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放課後ロルプライズ!  作者: 場違い
4章・完全平等の電脳世界
58/73

Pray By Mail Game

「はあ…………。まあ、大体分かりましたけど」


 二垣さんと三好さんが、その女子小学生を『参考人』とした理由はこうだ。


 トゥエルブスターオンラインはセキュリティ面において業界最強で、それを突破できるハッカーなんてほとんどいない。だから、この連続失踪事件のように犯罪に悪用するどころか、普通はチートのひとつも使えないし、使うことができるとすれば、そんな人間はほんのひとにぎりしかいないだろう。

 そこで浮かび上がったのが、ランキング1位プレイヤーの『魔法少女おぶじ☆遠藤』。コイツの戦績は、トゥエルブスターオンラインのプレイヤーの中で唯一の『完全無敗』。

 しかもそれは、数戦しかしていないからまだ負けていないだけとかではなく、いま現在、『2000戦2000勝0敗』。そのプレイ経歴に敗北の泥が付くことも恐れずに狂ったようにマッチングする姿は、さながら雑魚を相手にレベリングをしているような、淡々とした健剛ぶり。


 『いや無理だろ、常識的に考えて』『チート乙』『不正もバグも、あるんだよ』。


 プレイヤーたちの間では、魔法少女おぶじ☆遠藤の常軌を逸した完璧さに、チートを使っているのではないかと不信感を抱く者もいる。ちょっとスレを読んでみただけで、誹謗中傷に通報報告に、半ばイジメじみた批判が巻き起こっている様子が垣間見られる。

 二垣さんたちは、ゲーム運営であるカラットに魔法少女おぶじ☆遠藤がチートを使っているのかどうか問合わせたらしいが、『かなり前から調べているが、全く痕跡が見つからない』との回答を得たそうだ。


「まぁ足がついた瞬間、ソッコーで垢BANでしょうしね。調べてわかるようなチートならそもそも使わないでしょ」

「そう考えて、俺はそいつ……『魔法少女おぶじ☆遠藤』に、十分なハッキング技術があると結論づけた」

「………………………………う、ううん……」


 ①魔法少女おぶじ☆遠藤はゲームにハッキングできる。

 ②事件の犯人は、少なくとも『ハッキングでトゥエスタのセキュリティを突破できる人物』に限られる。

 ③そんな人物はそうそういないが、魔法少女おぶじ☆遠藤は、それに当てはまる。

 結論:今のところ犯人最有力候補だから、話を聞いてみよう。


 …………と、つまりは、たったの3段階で説明できるこのムリヤリなこじつけ推理を元に結論を出しているわけ。


「ゴリ押し推理すぎやしませんか……?」

「可能性を否定はできないし、手がかりや調査源が枯渇してるんだよ……。しらみつぶしに当たってくしかねぇんだ」

「それに。俺も一回、おぶじ☆遠藤とは戦ったことありますけど……めちゃくちゃ強かったですけど、チートを使ったような動きは見られませんでしたよ?」

「運営がプログラムを一から洗っても出てこなかった不正なんだ、プレイ中の挙動をシロートが見たところで判別できると思うか?」


「…………ショージキに言いますけど。たぶんいくら言われたところで、ナットクできないです」

「それな」


 俺の溜め息と電話の向こうの溜め息がハモる。

 そりゃそうだ。『ハッキング』『誘拐』『人喰いディスプレイや人体のデータ化など数々の超科学的トリック』といった一連の犯行を、女子小学生が行ったとは到底思えない。


「……まぁ、アレだ。『参考人』なんて大袈裟に言ってはみたが、実際は会って話を聞くってだけだし」

「そ、そうですね……とりあえず頑張ってください……」


「あぁ?なに他人事みたいに言ってるんだ?」

「え」


「………言っただろ。ネトゲやら鍵やら、意味の分からんモンが出てきたらお前らを応援として呼ばせてもらうからな。サイアク、お前らがネトゲの世界で小学生を捕まえるハメになるかもな」

「い…………いやいや!俺ら逮捕権も何もないし!!」

「都市伝説みたいなカタチで広まってはいるが……この事件、世間にはほんの一部しか事実を公表してねぇんだよ。まぁようは……

 『現実離れした事件で、証拠も何も曖昧だから、アホ高校生の手を借りようが小学生を容疑者に立てようが、世間の納得を得られる範囲で説明できればそれでオッケー』………ってのが、この件に関しての警察の考え方なんだよ」

「…………………やっぱり国家権力ってクソだわ」

「全面的に同意だ。まぁ、俺としては絶対に犯人を捕まえたいんだがな。……まぁそんなわけで、お前らが気負う必要はない。どうか頼んだぞ」


 そう言い残して、電話はプッツリ切られた。


 フェードアウトしていた雨の音がじわじわと戻ってきて、凄まじいガッカリ感というか、虚無感に包まれながら。俺はまたひとつ、溜め息を吐いた。

 2000戦して無敗という成績を誇る一方で、そのあまりの完璧さ故にチート疑惑も浮かび上がっているという謎のプレイヤー・魔法少女おぶじ☆遠藤……。その正体は女子小学生で、この連続失踪事件の犯人。ペンタゴン並と称されるトゥエルブスターオンラインのセキュリティを突破できるスーパーハッカーでありながら、人体をデータ化してゲーム内に入れるという非現実的行為を行えうる装置、もしくは特殊能力とかを持っている。


 ………………悪夢だ。


 社畜が家に帰ってきてから次の出勤までの数少ない時間で、酒に溺れながらの深夜ハイテンションでキーボードを乱れ打ちして書いたミステリー小説の筋書きって感じだ。いや、それでもこんなアホみたいな話にはならないだろう。


「門衛くん?………………二垣さん、何やって?」

「……………………悪いユメを見たらしいぜ」

「え?」

「帰り道にでも……いや、明日か今夜電話でか、斗月と夏矢ちゃんもいる場で話す。とりあえず、麻雀の続きに戻ろうか」


 1回で全員に説明してやらないと、何回も説明するハメになったらこっちの気が持たないからな。

 2回も3回も『実は警察は女子小学生を容疑者と断定したらしくてな?』から始まる話をしてたら、話してるこっちが自信がなくなってくるというものだ。

 納得いかなさそう、っていうか若干不満げな津森さんをなだめながら、背中を押すように急かして、麻雀部の部室へと戻った。


 依然として、雨は鬱陶しく、どこまでも付きまとってくるようだった。



「とりあえず、上に許可は得てきたよ」


 その清々しい声とは裏腹に、三好の左頬は腫れていて、どう考えても『許可を得た』なんて穏やかなものではないように思えた。

 さっきまでひねくれた男子高校生と通話していたスマホをポケットにしまいながら、特にいたわったり労ったりするでもなく……というかそんな余裕もなさそうに、二垣はあくびをした。

 その態度に、三好は頬をピクピク引きつらせて二垣を睨んだ。


「…………全ての責任を負って上層部に捜査許可を貰いに行ってあげたっていうのに、何の労いもないなんて薄情だよ、ガッキー……」

「……『じゃんけんで負けたほうが言いに行くってことで!』とか言ったお前が悪いんだろうが……」

「うぅ……検事、弁護士、刑事とキャリアを積んできたボクの偉偉なほっぺたが…………」

「頬にキャリアも糞もあるか……フザけてねーで、許可取れたんならとっとと行くぞ」

「労えよ……もっと敬えよぉ……」


 タバコの始末をしてネクタイを締め直して、淡々と準備を整えて出て行く二垣を、三好は半泣きで頬をさすりながら慌てて追った。

 部屋を出て署の廊下を歩く二垣に、すれ違う同僚たちはある種の恐れのようなものを感じて頭を下げる。

 ノンキャリアの巡査である二垣は、こういったオカルト絡みだったり意味の分からない事件を自分に回されることについて、しょうがないけど煮え切らない、とあまり良く思っていない。


 だがときどき、自分はこの地位にある意味満足しているのではないか、と思うことがある。


 割り振られる事件の数はごく少ないが、そのぶん、その事件に関してはほぼ特権的な役割を担えるので、仕事をしている間はずっと同僚だけでなく上司からも、『少人数チームを束ねて不可解な事件を追っているはぐれ刑事』みたいな目で見られている……らしい。

 そのため、恐れられることはあってもノンキャリアだとナメられることはないので、プライドが高いことを自覚している二垣にとってはちょうどいいポジションであると、二垣自身もうすうす感づいてはいた。昇進試験を考えることは最近ないし、出世の話が来ても迷ってしまうのではないか、と思うほどに。

 元上司の影響を受けてこんな階級に甘んじているというところもあるのだが……。


 ぼんやりと自分の今後や現在を考えながら署の外に出てみると、今が夕方なのか夜なのか、どうにも時間間隔が狂いそうな灰色の空。そして、けっこう強く降り注ぐ雨粒。

 後から追いついてきた三好が横に並ぶ。


「距離的にはチャリで十分だけど、どうする?」

「面パト使う」

「えぇー……マズくない?いいけど、ガッキーが怒られてよ?」

「普通パトカーよりゃマシだろ。つーか、面パト今7台も余ってんだから1台くらい平気だっての」

「課長の許可とか取ったの?」

「こないだあの人が泥酔して帰れなくなったのを助けた恩があるし、まぁ課長もニンゲンだし」

「答えになってないよ……」


 署の出口から覆面パトカーが停まっている駐車スペースまでの距離で傘を差すのは2人とも面倒で、雨足は強くちょっと歩いているだけでずぶ濡れになってしまいそうではあったが、構わず無防備のまま車へ歩いて行った。

 パトカーに限らず署の車のカギは、原則として全て許可を取らないと貸してもらえないものなのだが、万津市警のそういった管理体制はガバガバなので、職員ならみんないつでも借りていつでも返せるようになっていた。

 くすんだ白のセダンに乗り込んだところで、ふと、三好は疑問に思った。


「つか、ガッキーの車も今ココあるよね?自分の使えよな」

「キーがカバンの奥底なんだよ、メンドくせぇだろ」

「うへぇ……いつかマジでクビにされるよ?」

「メンドくさがりなだけで懲戒免職食らってたら、天下りなんざ10回死刑されても足らねーだろ」

「だから答えになってないっつーの……」


 胸ポケットからタバコを取り出して1本くわえ、火をつける。

 助手席の三好が露骨にイヤな顔をするのを気にする素振りもなく……いや、むしろイヤな顔をしている三好にざまぁみろと言っているようなふてぶてしい態度で、二垣はぼぉっと煙をふかした。


「行くぞ……女子小学生の家を捜査開始だ」

「ガッキーもしかしてロリコン?」

「張っ倒すぞ」


 軽口はどこか上の空。

 2人を乗せた覆面パトカーは、女子小学生が『1人で』住んでいるハズのその家を目的地に定めて、わりかしいつもより静かめなエンジン音と共に発進した。



「………………………………飽きました」


 美少女と主人公が幸せなキスをしている一枚絵が徐々に暗転していき、既に別ルートクリアで何度か見ているエンドロールが流れ始めたところで、春飛はイヤホンを外して呻いた。

 白字で書かれたスタッフの名前以外は全部黒背景という、手抜き感溢れる殺風景なエンドロール画面に、真顔で声にならない呻きをあげている自分が映って、春飛は眉をひそめた。

 春飛にとって斗月が学校から帰ってくるまでの時間は、いつまでもゲームやパソコンし放題のゴールデンタイムである。

 …………そのはずなのに、春飛はゲームをしながら……彼女にとって一番の娯楽であり、一番の生きる意味であるゲームをしているはずなのに……何故か、「斗月さんが早く帰ってこないかな」なんてことを考えていた。


 初めての感情なのか久しぶりの感情なのか、それすら思い出せないほどに今まで縁がなかったが……いまこの瞬間、春飛は、『寂しい』と思った。


 しかし、ようやく胸に浮かんだその『普通の女の子らしい感情』を、春飛は力なく首を振って否定した。


 自分はゲームが好きだ。


 人との触れ合いがゲームよりも優先されるなんて、有り得ない。


 そう。きっと、お腹が空いていて早くご飯を食べたいという感情から、誘発されるように斗月さんの帰りを待ち遠しいと思っただけ。自分が求めているのは寂しさを満たしてくれる人ではなく、空腹を満たしてくれる食事とそれを作ってくれる人なのだ。

 ……………何を自分に言い訳してるんだろう、私は。


「……トゥエスタでもしますか」


 無駄なことを考えるのはもうやめだ。

 今日のノルマである50人狩りとアイテム採取は完了したが、こんなことで悩んでいるよりはいくらか有益だ。

 彼女の考え方は、どこまでもゲームの物差しだった。

 パソコンの前に座って、さっきまで携帯ゲーム機に繋いでいたイヤホンを差し込み、起動。

 機動を待つまでの無音の時間がいつもより長く感じられるのは、絶対、寂しさなんかが原因じゃない。あれだ、雨の音がうるさくて、ジメジメして嫌な感じだからだ。


 きっとそうだ。


 だって、私は人に対して寂しいだなんて思わない。いつまでもゲームが友達だ。

 何を必死に言い逃れみたいなことしてるんだろう、とイラつきながら、まだ右上の丸がクルクルと回っているカーソルを無視して、春飛はカチカチとマウスを連打した。

 春飛の体感時間が長いってだけじゃない、明らかにいつもより少し遅い。このままエラーメッセージでも出てブルスク発動しちゃうんじゃないか、と不安に思いかけていたが、問題なく起動した。いつものリバエン一期キービジュアルが、デスクトップ壁紙として大きく表示され、ホッと安心する。


「…………あれ。……メール?」


 トゥエスタのショートカットアイコンの右上に、赤く『1』と表示されている。


 このゲームではユーザー同士でメールのやり取りができるが、自分がログインしていない間にメールが送られてきた場合、このようにデスクトップ上のアイコンなどに、未読メールの件数が表示される。

 フレンド登録などしなくても相手のIDを知っていれば容易に送ることはできる。だが春飛はその傍若無人なまでの強さ故に、何もロックをかけていなければ、負け惜しみの迷惑メールや挑発するメール、さらには何やらヤバそうな外部サイトにジャンプするスパムメールまで送られてきて大変だったため、『承認制メール』を設定した。

 IDは公開されたままだが、春飛にメール送信許可申請を送って承諾されなければメールを送ることができない、という機能だ。当然、どんな奴からどんなロクでもないメールを送られるか分かったもんじゃないので、申請メッセージの内容に関係なく全て断っている。


 ……なのに何故、メールが届いている?


 不審に思いながらも、もしかしたら運営からの個人メールかもしれないと思い、いつものようにログインと認証を済ませ、久しくやっていなかったメール操作に少し手を迷わせながらもメールボックスを開く。


\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

from:0000000000000000000000000000000000000000000000


 新しい世界への最適化が完了しました。

 以下のリンクよりバージョン移行が可能です。


https://62343y5u46i7fvpbiuvp0cx5d7oufyghehilarps8ghbe0arcb0aw79penycgqenaodzt/uhyyshgefitwefy8q9w89fehg8r8oyhu9ju9htrdese5drtyrahdzbneaxb68qn7w00sivblhksjagvs/@000000000000000000001/bxsncve748yfacbvasifeqw7eidfwofigrodvfabnsdscalsiufkhjwkbdsacnbhvoyerisuefdsalxcnvbwpiaefwr7498qw0diocsajdvbjwhkjvnd hcpg8oqfeuyfbiuw/reserve.world


 どれだけの人間があなたを騙し、見下しても、ゲームはあなたの味方です。


 このメールは削除することができません。大切に保管なさってください。


 あなたの新たな世界での第一歩が良きものであるよう、お祈りしております。

\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\


「………………………!?」


 あまりの不可解さと、ただの釣りだと割り切れない底知れない恐怖に、春飛は思わず自分の体を抱いた。


 だが、それも一瞬。


 こんなイタズラを通り越した脅迫メールに、バカ正直に怖がってやる必要なんかない。削除することができませんなんて書いてあるけど、この神セキュリティのトゥエスタに限って、ウイルス添付メールを送るなんて行為、できっこない。

 マウスを握る自分の指が震えてえいて苛立った。

 信じるわけないのに、なんで怖がってるんだろう。

 メールウインドウ右上のゴミ箱マークをクリックする。


 ―――が。



 『その操作は許可されていません。』



「はぃっ……!?う……………う……嘘ですよね………?」


 メールの削除を試みた瞬間に新たに表示されたウインドウを見て、春飛は泣きそうになった。

 ただメールを消すだけなのに、こんな警告文が出てくるわけがない。


 異常。


 メールを送ってくることを許可しているユーザーはいないのに、メールが届くという異常。

 そのメール本文自体も、異常。

 そして、何故かメールを削除できないという異常。


 なにか、ヤバい。


 怖い。


 誰か。


 助けて。


「斗月さん……………斗月さん……!!」


 気がついたら、何度もその名前を呼んでいた。


 もう、その『誰かを頼る気持ち』に反発する気持ちは湧いてこなかった。そんな余裕もないくらいに、涙腺はギリギリに持ちこたえて、足は震えていた。

 雨の音は、春飛の行いを苛むかのように、鋭く突き刺さって跳ねる。


「はやく帰ってきて……!」

「もう帰ってるよ…………」

「うひぇぇぇっ!?」


 孤独と怖さに耐えきれなくなった涙が1滴、膝の上にぽたりと落ちた瞬間、後ろから大きな手のひらが伸びてきて、春飛の頭を鷲掴みにした。

 制服に身を包み、まだカバンを置いてもいない、今帰ってきたところの斗月の姿を見て。


「どうしたんだよ、お前が『早く帰ってきて』だなんて、珍しいというか……ただでさえ梅雨なのに、これ以上雨降らせないでくれよ……って」

「――――――――――――――ぅっ……」


 春飛は、とうとうダムが決壊して涙が溢れてしまった自分の顔を、斗月の腹部に押し付けた。

 突然のことに……いや、それ以上に、春飛が初めて見せた『弱さ』に、斗月は面食らった。


「どうした?何かあったのか?」

「…………何も聞かないでください……泣いてなんかないです……」


 いや思いっきり泣いてるじゃねーか。つーか、泣いてるのかとか俺一言も言ってないけど。


 そんなツッコミが頭に浮かんだが、まあ当然口に出すわけにはいかない。

 少し困り顔で、自分の胸の下にある春飛の頭を軽く撫でてやりながら視線を移すと、春飛のゲーミングPCの画面に、メールのような文面が表示されていた。

 ………ゲームのことで他のプレイヤーと揉めて心無い暴言メールを送られた、とかだろうか。

 春飛をこうして泣かせたことに対しては許せないと怒る一方で、しかしメールを送ってきたゲーマーを特定してボコボコにするわけにもいかないし、特定自体どうやればいいのか分からない。だいいち、自分や怜斗もSNSで他人に暴言を吐いた経験が1度や2度はあるわけで、怒る資格もないだろう。


「…………よしよし、早くメシ食って寝て忘れろ。な?」

「………………はい」


 というわけで、とりあえず慰めるだけにしておいた。



「もぬけの殻じゃねーか日本死ね!!」

「ガッキー、通行人いるから!仮にも警察官なんだから謹んで!」

「糞が……」


 二垣は再度面パトに乗り込むと、八つ当たり気味なパワーでドアを閉めた。

 捜査の許可は下りたが、あくまでもそれは『容疑者に対する尋問』に対してだけだ。勝手に容疑者の家をガサ入れするわけにもいかず、二垣はチンピラのようにだらしなくシートにもたれかかってタバコをふかすしかなかった。

 隣の二垣の苛立った貧乏ゆすりに、オロオロと困ったように笑う三好は、懐から写真を取り出した。


「いなかったね……『芦野春飛』ちゃん」


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