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放課後ロルプライズ!  作者: 場違い
1章・リアルとデジタルを繋ぐ鍵
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怜斗ン教授と浮かぶ鍵

「なあ……何だこれ?」


 河川敷を歩いて30メートル、日本の建築技術を馬鹿にしたようなセコい小橋の下。その三本の銀の鍵は、彼の偉大な物理学者ニュートンが発見した万有引力に真っ向から逆らうように、空中にふわふわと浮かんでいた。


「……知らねーよ。CGか何かだろ?」


 『地面に落ちていた』、ならまだしも『空中に浮かんでいた』、である。

 配管工のおっさんが主役の横スクロールアクションゲームに出てくる下からジャンプで叩けるブロックじゃあるまいし、少なくとも俺の常識では、自然界で磁力も火力も水圧もなんの力やトリックも利用せずに、そこそこな重さのある無機物を浮かばせることはできなかったはずだが。


「……拾ってみれば?」

「……………………」

「……………………」


 そんな、あってもなくてもどうでもいいようなパッとしない超常現象を前に、コンビニドーナツをかじりながら感情を伴わない会話を交わす、高校生男女が三人。


 俺こと暇人軍団1号、門衛怜斗かどえ れいとは、相も変わらず死んだ魚のような目を宙に浮かぶ鍵に向けて、しかし確実に嫌な予感を感じつつポンデリングを貪っている。

 夏矢ちゃんこと暇人軍団2号、世葉夏矢せよう かやは、ビッチ臭い金髪と男から金をむしり盗るためだけにシリコンを塗りたくって作ったような無駄に整った顔を驚きと戸惑いに歪ませながら浮かぶ鍵に向けて、確実に香水や口紅臭いであろう口をダブルチョコにぱくつかせてやがる。

 夏矢ちゃんの説明がこんなに酷いのは、決して私怨などではない。決して、中学の時に一度付き合ったものの一年くらいでこっぴどい別れ方をして以来ギスギスしているからとかではない。

 斗月こと暇人軍団3号、希霧斗月けきり とづきは、青色に染めたチャラい髪に、オレンジ色のチャラいイヤホンに、無駄に純銀製らしいチャラいネックレスに、チャラいどころかチャラ男の代名詞みたいな派手な柄の伊達眼鏡という、女子からキモがられるためだけに生まれてきたみたいな装備で、宝の持ち腐れな男前フェイスが戸惑いにいがんでいるのを隠している。

 こいつとは色々あって、もはや相棒と呼んでいいくらいのレベルで仲良くつるんでいるのだが、高二にもなるんだからそろそろこのギンギラギンな格好はやめてほしいものだ。


「拾えっつったってな……」


 ……まぁ夏矢ちゃんの言う通り、あの鍵はすごく気になるし、手に取って調べてみたくはある。

 ここは草と堤防と川の水以外何もない河川敷、周りに手品のトリックらしきものを仕掛けるような余地はないはずだ。とするとあの鍵は、マジで魔法的な何かの力が働いているんじゃなかろうか。

 たしかに、超魔術や占いを盲信したり研究したりする人間が1割を切っているであろうこの現代社会において、魔法などという非日常なものをお目にかかれるというのはとても魅力的だ。だが俺のラノベ知識によると、そういうのに関わると大体頭がツンツンになったり不幸な目に遭ったり流石ですお兄様だったりするわけで、事勿れ主義を追求するならば、これに触れるべきではないのだろうが……。

 うんうん唸って考え込んでいると、斗月が目を輝かせながらその鍵に近づいていった。


「うっわなんだこれ、マジで宙に浮いてるじゃん! カッケェ! ちょっと写メ撮るわ!」


 ……これだからバカッターは。


「やめとけ、信じてもらえるわけねーだろ。てか、鍵が宙に浮いてる写真なんか、そこらへんで鍵放り投げて連写したらいくらでも撮れるっての」

「さすがIQ150ねー、かしこいかしこい。語尾にいちいち『まぁお前は知らなくても無理ないかw』とか付けたらもっと博識に見えるわよ」

「やかましい。中3の時の志望校判定シートが全部C以下判定で帰ってきて涙目になってたお前にだけは、学力のことでとやかく言われる筋合いはない」

「う、うるさい! そんな風に学力で人を見下してるからモテないのよ! このハゲ! 10年ハゲ!」

「10年ハゲじゃなくて10円ハゲだし、そもそもハゲてねぇよこのクソアマ!」

「おーおー、相変わらず夫婦喧嘩がお盛んなことでゲブファッ!」


 俺と夏矢ちゃんの裏拳が同時に炸裂し、うまい具合に斗月の頬がサンドされる。不本意ながら、こういう時だけはコイツとは息が合う。

 さて、無駄口を叩くだけで役立たずなダメガネは捨て置き、そろそろこの鍵を本格的に調べてみるか。

 さっきまでの躊躇がもはやどうでもよくなって、ためらいもせず鍵に手を伸ばし、掴み取る。とりあえず今のところ、鍵に触れた瞬間悪霊に取り付かれたり異世界にワープしたりとかはないようだ。俺が触ったことで、不可思議な浮力は失ったようだが。

 頭の上に掲げて、裏返したり日の光に照らしたりして観察してみるが、差し込み口のギザギザした部分とか大きさとか、至って普通の鍵だ。クラスメートのサジの家の鍵がこんな感じだったっけか。

 こちらの手元を覗き込んでくる夏矢ちゃんに、3本のうち1本を渡す。


「……うーん、触れても何も起きないわね。これに触れた瞬間『我は汝……汝は我……』って感じの声が脳内に響くんじゃないかと期待してたのに……」

「……………………………」


 同じようなこと考えてたとか絶対言いたくない。

 とはいえ、たしかに手詰まりだな。はてさてどうしたものか、もう面倒だしそこらへんに捨てて帰るか?

 そう思ったとき、さっきまでのびていた斗月が狙ったようなタイミングで起き上がった。近くに落ちていたのを拾ったのだろうか、片手に小冊子的なものを持っている。

 おもむろに斗月が、その冊子を2、3ページ、パラパラとめくって読み上げる。


「『鍵を安全にご利用頂くために』……。…………これ説明書じゃねーか!?」

『この鍵説明書あんの!?』

「……『まずは近場のネカフェとかに行ってください』」

『この鍵ネカフェで使うの!?』


 ……意味ありげな登場をしたくせに、今のところファンタジーの欠片も感じられないナゾの鍵だった。

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