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放課後ロルプライズ!  作者: 場違い
4章・完全平等の電脳世界
56/73

駄目鏡のうちへ遊びに行こう

「ああああああああああああああああああああああああああああああああッ―――!!」


 気が付けば俺は叫んでいた。


 己の無力さに。

 己の愚かさに。

 世界の残酷さに。


 ………料理の、まずさに。


 近所迷惑極まりないデシベル値の俺の叫びに引きもせず驚きもせず、ただただ心配する様子で、3人の美少女が俺に寄ってきて、スプーンを差し出す。


「だ、大丈夫!?希霧くん!?」

「斗月さん!か、辛すぎたんでしょうか、とりあえず水を……!」

「違うわよ春飛ちゃん、こういう時は甘いものを食べさせる方が効果があるの」

「そ、そうなんですね!さぁ斗月さん、口開けて!あーんしてください!」


 春飛からあーんして食べさせてもらえる。

 一部の男からすれば最高のシチュエーションなのだろう。スプーンの上に乗った未確定的ゲル状物質さえなければ最高のシチュエーションだろう。

 命の危機を感じた。

 エレミヤの木龍にぶん殴られてた方が百倍マシだ。


「や………やめろ……!やめてくれえええええええええええええええええええぇぇぇぇ!!」


 ……一体、どこで何を間違えたのだろうか。

 …………そうだ。そもそもの発端は、俺にあったんだ。


 あの時俺が、怠惰にも自分で料理することを面倒臭がっていなければ……!



 日曜日、それは休日出勤や補修補講再テストを強いられたりしない限り、誰もが自由を得ることのできる七日に一度の極上の24時間である。

 多くの人間がその24時間をただただ脱力して特に何もせず過ごしたり、趣味に費やしたり、友達や恋人、家族と出かけたり愛を深め合ったり、色々なことに使う。


 俺の場合は、今日この日は、春飛と向き合う日だと決めていた。


 朝起きてまず、枕元のメガネを装着する。伊達メガネだから家の中でかける必要は全く以て無いのだがそこは俺のアイデンティティー。

 充電していたスマホを引き抜いてツイッ〇ーのトレンドを適当に漁りつつ、考える。


 春飛は、成り行きで家に住むようになって、今日で3日目か4日目くらいだ。

 これまでの数日は学校に行ったりネトゲしたりで、あまり話せたりコミュニケーションを取れたりということができていない。せっかくだし今日、時間のあるときに色々と話してみよう。


 ……あいつが、小学校に通うべきかどうかも。


 離婚した家庭と、子供を引き取ろうとしない両親と、裁判所の歪んだ法規則が生んだ、現在の春飛の周りに広がる環境や生活。どちらの親も引き取らず、そんな状況を法的に無視された、最低な大人の事情によるイマ。

 基本的に子供はみんな、学校には行くべきだろう。ある程度の教養を身に付けるべきだろう。


 だけど、春飛のイマを考えると、それは『基本的』ではない。


 だから、春飛がそれを望んでいないならば、「年相応にやれ」と無理言って小学校に通わせるのも酷だし、逆に望んでいないからといって、「そうだな、じゃあやめとこうか」とするのも違う気がする。

 これは考えていて、とても頭が痛くなるような。それ以上に胸が痛くなるような問題だった。

 ひとまず、部屋から出る。

 春飛の顔を面と見て、色々と世間話やら身の上話やらどうでもいいゲームの話やらをして、その上で、切り出せそうなら切り出そう。とにかく言えることは、急ぐのはよくないってことだ。

 ていうか、たいして頭がよくねーくせに、朝飯も食ってねー寝起きの頭でアレコレ考えようとするのがまず間違ってんだ。そう思い直して、リビングに出る。


「…………違う……違うんですよ………………。私が求めてたシナリオはこんなんじゃないんですよ……もっとこう、攻略するまでが難しい方がいいんですよ……。なんで出会いのシーンからもう惚れかけてるんですかこのヒロイン…………ありえないでしょ……チョロインってレベルじゃねーぞ……。主人公を嫌ってるような状態から色々とプレゼントあげたり特定の日に話しかけることでやっと第一段階のデレフラグが立つような攻略しにくい娘の方が燃える…もとい萌えるんですよ……でも緑の悪魔は帰れ、ホント帰れ…………」


 ブツブツと文句を言いながら、三角座りで携帯ゲーム機のギャルゲーをやっていた。

 ……朝の6時から何やってんのコイツ。

 メロンパンの袋を破いてかじりつきながら、背後に回って頭頂部を軽くはたいた。


「痛!?なんですか急に!虐待絶対許さない!」

「なんですかじゃねーよ!目の下にでっけぇクマ作ってまでギャルゲしてんじゃねぇ!」

「ギャルゲじゃないですよ、泣きゲーです!」

「知るかよ!ていうか、ちゃんと『ゲームは一日一時間』守ってんだろうな!?」


 素早い動作と精密機械を壊さない程度の力で携帯ゲーム機を奪い取る。


「あー!ちょっと、返してください!横暴です、おーうーぼーうーでーすー!!」


 そこまで好き好んでギャルゲーをやるわけではないが、当然ある程度の操作方法ぐらい分かる。三角ボタンでメニュー画面を開くと、お目当ての情報をすぐに見ることができた。

 『プレイ時間:5時間09分』。

 もう片方の手で廃ゲーマーの首根っこを掴んで微笑む。


「……このゲーム、『空想コンバージェンス』だな?」

「ファッ!?な……な、ぜ、そ、れ、を……!?」

「お前と違ってちゃんと外出してるから、色々ポスターとかチラシとか見てんだよ。……ゲーム屋に貼られてたポスターには、このゲームは昨日発売って書かれてたけどな?」

「ち、ちち、違うんです!これはその、そう、相対性理論的に算出された時間であって、よって私は1時間かけて5時間分の時間を感じていたのであって、決して!」

「うっるせぇ、千葉県がどこにあるのかも分からないクセに数学や物理は変に独学しやがって!あと残念だったな、相対性理論は言い訳には使えねーぞ。だって全く知らねーからな!俺が!」

「いやそれは知っててくださいよ!小学校にも通ってない私でもおぼろげな意味は知ってるんだから!」

「はい黙れー!とにかくこれはしばらく没収な」

「しょええええええ!?そ、そんな!残酷すぎますよ、私を殺すつもりですか!?」


 わーわーと泣き喚きながら手を振り回して突進してくる春飛を軽く避け続けながら、一応セーブしてやってから電源を切った。

 つーか、昨日発売ですでに5時間プレイしてるって、俺の価値観からするとかなりヤバイと思うんだが。ゲームとか1時間くらいやってるとなんか飽きてこねえ?

 一度部屋にそれを置いて戻ってくると、春飛はこの世の終りのような表情でへたり込んでいた。

 完食したメロンパンの袋をプラゴミのゴミ箱に突っ込むと同時に、買い置きしている菓子パンの中からメロンパンを引っ張り出す。

 冷蔵庫から、これまた買い置きしているヤク〇トを取り出して、メロンパンと一緒に春飛に差し出した。


「とっととメシ食え。そんな歳で朝抜いたりしてっから街歩いてる途中にぶっ倒れんだよ」

「指図しないでください。私は決められたレールの上を歩くようなオンナじゃありません」

「ヤマ〇キ発売、商品名『メロンパンの皮焼いちまっただ』。ツイッ〇ーほかで拡散され話題を呼ぶ、サックリとした食感と綺麗な甘さ、独特の舌触りが特徴の――」

「管理社会万歳」


 ガツガツ食い始めた。なんで女子ってこんなに流行りのスイーツとか好きなんだろうね。

 現金な幼女に呆れながらも、なんだかその素直さがとても可愛く思えて、ふっと笑ってしまった。

 そして一度緊張を緩めてしまうと、さっきまで考えていたことから急に目を背けたくなってしまう。


 お前は学校に行くべきだ。


 その一言を言ってしまうだけで、ただでさえ傷ついているこの子の心を壊してしまいはしないだろうか。幻滅や失望、さらには恐怖といった感情を抱かせてしまわないだろうか。

 事情が事情、経緯が経緯だ。単にダルいからとかそういう理由で学校に行かないわけではないだろう。

 だが、常識的に今の社会で、義務教育を無事に修了していないのは大きなハンディキャップとなってしまうわけで、当然学校に行かないよりは行ったほうがいい。

 それを現実的に、何ら一切の感情論なしに、春飛に説明することは、今の俺にはとてもじゃないが出来なかった。

 メロンパンを齧って微笑んでいるこの笑顔を、壊したくなかった。


 ……つくづく度胸なしだな、俺。


「そうだ、春飛。今日はせっかくの休みなんだし、どっか出かけないか?」

「自宅警備のシフト入ってて抜けられません」

「ちょっと待ってろ、たしか押し入れの奥に犬用の首輪リードがだな……」

「ガチ虐待じゃないですか!なんですかお出かけ拒否したら犬扱いって、訴えますよ!」

「おうおうおう、いいぜ、出るとこ出ようじゃねーか!次に会うのは裁判所だな――」

「裁判所じゃなく鬼女板に訴えます」

「許してください」


 アウトではない。

 『高校生男子が幼女に首輪を付けようとしたら逆に脅されて、土下座した上に幼女の御御足おみあしでぐりぐりと踏まれている』という光景が繰り広げられているが、決して公序良俗的にアウトではない。

 くっ……このHIKIKOMORIが素直に家を出てくれると思ってはいなかったが、やはりか……。

 だが、これに対する対策を俺は既に考えていた。

 懐が痛むが、致し方あるまい。少々引きつった笑みで人差し指をピンと立てた。


「だったらこうしようぜゲーム廃人!」

「ゲーム廃人じゃないです、神です」

「うん、調子に乗るなよこのいちごパンツ幼女めって言いたいところなんだけどここはグッと堪えることにしてと」

「最ッ低!!最低最低最低最低最低最低最低最低!!なに平然と土下座しながらパンツ見てるんですかあああああああああ死ねああああああああああ!!」

「落ち着けブ〇リー」

「黙れです変態!あとブロ〇ー違う!」

「落ち着けロリ」

「マジで通報します」

「許してください」

「絶許」

「何でもしますから」

「私ホモじゃないんだよなぁ……死んで、どうぞ」


 しまった。ついつい、俺の『下ネタを言えるタイミングで言わないと死んでしまう症候群』が発動して、ついつい脱線してしまった。

 春飛は今にも家電から通報を行おうとしている、はやく挽回しなければ……。


「ま、まぁまぁ待てよ!お出かけと言っても、お前が大嫌いなアウトドアじゃなくて、ゲーム屋に行こうって話だ」

「………………」

「新しいゲームを買ってあげようじゃないかね!おじさんについてきたら買ってあげるよ!」

「いやそれ誘拐犯の常套句」

「誘拐犯でも愉快犯でも性犯罪者でも、んなこたぁどうだっていいんだよ!ほーらほら、ゲーム買ってやるぞ?お前の大好きなゲームが、俺と一緒にゲーム屋に行くだけで買ってもらえるんだぞー?お前の望みを言え!」

「なんか言い方が腹立ちますけど……たしかに悪い取引ではないですね」


 フハハハハ!釣られよった釣られよった!

 まるで悪役のごとく高笑いしながら土下座の体勢から立ち上がる。


「待ってください。何本買ってくれるんですか?」

「は?何本……ってお前……」

「え、まさか1本とか言いませんよね?」

「は!?お、おま、2本買ってもらうつもりなの!?」

「え、まさか2本とか言いませんよね?」

「3本か!?3本欲しいのかッ!?このいやしんぼめッ!」

「よんほん!よんほんかってよーおいたん!」

「おまっ…………くっそ、こんな時に限って可愛い声出しやがって!貢ぎたい!いくらでも貢げる!」


 俺はマジにロリコンになっちまったのかもしれん。このロリっ子のためならいくらでも金を出せるしいくらでも働ける気がする。

 だが、春飛が来てからだいぶ上がった光熱費と食費を賄うためにも、こんな月始めから大きく無駄遣いするわけにはいかない。「よんほんよんほん!」と可愛い声で連呼する悪魔を何とかごまかしながら、外出の用意をさせた。



 外出の用意をさせたのはいいが、まだまだ早朝なのでゲーム屋が開いているわけもなく、家で一緒にテレビを見たりして時間を潰したあと、午前10時頃、ようやく俺たちは家を出た。

 最寄りのゲーム屋へ行く道のりは、自転車を使うには微妙な距離で、俺と春飛は一緒に歩くことにする。このヒキコモリは自分の足で歩くことをちょっと嫌がっていたが、ゲームをちらつかせると素直に言うことを聞いてくれた。

 4本買ってもらおうと甘えモードに入っている春飛はさっきから、積極的に俺の手を握ったり笑顔を振りまいたりしてくるので、めちゃくちゃ怖い。そしてそれ以上にめちゃくちゃ可愛い。どうにかなってしまいそうなほどに可愛い。


 ふと、考えてしまう。

 ……こうして手を繋いだのは、何年ぶりだろうか。


 小学生の頃は、よくアイツと手を繋いで色んなとこに遊びに行った記憶がある。だけど、あれからほとんど、『手を繋ぐ』ってことをしていない。

 こんなチャラけた性格だから、女の子を誘ってどこかに行ったりもしたが、恋人関係などではなく「2、3日一緒に遊べて楽しかったね」くらいの……言うなれば、合コンで知り合って番号交換して、ほんのちょっとの間だけ続く関係みたいなものしか持ったことがなかったので、そういうシチュではほとんど手を繋いだことはない。

 手を繋いだのは、たぶんこっちに来る前……田舎で、中学生になってから、アイツと冗談めかして『恋人っぽいこと』をしたのが一番最後だ。


 そのあと、俺は――。


 過去を思い出すのは、いつも唐突だ。

 今でも、誰かが俺を見て、哀れみの視線を寄越してきている気がする。

 今でも、誰かに後ろ指を刺されている気がする。

 あのときのアイツの顔を思い出して。俯いたら見えた、水たまりに映った自分のどうしようもない顔を思い出して。


 不意に、袖がぐいっと引っ張られた。


「……斗月さん、顔、キモくなってますよ」

「…………ゲーム1本しか買わねぇからな」

「ああああああ!う、嘘です嘘です!イケメンです!ノン〇タ井上並にイケメンです!」


 フォローするフリして、けなしてるじゃねーか。

 ……変なことを考えるのはやめにしよう。


 春飛のおでこに弱いデコピンをくらわせると、「かひゃん!」と、間抜けな声を上げた。

 大丈夫。ちょっとだけ面白い。



 ゲーム屋の中で買う買わないを言い争っていると、店を出る頃にはすでに12時をちょっと過ぎていた。


「…………ソフト1本とは言ったが、まさか1万2000円する限定版を買わされるとは……」

「げへへへへへへ……。ミラクルガー〇ズフェスティバル限定版ゲットぉ……。これで限定DLCのア〇スちゃんのメイド服もま〇ろたんの私服もチ〇ちゃんのケルト風衣装も一括購入ですよフヒヒ…………こころがぴょんぴょんするんじゃあ……」

「行きと帰りでこんなに態度に差が出るか、おい」


 手も繋いでくれず、ただただパッケージのニャ〇子やこけしをまじまじと愛おしげに眺めている。

 ……なんか騙されたような気分だが、まぁいいか。形はどうあれ、こんなに嬉しそうにしている春飛を見るのは初めてだしな。

 春飛はパッケージを紙袋の中に戻すと、俺に向かって、その紙袋ごと、顔の前でぎゅっと抱き抱えてみせた。


「ホントにありがとうございました!」

「…………ああ、どういたしまして」


 満面の笑みでお礼を言ってくるから、なんかちょっと照れくさい気持ちになって、はにかんで返した。

 不意に、春飛の目線が、俺の顔から逸れて、表情が固まった。


「…………」


 急に立ち止まった春飛は、しばらく1点のみを見つめたあと、俯いてしまった。

 視線の先を追ってみると。



「ヨウタ、2桁のかけ算答えられて偉かったわねぇ」

「へへー!ねぇねぇ母さん、だったら今日の晩ご飯、からあげにしてほしいな!」

「まぁ、ふふ……」

「ははは、いいさ、今日は2人の好きなものを作ってもらおうな。ヒナコは何がいい?」

「そうね。ヒナコも、とても嬉しい作文読んでくれたし」

「えっとね、私はね!おしるこ作ってほしいな!」

「おいヒナコ、それごはんじゃないじゃん!」

「いいじゃん別に!でざーとだよ!お兄ちゃんはいらないの?」

「ふふふ、いいわ、腕によりをかけて、豪華なご馳走とデザート作るわよ」

「やったー!」

「わーい!」



 車道を挟んだ向こう側に、自転車を押す母親、仕事から急いで駆け付けたと思われるスーツ姿の父親、ランドセルをしょった幼い兄妹。もしかしなくても、授業参観の帰り道だろう。

 彼らが歩いていって見えなくなるまで、その姿を目で追いながら、考えた。


 ……やっぱり、春飛を学校に行かせるのは酷なことかもしれない。


 俺だって小学生の頃、周りのクラスメートたちが嬉しそうに、教室の後ろに立つ親に向かって手を振ったりしているのを、何度羨ましく思ったことか。

 母ちゃんはボンクラ親父のせいで逃げちまったし、そのボンクラ親父が参観なんか来るわけねーし。

 一年に数えるほどしかない行事だが、だからこそ、その時間の辛さは……痛みは、今も胸に残っている。

 同じ思いを春飛に味わわせる選択を、俺はまだできない。将来のためだからと割り切れない。


 だから……。


「…………可哀想だなんて思わないでくださいね」

「え?」


 ひどく冷めた声だった。


「春飛…………?」


 今のはお前が言ったのか、春飛……?


 何に対しても諦めたような、何もかもを拒絶するような、絶対零度の声。さっきまでゲームの紙袋を手ににこやかな表情を浮かべていた女の子が発したとは思えない声。

 春飛は、また深く俯いてしまって、表情を窺うことはできない。


 ……俺には、今の言葉について、深く聞き出す勇気がなかった。

 何度も何度も、『勇気がない』で済ましてしまう自分が嫌になってくる。


 ………あの時、春飛を拾うような真似をしておきながら、いったい俺はいつになったら、本当の意味で春飛を助けてやれるんだろう?不安を取り除いてやれるんだろう?


「…………昼ご飯、なに食べたい?」

「えっ……?」


 心の中の真っ黒な自己嫌悪を悟られないように、必死に笑みを作りながら、俺は話を逸らした…………触れたくない問題、話から……逃げた。

 今度は俺から春飛の手を引いて、歩き出す。

 自分の弱さ、卑怯さに対して生じた、どうしようもなく煮え切らない屈託をぐっと腹の中に抑えて、楽しそうな顔で、声で、春飛と話す。


「こう見えても、時間さえかければ料理はそこそこできるんだぜ。中華でもフレンチでも、なんでも好きな料理言ってみな」

「…………」


 春飛は、俯いた顔を少しだけ上げて、答えた。


「…………………大人数で、いっしょに、ごはんを食べてみたいです」



 で。


「ねー、まだなのー?」

「まだでけへんのー?ダメガネくんー?」

「ダメガ……斗月さん、まだなんですかー」


 ……結局怜斗とは電話が繋がらず、呼べたのは世葉と津森だけだった。

 隣の部屋から容赦ない、というか厚かましい催促が延々と投げかけられる中、俺は一心不乱に食材との格闘を繰り広げていた。

 みんなと一緒に食べられるならなんでもいいと言う春飛にしつこく希望料理を聞くと、しばらく熟考したあとに、「強いて言うなら、なんとなくチャーハンが食べたい気分です」と、うまいこと家で手軽に作れる料理を言ってくれた。もしかしたら気を遣わせてしまったのかな。

 切っておいたベーコンとネギを、油を引いたフライパンの上に投入する。

 ジュゥゥゥッ。ものすごく唾液が分泌されてしまう感じの飯テロ効果音とともに、ベーコンとネギがじゃんじゃん炒められていく。

 こっちに来てから長いこと一人暮らしだったので、炒飯については、『クッソ雑な速攻焼き飯』から『超丁寧な本格チャーハン』まで手広く、色々なアレンジを加えて作ることができる。

 卵を入れるタイミングもそのひとつだ。

 最初のうちは試行錯誤を繰り返していたが、何度も失敗作や微妙な出来を経験しているうちに俺がたどり着いた答えはズバリ、『あらかじめスクランブルエッグ状にしておいて、飯を含む具全部をそこそこ炒め終わったあとに投入する』だ。

 賛否両論あるかもしれないし、俺はまだ長く険しい炒飯道の中間地点にすら到達できていないのかもしれないが、とにかくこれこそ、現時点で俺がベストだと思っている調理法だ。

 最後の味付けは、塩、胡椒、ホントに申し訳程度の醤油、そして決め手のオイスターソース。

 向こうから見ている女子3人へのパフォーマンスを兼ねて、フライパンを2,3回大きく振ったら、あとはテキトーに色を見て、完成。おおーっという歓声と共にまばらな拍手。

 凄まじい湯気に目を細めながら、ぐで〇まの一番くじで当てたのはいいが全然使ってなかった真っ黄色のしゃもじで、4つの皿に盛っていく。

 添えの一品として、昨日夜食に作ったけど結局食べなかった豚キムチを4等分して小皿に出し、気を効かせてくれた津森といっしょに、そのセットをトレーで2人前ずつ運んでいく。食事を届けられた春飛と世葉は、さっきより高い声で歓声を上げた。


「中華屋さんで出てくるヤツみたいに成形はされてませんが……い、意外にけっこう本格的……!」

「運んでる途中も、ものすごいいい匂いして……ホンマ、料理してる姿見てたハズやのに、希霧くんが作ったって信じられへんわ……」

「へへへ……ま、炒飯は特別得意料理ってだけなんだけどな」

「ただのチャラメガネだと思ってたのに……斗月あんた、本格的にアレじゃない?そのキャラ作ってるんじゃない?ホントはもっと真面目で家庭的なイクメンとして好感度うなぎライジングな感じの……」

「なんで俺のアイデンティティーを攻撃しないと褒められないんだよお前は!」

「はいはい、じゃあいただこかー」


 至近距離で炒飯の香りに当てられてしまったせいかはやく食べたくて仕方ない様子の津森さんに急かされて、俺たちは手をあわせた。


 いただきます、と声が揃う。


 春飛の右手に握られた銀のスプーンが、炒飯の山を勢いよく掘り下げ、皿と当たってカツンと音を鳴らす。すくわれた炒飯が、どんな味なのかと舌に神経を集中させた春飛の舌の上に、恐る恐る運ばれていく。


「…………………おいしい…………!!」


 それはまるで、生まれて初めての美しい絶景を見たときのような、驚きの表情。

 春飛に喜んでもらうために作ったものなので、お気に召されたようでとてもホッとした。


「うまっ……!斗月なによこれ!すごい!将来中華屋さんやりなさいよ!」

「お、お店や……これ完全にお店の炒飯やん!」

「喜んでもらえたみてーでよかったよ」


 世葉と津森も満足してくれたことに微笑みながら、俺も自分の炒飯を口に運ぶ。


 飯ひと粒ひと粒がコーティングされているような弾力と、ベーコンや長ネギのジューシーな食感、ひと欠片ずつが独立してふっくらとしている卵の甘味、そしてそれら全てによって醸し出される、一口一口の満足感と満腹感。

 自分の料理だが、自画自賛せずにはいられない。つーか、自分でもこんなにレベルアップしてるとは思ってなかったので、けっこう感動してしまっている。

 一口目からノンストップの無我夢中で食べ続けていた春飛が、ふとスプーンを握る手を止めて、キラキラした目でこちらを見上げてくる。


「斗月さん!めちゃくちゃおいしいですよ!!とっても!あの!すごいおいしいです!!」

「ありがと。ほっぺたにご飯粒ついてるけどな」

「……つけてるんです!!」

「だとしたら食い物で遊ぶな」


 和やかに、そして美味しく、昼ご飯のひとときは過ぎていった。



「とってもおいしい炒飯を作ってもらえたので、今度は私たちが料理をご馳走します」


 …………。


「和やかに、そして美味しく、晩ご飯のひとときは過ぎていった……」

「勝手に場面を進めようとしないでください!」


 ……マジかよ…………。


 うなだれた顔を上げると、エプロンまで着て完全にやる気マンマンの女子3人が。春飛のエプロンは例によって一番くじで当てたものだ。たしか七つの〇罪。世葉と津森の2人は、わざわざいったん自分の家に帰ってまでエプロンを用意しやがった。

 ………春飛の純粋な感謝の気持ちとは違い、こいつらの顔には『私は女子力高い』、『私だっておいしい料理くらい作れる』、『春飛にいいとこ見せる』って書かれてあって、ものすごいゲンナリする。


「なんですか!私たちがメシマズ女だとでも言いたいんですか!?」

「い、いや……包丁とか持つと危ないし……」

「大丈夫です!敵リスポン地点に乗り込んでナイフで5,6人無双できるぐらいにはナイフの扱いには長けてます!」

「ゲームの話じゃねーか!!……っていうツッコミを引き出したいなら、せめてクッキング〇マとかを例に出してくれる!?なにその本来の包丁の用途とはかけ離れたアピール!」

「斗月安心しなさい、私たちがついてるわ!」

「お前が一番の心配要素なんだよ!1年の時の林間学校でカレーの材料を生贄にボルバル〇ーク紫電ドラゴン召喚しやがって!あれ収めるの大変だったんだからな!怜斗の界王類七道目ジュ〇ンネルが無かったらあのデュエルはどうなってたことか……!」

「怜斗さん、けっこう最近のカード持ってるんですね……」

「あれなら大丈夫よ!どんなレシピを使えばどんなクリーチャーを召喚できるか、調節できるようになっているわ!」

「クリーチャーを召喚しないでください、料理を作ってください!」

「私は自慢じゃないけど、得意料理がペヤ○グやで」

「…………なんでだろう、この流れで行くと津森がすげぇ料理うまそうに聞こえる」


 心配だ。

 とてつもなく心配……というか、血を見るのは嫌なのでキッチンを使わせたくもない。


「そうと決まればさっそく買い出しに行きましょう!」

「そうね!何作ろうかしら!」

「簡単なのがええかな、やっぱり?」

「ちょ、何勝手に決めて……!おい待て、マジで!?」


 適当な買い物袋を取って、春飛たち3人は走って出かけて行ってしまった。

 俺の呼び止める声を、無情にも防音のドアが阻んだ。


 家の中から女3人の姦しい声が消えて、俺一人だけが取り残され、数時間後訪れるであろう夕飯という名の混沌に身震いしながら、ただ呆然と彼女らの帰りを待つしかなかった。



 死刑を待つどっかのクズ死刑囚の気持ちである。


 誰に強要されているわけでもないが、俺はさっきから正座の体勢のまま固まっている。

 キッチンから聞こえてくる声はいたずらに不安を掻き立てるだけなのでできるだけ聞きたくないのだが、やはり隣の部屋なので、耳をふさいでたって聞こえてきてしまう。


「一味と七味、どっち入れればいいでしょうか?」

「多い方がいいでしょ、七味にしましょう」

「えっと……クッ〇パッドのレシピは2人前の時、今回作るのは4人前やから、2倍して…………」

「煮詰める時間も2倍よね?」

「夏矢さん!……い、今まで全部、煮詰める時間そのままにしてました……どうしましょう……」

「大丈夫よ、タレとかかけちゃってるけど、もっかい全部鍋にぶち込んで煮詰め直せば済むわ!」

「…………な、なんかことごとく全ての選択肢でバッドエンドに向かってる気がするんやけど……」

「大さじ2杯…………?……普通のスプーン1.5杯でいいでしょうか」

「弱火が1、中火が2、強火が3として……中火で3分加熱なら、強火2分でいけるんじゃないかしら!」


 ヒ、ヒィィィィィィィィィィィィィッ!!


 怖い!怖すぎる!声聞いてる限り、そんじょそこらのホラー映画より怖い!!

 一味と七味どっち使うかをそんな『数字大きい方がつよそう』みたいな価値観で決めるなよ!

 作る量2倍だから煮込む時間も2倍ってなんだよその楽しい算数理論!

 タレかけてたらもう鍋に戻しちゃマズいから!

 大さじって言われたらちゃんと大さじで計量してください!

 火の強さを勝手に数値化しないでください!方程式にして解かないでください!強火2分でいけるんじゃないかしら!?行けませんわ!行けるかボケ!お前を強火2分で逝かすぞ!!


「お、おい、やっぱり俺手伝うから……」

「いいから座っててください!」「いいから座ってなさい!」「いいから座っといて!」

「……もうダメだぁ……おしまいだぁ…………」


 ちょっと前にフィギュア化された例のベ〇ータのような悲壮感に満ちた顔で、俺はひたすら料理を待つほかなかった。できるまでスマホ触ってようかなという気にすらならない。

 くそ……こうなったらなんでも来い!ムド〇ンカレーだろうがなんだろうが完食してやる!!



 それから待つこと数十分。


「できましたよー!」


 バックン。


 心臓が跳ね上がり、なんか紫色の汗が出てるような薄気味悪い焦燥感。

 できましたよ、の声が元気だ。ここから推測される未来は2つ。

 ひとつ。奇跡的に食えるレベルのものができた可能性、1%。

 そしてもうひとつ……奴らは味見をしていない可能性、99%。

 ………いや、でも前者の可能性はそんなに低くはないかもしれない。いくら料理に対する知識がないコイツらだって、味見するぐらいの良心は残っているはず……。


「斗月さんに一番に食べてもらいたくて、味見してないんです!」


 こちらが聞く前にマッハで希望をへし折られました。

 ノン味見はメシマズ女の基本スキル…………。どうやら春飛には、これから先も料理の上達は望めなさそうだ……。将来は世葉のように、さぞ有力なメシマズJKになることだろう。

 満面の笑みを浮かべる春飛によって目の前に置かれた料理は、麻婆豆腐。

 なんで料理に不慣れなのにマル〇ヤにもクッ〇ドゥにも頼らず麻婆豆腐なんか作ろうとしちゃうの。しかもあれだけめちゃくちゃやってたのに、こんなに異臭を放ってるのに、なんで見た目だけはマトモなの。なんであんなグダグダな調理したのにこんなに自信満々なの。

 ……こんな悪魔の食い物を運んできてるのに、なんでそんなに可愛い笑顔なの!

 春飛は期待とドキドキにサイドテールをぴょこぴょこさせながら、俺に、うまいこと具が全部乗ったスプーンを差し出してきた。


「……どうぞ、食べてください……!」


 ……これほど嬉しいシチュエーションはない。

 しかし、スプーンの上に乗った豆腐が一ミリも揺れていないのがもうすでに未知の恐怖である。ほかの具も、なんとなく色がおかしかったり形状がヤバかったり若干ゲル化したりしてて、食欲減退待ったなしである。

 おそらくこれが人生最初で最後の、春飛からの『あーん』になる…………。ゆっくりと噛み締めよう……!


 俺は、スプーンにぱくついた。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああッ―――!!」




「………………あの……作った私が言うのも何ですけど、なんで全部食べてくれたんですか……?」

「……………………………」


 麻婆豆腐ひと皿とデザートのプリン(本人たちはプリンだと言い張っているが、どう見てもモスグリーンの色をしたゼリーだし、しかもなんか中に蛇っぽいのが入ってる)をキッチリ完食したあと、俺はさすがに気分が悪くなって、2階のバルコニーに出て休んでいた。

 隣に並ぶ春飛の申し訳なさそうな質問に答えようとするが、一瞬吐きそうになってしまい、なかなか喉から音を出せない。

 ちなみに世葉と津森はいま、下の階で、自分たちと春飛のぶんの麻婆豆腐と戦っている。ときどき悲鳴が聞こえてきて、そのたびにさっきのトラウマが呼び起こされて吐きそうになる。


「……私も一口だけ食べましたけど、あれ…………なんていうか……匂い嗅ぐだけでも十分罰ゲームになるレベルっていうか……」

「はは……作ってる途中は気付かなかったのか?」

「…………今思うと不思議です」


 ……あんな不確定的な物質を、何の変哲もないキッチン一室で生み出せるお前らの方がよっぽど不思議だけどな。

 夜風が涼しくて、ちょっと吐き気は楽になってきた。


「……なんで全部食べたか、って聞いたよな?」

「…………はい」


「たしかにあの料理は……いや、アレは料理と呼ぶのもおこがましいな……。アレは食えたもんじゃなかったけど、女の子3人が数十分、必死こいて頑張って作ってくれたモンだからな。味自体は、マズいってレベルじゃなかったけど、食べてて……なんていうか、幸せだった」


「……………………」

「ほら、親って、子供がプレゼントしてくれたものをめちゃくちゃ嬉しがるじゃん?そういう気持ちだ。……作ってくれてありがとな、春飛」

「……こちらこそ、食べてくれてありがとうございます」


 親子の例えを使って、自分で胸が苦しくなるのを感じた。


 ……何故だろう。


 春飛がこちらに笑顔を向けてくれているというのに……春飛が笑うたびに、切なさが増す。

 今日、俯いて冷たい声であんなことを言った春飛の姿は、異常なほどに強烈に印象に残って、心を揺さぶってきている。

 夜風に吹かれてなびく春飛の髪を撫でる。


 ………何故だろう。


 この関係が、今にも壊されてしまいそうで。急に、今見ている光景が脆く思えてきて。


「……………………」


 バルコニーの手すりに頬杖を付いて、手のひらの中でそっと、溜息を吐いた。



「芦野春飛、小学5年生。誕生日は11月20日で、10歳」


 二垣は三好がそこまでしか言っていないのに、椅子を蹴飛ばさんとする勢いで立ち上がった。


 憤怒の形相。


 三好は悟った。二垣はいま、本気で怒っている。


「三好……冗談は1回だけにしとけよ。小学生がハッキングもデータ改ざんも誘拐もできるような犯人なわけねぇだろうが…………」

「………ガッキー、これは冗談じゃない」

「なら目ェ覚まさせてやる!」

「聞け!この事件は常識で考えちゃダメだ!」


 至近距離で睨み合う2人。

 タバコの煙だけが蔓延する部屋の中で、空気がいっそう重苦しいものになった。


「ガッキーは僕なんかよりも間近で見たハズだよ……津森論子ちゃんが……『人間がパソコンから出てくる』っていう、常識の通用しないところをね……」

「………だからって……!」

「……いいか、ガッキー。少年犯罪に対する君の想いについては、僕も同じだ。僕も君と一緒に、あの事件を最後まで追った身だからね」

「…………!…………………………………………っ、くそ!」


 二垣の表情は、少し強張るだけだ。

 だが、三好は知っている。

 閉じた口の中では、これでもかと歯を食いしばっていることを。


「…………だけど、このまま疑うべきを疑わずにいるのは、絶対に正しいことなんかじゃない!仲間だからとか、家族だからとか、信じるばっかりじゃ願ってるだけだ!何も前に進んじゃいない!」

「……『捜査という行為自体がそもそも、疑うことから始まっている』。お前、ホントあのおっさんの言葉好きだよな」


 三好は自嘲気味に笑った。


「僕が言ってあげないと、こんなクソダサい迷言、もう言ってくれる人がいないからね」

「……そうだな」

「この事件は、ネットを扱う世代が主な標的……。若者が狙われているんだ。これ以上被害者を出さないためなら、門衛怜斗くんたち高校生に頼ってでも、小学生を疑ってでも、片っ端から調べ上げて真実を暴く他にないんだ」

「…………」

「そもそも……僕だって、本気でその女の子が犯人だなんて思っちゃいないさ。彼女を利用している人間がいるのかもしれないし、どんな可能性があるにせよ、話を聞かないことには始まらないだろ?」

「チッ…………悪かったよ!」


 声を大きくして言った瞬間、首元に違和感がして、見るとネクタイが解けかけていた。

 そういえばまた徹夜しちまったな。

 笑いながらもう一度キチッと締めて、三好は二垣の胸元に拳を突きつけた。


「そうと決まれば、さっそく捜査開始だ。……ガッキー、今日はツーマンセルで行こうぜ」

「………………いつもだろうが」


 2人の刑事が、警察署を出た。


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