謎解きはランチのあとで
「……ねぇ、マジでどうしたの?」
「うごごごごごごごご……。死にたい……いっそ殺してくれ……」
昨日、俺が色々と大事なモノを失う羽目になった(まぁ自業自得なんだけど)一幕など知る由もない夏矢ちゃんが、若干引き気味に俺を心配してくれる。
月曜日、精神的にもうマジで無理なので学校休ませてくださいなんて言うわけにもいかず、半ばスライム状になりながらドロドロと学校に来た俺は、とうとう昼休みを迎えていた。
俺が伏せっている間にどうやら他の3人は揃ってしまったらしく、気だるげに顔を上げると、斗月などは既におにぎりを完食してしまっていた。
「朝来た時からこんな調子やし、何聞いても唸るだけやし。……あ、委員長……良ちゃんを見る時だけなんか発作起こしたようにバーサクしてたかなぁ」
「うばしゃあああああああああああああああああああああああああ!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!急になんだァァァァァァァ!!」
あんまり瀬戸さんと話してなさそうな津森さんまで名前覚えてるのにィィィィィィィィィ!!俺って、俺ってクズはァァァァァァ!!イェアアアアアアアアアアアアアア!!ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
はい、一度に5ポイント以上のSAN値を失ったため怜斗さんアイデアロールでーす。成功ですか?はーい、では不定の狂気でーす。狂気表いきまーす、ダイス振ってくださーい。はい、3が出たので発狂内容は『斗月の抹殺』でーす。ではロールプレイよろしくお願いしまーす。
「あ、そうそうこんな感じ。教室ではもっぱら匙浪くんを標的にしてたなぁ、あはは」
「あははじゃねぇぇぇぇぇぇ!なんだこのとばっちりィィィィィィィィィィ!ちょ、ギブギブ!死ぬ!首絞まって死ぬゥゥゥゥゥゥ!!」
「相変わらずのリアクション芸人っぷりね、それでこそダメガネだわ、グッジョブ!」
「そのまま死んでくれたら嬉しいなぁ」
みんながまったり食事を取る中、ここのテーブルひとつだけ明らかにテンションがおかしいのだが、みんな俺たちが視界に入っていないとばかりに気にしないでいてくれる。
ありがたいことだ、それでこそキチ◯イが映えるというものだ。
五分間ただひたすらに茶番を繰り広げたあと、正気に戻った俺はほぼグロッキーの斗月を解放し、気持ちを切り替える。というかこの辺で切り替えとかないと、今日の放課後も瀬戸さんに勉強教えないといけないというのに、精神が保たん。
頬を2、3回叩いて、俺は真面目な顔で、チラリとテーブルの上に鍵を出し、3人に……特殊犯罪誅伐チームのみんなに語りかける。
「……事件の、話ね」
俺の表情変化の意を悟ってくれたみんなにうなずき返す。
「昨日ネトゲ世界で見た、空に浮かんだ天空城……あれは正式なデータではないとジェイペグたちは言ってた。つまり、この一連の失踪事件、『人喰いディスプレイ事件』を引き起こしている犯人が作った、不正データだ」
「思ったんやけど、その……『不正データを作ってるハッカー=人喰いディスプレイ事件を引き起こしてる犯人』って、言い切れんの?
なんか全く無関係の目的でハッカーが作ったモノを、事件の犯人が利用してるって可能性は?」
津森さんの指摘、疑問はもっともなのだが、俺はそれに首を横に振って返す。
ここからは、不正データを作っている奴を『ハッカー』、人間をネトゲの世界に落として失踪させている奴を『犯人』として、その二人を全くの別人と仮定して話すけど、と前置きする。
「共犯はあり得るけど、ハッカーと犯人が無関係の人、ってのは考えにくいかな。
津森さんを閉じ込めてた蝿は、言うまでもなくハッカーが作ったモノだ。それをハッカーと無関係の犯人が利用したんだとしたら、犯人が蝿のプログラムをいじって、失踪者を閉じ込めさせたことになる。
ジェイペグたちの言う通りなら、ゲームの運営のセキュリティは超頑丈で強固らしい。それを破った強者が組んだプログラム、犯人はさらにそのプログラムをハッキングして利用したことになっちまう。可能性は低いだろう」
「なんかややこしいわね……」
「アタマ痛ぇわ……」
普通の事件でも、それを高校生が真面目に考えるのなんてマンガやアニメの中だけの話なのに、それに今度は『デジタル世界に人を入れる力』ときた。
夏矢ちゃんや斗月が頭を抱えるのも、無理はない話に思えた。
「あ、そうそう。事件といえば、ずっと言い忘れてたんだけど、報告があるの」
報告?
夏矢ちゃんはパンパンと手を叩いて居住まいを正すと、その報告を、粛々と告げ始めた。
「津森さん以外の失踪者も戻ってきてて、病院で検査をしてるって、二垣さんたち言ってたわよね?その結果が出たわ」
……喜ぶべきなのか、どうなのか。
夏矢ちゃんの表情を見る限り、検査の結果が良いものだったとは到底思えなくて、俺たちはただ静かに息を飲むことしかできないでいた。
「結論から言うと、みんな少し様子がおかしいらしい。今朝のことだから詳しくは聞けなかったんだけれど……あとで二垣さんのところにでも行けば、もしかしたらその人たちの話を聞けるかもしれないわ」
「そんな…………ってアレ、ちょっと待った。なんで夏矢ちゃんがそんなこと知ってるん?」
「津森は知らなかったっけ。コイツの親父、あそこの一番偉い人」
そう言って、斗月は4階食堂の窓から一望できる街へ向かって指を指す。
ごみごみとした街の奥の方へ目を向けると、大きくて見やすい看板と赤十字を目印に、年季を感じさせない真っ白な建物。
世葉国際総合病院……日本に、世界に、様々な繋がりを持つその病院の院長は、世葉圭堂。夏矢ちゃんの父親だ。
家はとてつもないほどの財力を持っているんだろうけど、父親である圭堂さんの教育方針によってか、夏矢ちゃんの小遣いとか食事とかは限りなく庶民のソレに近いようだ。といっても娘を溺愛しているため、彼女にお願いされたら、大抵のお願いはいろいろな力で叶えてしまったりするようなのだが。
「……時間が経てば失踪者を解放、そして帰ってきた失踪者は、どこか『様子がおかしい』……って、謎すぎないか?」
「逆にますます、犯人の狙いが分からなくなってきてねーか、これ……?」
『夜、密室で、パソコンの電源をつけている』という条件を満たす人間を無差別にネット世界に落とす、という時点で不可解すぎる犯人の狙い。それが、さらに濃い霧の彼方へと行ってしまった。
おそらく……というか十中八九、『様子がおかしい』と『犯人に何かをされた』というのは同義だろう。あるいは津森さんのように、執拗に精神攻撃をされて、人格をおかしくされてしまった可能性だってある。
愉快犯の一言で片付けることもできるのだが、動機も野望もない人間が、このような手の込んだ事件を起こすだろうか?
……ダメだ。考えれば考えるほど、頭に霧がかかっていく。
「とりあえず、津森さんの時に当てはめて考えるなら、既に失踪者が出ていてもおかしくないはずだ。二垣さんに聞きに行ってみよう」
「……うん。これで、ひとまず話し合っておくべきことは以上かしら?」
「あー、ちょい待って」
斗月が手を挙げる。
その顔は、気付いてはいけないことに気付いてしまったような、非常に顔色の悪いもので。
「思ったんだけどさ……犯人って、生身の人間をどうにかしてネトゲの世界に入れる技術持ってるじゃん?で、俺らが持ってるこの鍵も、意識だけだけど、人の意識だけ、ネトゲ世界に入れる力を持ってる。
……この力、最初は『犯人に対抗するために誰かが作ったんだ』とか勝手に思ってたけど……もしかしてこの鍵って……」
言いたいことが分かってしまって、思わず唾を飲み込む。
なんで今まで気づかなかったんだろう。というか、無意識的に、その考えに至らないようにストッパーがかけられていたのかもしれない。
気付けば四人全員が、テーブルの真ん中に自分の鍵を並べていた。
「……この鍵って……犯人が作ったものなんじゃねーのか……?」
…………………。
俺を含む全員が、青ざめた顔で、言葉を失い沈黙してしまう。
犯人の目的は全く不可解……。もしかしたら、俺たちは犯人の手のひらの上で踊らされているのかもしれない。事件の謎を追おうとする俺たちのこの行為自体が、犯人の狙いのひとつなのだとしたら……。
いや、まさか、俺たちはすでに犯人のミスリードにはまってしまっている……?
キーンコーンカーンコーン……。
そんなこと考えるなよ、もっといい方に考えろ、妄想に逃げ込めよ。
昼休み終了の予鈴は、俺たちが悪い想像に悩むのを見て滑稽がるように……悪魔の笑い声のような馬鹿高い音で、朗らかに鳴り響いた。
確かに悪い方にばかり考えてもいけないが、かといって、その悪い可能性を見ないふりをし、排除して考えていては辿り着けない真実があるわけで。
「ハ、ハハ……推理って難しいんだな……」
自分の発言によって暗くなってしまった場の空気に耐えられなくなったのか、斗月は首筋に手を当てて苦笑いを浮かべる。
とにかく、あとは放課後か夜にでも考えよう。そう言って俺たちは別れた。
#
放課後午後三時半すぎ。
昼休みに言っていた通り、警察署へ行って二垣さんのところで失踪事件についての話を聞くことになったのだが、問題が生じた。
いわゆるダブルブッキング。門衛くんはもちろん良ちゃんに勉強を教える予定を断れないし、夏矢ちゃんは、新橋先生に例の相談を持ちかけられたので今日はパスだそうだ。
新橋先生は一応私にも相談したいと言っていたのだが(世葉では当てにならん、とも付け足していた)、私までそちらに行ってしまうと、事件の話を聞きに行くのが希霧くんだけになってしまうので、断ってきたのだった。
私は片耳にイヤホンをして音楽にノリながら歩いている、秒速単位で腹立たしさの増す希霧くんと距離を取りながらイヤイヤ歩く。
「はぁ……。なんで私がこんなのと2人で……」
「まーだ昨日のこと怒ってんのかよ?ごめんってー」
「うげ……地獄耳」
さっきまで音楽に聞き入っていたくせに、希霧くんは私の舌打ち混じりの独り言に、チャラチャラしたニヤケ面で反応してくる。
……希霧くんに悪意はないのだ、昨日のことも謝ってくれているのだとは思いながらも、どうやらそもそもこういった、砕けすぎというか、チャラい態度などが私とは人間的に合わないらしく、内心イラッ☆ときてしまうんだ。私は頬を膨らませた不機嫌そうな顔を隠すでもなく、そっぽを向いて黙り込む。
「にしてもアレだよなー、怜斗と世葉のバカップルはもう完全にデキ上がってるし、ここは俺と津森も結ばれるしかないんじゃね?」
「今すぐ車道に飛び出てパッと通ったトラックに引き摺られて泣き叫ばれて血飛沫の色とか香りとか混ざり合ってむせ返ればいいんとちゃうかな」
「カ〇プロのパクリ!……じゃなくて、なぁー、いいと思わね?津森可愛いし!津森可愛い津森可愛い、ほらほら、イケメンの俺に可愛いって言われて、オンナとして感じるものはねぇか!?」
「殺意?」
「こわっ!いやいや、とかなんとか言っちゃって、実は俺のことちょっと気になってたりするんじゃないの?なんてったって俺、ナンパ百戦錬磨の見た目は将校だし!」
「その断頭台で首落として♪」
「ここまで俺どう足掻いてもデッドエンド!付き合うか付き合わないかじゃなくて轢殺か斬首かってどんな鬼畜選択肢だよ!?」
「大体ナンパ百戦錬磨って……。成功率何%でそんな口叩いてるん?九連宝燈ツモ和了より確率低いやろ?」
「成功したら翌日死ぬというジンクスがつくぐらい!?そんなツンツンしてねーでさぁ、ほらほら、くっつこうぜ!どこ住み?てか、LINEやってる?ゎら」
「出会い厨かっ!……はぁ…………ホンマ腹立つわぁ……」
「はははっ。ま、俺の方から口説いといてなんだけど、俺にはもう心に決めてる人が既にいるから。悪いけどお前とは付き合えないから。ごめんな?」
「なんで私がフラれたみたいになってんの!?」
殺意に殺意を重ねたどす黒い視線を軟派ダメガネに向けるも、「そんなに見つめてどうしたんだい?キラッ☆」とか、ナルシストのテンプレみたいな返しをされるだけで効果がない。
早く警察署に着いて二垣さんにこの犯罪者予備軍を逮捕してもらいたいものだが、そこに着くまでに私はどれだけストレスを溜め込むことになってしまうのだろうか。警察署までの道のりに保健所でもあればええんやけど。
希霧くんは私を口説こうとし、私はそれに悪態で返す。そんな反吐が出るほど不毛なやり取りを繰り返しながら歩き、ようやく赤信号の向こうに目的地が見えてくる。
万津市警察署。
正義感を表す純白の壁を年季に黄色く汚されながら、今日も街の真ん中にドッシリと腰を据えて、住民たちの暮らしを見守っている。
こうして信号待ちの数十秒間見ているだけでも、署員たちが忙しなく出入りし、動き回っている。
……こんなプロっぽい人たちにも捕まえられへん犯人を、私たちが突き止めて誅伐する……か。
………………。
「どした?信号、青だぜ」
「え?あ、あー……。わ、分かってるっちゅーねん!」
「ちゅーねんとか……可愛い」
「死ね」
少しの緊張感を胸に、警察署に入る。
#
署内は、署の外にいた数人の警官たちから感じられた焦燥感、その倍以上慌ただしく動き回っており、さすが、都会の一等市街の治安を守るお巡りさんたちの本拠地だと思い知らされる。
数人の警官らしき人が、入口から数歩歩いたところで立ち止まる私たちに一瞬怪訝そうな顔をするも、注意や応対などをしている暇もないのだろう、すぐに興味を無くしたように、各自の書類整理や聞き込み、捜査協力の電話業務などに戻ってゆく。
私たちのいるべき場所じゃ、ない。
自分たちから溢れ出る場違い感に気圧されていると、奥から聞き覚えのある、この世の全てにいちゃもんをつけるようなヒステリックな声が届く。
「……お前らか。ったく、来るのが遅いんだよ……」
一体何が憎いのか、一体何が気に入らないのか。
二垣巡査その人はどうやら、前回前々回と会った時が特別機嫌悪かったとか、そういうのではないらしかった。今も眉根に深いシワを寄せて、表情全体で何かを嘆いているような……。オールウェイズ不機嫌。
正直、新橋先生と同じくらい怖い。私はできるだけ明るく、礼儀正しく居住まい清らかに頭を下げて挨拶をする。
「ど、どうもお久しぶりです。……津森論子、です」
「今更名乗らんでも知ってる。お前が失踪したその日から発見される日曜まで一睡もナシで、お前の顔写真とにらめっこしながら、お前の姿を探して街中をかくれんぼしながら、お前の情報を求めてそこのアホ共と一緒に探偵ごっこしたからな。……よーく覚えてるよ」
「あ、あははははは~……」
うわあ、こんなネチネチ怒るタイプの人やったっけ……?心なしか今までで一番機嫌が悪いような……。
私が笑顔を引きつらせている後ろ、いつの間にか希霧くんは一歩下がったところで我関せずとばかりにスマホをイジっていた。このアホ眼鏡、本格的に役に立たない。ゴミはゴミ箱へ。
二垣巡査がそれっきり口を閉ざしてしまい、私も何も言えずに愛想笑いを浮かべてやり過ごそうとする。そんな最悪のバッドコミュニケーションの中、しばらくお互いに黙っていると、後ろのデスクから、オールバックの若い男性が立ち上がって、こりらへ寄ってくる。
「いやー、ごめんね?ガッキー、ここ最近イライラしてんのよ。ほら、君たちに言ってた被害者たちが戻ってきたってハナシ。あれの検査がちょっと、だいぶヤバくて、こっちとしても参ってるんだよねー」
「慎五郎っ、ったく……てめぇ、何回言ったら分かるんだ?一般人に捜査情報を漏らすんじゃねぇ……」
「あいたっ、ちょ、ガッキー、ドツくことねーだろ!?痛い痛い……。検事、弁護士、刑事とキャリアを積んできたボクの偉偉なアタマが……。ガッキーとは比べ物にならないくらい経験を積んできてる高貴なアタマがぁぁ……」
「ちっとは声のボリューム下げらんねェのかてめぇは……」
「いーじゃん別に、この子らはもう既に《《共犯者》》なんだしさぁ」
「やかましい、こいつら以外にも一般の人間がいたらどうするスクラップにされてぇか、あぁ!?」
「痛い、痛いから!海外の法曹界でも通用する確かな才能を持ったボクのアタマがぁぁぁ!」
非常にうるさくハツラツ嫌味なオールバックの三好刑事さんは、非常に静かでウルトラ不機嫌な二垣巡査に、頭をゴリゴリされて痛い痛いと叫んでいる。
みんな忙しく働いている中、こんなうるさくしたら迷惑なんじゃないかと思うも、みんな「またアイツか」みたいな顔で一笑に付すのみ。
「あ、あのー……」
「ああ、悪い。お前らに折り入って報告と相談があるんだが……」
と、少し二垣さんが手を緩めた瞬間、ぴょいっと、三好刑事が拘束から逃れ、にへらーっとしたいつもの笑みを浮かべる。
この、見る者全てを脱力させるようなへなへな笑顔。この人が犯罪者を逮捕する瞬間を必死にイメージするが、どうも想像がつかない。
「ま、こんなとこで立ち話も何だし、ちょうど前回使った会議室もあるし。ガッキーも君たちも、座って落ち着いて話したいでしょ?」
「……しょうがねぇ。じゃあお前ら、ついてこい」
「あ、はい!」
「三好はコーヒー買ってから来い」
「そんなサラっとアッサリな流れで人をパシらないでくれるかな……まぁいいけど」
二垣さんのあとについて歩く。
ちょっと廊下を進むだけで、何人もの刑事さんたちとすれ違う。忙しそうだなー、などと、きょう何回目か分からない小学生並みの感想を呟く。
署の西側、ちょっと折れ曲がった廊下の先にある錆びついた鍵のドアを、二垣さんがジャラジャラとした鍵たちの中から、1発で選び取って、ガチャリと開錠した。
第2会議室。
広さは、私たちの教室をちょっと拡張したくらい。床も壁も灰色で塗られていて、長机が1つとパイプ椅子がいっぱいと、ポット1つとお茶請けがたっぷりと、テレビ1つと……その……何故かピンク色のビデオがいっぱい。
最後の最後で目に止まった最低なビデオに目を瞑れば、大体殺風景な部屋。会議室と呼ぶには、サイズ的にも規模的にも少し小さい気がする。
居心地の悪さを感じながら、三好さんと一緒に私たちはパイプ椅子に座って、二垣巡査と、彼が取りに行った事件の書類の到着を待つ。
程なくして、二垣巡査が2組のクリアファイルを持って会議室へ入ってきた。
「待たせたな」
「ショウタイムだ!」
「生憎だが俺にはサソリやツチノコを食う趣味はない、そしてお前が次ふざけたネタを持ち込んだ時にはお前の命の保証はない。……いいな」
「はっ、ハィィィィ!!」
「夏矢ちゃんにしろ希霧くんにしろ、なんですぐ話を脱線させようとすんのかなぁ……」