聴取警察24時
「カツ丼出してください」
「黙れ」
ただの事情聴取のハズなのに、俺たちを見る二垣巡査の視線が痛い。ジョークすら通用しない。
「ふざけている暇はないんだよ。こっちだって平和裏にお前らから話を聞く予定だったが……最悪、お前らを尋問することになるかもしれん」
「じ、尋問て!物騒すぎんでしょ!」
「乱暴する気なんでしょ!エロ同人みたいに!」
「せ、戦争反対!我々はシー○ズである!絶対に止める!」
突如として『尋問』という物騒なワードが出てきて、俺たちは自分の体を抱くようにして怖がる。二垣巡査はそんな俺たちを、でっかいクマを作った目で睨み、威圧的に机を叩いた。
「ふざけてる暇ねぇって言ってんだろうが!どんだけ聞き分けねェんだ、奥田以下の無能かテメェらは!?あぁ!?」
「はいはいガッキー、高校生相手に暴力振るわない。尋問どころか拷問になっちゃうよ?つーか、尋問とかいうのも半分冗談みたいなもんでしょ?」
「尋問はすでに『拷問』に変わっているんだよ!」
「ガッキー!だめだって、それギャングのセリフだから!」
二垣巡査のことをガッキーと呼んでなだめているのは、彼の同僚らしい三好慎五郎さん。
階級は刑事らしいが、本人が誇らしげに語った話によると、検事から弁護士へ、弁護士から刑事へ……と、わけのわからない複雑なキャリアを積んでいるため、実質的な偉さで言えば二垣巡査よりも断然上なようだ。
それを俺たちの前で自慢した瞬間に、頭を思いっきりゲンコツで殴られていたが。カタブツな二垣巡査に対してユルいノリの三好刑事。いい意味でも悪い意味でも凸凹コンビだなぁ、なんて思った。
「いろいろと脱線してちゃんと紹介してなかったが……こっちの三好は、普段は俺とツーマンセルで例の失踪事件を追っている、特殊捜査課に所属する刑事だ。仲良く殺してやってくれ」
「その『殺』いらないでしょ!?……はぁ、相変わらず風当り強いなーガッキー」
「えーっと……俺は私立輪通学園2年生、門衛怜斗です」
「右に同じく、世葉夏矢」
「右に同じく、津森論子」
「右に同じくってどういう意味?」
「バカは黙って名乗れ」
「アッハイ。希霧斗月です」
簡単に現状説明をしておこう。
ゴールデンウィーク3日目、5月5日の早朝。俺のスマホに二垣さんから電話がかかってきた。
『津森論子の事件について話を聞く準備が整った。あと、重要参考人として意見を求めたいトピックがあるので、午後2時くらいに、津森論子及び例の2人(まぁ斗月と夏矢ちゃんのことだろう)と一緒に万津市警察所まで来るように』という文言を、怒気を孕んだ声で一方的に伝えて切られ、呆然とした。
下手したら逮捕されるんじゃなかろうか、という不安もあったが、日本の警察は優秀であるという密○警察24時の教えを信じてやってきた。
来ると、待ち構えていたように二垣さんと三好さんに出迎えられ、第2会議室へと案内され、向かい合うように座らされて……今に至る。
場を取り仕切る立場である二垣さんが、胸ポケットから手帳を、自らのカバンから分厚いファイルといくつかの証拠品を取り出して並べ始めた。
それを機に、俺たちも自然と気が引き締まる。
「仕事的な話をする前に……まずは、津森論子。本当に無事でよかった」
「検査のとき以来……ですよね。こちらこそ、色々と迷惑をかけることになって……なんていうか、本当に、ありがとうございました」
「いやまあ、こっちはそれが仕事だし……はは、そんな気を遣ってくれなくていいんだよ?ほら、スマイルスマイル!」
「お前はもっと空気を読め」
ごほん、と咳払いして、二垣さんは本題へと話を移した。
「まず……あの時はあまり詳しく聞けなかったが、『鍵』のことと、『ゲーム』のことについて、1から説明してくれ」
「…………分かりました」
俺は、いままでのことを全て話した。
鍵を手に入れた状況だとか、ゲームの世界で見たこと、聞いたこと、実際に体験したこと、分かること、分からないこと。
そして、そこから考えるに、『意識の鍵』を作った人物は、今回の失踪事件に深く関与しており、『人体をデータ化してゲームの中に入れ込む』という危険な技術を持っているかもしれないこと。
以上は推論だが、自分たちはそういう風に考えていること。
それを聞いて神妙な面持ちを浮かべる二垣さん。時折頭が縦に揺れるが、それは頷いているのだろうか。三好さんも、やはりネトゲの中に入れるなどとは簡単には納得できないようで、苦笑いしながらあごをさすっていた。
二垣さんは、感想を言うでもなく、今度は津森さんの方を向いて、
「検査の際は、公的な場所ということで、『ゲームの中で見たことを証言してくれ』なんてことは聞けなかったが……話してもらえるか?」
「……はい。後半は門衛くんが話してくれたこととほとんど一緒ですけど……」
津森さんは用意された微妙に高級感漂うパイプ椅子を小さく軋ませて座り直し、自分の頭の中で整理しながら、ゆっくりと、自分の不思議体験を語り始めた。
「まず……現実世界からゲーム世界に入った時のことについてですけど……よく覚えてないんですが、なんか、急に《《視界が割れた》》んです」
「視界が割れた……門衛たちの言っていた、鍵を使ってゲーム世界に入る際のアレなのか?」
「ああ、はい!この連休中に一度、鍵を使ってログインしてみたんですけど、同じような感覚がありました」
「なるほどな……」
「それで、視界が割れていって……一瞬意識を失ったあとに、気が付いたらゲームの世界にいた、って感じです。意識を失う瞬間に誰かの声を聞いた気がするんですが、おぼろげで、男の声か女の声かも覚えてません」
「なんて言ってたかは覚えてないか?」
「……なんででしょう、それだけは覚えてるんです」
にわかに津森さんの表情が曇る。
その時に関わる思い出が不快なものだからだろうか。津森さんは人差し指の先を唇に這わせながら、慎重に、思い出して……。
今後1年、俺たちを振り回し続けることになるキーワードを言った。
「『ようこそ、あなたが望むデジタルの世界へ』」
「……デジタルの世界……」
「そういや、蝿が言ってたよな。新しい世界で、とかなんとか」
「『努力の認められない世界』から、努力を認めない人間のいない、そんな『自分が望む世界』で生きて、神になる……だったっけ?」
「これは精神論っぽくなりますけど……あの蝿はたしかに私の一部でしたから、私自身もどこかで、そういう『理想の世界』を望んでいたのかもしれません」
「ということは……犯人は、津森の精神的内面を何らかの方法で読み取り、それに合わせて言葉を選んだ可能性があるな」
『努力が実を結ぶ世界』を思い描いていた。
津森さんの心理の奥底に眠るその事実を、犯人は津森さん本人よりも先に見抜き、それを刺激するように行動した可能性が高い。
蝿のセリフなどからもそれは伺える。
ヤツは的確に彼女の心をえぐるようなことを言って混乱させ、洗脳していた。そして蝿にプログラムと自我、そして津森さんの精神に関する情報を与えたのは、マスターと呼ばれる人間であるとも。
さっきは話し忘れていたことだが、それも二垣さんたちに伝えておいた。二垣さんは机に置いたパソコンと照らし合わせながら必死にメモっているが、三好さんは何やらスマホを机に置いている。録音でもしているのだろうか。
と、不意に二垣さんのパソコンから通知音が鳴る。
また何か面倒ごとの押し付けかよ、と8割溜め息な声で呟き、実に無気力にクリックして……二垣さんは、ハッと目を見開いた。
「…………………!!」
「どうかしたんですか?」
「……いや、なんでもない、別枠の仕事さ。それにしても……どうやら犯人は、ただの愉快犯というわけではなさそうだな……」
「失踪事件の他の被害者たちも、周りのひとたちの話を聞いてみたら、なんか悩んだりしてたみたいだしね。こういうこと言うと怒られちゃいそうだけど、なーんか宗教臭いよねぇ」
「……精神的な面にこだわる、犯人……か」
『ようこそ、《《あなたが望む》》デジタルの世界へ』……。
人間の理想はどうせ現実世界では半分も叶わない。それならば、なんでも起こるデジタルの世界に逃げよう……。
犯人がそんな狂った考えで犯行を続けているのだとしたら、それはとてつもない恐怖だし、集団自殺のような狂気さえ感じられる。あれはゲームなのであって、『デジタルの世界』なんて呼べるものではない。
ならば、デジタルの世界という言葉が示すものは……?
そこに行くということは何を意味するのか…………?
体が震えるのを隠せない。
斗月や夏矢ちゃん、津森さん……そして刑事2人も同じようなことを考えているみたいで、全員が少し暗い顔になってしまった。
ゲーム世界に転移した直後のことを……津森さんは、話の続きを始めた。
「ゲーム世界に入ったあと、蝿に、現実世界がどうとか、努力が無駄だとか、そういった話を聞かされて……そこからいつの間にか瓶の中に入れられてて、門衛くんたちが助けに来るまで、記憶が曖昧です」
「…………ううん、ガッキー、どう見る?」
「……このまま上に、『こんな証言が得られたので、ネットゲームを軸に調査したいと思います』なんて報告したら……」
「精神科への通院費が落ちるね、やったねぇ!」
「シャレになんねー……でも、このまま普通の捜査をしてただけでは解決しないだろうしなぁ……やっぱこっち方面からでも調べるべきなんだろうけどなぁ……」
と、悩んで唸りながらぐるぐると頭を回していた二垣さんだったが……。
「そこでお前らだよ」
突然ピタっと動きを止め、グリンと目を見開いてこちらを見てきた。睨む、とかではなく、ただただ焦点をこちらにジィーっと合わせている。
不気味。っていうか命の危機すら感じる。
「本来は違法だが……俺たちが立場上できない『ゲーム世界での捜査』も、お前たちならできる。逆に、専門技術や機関への依頼など、お前たちではできない『現実世界での専門的な捜査』は、俺たちならできる」
「……相互協力、そして情報共有……ってことですか」
「背徳的協力関係ってやつだね。俺たちは仕事としてやってるからカネがもらえるけど、君たちはメリットがない。それを踏まえて、それでもやってくれるというのなら、僕たちは非常に力強い仲間を得ることになる」
「………………」
俺は仲間たちの顔を見る。
その顔はいずれも、緊張感と決意、そして微かな心の高揚を表していた。
みんなに感謝して、大きく頷き……俺は、真正面の二垣さんに向けて手を差し出した。
「……今のところ、失踪者の救出は俺たちにしかできないんですよね。それなら、協力しない方が罪悪感があります」
「こちらから頼んでおいてこんなことを言うのは失礼だが……人の命に関わる、責任ある仕事だ。お前らの目を見てると、そんなことはないとは思うが……もし遊び半分な気持ちがあるのなら、やめてくれ」
「自分で体験したことです。あんな目に遭ってる人たちがいるのなら、放ってはおけないです。私も手助けしたいです!」
「私も。これ以上、この町でそんな凶悪な事件が起きているなんて……やっぱり放っておけないもの」
「犯人に怯えて暮らすのなんて、俺の性に合わねぇしな!自分の周りに被害が及ぶ前に、こっちから捕まえに行ってやる!」
「はは、頼もしいね。それじゃあさっそく、件の『情報共有』といこうか」
三好さんは、A4くらいの封筒から、1枚の綺麗な紙を取り出した。
くすんだ茶色の封筒から顔を出している上部には、大きく『捜査報告書』の文字。それを俺たちに見えるよう、向きを180度変えて置いた三好刑事は、次に驚くべき新事実を『共有』してくれた。
「失踪者たちが、全員帰ってきた」
「……!?」
全員の吃音だけが部屋にざわざわと染みついた。
俺たちが何もできなくても、警察が何もできなくても、失踪者は全然関係なく普通に帰ってきたというのだろうか。
失踪者が無事なら、それはとてもいいことだ。だけど……二垣さんと三好さんの表情を見るに、その期待は、早めに捨てた方が良さそうだった。
「当然、完全無事で帰ってきたというわけじゃない。戻ってきてから1日が経過した今も、失踪者たちは意識を失っている状態だ」
「そんな……!」
「身体的には比較的良好なんだが、睡眠障害のような、長い間ずっと眠り続ける症状が確認されている」
「ゲームの世界で津森ちゃんは、蝿から精神攻撃を受けたんだよね?そういうことが他の失踪者にも為されて、それに耐えきれず……ってことなのかもね。向こうの世界で精神が破壊され、身体に悪影響を及ぼした」
「……間に合わなかった、ってこと……なんですか?」
「これを君たちのせいだと責めるのは、さすがにお門違いすぎるよ」
「ああ。こんな言い方すべきではないが……生命と肉体が無事だったのなら、それは喜ぶべきことだろう」
「で、でも……こんなの、ひどい……」
「目覚めないと決まったワケじゃない。医師の診断も仮のもので、これからいくらでも覆る可能性はあるさ。とにかく、今は落ち込んでいる場合じゃない」
場が、一気に重い空気に包まれる。
二垣さんは、誰に確認を取るでもなく、懐から煙草とライターを取り出すと、火を点けてフゥーっとふかした。こんな密封状態の部屋で……と俺たちが嫌な顔をすると、三好さんが肩をすくめて窓を開けてくれた。
「犯人を止めない限り、犯行は繰り返されるかもしれない……俺らに今できるのは落ち込むことなんかじゃなく、次に繋げることだ」
「二垣さん……」
「今日はもう帰って、ゆっくり休め。ゲームのことに関しては、こちらからはアレコレと指図しないが……」
「強いて言うなら、津森ちゃんの時みたいに、犯人の作ったプログラムと戦うハメになるかもしれないから、レベル上げはしっかりとね。20万までなら、課金アイテムの購入に協力してあげてもいいよ」
「……その金は誰が出すんだ」
「ガッキー」
マウントポジションでボッコボコに殴られる三好さんを尻目に、俺たちは逃げるように警察署を後にした。
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「……すごい人らやったなぁ」
「すごいウザそうな人とすごい怖そうな人がいたな」
警察署から出たところの小さな公園で、俺たちはそれぞれファ○マで買ったものを食べながらミーティングしていた。
俺はいわずもがなファ○チキである。脳内で(ファミ○キください)って言ってみたが伝わらなかった。
こいつ直接脳内に……!なお、一緒にモンエネの青も買った。
ちなみに、夏矢ちゃんはパ○コ(両方自分で食っているのが悲しい)、斗月は2Lの紙パックの桃ジュースを買い、ストローをもらって直で飲んでいる。津森さんは午後の○茶をちびちびと飲んでいる。
「……これで協力者、それも超強力な協力者ができた」
「警察本部に協力が得られたってワケじゃないから、安心はできないけどな。でもこれで本格的にいろいろできるようになるかも」
「ホントに事件を調べられるやなんて……緊張するわ」
……事件を調べる、か。
確かに、取り返しのつかないことになる可能性もある、とても緊張感ある仕事だ。二垣さんが『遊び半分ならやめてくれ』と言っていた意味も、そういうところにあるだろう。
警察だけでなく、何かをリスクとして行う『仕事』は、絶対に責任感なくやっていいことではないし、それ相応の覚悟を常に要求されるべきだ。
それを無しに、一抹の承認欲求のみに駆られて、自分が英雄にでもなったつもりで仕事を行うことは……ものごとを破滅へと導き、取り返しのつかない後悔のみをあとに残すことになる。
「んじゃ、何か組織名考えなくちゃな」
と、いやに真面目な雰囲気を斗月がぶち壊した。
「組織名?」
「なんちゃらレンジャー、とか言うつもり?あんたバカァ?」
「いや……合言葉みたいなものは必要かもな。学校とかでは、むやみに『今日はゲームの世界に入る?』なんて言えないだろうし、『黒の○士団の活動どうする?』って感じで、俺たちにだけ分かる組織名を作っておこう」
「そ、そーそー!俺はそれが言いたかったワケよ!」
「絶対ウソや……」
と、緊迫したミーティングはいつの間にやら、『チーム名決め会議』という、いまどき小学校の学級会でもないようなマヌケな議題へ。
「『リトルバ○ターズ』ってのはどうだ?」
「お前はセリフ1つに1個は伏せ字を使わないと気が済まないの!?」
「はいはい!私は『メカ○シ団』がいいと思いまーす!」
「8月15日にトラックに轢かれて特にループも何もせず死ね」
「目が冴えることもなくなんだかんだで死ね」
「少年少女が前を向くこともなく人造なエネミーも来ずステージライトに夢を描いちゃうこともなくアニメ化してめちゃくちゃ作画崩壊することもなくある日怪物の声がして心臓を呑み込まれて死ね」
「ひどくない!?私に対してだけひどくない!?」
「お前にひどいっていうか……うん……」
アニメ二期は頑張ってもらいたいものだ。
「ここは原点回帰して『SE○LDs』で……」
「志半ばで解散したやろ」
「『SM○P』」
「志半ばで解散したやろ」
「『CHA○E and A○KA』」
「志半ばでクスリに走ったやろ」
「クスリに走ったとか言うなぁぁぁぁ!」
「『A○B48』」
「とっとと解散しろ」
「ただの暴言じゃねーか!!」
「『S○S団』」
「志半ばのままだけどいつか完結してくれるって信じてる」
「『ファンキーモ○キーベイビーズ』」
「志半ばで……」
「不倫もファンキーでしたね」
「『○ューズ』」
「志を全うして大団円で解散したやろ」
「ファイナルライブは感動しました」
「はぁ!?俺当たんなかったんだけど!ふざけんなよマジで!!」
「脱線すんなっての!こんなのどーでもいいんだから早く決めるわよもう!『リ○グリ』でいいんじゃない!?」
「何がどーでもいいだこのアマ!思いっきり自分の趣味入れてきてんだろーが!」
「この小説のタイトルと合わせて『放課後ティー○イム』でええやん、もう」
「こんなクソ小説と一緒にしていいわけないでしょ!」
「『シン○レラガールズ』」
「約2名、どっちかっていうとサイドMな感じの人間がいますけど」
「だーっ、全然決まらねぇ!」
「そりゃいつまでもふざけてたら決まらないでしょうよ!?」
まぁ、真面目にオリジナルの名前を考えると、自分が大やけどしてしまうおそれがあるからな……このクソ不毛な膠着状態の原因である。
恥ずかしい名前つけたくないし、とりあえずアニメから取ってくればよくない?みたいな。
「じゃあこうしようぜ。
『リ○バスリト○スメカ○シ団のSE○LDsSM○Pのチャ○アスS○S団のファン○ンミ○ーズ○ューズミュー○のリト○リリ○グリの放課後のティー○イムのシンデ○ラガールズ』」
「寿限無方式!?」
「長い上に伏せ字多すぎで意味わかんないし!」
「却下だ却下!」
「ええい、どうせ大した代案も出せん癖に!大人しく隊長である俺に従え!」
「誰がいつお前が隊長なんて決めたよ!平○隊長並みの無能のくせに!」
「誰がオカッパ関西野郎並みだ!あの状況で俺なら『エエ匂いせえへんか?』とかわざわざ言わずにキッチリ殺してたわ!」
くそ、もう話の本題は終わったんだよ!なに長々と蛇足やってんだ!
ペル○ナ4は一発で『特別捜査隊』に決まったんだよ!たかが名前付けに何文字かけてる気だ、第一回カク○ム読者選考じゃねーんだぞ!!
「じゃーもうアレだ!シンプルに『誅罰隊』でいこう!」
「ちゅうばつ……?何それ?」
「罪を責めて罰すること。ネットゲームの中に人間を閉じ込めるなんて、法律じゃ裁けないからな。『俺が裁く!』ってやつだよ」
「ああ、けっこうカッコよくてええやん!」
「でも何か足りねえよなー……」
「まだぶり返しますか!?もういいって今回の話終わらせようぜ!飽きてるってゼッタイ!これ投稿した瞬間ブクマが20件くらい減ったらどーしてくれんだお前!」
「とりあえずアレよね、なんかカッコいいカタカナ文字つけよ!」
「わー、ええやんええやん!『スカイクラッドの誅罰隊』とか『誅罰のナイトハルト』とか『誅罰のル○ーシュ』とか!」
「も、もうあとで勝手にやってくれ!解散だ解散!!」
……結局、遊びみたいなノリになっちゃってるような気がするけど。
まぁ、名前付けぐらい、みんなの結束を高めるために必要だし、レクリエーションだと思えばいいか……。
漠然とした期待と不安、だけど、協力者という確かな礎。
それに頼ってばかりではいけないけど、でも今は、津森さんも帰ってきたんだし、一安心したっていいだろう。ちょっと調子に乗ったっていいだろう。
これから真剣な『仕事』が始まるのだから、ちょっとくらいバカをやったって……罰は当たらない。
『誅罰』はされないはずさ。
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「ガッキー、あのまま帰しちゃってよかったの?」
「容疑者候補からは除外できるだろうさ」
「ぼくらがどんだけ頑張って、警察の力を結集させても見つけられなかった失踪者を、ワケわかんない手品で戻して見せたんでしょ?キナ臭いんじゃないかなぁ」
「……犯人は、アイツらの親族か何かか?」
「はぁ?何言って……」
「アイツらが取り調べを受けている間に、犯人らしき人物から声明があった」
「…………!?」
「解析は一切不可能。そして、門衛たち以外には俺とお前と犯人しか知らないはずの犯行内容を書いてきた」
二垣はメールを見せた。とはいっても、それはただのスクリーンショットで、犯人からのメールを受けた二垣のパソコンは、さっき部屋に呼んだ部下に渡され、現在解析が始まったところだ。
三好は少し動揺しながらも、メールの文面を読み上げる。
1通目は、先ほどまで怜斗たちと話していた推理が、概ね間違っていないということを保障してくれるものだった。これまでの犯行をおさらいするような、事実を淡々と書き上げたメール。
2通目は……とてもさっぱりと、必要なことだけ書き切った、一文だけのメール本文を。
「……『次の犯行は6月初旬以降を予定しております』……」
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夜、自室のベッドに寝ころびながらV○EZをやっていると、ラ○ンの通知が入った。
「くそっ、コンボ途切れた!死ねホント死ね死ね!!あーうわーマジでああああああああーないわああああああああああ!!」
夜に一人で自室でゲームしてるとき特有の、頭おかしいスイッチが入った。
枕に頭突きしたりしながら、少々落ち着いてきたところで、歯をギリリと噛みしめながら、俺に通知を送りつけやがったのは誰だと睨み付ける。
グループ『コンスティチューションの誅罰隊』に招待されました。
………………?
「ああ……そんな名前に決まったのか」
一瞬、詐欺アカウントか何かの類かと思ったが。
とりあえず承認し、コンスティチューションの誅罰隊グループにおいて、記念すべき俺の1発言目を果たした。
「『コンスティチューションって、組織って意味だから、頭痛が痛いみたいな感じの二重の意味になってんぞ』」
オチが粗末。ほんと粗末。