影虎のデジタル世界プロトコル
目が覚めると、そこは平原だった。
放課後に寄り道してたら鍵が宙に浮かんでたり、鍵が頭の皮膚をすり抜けたり、ネカフェで意識を失ったかと思ったら平原にいたり……、やれやれ、俺は明日にでも宇宙人に拐われるかもしれん。
……さて、ここからどうすればいいんだろう?
とりあえず自分の状態を確認する。
「あー、あー」
声は出るし、聞こえるな。
体も何一つ不自由なく動くし、服装もネカフェにいたときからなにも変わっていない、我らが私立倫通学園高等学校の制服だ。なんかラノベを実写映画化したみたいなベージュ色ブレザーという、微妙にダサイ制服。
その制服のベルト部分に、何やらカッコいいエンブレムの入った鞘がくくりつけられていて、その中には木刀が収まっている。異世界用初期装備ってところか?
なんにせよ、見渡す限りただただ平原。野原。次に何をやればいいのかサッパリ分からない。ここがゲームの世界であるならば、チュートリアルの1つや2つ、始まってもいいものだが……。
などと考えていると、その思考に反応したかのようなグッドタイミングで、飛び跳ねているような元気な声が背中にぶつけられた。
「やあ、レイト!ようこそ、トゥエルブスターオンラインの世界へ!」
後ろを振り返ると、青い虎の赤ちゃんのようなキャラクターが親しげに笑いながら、俺に向かって歩いてきていた。
……お次は喋る虎かよ。
まぁこれに関してはゲームの世界での出来事だし、超常現象ってワケでもないか。それにしても、こんなものを見せられると、自分がゲームの世界にいるんだって実感がにわかに湧いてくるな。
「ここはトゥインクルグランド、輝く星座の大地!その中でもここは『アバウンドの野原』。冒険者はみんな、ここで基本を覚えるんだよ!」
トゥインクルグランドときたか。輝く星座の大地ときたか。
んで、そのトゥインクルランドの初めの大地、『アバウンドの野原』。
たしか『アバウンド』は……満ちている、とかいっぱいいる、っていう意味だったっけ……。ここが始まりの場所、最初の拠点ってワケか。
「……お前は?」
「ボクは双子座専用のサポートキャラだよ。戦闘や冒険で困ったことがあればサポートするよ!」
「へぇ、サポートキャラねぇ。名前は?」
「ボクの名前?うーん……特にないなあ。ボクはレイトのパートナーだから、レイトが名前をつけてくれたらうれしいかな!」
おお。NPC(ノンプレイヤーキャラクターの略。ドラ○エで言う村人Aとか)のくせに会話がスムーズだな。
何か特殊な設定が為されているのだろうか、それともここはゲームの世界によく似た異世界とか?そんなわけないか、小説家にな〇うじゃあるまいしな。
で、とりあえずこのトラ公に名前をつけてやらねばならんのか。
ふむ…………。
「よし、お前は今日から『ジェイペグ』だ」
「ジェ、ジェイペグ!?なんで!?なんでパソコンの画像データの最後につく『.jpeg』を名前にするの!?」
「おお、ツッコミ対応も出来るのか。最近のAI技術は進歩してるな」
「うわあ、返答が冷めてる……。もっとこう、『ここはどこだ?』とか『なんで俺がゲームの世界に?』とかないの?」
「お前もなかなかメタいな、自分で自分が住む世界のことをゲームって呼ぶとか」
「……まあ、あの『意識の鍵』を使ってこの世界にログインしたレイトたちは特別だからね。ボクたちパートナーも、特別製なんだよ」
意識の鍵?……俺がここに来る要因になった、あの皮膚をすり抜けるけったいな鍵のことだろうか。それを使ってゲームの世界に入ったから、ログインしたってことなのか?
それに……言葉のアヤで揚げ足を取るようだが、『特別製』という単語も気になる。ジェイペグは誰かに作られたAIで、さらにその『誰か』はあの意識の鍵とやらも作った可能性が高い。
その黒幕的な誰かについて知る必要性は今のところ全くないわけだが。
「さて、ではジェイペグよ」
「あ、もうその名前で決定なんだね……。いいよもう、好きに呼んでよ……」
「ジェイペグよ、そろそろチュートリアルを始めてくれ」
「君はホントに冷めてるね!?ここがゲームの世界だって分かってるとはいえ、仮にもマスコットのボクにチュートリアルやれとか頼む!?」
「うっわ自分のことマスコット呼びとか引くわ…お前とかせいぜいポ○モンで言うビー○ルだから。プレイヤーから『進化前は可愛かったのに』とか言われてすぐボックス1送りにされる存在だから」
「○ーダルのこと悪く言うなよ!普通に可愛いからねビーダ○!ひでんわざ結構覚えるし有能ポケなんだからね!」
「自分のことマスコットって言うならポケモンのマニアックなあるある披露してんじゃねーよ!ゲームのマスコットが別メーカーのゲーム遊ぶなや!」
「やだよ!赤からやってるからね!オメガ○ビーは幼馴染みとのイベントがラブコメ成分多すぎでエロゲエロゲって言われてるけどけっこう楽しいよね!」
「エロゲとか言っちゃったよコイツ!?運営どうなってんだ!カラットさーん!?」
特別製だからって色々やりすぎじゃないのか!?版権的にアウトじゃない!?
俺がツッコミ疲れたのを気遣ってかなんでか、ジェイペグはやっとチュートリアルらしき説明を始めてくれた。
「そうだね……。まず、同じフィールドのどこかに飛んだ君の友達二人を見つけるのが、チュートリアルクエストってことにしようか」
「なるほど、よくあるよなそういうチュートリアル」
「途中でエンカウント(モンスターと遭遇すること)したら、その時にバトルの仕方を説明するから。はいこれ武器」
そう言ってジェイペグがどこからともなく取り出したのは、40ゴールドくらいで買えそうな木刀だった。
「ふぅん…ま、最初の武器っつったらこんなもんか?」
「聖剣○説なら最初から聖剣使えたけどね」
「……お前ホントにマスコットの自覚あるか?」
妙に他社ゲームの知識が豊富なパートナーを連れて、俺の異世界での初クエストが始まった。