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放課後ロルプライズ!  作者: 場違い
3章・絡み合う日常と電脳世界
33/73

中二病でもジョブが欲しい! その1

「兄貴ー、朝ごはんできてんよー」


 脳がその声を従妹のものだと認識するまでに10秒ほどかかった。

 頭が痛い。目がしょぼしょぼする。

 やっとこさ目を見開いた俺が見た景色は天井ではなく、『7冊目』、「ダメ教師から学ぶ正しいものの教え方」というタイトルの本だった。

 座りながら寝ていたからだろう、なんだか体がバキバキというか、違和感が……。


「ん……んぐぐぐ。くそ、寝落ちってたのか……」


 そんな状況確認以外の意味を持たない独り言を呟いて、俺はふわぁぁっと間の抜けた欠伸をし、次いで大きく伸びをする。

 寝巻きの糸のほつれを弄りながら、携帯をポケットに突っ込んで自室を出、階段を降りる。

 2階から降りたところはすぐにダイニングになっており、そこでは父親の自信作であるナイトブラックのテーブルが、今日も荘厳に天井の明かりを反射している。

 そんなテーブルにいつものように朝ごはんを並べているのは、この春からウチに居候に来ている、従妹の八幡盟音やはた めいねだ。


「どうだねー?今日は目玉焼きトーストにしてみたんだぜー兄貴?」

「そうだな、いつも作ってくれてありがとうな。ところで目玉焼きもトーストも、不必要なくらい超絶ウェルダンなことになってるけど、これについて何か説明は?」


 俺はパン祭りでもらったキャラクターものの皿の上に鎮座している、神話生物も真っ青の混沌カオス色の目玉焼きトーストを指差して言う。

「兄貴のために心を込めて作ったんだよ!感謝に打ち震えながら食すがいいよ!じゃあ私はさきほどコンビニで買ってきたラン〇パックをお召し上がりになるとしようかな……」

「待てコラ!俺だけにこのSAN値どころかイノチがピンチな即死デ〇ルーラ飯食わす気か!」

「ねっぇきっみはふーん♪ふっふっふっふじゃぬゎ~い♫」

「剛〇彩芽ダンスでごまかそうとしてんじゃねぇ!もうそのCM終わったわ!」


 ったく……ただでさえ疲労たまってるのに朝っぱらから無駄なツッコミさせんじゃねーよ……。ていうか作品名を伏せ字にするのはまだセーフにしろ、歌系はジャ○ラック様がうるさいんだからやめてくれ。

 俺はため息を吐き、ショゴストースト(俺命名)を台所のゴミ箱に廃棄処分すると、冷蔵庫からラップのかかったチャーハンを取り出し、冷凍食品に違いない味のそれを温めて食うことにした。

 盟音もアレが普通に失敗作だと分かっているようなので、特にそれを咎めもしない。「明日こそは頑張ろう」、なんて聞かなかったことにしたくなるような独り言を言っているだけだった。

 電子レンジを操作しながら盟音と話す。


「親父はどうせ仕事だろーけど、ママンは?今日休みじゃなかったっけ、あいつ」

「オジサンはさっき出て行ったよ。トースト作ってあげようとしたらダッシュで支度して出てった。ママさんは合コン行くんだって」

「またかよ……」


 みなさん色々とツッコミたいだろうが、俺が「またかよ」って言ったとこから察して頂きたい。そうです、あのクソババァは今月6回目の合コンです。なおアラフォーの模様。

 やれやれ顔でレンジからぬるめのチャーハンを取り出し、なんかその辺にあったレンゲで(門衛家の物品配置は入るたびに変わる不思議のダンジョンです)カツカツと口の中へかっ込む。

 盟音は退屈そうに朝の情報番組、『早朝ステーション』を見ている。


「あ、双子座1位だよ」

「生憎だが占いはアテにしてないぜ。ちょっと宝くじ買ってくるわ」

「で、でた~、思いっきりアテにして奴~」


 そういえば、占いで1位になった星座のプレイヤーはプレゼントとかもらえたハズだよな。

 今日は学校もねーし、委員長に教えるための本も大分読んでバッチリだし、ちょっと斗月たちを誘ってゲーム世界に遊びに行ってもいいかもしれない。

 何にしても、今日も元気に無意義な日曜日だ。怠惰バンザイ、暇人ワッショイ。

 などと俺が非青春賛歌を唱えていると、ポケットの中で携帯が蠢いた。


「……委員長?」


 ラ○ンを通して、委員長から電話が掛かってきた。


「はいもしもし?何?デートする?」

「しばき回し殺し埋め飛ばしますよ?勉強です」


 委員長も大分俺の軽口への対応に慣れてきたようで喜ばしきことだ。

 にしても最後の一言は頂けない。

 勉強です、だと?休日にまで俺を呼び出そうってんじゃないだろうな?生憎だが俺は、今日はいつも以上にニートを決め込むことを心に決めてるんだぜ?

 というかイマドキ、受験期の学習塾だってやる気のないトコなら休んでいる日曜日に、家庭教師ですらない俺に働けというのかね?


「勉強?マヂ無理なんですけど……。ガリ勉こゎぃ……」

「いつから貴方はギャルになりましたか?……とにかく勉強を教えてください、お願いします」

「いくら委員長の頼みとはいえ、俺に日曜に外に出ろとか正気の沙汰じゃねーわ、悪魔か何か取り憑いてるんじゃね?祓ってもらいなよ、陰陽師行きなよ、ドーマンセーマンしてもら……」

「宿題を終わらせたので、次のテストがしたいのです」

「は!?」


 いやいやいや。

 昨日、俺は休日を挟むということで、かなり多めの宿題を出した。

 10項目ほどテストを行って、間違えた問題箇所の数は一桁に収まっていた、という素晴らしい結果にも関わらず、そのような仕打ちをしてしまうことには若干罪悪感があったのだが……。

 それを1晩で終わらせたってのか?


 ……無下に断るわけにはいかない、か。


「分かった、引き受けよう」

「……ありがとうございます!」

「ただし、午後からだ。あの量を1晩で終わらせたって事は、きっとオールでもしたんだろ?体調を崩したら元も子もねーし、頭にも入らないから、今から昼すぎまで十分寝ろ。で、午後2時に駅前の喫茶店ででも勉強しよう」

「……そ、そうですね。貴方に気を遣われるなんてシャクですが」

「はいはいツンデレ可愛いツンデレ可愛い。じゃーねー、いい夢見ろよ☆」

「ちょっ、ツンデレとかじゃな」


 プツッ。

 通話強制終了。おつかれ三下さんしたァ!


「誰からー?彼女?嫁?愛人?」

「ツンデレの攻略不可能ヒロインかな」

「めちゃくちゃ可愛いサブヒロインが攻略不可能だとめちゃくちゃ絶望するよね」

「お前中学生の癖にエロゲやってんじゃねーぞ」

「兄貴だって18超えてないっしょ」

「男子はみんな、エロゲやるときはハタチ超えるんだよ」


 さてと、俺はゲーム世界に行くとしますか。プリントやらを作ったり本を読んだりしていてアタマが疲れた、息抜きが必要だ。

 自室に戻り、斗月たちに片っ端から電話をかけた。



 ゲーム世界。


 結局、普段からのこまめな学習により全然十分そうな津森さんと、「ご、午後から勉強するし!?息抜きも必要だし!?」らしい斗月と夏矢ちゃん全員が集まった。

 アバウンドの平原を歩き続けると、次の街、『レイムルダウル』に辿り着いた。そこの武器屋で装備を買い換えたり、役場でプレゼントを受け取ったりした。

 ていうか女子ども。ゲームの装備品に色とか可愛さを求めてんじゃねーよ。モ〇ハンでユ〇クロ装備縛りとかあるけど。

 相変わらず永遠にお手玉をしている受付のジジイ(全ての街で、全く同じ見た目のジジイが受付をやっている)からプレゼントを受け取ると、役場の廊下を、奥からいかにも「騎士です!」って感じのむさ苦しい屈強なダンディーメンが歩いてきて、俺たちの前で立ち止まった。


「なんだなんだ……?イベント発生か?」

「ジェイペグが、『最初のダンジョンをクリアしたらジョブに就ける』とか言ってたでしょ。そんな感じよ多分」

「働きたくないでござる!絶対に働きたくないでござる!」

「私はもう錬金術師に決まってもうてるからなぁ。みんな、就活頑張ってな」

「ネトゲの中でも就職難だと……?」


 こんな駄弁りにも空気を読まず割り込んでくるのがNPC。騎士っぽい人は、俺たちを見回して、コクリとうなずく。


「ふむ。君たち、どうやら初めのダンジョンをクリアしているようだな……」


 騎士っぽい人は、鎧の懐的な部分から、何やら書類を取り出した。


「少し、ジョブに就いてみる気はないかね?」

「と、唐突っすね……」


 現実世界風に言うなら、「きみ、ちょっと仕事してみない?」だ。風俗やヤバイ仕事の匂いがプンプンするぜ。

 唐突に職に就くかと言われて戸惑う俺たちに、騎士っぽい人は大丈夫だと笑いかける。


「あとでジョブチェンジする機会は何度もあるから、今適当に決めても問題はない。それかオススメのジョブをwikiか何かで調べるといい」

「NPCがwikiについて言及すんの!?」

「オイやっぱこのゲームの運営狂ってんぞ!」


 大丈夫だろうか。こいつらそのうちリセマラとか言い出しそうで怖い。

 とはいえ、ジェイペグ情報によると、ジョブに就くだけで特殊スキルをいくつか習得できるらしい。ジョブを持っておいて損はないだろう。

 騎士に、ジョブを獲得したい旨を告げると、騎士はジョブの種類とそのジョブで覚えられるスキルがどのようなものかが簡単に説明された一覧表を見せてくれた。


「ふむふむ……」

「怜斗はこれで確定よね、『狂信者』」

「てめぇ表出ろやアバズレ……って、ええええ!?そんな明らかにダークサイドのジョブあんの!?てかそれ思想であってジョブじゃなくね!?」

「……『製本屋』、『幕末志士』、『ユーチュー〇ー』とか色々あるで門衛くん」

「津森さん!?俺ゲーム実況もビートボックスもしないからね!?」

「世葉、津森さん、『AV女優』とかどうよ?」

「すいません騎士さーん!私『処刑人』になりたいです!」

「私は『殺人鬼』で!」

「勘弁してください」

「斗月、『幽霊』って職業もあるんだぜ?」

「だから何!?大人しくこの殺し屋女どもに殺されろと!?」

「夏矢ちゃん、これとかどうやろ?『保安官』」

「おお、いいわね。私の銃装備ともピッタリじゃない」

「えーと、覚えるスキルは…………『殉職』『効果:仲間の攻撃を庇って戦闘不能状態になる』」

「……ナシね」

「女子で人気のジョブは、『女医』『魔女』『女騎士』『ウィップダンサー』『メイド』辺りみたいだな」

「夏矢ちゃんは銃より鞭振り回してる方がしっくりくるからウィップダンサーでよくね」

「それは何?銃で撃ち殺されるより鞭でじわじわしばき殺されたいってことかしら?」

「おーい戻ってこいバカップル」

「なかなか決まりそうにないなぁ……」


 結局、全員がジョブを選び終えるまでけっこうな時間がかかったのであった。


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