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放課後ロルプライズ!  作者: 場違い
3章・絡み合う日常と電脳世界
35/73

hack.

「……………………」

「……………………」

「……………………」


 アバウンドの平原、そのおよそ中央にて、暇人パーティのリーダー怜斗こと俺は、3人のダメダメメンバーを正座させて腕を組んでいた。

 遠くからは他のプレイヤーたちが魔法を使うエフェクト音や剣の斬撃音が届いてくる。そんな、いつモンスターが出て襲ってきてもおかしくないこの状況で反省会をするのは、これを怒らずにはどうにも煮え切らないからである。

 眉根を揉んで、反省を促す。


「…………お前ら、何か言うことは?」


「次こそはちゃんと召喚します」

「次こそはちゃんと殺します」

「次こそはちゃんと過剰防衛します」


「違う!違うし反省のベクトルが真逆!あと津森さんはキャラ崩壊しすぎ!」


 もっと最初は内気な感じのメガネ美少女だったでしょ!?次はちゃんと殺すって何だよ!?そんなシニカル殺人鬼錬金術師雀士うちのパーティにいました!?

 だめだこいつら、何がダメだったのか全く分かってない。

 特に夏矢ちゃんには早く自分の危険性を分からせなければ俺の命が危ない。


「……夏矢ちゃん。お前、何回召喚失敗したっけ?」

「…………3回?」

「42回だアホ!!俺がアイテムで回復してもおかまいなしに追撃してきやがって!お前実はわざとだろ!?わざと失敗するようなチート使ってるとかだろ!?」

「そ、それでも10回くらい成功したじゃない!?」

「…………ジェイペグ。ジョブレベル1のサマナーの召喚成功率は?」

「……60%だよ」

「ほら!普通最低2分の1くらいは成功させるんだっての!お前の失敗率どうなってるわけ!?即死魔法の成功率より高い失敗率の召喚スキルって何!?」

「うぐぅ……」


 痛いところを突かれたとばかりに肩を竦めてうめく夏矢ちゃん。

 だが、俺が反省してほしいのはソコではない。


「いや、運が悪いのはどうしようもない。反省してほしいのはそこじゃない」

「え?」

「こんな失敗率低いのに、俺を実験台に何発も何発も召喚スキル撃ったことに怒ってんの!しまいにゃ戦闘不能になった後も俺を燃やし続けたらしいねお前!」

「いや、ほら、失敗は成功の母って……」

「あぁん!?」

「スイマセンッ!」


 まったく、と額に手をやって溜息を吐く。この溜息を残り2人ぶん吐かなければいけないのか、という憂鬱さも混ざった、非常にヘイトに満ちた呼気である。

 さて、と呟き、夏矢ちゃんの隣で正座した2人……、否、正座したまま小規模な魔法の撃ち合いをしているアホ2人の方に目を向ける。


「…………お前ら。人がパニックになってた時に、何ハリー〇ッターみたいなマジックバトル繰り広げてんの?」

「ごめんごめん。手が滑ってん」

「手が滑っただけであんなに魔法連発しちゃう操作性なら、そんなクソゲー潰れちまえ!ていうか最後らへんとか最早魔法の撃ち合いってレベルじゃなかったよね!?弾幕ごっこしてたよね!?俺東〇地霊殿あたりであんな感じのスペカ見たもん!」

「ちょっと待てよ怜斗、俺は正当防衛だろうが!?」

「いやどう考えても過剰防衛だよキチ眼鏡!ノリノリで覚えたてのスキル使いやがって!何だったっけアレ、『飛〇の拳』と『相当アホそう』?」

「『龍炎の発』と『双頭断層そうとうだんそう』だ!誰が相当アホそうだコラ!」

「問答無用死ねェ!」

「ちょっ、待って、今、俺、津森に魔法でやられて大分ボロボロ、ちょ、ヤバイ、酸はヤバ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ溶けるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 さて、こんなカタチで初お披露目になるなんて思ってもいなかったが、俺のジョブは『黒科学者マッドサイエンティスト』である。

 そして今斗月に対して使ったのは、黒科学者専用スキル、『スライマイズ』。なにかしらヤバそうな酸的液体を相手にかけることで、無属性で固定ダメージ50を与え、さらにスライム化という状態異常にさせるスキルだ。

 みるみるうちにスライム状になる斗月。これこそこのゲームで最も厄介な状態異常のひとつ、『スライム化』である。効果は『一定時間、回避率が80%になる代わりに、HPが3になる』という鬼畜極まりないもの。

 さらばクソ眼鏡、来世の活躍にご期待ください。とはなむけの言葉を吐き捨てて振り向くと、涙目の津森さんがヒクヒクと引きつった顔で後ずさりする。


「さて津森さん。次は君だ」

「ヒッ!すいません刑事さん私が悪うございました!」

「正直でいい子だ、そんな君には硫酸をプレゼントしよう」

「どっちみち殺る気やんか!ちょっと、ホンマに!女の子が半液状化はヤバイで!?いいの!?門衛くんに辱め受けた、って現実世界にまで波及させるからね私!」

「…………今日のところは許しておいてやろう」

「あっ、ずりぃ!お前ほんっと女にだけ妙に優しいよな!世葉に至ってはなんか怒り方も優しかったしさー、このムッツリツンデレ野郎ウゴモボォォォォ!?」


 うるさいスライム駄眼鏡を木刀で一閃。2EXPと1Gを獲得。

 斗月のスライム化は解除され、いつもの見慣れたアホ面メガネが地面に倒れ伏す。なるほど、戦闘不能になると状態異常は解除されるのか。ためになったね!

 斗月の口に復活アイテムの十字架を無理矢理突っ込みつつ、俺は女性陣2人に向かってビシッと指を突き立てる。


「とにかく!夏矢ちゃんはレベル上がって成功確率上がるまで無闇やたらに召喚しないこと!そんで、津森さんもこんなダメガネに怒って魔法ムダに使ったりしないこと!いいな!?」

『いや、あの、でも』

「え?スライムにされたいって?」

『素直に言うこと聞きますっ!』



 アホ3人に半ば脅迫的に言うことを聞かせた俺は、メニューを開いて時刻を確認する。

 午前11時。委員長との約束までまだ時間はあるし、俺のスキルの試し打ちが不十分なので、もう少し遊んでてもいいか、と一息吐く。


「んじゃ、索敵スキル頼むぞ」

「へいへい」


 俺の指示を聞き入れたかと思うと、なぜかいきなりグ〇コのポーズを取る斗月。どうやら索敵は、目を瞑ってさえいればどんなポーズでもいいらしい。

 むむむ、と眉間に皺を寄せて意識を集中させていた斗月は、しばらくすると、突然カッと目を見開いて、慌てふためきだした。


「ちょ、こ、これ……。なんかおかしいぞ!?」

「え……ど、どうかしたの?」


 俺がおかしいのかな、てかマジで何なんだよコレ。斗月は〇リコポーズのまま錯乱気味に、なにやら独り言を呟いている。

 なんなん、ついにアタマおかしくなったん?とは、先ほど喧嘩ころしあいしたせいで斗月に対して刺々しい態度の津森さん。

 しばらく斗月が唸っていると、いてもたってもいられなくなった、といった様子で、夏矢ちゃんの足元にキーピーが現れた。ひどく焦っているその様子は、最初のダンジョンでハッキングが発覚したときのそれと類似している。


「な、何が見えておるんじゃ!?おかしい、とは…!」

「その声、キーピーか?……なんかおかしいんだ、マップが……こっから西の方のマップが、なんか文字化けしてるみたいに、ぐっちゃぐちゃにバグってやがる!」


 西の方?反芻して言われた方角へ目を向けた俺は、思わず言葉を失った。

 ごちゃごちゃした無数のブロックが、地面から生まれ、風に吹かれた紙吹雪のように舞う。空中で少しの間ゆらゆらと揺れたそれは、次第に一つの『カタチ』を形成してゆく。

 ゴゴゴゴゴ、と効果音が鳴ってもいいものなのだが、それが一切の無音である。これだけ大規模な現象が起こっているにも関わらず何も反応しない聴覚に、本能が警鐘を掻き鳴らす。

 やがて、乱雑なるブロックの動きは止まり、カタチは完成形となってそこにそびえ立った。いや、空中に浮いたまま、停止した。


「……ラ◯ュタ?」


 西の空の上空に浮かぶ雲を無機質に見下ろすのは、天空に浮かぶ西洋風の城だった。

 まさに某ジ◯リ映画。俺は今ラピュタ王の前にいるのだ。バ◯ス!


「って、いやいやいや!パ◯ーもシー◯も宮◯駿もアレ勃ちぬもねーよ!おいナウド!あ、あれってもしかして…!?」


 いつの間にか索敵をやめて普通に目を開け、天空城の成り立ちを見ていた斗月が、慌ただしくパートナーを呼び出す。

 呼び出されたナウドは、とても悩ましげに頭を抱えていた。

 同時にジェイペグも出てきて頭を抱える。


「……こんな演出、こんなダンジョン、こんな城のデータは存在しない……!」

「いま確認してきた!あの城は蝿とかと同じで……ゲーム運営ではない第3者が作った不正データだよ!!」


 ギリっ、と恨めしげに天空城を睨みつけたナウドは、四足歩行のうちの一足で、くそっ、と地面を殴る。


 なんとなく、何が起きてしまっているのかが分かってしまった。


 第一のハッキングの際に被害を受けた津森さんが、はっと息を飲む。

 そう。あの忌々しい蝿がダンジョンを支配し、構造を狂わせた時のように。今も、誰かしらによるハッキングが起こされたのだ。

 分かってはいたんだ。津森さんを最後に次の被害者がまだ出ていないと二垣さんは知らせてくれたが、犯人はまだ捕まっていないのだから。


 津森さんたちを巻き込んだ、あの事件は……。


「密室失踪は……『人喰いディスプレイ』の都市伝説は、まだ……」


 終わっていない。


 そして、また誰かがこのゲーム世界に入れられてしまうのかもしれない。これは犯人による、とても回りくどい犯行予告なのかもしれない。また、心の傷を抉られて、何でも叶うゲームの世界に誘われる人が出てくるかもしれないのだ。

 それどころか、天空城には地面から上がれる階段などはなく、完全に、一切の支えなく空に浮かんでいるため、もし失踪者が出て、あの城の中に入れられると、それこそチートでも使わない限り救出できない恐れがある。


「……私たち、だけね」


 ふと夏矢ちゃんがそんなことを呟く。


「多分、ハッカーは……いや、ハッカーがこの一連の失踪事件を引き起こしてるのか分からないけど。犯人は、次々に人をゲームの世界に入れていってる。今までも、そして多分これからも……」

「犯人は何らかの方法を使って、真夜中、密室にいる人間をゲームの世界に入れる。そしてその被害者には、津森ん時の蝿みたいなのが出てきて……危険な目に遭わされる」

「私も、あのまま門衛くんたちに助けてもらってなかったら、どうなってたか分からん……。そうやね……多分、これは、この事件の解決は、私たちにしかできへん……!」


 警察で話を聞いたとき、理解したこと。

 今、やっと、実感が湧いた。


 『人喰いディスプレイ』という都市伝説を生んだ、密室から人が消え去るという、手口も目的も不可解な、この一連の連続失踪事件。その実態は、犯人が『トゥエルブスターオンライン』の中に、人間をデータ化して落とし込んでいるという、悪質かつ目的の不明瞭なものだった。

 この事件を解決できるのは、犯人と同じ力を持った人間……つまり、ゲームの世界に入ることのできる俺たちしかいないのだ。


「…………俺の部活仲間、俺たちの連れにこんなフザけたことされたんだ。そして、同じような、悪質な宗教勧誘みたいなのに付き合わされてる被害者が、他にもいっぱいいる……絶対にとっ捕まえて何かしらブチ込んでやろうぜ」


 ただの暇つぶしでしかなかったネットゲームは、今この瞬間、警察では追いようのない犯罪者を捕まえるための唯一の手段となった。

 こんなナメたようなハッキングを起こされて……初めて、実感が湧いた。


「………………………………」


 天空城から、犯人が俺たちを余裕の表情で嘲笑うような、そんな気がして、俺は無駄に顔をしかめた。


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