることによって、スムーズに戦闘を進められると。

 攻撃力を上げて一回一回に与えるダメージを増加させるのはもちろん、防御力や回避力を上げることで受けるダメージを減らし、回復にかけるターン数を節約することができる、とか……。

 そしてたしか、津森の使える魔法の中に、そんなのがあったはずだ。


「…………ルゥ……ルルルルゥ……」


 カバラの堕落龍は、至って静かに、何かを大きく震わせたような声で小さく鳴く。憎たらしいことに、まだまだ余裕そうだ。

 大きく翼を広げて数秒経ったあとに、こちらに向かって急発進してきた。

 あまりにもあからさますぎる前触れを見逃すわけもなく、俺は素早く左方向に配置されてある飛び石にジャンプで飛び移り、体当たり攻撃を回避することに成功した。

 津森に素早く声を飛ばす。


「津森! なんか、俺らの攻撃力とかを上げるスキル、使ってくれ!」

「了解。……えっと、これでええんかな?」

「いや全然違うしって感じ。それ即死魔法だし。

 『メゾパワー』が味方単体を物理攻撃力小アップ、

 『メゾマジック』が味方単体を魔法攻撃力小アップ、

 『メゾイベイド』が味方単体を回避力小アップ、

 『メゾガード』が味方単体を防御力小アップ、

 『愚者のアルカナ』が味方全体の全能力を小アップ。覚えとけって感じ」

「なるほど。じゃ、とりあえず、『愚者のアルカナ』!」


 俺と2人の能力がアップしたようだ。足元が黄色に光っている。

 試しに威力を比べてみるか。


「ぶち込むぞ、双頭断層!」


 エフェクトそのまま、ダメージ量は140にまで上がった。

 小アップという割には、思ってたよりも効果があるみたいだ。効果が続いているうちに、できるだけダメージを与えておきたい。


「今ならダメージを受けても損害は少ないしな……」

「斗月、いちいちスキルを使うより、お主の場合、近づいて直接殴った方が速いと思うぞ」

「言われなくても、もう懐の中だ!!」


 世葉と津森による魔法連射でカバラの堕落龍の気を引き、その間に飛び石を渡ってボスの真ん前まで到達。いつか誰かに「お前はそれしか出来ないのか」と言われかねない、いつものヨーヨー乱れ打ち攻撃を叩き込む。


「ルルルルゥゥゥゥゥッ!!」

「おっと……これが攻撃のサインってことか!」


 ゆっくりと尾を天に向かって突き上げ始めたので、後ろの飛び石に飛び乗り、そのままできるだけ離れたところまで逃げる。

 その動きを追尾してくるかと思いきや、カバラの堕落龍は驚くほどにノロマで、数秒後、誰もいない飛び石に向かって尾を振り下ろしただけだった。

 行動を終えると、また待機姿勢に戻る。


「……なんだ? エレミヤの木龍に比べて雑魚すぎないか?」

「エレミヤの木龍は、とても攻略難易度が高い代わりに、かなり多くの経験値が手に入るんじゃよ。滝エリアは、サクサクイベントを進めたい人向けじゃな」


 好都合だ……とっととぶっ倒して、春飛を取り戻させてもらう。


《そうは行きませんよ……》


「…………!?」


 謎の声の出現と同じくして、カバラの堕落龍の動きが止まった。

 ノイズがかった高い声は、上から聞こえてくる……。


「春飛……!?」


 こちらへ向かって近付いてきた近未来SFチックな浮遊自動車の窓から、春飛が顔を覗かせた。

 ……何か様子が変だ。遠くてここからじゃ見えづらいけど……蝿に洗脳を受けていた時の津森みたいな、淀んだ目をしている。


《最高の気分です……私を見下す人も、私を認めない人も、私を疑う人も、誰一人としていません……。ゼンブ、自分の思い通りです》

「何言ってんだ春飛! 望んでこの世界に来たってのか!?」

「失踪事件の犯人が春飛ちゃんだなんて、疑ってない! 私たちは信じてる!」

《『信じてる』ほど疑わしいコトバもありません。人間はみんな、信頼を得て、相手を自分の思い通りに動かしたいだけです。信用という言葉をうまく使っていますが、実際は日常的な詐欺にも等しい》

「……どうしちゃったん、春飛ちゃん……! やっぱり私みたいに洗脳されて……」


《一緒にしないでもらえますか? 私は自分の意志で、この世界に《《移住》》を決めたんですから》


「はあ!? 移住!?」

《……もう人間なんて信じられません。データは、ゲームは、私を裏切らない。乱数もある程度は調整できるし、何より、私を虐めたりしない。ゲームの世界に開かれた箱庭こそが、これから私が生きていく世界です》

「虐め……って……」

「もっとゲームしていい! メロンパンの皮のアレだって、お前が望むなら毎日だって買ってきてやる! だから……だから、帰ってきてくれ!!」

《……と、斗月さん…………》


 春飛の声から、一瞬だけノイズが取り除かれ、戸惑いがちに俺の名を呼ぶ。

 だけど、すぐにノイズが春飛を包み込んだ。


《ぐぅっ……!! し、信じません……。現実に味方なんて一人もいない!!》

「まだまだお互い何も知らないけど! 俺は、お前の……!!」

《どうせ!! 私を『可哀想』だと思って拾ったんでしょう! 自分よりも可哀想だって見下して、優越感を得て……! そんなのばっかりです、両親がいない女の子って、いかにもな設定だって、形式上優しくするだけ……!!》

「信じてくれ、春飛!!」

《自分が優しくて豊かで人格者で、そう示したいだけの自己満足じゃないんですか! 自分より『可哀想』な人間にちょっと奉仕して、自分はこいつより上だって安心したいだけなんじゃないですか!? 人間なんて…………!!》

「やめろ!!」


 泣き喚きながら、春飛は浮遊自動車を急発進させて、俺たちからかなり離れた高度の場所で止まった。


《現実なんか、消えてしまえぇぇぇッ!!》


 その言葉と、黄色く光る炎を残して、春飛は浮遊自動車ごと消えてしまった。

 まただ……また、一番言いたいことを言えなかった。

 信じてるとか、そんなことは別にどうでもいいのに。伝えるべきことは、本当に伝えなくちゃいけないことは、別にあるのに。

 それを言ってやらなくちゃ……止まってくれるわけ、ないのに。


「み、見て、上……!?」

「炎が……!!」


 慌てる2人に肩を叩かれて、落ち込む気分を振り払って、言われた通り上を見上げる。

 黄色く光る炎は、未だに動きを止められたままのカバラの木龍の上に舞い降りると、そのまま龍の全身を包み込んで激しく燃え始めた。

 滝壺の水面に、黄色い光が溢れる。


「ナウド、あれって……」

「……お前の想像通りだよ」


 驚きよりも先に、絶望した。

 本丸である春飛の場所までたどり着くまでに……前回の蝿と同等のヤツを倒さなくちゃいけない。

 時間よりも何よりも、体力が持つのか心配だった。

 いや、それよりも問題なのは……。


「ルルルルルルルルルルルルルルォォォォォォォォォォォッ!!」


 炎はやがて実体を持ち、金箔のような薄い膜になって、カバラの木龍を金色に染め上げる。


「……あいつは、不正データだよ」


 ……春飛が、こいつを作ったっていうのか……?


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