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放課後ロルプライズ!  作者: 場違い
1章・リアルとデジタルを繋ぐ鍵
6/73

ボッチイーター その1

「神狩り?」


 人類3人の声が揃う。

 神狩りって言ったら……アレか?モン○ンに並ぶ狩りゲーとして有名な、あのゴッドイートするゲームのことか?ちなみに俺はア○サ大好きです。どん引きです。

 たしかに、ネットゲームの世界でプレイヤーが3人も揃えば、「じゃあ適当にボス狩りに行こうぜ!どの素材欲しい?」みたいな話になるのは自然の摂理なのだが。この3人で何度フル○ル狩りに行ったことか。

 ジェイペグはどこから出してきたのか、薄型のノートPCをカチカチ操作して、何やらぶつぶつと独り言を言っている。肉球がついたかわいらしい手で、意識高い系大学生顔負けのブラインドタッチをしている姿は、若干シュールだ。


「ねぇキーピー。ジェイペグは何してんの?」

「お主らの現時点でのステータスをもとに、ギリギリ倒せるくらいのボスモンスターを設定しているんじゃよ」

「やっぱ狩りか。おい世葉、先に言っとくけど逆鱗出したらマジでキレるからな」

「何よ、ゲームごときでそんな必死にならないでよね。……あ、でも怜斗、私より先に宝玉出したら殺すわよ」

「ほとんど俺に狩らせといて何様だお前ら!誰のおかげで武器コンプできたと思ってやがる!?」

「静かにしろ。そろそろ設定が終わって……来るぞ」


 ナウドのその声と共に、ジェイペグが最後のエンターキーを叩く。

 俺たちはしょせん、全員レベル4程度。

 なぁに、神狩りとか大層なこと言っているが、始めたての低レベルプレイヤー3人でも狩れるような相手だ。そんなめちゃくちゃな奴は来ないだろう。

 と、タカをくくっていたのだが。


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 カラクリ仕掛ケノ巨塔が動いた時にも、ドスンと腹に重く響くような轟音が鳴ったものだが、これはそれとは比べものにならない、轟音を通り越した爆音。

 あっちの轟音が体を揺さぶるものなら、この爆音は、大地をも揺さぶる超振動。ベニヤ板を膝蹴りで割るような容易さで地面がひび割れ、隆起し、断層……大規模で致命的な地割れを形作る。

 大地がこの音を呼んでいるのか、この音が大地を呼んでいるのか。これだけの音の中、一切の天変地異が起こっていないのが逆に恐怖である。

 そしてその割れた大地から、大きな影がのろのろと、低血圧の目覚めのようにのんびりと……起き上がった。


「このチュートリアルのボス、『ダイダラボッチ』だよ」


 ずんぐりむっくりで歪な3頭身。左目だけギョロリと飛び出した目玉。虫を思わせるような黒光りしたギトギトの肌。それはまるで黒一色のクレヨンで子供が描いた落書きのような、一つ一つの要素を上げていけばキリがないくらい不気味で嫌悪感をかきたてる造形。

 そしてなによりも言葉を失ったのは、そのサイズ。

 俺を1、巨塔を30という具合の比で表すならば、この怪物は100以上。数秒見上げているだけで首が疲れてきそうだ。某電波塔の高さを優に超えているであろう、もはや『頭悪い』としか形容できないサイズ設定。


「…………って、無理があるだろォォォォォォォォォォォ!!」

「おいこらジェイペグ!!絶対設定ミスだろこれ!!」

「やだなぁトヅキ、見た目だけで強さを判別しようだなんて。大丈夫大丈夫、見た目ほど強くもないゆるめな敵だよ」

「怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪怪」

「ヒィィィィィィィィィィィィ!聞いたこともないような声で叫んでる!!文字化できない感じのデスボイス!!」

「ち、ちょっと、マジで無理!キモイ!!攻撃受ける前から死んじゃうぅぅぅ!!」


 ダイダラボッチのサイズやビジュアルや明らかな強キャラ臭に、すでに戦々恐々の俺たちだが、すでに戦闘は始まっているわけで。嫌だと言っても無理だと嘆いても、『殺らなきゃ殺られる』状況がすでにそこには構築されているわけで。

 知性のある俺たちと違って、プログラムと乱数で動く怪物に、『待った』は通用しない。

 ――何か、迫っている。ヤバイ。

 脳内で途切れ気味にガンガンと、警鐘が鳴り響く。何かが迫っている、あと数秒で取り返しのつかないことになる、とてつもなく強力な何かが。

 いつになく集中し、目を凝らして周囲を見回す。


「なっ…………!?」


 夏矢ちゃんの足元からすぐそばの地面が、ボコボコと沸騰する熱湯の水面のように、不規則に揺れ動いているのを目視する。

 危機感の正体はこれか…………!

 手遅れかもしれないという疑念、もっと早く気付いていればという後悔を振り払って、大地を蹴って全速力で走る。敏捷性ステータスの上限を超えたスピードが出ることを祈って。


「夏矢ちゃん!!危ねぇ!!」

「えっ?」


 ボコボコという地面の揺れはしだいに大きくなり、直径1メートルくらいの円を描くように、そこだけが周りの地面から隔絶される。

 強く踏み切って、夏矢ちゃんに向かって大きく跳ぶ。

 地面から黒い何かが一部だけ顔を覗かせたのが見えた瞬間、俺の体と夏矢ちゃんの体がぶつかった。


「きゃあっ!?」

「伏せてろ!」


 夏矢ちゃんの体の上に覆いかぶさって丸くなった背中の上を、熱を持った何かがすごい速さで掠めていく。

 恐る恐る顔を上げると、遥か遠くの地面にペットボトルロケットの親玉みたいな黒い鉄塊が墜落して、ギャグマンガみたいに爆発するのが見えた。そのギャグマンガみたいな爆撃を生身で喰らったらどんだけ痛いかなんて、想像したくもない。

 このまま寝てても危険なだけだ。俺は何故か顔を赤くしている夏矢ちゃんの手を掴んで起こし上げた。ファイト一発。


「大丈夫か?」

「ゆ、油断してたわ……その、ありがとって言っとく」

「イチャイチャしてねーでお前らも戦え!」

『誰がこんな奴と!!』


 斗月はすでにダイダラボッチの足元に喰らいついて、バシバシとヨーヨー攻撃を続けている。しかし、ダイダラボッチにとっては足の親指ほどの大きさしかない斗月の攻撃は、全く効いている様子はない。

 それどころか……。


「偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶偶」

「ぐっはぁぁっ!?」


 今まで完全静止を決め込んでいたダイダラボッチの本体が、突然地団太を踏むように動き出し、斗月が大きく後方へ蹴り飛ばされる。

 ゴロンゴロンとじゃがいものようにこちらへ転がってきたかと思うと、ケツを突き出したうつ伏せ状態という、なんとも間抜けな姿勢で止まった。これだけ乱れ転がってもメガネが取れていないのがちょっと笑える。


「……めちゃくちゃ痛ぇ。たぶんもう一発同じの喰らったら死ぬ」


 げっそりと絶望した斗月の手を取って起こし、ダイダラボッチから距離を取る。

 突然の攻撃に警戒しながら、この状況を打開する案を練る。


「どーすんだこれ……ジリ貧ってレベルじゃねーぞ」

「通常攻撃じゃどうしたって無理よね……まだスキルとか使えないっぽいし」

「サポートゲージは……ダメだ、まだ半分も溜まってない」

「だーっ、クソ!!なんか一撃必殺奥義みたいなのがあればなー!!」


 バリバリと頭を掻きむしる斗月の言葉に、俺はハッとして指を鳴らした。


「それだ」

『は?』

「悪いけど2人とも、ちょっとの間ダイダラボッチを引き付けててくれ」


 俺は一方的にそう言うと、パン、と1つ手を叩いた。

 メニューを開き、その中から『マニュアル』を表示させる。


「ジェイペグ!何かサポートコンボ以外に、使える奥義みたいなのってないか!?あと、そのコマンドとかも!」

「……悪いけど、それを今答えるのは禁止されてるかな。ただ言えるのは、たしかにサポートコンボ以上の『奥義』はあるよ」

「それだけで十分だ。……マニュアル読んで、まだチュートリアルじゃ教えてもらってない強力なコマンドがないか調べてみる!」

『ええええええええええええええ!!』

「たぶん何かあるはずなんだ!アイテム消費によって放つ究極固有魔法とか、自分の体力全てを消費してラスボスを『大いなる封印』するとか!」

「ひ……ひっでぇ作戦」

「最初のボスの攻略法が『説明書を読む』とか、カクヨムのMMOモノで最低の小説なんじゃないの!?」

「文句ならあとで聞くから、とりあえずマニュアル読んでる間は俺を守ってくれ!」


 厚かましい指示を2人に出して、目の前に浮かぶメニュー画面のマニュアルをめくる。どうやら、通常マニュアルから俺たち用のマニュアルに変換する際に膨大な情報量が増えてしまったようで、ジャンプの仕方なんかまで馬鹿真面目に書いている。

 おまけに、目次がないのがとても厄介だ。本来のマニュアルなら、そんなのもいらないくらいページ数が少ないんだろうが……これは時間がかかりそうだ。


「怜斗!おい、ヤバいって!」

「静かに、気が散る!」


 やたら焦って肩を叩いてくる斗月に対し、俺はマニュアルから目を離すことなく、素っ気ない答えを返す。

 しかし、夏矢ちゃんにも腕を引っ張られる。

 いっつも悪態をつく夏矢ちゃんが俺の腕を握って振り回すなんて、どうやら事態はけっこう深刻みたいだが……。

 ……ん?

 マニュアルの文言の中に、『一部スキルなどの特殊コマンド』というワードを発見する。もしかして、この中に奥義コマンドのことが書かれていたりしないだろうか。


「んなこと言ってる場合じゃないって!隕石みたいな大きい弾がこっちに落ちてきてんのよ!?」

「もうちょいで見つかりそうなんだよ。悪いけど、撃ち落としてくれ」

『はあああああああああああああああ!?』

「マニュアルによると、だいたい戦闘で5分が経過するとサポートコンボ1発ぶんのゲージが溜まるらしい。んで、夏矢ちゃんのサポートコンボならアレを撃ち落とせるだろ?」

「知らないっての!あんな敵弾、当たり判定とか相殺判定とかあるわけ!?」

「おわああああ!!めっちゃ迫ってきてるって!!どうでもいいから世葉、とっとと撃てよぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「もう、どうなっても知らないからね!」


 ヤケクソ気味に、涙目で口角を釣り上げた歪な表情で、夏矢ちゃんは自分のパートナーキャラをんだ。


「どうにかして、キーピー!!」

「任された。……フリードリヒ、召喚に応じよ」


 夏矢ちゃんがキーピーを召喚し、キーピーはさらに、強力な戦力である使い魔を召喚する。キーピーの落ち着いた声を引き金として、大地に巨大な『射手座の魔法陣』が描かれる。

 海に沈んだ鉄塊が、ゆっくりと持ち上げられるように。その戦艦は、力強くもあり同時に幽霊船のような虚ろさも感じる、紫黒しこくの船体をあらわにした。

 ……いつから艦隊こ○くしょんが始まったのですか。ニワトリが戦艦を引き連れてどの海域に出撃しようというのですか。ニワトリが大破したところでどこの誰が喜ぶというのですか。

 俺がマニュアルを読む片手間にしていた失礼な空想をビリビリに破くように、さっきの落ち着いた声とは全く違う大音声が響く。


「全砲門、ファイアーーーーーーッ!!」


 金○デース!

 現実の戦艦ならば構造的にあり得ないのだろうし、もしガッチガチのミリオタがこのゲームをプレイしたら憤るのだろうが、戦艦にごつごつと備え付けられた数十もの大砲・連装砲・ミサイル(?)などなどが一気に発射される。

 バラバラの軌道を描いたそれぞれは、ファン○ルの如く、信じられない急な方向転換で隕石に向かっていき、バッコンバッコンと花火をあげた。

 最後にミサイルが着弾したとき、すでに隕石は跡形もなく爆散しており、いてっ、頭上に欠片の小石が降ってきた。痛い痛い、これダメージ判定あるの?


「すげえ!マジで撃墜できた!」

「ふ、ふふん、当然よ!日本で最もPAC3に近い女とは私のことよ!!」

「それは良い肩書きなんだろうか」


 半泣きになっていた夏矢ちゃんも、この功績を上げたことで調子づいてきたみたいだ。なんとかなりそう、そんな希望を持った笑顔で、ダイダラボッチに向かって銃を連射する。

 いや、希望を持った笑顔というよりは……えっと。


「ふっふふははははは!!何よビビらせてくれちゃって、全然大したことないじゃないのよ!!ばーかばーか死ね死ね!!」

「……ハーブか何かやっておられる……?」

「よくもまぁ、そんな小学生みたいな煽りができるよな……」


 と、とにかく、マニュアル読みに集中だ。

 一刻も早く強力な対策手段を講じなければ……えーと、特殊コマンドの欄には残念ながらそれらしき記述がなかったな。となると、他にそういうことが書いてそうなところと言ったら……。

 全神経を集中して考える。やみくもに無限な文字の海を泳いでいるだけでは、この状況を打開しうる何かを見つけられない。

 断片的な単語を追いながら、次のページへ次のページへ、パラパラとマニュアルを飛ばし続ける。

 『必殺』『コマンド』『妙技』『逆転』『強力』……。

 だめだ、このページでもない。だめだだめだ、ここにも書いてない!

 だんだんと焦ってくる。肩とか目が熱い。なんだか、一秒ごとに自分が無能のバカになっていってる気分だ。

 そんなとき。


「怜斗そこどけ!!」

「うえっ!?」


 後ろから思い切りヨーヨーで弾き飛ばされる。

 尻もちをついた瞬間、俺の立っていた座標にまた黒い隕石のようなものが落ちてクレーターを作った。

 斗月に助けられたことを自覚し、また、望む成果が得られない現在の作業状況に苛立ちを覚えて、ギリリと歯噛みする。俺を守れなんて偉そうに命令しておいて……なにをやってるんだ、俺は。


「悪い、こうでもしなきゃ間に合わなかった」

「分かってる、ありがとよ」

「怜斗、俺らは割と回避にも慣れてきたから、焦らずとっとと、奥義の出し方とか見つけてくれよな!」

「……………………」

「お前が危なくなったら今みたいに殴り飛ばしてでも回避させるから、安心してマニュアルに集中しろ」

「……おう。任せたよ」


 少し安心し、口元が綻ぶ。

 そうだ、弱気になっている場合じゃない。とっとと必殺奥義の使い方を見つけて、2人の負担を和らげなくては。

 夏矢ちゃんは遠距離から銃で攻撃し、斗月は俺の周りで隕石を攻撃するなどして弾き、ブロックしてくれている。この布陣もいつまでもつか分からない……俺が頑張らなくては。

 マニュアルを何十ページくらいめくっただろうか。俺はついに、それらしき単語を目に留めることができた。


「『スタージョーカー』……! これは……来たんじゃないか……!?」


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