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放課後ロルプライズ!  作者: 場違い
3章・絡み合う日常と電脳世界
34/73

中二病でもジョブが欲しい! その2

 散々迷ってジョブを選んだ俺たちは、さっそくジョブ専用スキルを試すために、初心者プレイヤーのための雑魚モンスター出現エリア、アバウンドの平原に来ていた。


 出現モンスターは時間によって変わるらしいが、今の時間帯では、もはやモンスターというよりはマスコットの類に入るキングオブ雑魚こと『ゴプリン』、戦闘力はゴプリンより少し上という雑魚っぷりだが全属性の最弱魔法を使えるという特徴を持つ『ビホゴーラル』、そしてそのビホゴーラルの上位互換モンスターである『ゴーラル』が主な出現モンスターらしい。

 あとジェイペグによると、今の時間帯なら強力なゲリラボスが出現することも十分ありえるので気をつけろ、とのことだ。なにそのフラグ。

 まあ今回はスキルとか魔法とかを軽く試し打ちしがてらレベル上げるくらいだし、特に警戒すべきものもないだろう。


「さて……さっそくジョブスキルの出番だな」


 斗月はパーティの先頭に行き、念じるように目を瞑って親指で額を押さえた。


「『索敵』!……俺の選んだジョブ、『先導者』の自動習得スキルだ」

「索敵って……敵を探せるん?」

「あぁ。しかもレベルが上がると、敵だけじゃなくてもアイテムとかマップ上の色んなものが探せるようになるぜ」

「さすが私たちの永遠の二番手ね。頼りにしてるわ」

「悪意0%で言われると流石に精神に来るからやめてくれない?」


 索敵スキルの精度がどれほどのものなのか分からないが、サーチにはけっこう時間がかかるようだ。それを言っちゃおしまいなのかもしれないが、この間に敵に襲われたらどうするつもりなのかね?

 ……どうするつもりなのかなー?

 …………一度でいいから見てみたい、斗月がモンスターに不意打ちをくらうとこ。


「お、見つけたぜ。ここから北に70メートルぐらいのトコの岩陰だ」

『…………チッ』

「なんで!?何だよ今の舌打ち!?」

「はいはい、行くでー」


 夏矢ちゃんと俺の舌打ちが揃った。どうやら同じ事を期待していたらしい。

 ともかく、敵の位置が分かっているならこっちのもんだ。とっとと仕掛けて、思う存分俺たちの新しいスキルの試射台になってから死んでもらおう。


「ったく、このドSバカップルはホントに……。それよりナウド、索敵ってどのくらいまでレベル上がんの?」


 主である斗月の呼びかけに反応して、男前なネコ型パートナー、ナウドが出てきた。

 そんなことを聞くためにいちいち呼び出すな、wiki見ろwikiとかブツブツ呟いていたが、結局説明してくれることになった。

 ていうかなんでこのゲームのNPCはすぐにwiki見るのを勧めるの?流行ってんの?「wiki見ろwiki」っていうスラング的なのが。


「索敵にはレベル5まであるんだが、お前のジョブ、先導者だと索敵のレベルは2までしか上がらん。先導者はそもそもそういう役割を得意とするジョブではないからな」

「えっ、そうなの?」

「そうなのってお前な……。ハァ、ちゃんとwiki見とけって騎士が言ってただろ?」

「もういいよお前らNPCのwiki盲信は!」

「先導者は敏捷、すなわち素早さが上がりやすいという特徴を持つ。その素早さを活かして攻撃力アップなどの補助スキルを使って仲間の攻撃の先導をする、それが先導者の役割だ」

「……wikiからのコピペじゃねーだろーな?」

「フッ、安心しろ。2ちゃん〇るだ」

「同じようなモンだろーが!」


 ナウドがねらーだったことが判明したところで、モンスターが隠れていると思しき岩を発見する。

 正確には測っていないが、確かに70メートルぐらいの距離だ。索敵スキルの精密さが証明されたのがそんなに嬉しいのか、斗月がさっきからだいぶドヤ顔をキメていてウザい。


「じゃ、まずは私からスキル試させてもらうわね!」

「あっ、こら、勝手に……!」


 夏矢ちゃんの選んだジョブは『悪霊使役者デビルサマナー』。魔人や悪魔、そういったメ〇テン的存在を使役し、それらと共に戦うという、特殊な役職だ。

 レベルが低いうちはデビルサマナーの力をうまく使えず、低確率で、召喚された悪魔の暴発が起こるらしいので、あまりホイホイ使ってほしくないのだが。

 そんなリスクを微塵も考えずに突っ込んでいったアホサマナーを追いかけるように岩の向こう側に回り込むと、スーツを着た土偶のカタチをした、ちょうど夏矢ちゃんほどの背丈の敵、ビホゴーラルが、風車のように空中でクルクルと回っていた。


「召喚!『ブルァディウス』!」

『ブゥゥルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』


 夏矢ちゃんの手のひらの上に魔法陣のような模様の光が生まれ、妖しい桃色に光るその光から漉し出されるように、某八頭身のアスキーアートをそのまま3Dモデルにしたようなキモカワイイ見た目の、ゆるキャラもどきみたいなヤツが呼び出された。

 ていうか若〇さんボイスかよ。絶対声優決めてから名前決めただろ。

 召喚悪魔ブルァディウスは、やってやるぜとばかりにクソ長いその両腕を振り回して雄叫びをあげると、小さい炎を頭上に生み出した。酸素調整をしくじったガスバーナーみたいだ、という感想は言わない方がいいんだろうね。


『ブルァァァッ!』


 そしてブルァディウスは、ビシッ!と絶妙に『気持ち悪カッコイイ』ポーズをキメると、炎を目標に向かって飛ばした。


「え」


 俺の方に。


「ぎゃらくてぃかっ!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?ごめん怜斗!」

「なんてこった!怜斗が燃えた!」

「この人でなし!」


 熱い熱い熱い!俺は火だるまになって走り回る!

 ていうかこれ火力強すぎじゃないの運営さん!?エフェクトと威力が一致してねーよ!あのショッボい演出から想像しようのないクソ初見殺し火力だよ!リアルで「今のはメ○ゾーマではない……○ラだ」された気分だよ畜生!

 俺が熱い熱いと跳ね回る中、今度は斗月が断末魔をあげる。


「ギャアァァーッ!?」

「うわっ、アカン、敵がおったの忘れてた!」


 炎上して焦っているのでよく見えないが、夏矢ちゃんの暴発のせいで仕留め損なったビホゴーラルに不意打ち攻撃を喰らったというところだろう。

 いつもならここで腐れメガネざまぁなどと悪態を吐くところだが、自分の状況が状況なので人のことを笑えない。というかこのまま炎上状態が回復しなかったらけっこうすぐ死ぬよ俺!


「おぉーい!誰か!回復!回復頼む!死ぬーっ!」

「あぁっ、門衛くんの体力が!待って、今スキル使うから……」

「いや、大丈夫よ!ここは私がさっきのお詫びとしてサマナーの召喚魔法で回復を……」

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!お前はすっこんでて!やめて!できもしないことをやろうとしないで!これ以上罪を重ねないで!」


 しかし夏矢ちゃんは、思いつめたような表情と怯える小動物を安心させようとするような表情が同居した、非常に禍々しいご尊顔でこちらへジリジリと迫ってくる。


「大丈夫よ、大丈夫大丈夫、次はうまくいくって!」

「なにその的中率100%の失敗フラグ!?失敗ならまだいいにしてもここでファンブル出されて俺死んだら一ヶ月は根に持つからね!?一ヶ月巻き込み型不幸キャラとしてお前を認識するからね!?」

「大丈夫です大丈夫です!はい!夏矢は大丈夫です!」

「いやお前は間違いなく某金剛型の運高い人じゃないよ!むしろ扶桑型だよ!ドックにいない時間の方が珍しい人だよ!」


 俺が不幸サマナーと激しい戦い(一方的に俺が殺されるだけ)を繰り広げる中、斗月たちはというと。


「ボイルリング!」

「氷結魔法『アイシズ』!」


 無意味にお互いの魔法をモンスターに当たる直前でぶつけあっていた。


「あぁぁぁーっ、だぁーかぁーらぁーっ!炎魔法と氷魔法ぶつけたら相殺されるに決まってんだろ!?何回目だよこれ!」

「ご、ごめん!ゲーム全然知らんから……!」

「麻雀ばっかやってるからそうなるんだよ、麻雀バカ!」

「…………」


 あ。なんかプッツンっていった。プッツンって。

 離れていても伝わってくる熱気から、津森さんが割とマジギレしていることを察する。


「……そんな言い方ないんとちゃうかな……」

「だってそうだろ、バカみたいに麻雀ばっかしやってるから頭固くなるんだよー。もうなんつーの?役満級のバカ?」

「…………闇即死魔法『スーシェン』」

「え?……うわ危なっ!?ちょ、狙うヤツ間違えてるって!俺じゃない!あのモンスター殺すの!」

「ごめんなぁ、外してもうたわぁ……。次はちゃんとひと思いにおくってあげるからなぁ!中威力氷結魔法『アイシズリッド』ぉぉぉ!!死ねぇぇぇぇ!!」

「うがぁぁぁ!?明確な殺意!チクショー、やらないとやられる!ボイルリング連発!」


「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「やられる前に殺るぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「『スーシェン』!『アイシズリッド』!!『ボイレージ』ィィィー!!」

「『ボイルリング』!『龍炎の発』!!『双頭断層』ゥゥゥー!!」

「…………ゴラ……」


 とうとうモンスターそっちのけで出来損ないのハリーポッターみたいな撃ち合いし始めやがった。ビホゴーラルさん、ゴラって言っちゃってるよ。困惑してるよ。

 何やってんだあいつら。ハハハハ。


「えーっと、回復魔法が使える召喚魔は……」

「何やってんだお前ぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 いつの間にかファンブルサマナーが眼前に迫り、召喚を始めようとしてやがることに気付いて、また心臓が跳ね上がる。

 夏矢ちゃんは光のない目で薄く笑いながら首を傾げる。


「何って……私のせいで怪我させちゃったから治療するんじゃない……」

「や、やめろ!早まるな!アイテムとか使えば回復できるってこのくらい……!」

「召喚ッ!『ソーリン』!」

『ブルアァァァァァァァァァァァァ!!』

「ブルァディウス出てんじゃねーか!うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺は、このゲームを始めて初の戦闘不能を経験したのだった。


 かくして怜斗という生命は、この世界に生まれ落ちることすら許されぬこととなった。

 運命は、逆らう者には容赦しない……。


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