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放課後ロルプライズ!  作者: 場違い
2章・電脳世界の呼び声
17/73

津森論子失踪事件 その2

 津森家は二階建て、洋風建築の一軒家だ。


 一階にはキッチンとダイニング、リビングがあり、二階に家族それぞれの寝室。概ね、一般常識で言うところの『普通の一軒家』という感じだろうか(微妙に失礼な言い方だが)。

 失踪者の部屋にも何も無かったのに、一階に何かがあるとは思えないけどな。と言いつつも、二垣巡査は一階での探索を始めてしまったので、俺たちもそれに便乗して一階を調べている。

 勝手が分からないし、ひとまずプロの真似をしてみようかという心理だ。多少の罪悪感に駆られながら、リビングに置いてあったメモ帳を繰ってみるが、買い物メモの書き損じなどを見つけるばかりで、事件に関係のありそうな情報はない。


「にしても、失踪事件って、失踪した人の家を捜査したりするもんなんスか?」


 たいした目星もないのにキッチンの戸棚を見て回っている斗月が何気なくそう聞き、二垣巡査は疲れきったように返事する。


「この件は、失踪事件の中でも特殊でな……。いやまあ、失踪事件自体が十分特殊なんだが……」

「特殊?」

「君らも聞いたことはあるだろう。巷で噂になっている、『密室から人間が消える』都市伝説。『人喰いディスプレイ』なんて馬鹿げたタイトルまでついてるらしいが」


 夏矢ちゃんの言っていたアレのことだな。

 …………あれ?でも、そういえば……。


「そういえば、警察では『失踪事件』として扱われてるんですよね?俺の聞いた噂だと、『謎の誘拐事件』って言われてましたけど」


 そう言って、ちらりとソースである夏矢ちゃんの方を見やる。まだ少しムッとした顔をしているが、小さく頷いてくれた。


「ええ。私も奇妙な誘拐事件だって聞いたわ」

「ふーん。私んとこのクラスは失踪事件って呼んでるけどね」


 夏矢ちゃんとチー子の言葉を聞いて、二垣巡査は額をぺちりと叩いた。

 昨日からの疲れと眠気が溜まっているのか、さっきから時々フラついては眉根を揉んだり顔を叩いたりしている。1日徹夜したどころの疲れっぷりじゃないけど、津森さんの事件が起きる前にも何かあったんだろうか?


「……どこからどんな噂が出てるのかは知らんが、とにかく正式にはこれら一連の事件は失踪事件だ。酷い所では、どんな歪み方をしたらそうなるのか、殺人だとか窃盗だとか意味の分からん変形を遂げてるがな」

「し、失踪事件が殺人に刷り変わってる……んですか?」

「出来の悪い伝言ゲームかよ!」

「…………警察って大変ですね」

「そう思うなら余計な仕事を増やさんでほしいんだがな」


 思い出したように嫌味を言って、それっきり二垣巡査は口を閉じてしまった。

 俺はリビングに置かれていたメモ帳を最後までめくり終えると、早々にそれを見放し、次はどこを調べるかな、と思案する。


「あれ、そういえばご家族は今どこに?」


 家をまるまる封鎖して捜査しているのだから、家族がうろちょろしているわけはないだろうけども。


「津森家の方々には、警察の方で用意したホテルに泊まってもらっている。……何か聞きたいことでも?」

「前日の津森さんに何か変わった様子が無かったか、とかですけど……既に警察が聞き込んでますよね」

「あ、それは私も聞きたいです」

「わ、私も……何かの参考になれば」


 チー子とポン子が、それぞれテレビ台、クローゼットを調べているのを中断して寄ってきた。

 首肯して、二垣巡査は胸ポケットから百均っぽい手帳を取り出した。

 一瞬字が見えたが、どうやら二垣巡査は意外にも悪筆らしい。それも、書いた本人ですら読むのにつっかえまくるくらいの。


 二垣巡査の話してくれた『聞き込み内容』は、大体がチー子やポン子から聞いた、電話での母親の話と同じものだった。


「あとは、そうだな……『失踪者がいなくなる前の夜、失踪者の声を聞いた気がした母親が部屋の前まで行ってみたが、呼びかけても返事は返って来ず。母親は失踪者が既に寝ていて、声は自分の空耳だろうと思い、そのまま自室に戻った』……という内容の証言がある」

「……部長、やっぱり誰かに無理矢理連れていかれたんでしょうか……?それで悲鳴をあげて……」


 チー子とポン子の表情がにわかに曇る。


「落ち着け。幽霊や化け物が連れ去ったとオカルトな考えをするならまだしも、失踪者の部屋にある窓は光を取り込むためだけのもので、開け閉めできないタイプだ。誘拐はあり得ん」

「でも、たしかロンっちの部屋の窓ってけっこう大きかったよ?割れば大人でもカンタンにくぐれるんじゃ……」

「あのなぁ……。……はぁ、説明するのも面倒だ。おいお前、さっき怜斗とか呼ばれてたか。お前、こいつに説明しろ」

「…………え」


 いきなり推理パートですか。いや、分かるからいいんだけどさ……。


「……チー子。離れた部屋で寝てる母親が、娘の声を聞き取れるんだぞ?窓ガラスを割ったとして、そんなでっかい音が聞こえないわけがないだろう?」

「……………………あ」

「そういうことだ。ていうか、現に窓は割られていなかったしな。少しはものを考えてから発言しろ」


 ひらひらと手を振って他の警察官の元に行ってしまった二垣巡査を、うぅーと唸りながら恨めしげに見つめるチー子であった。

 相性悪いなぁ……。


「……さて、そろそろ二階を調べるか」

「あ、はい」


 一階にこれ以上の収穫はないと判断したのか、二垣巡査は俺たちに階段を登るよう促した。

 収穫、といっても、俺たちは警察が既に見つけている以上のことは発見できなかったわけだが。二垣巡査としては、俺たちに『見学』でもさせているぐらいのつもりなのかもしれない。


「…………………」

「…………………」


 津森さんと一番仲が良いだろう麻雀部の二人の顔には、焦りの色が見える。


「何俯いてんだよ。津森さんの部屋が調査の一番の本番だろ。落ち込んでる場合じゃない」

「そ……そうですよね」

「うん。頑張ろう!」


 二人を励ましつつ階段を登りきり、二階の廊下の突き当たりの部屋、津森さんの部屋に入る。

 まず目に入ったのは、やはり……あれだろう。


「……砂嵐のまま止まったパソコン、か」

「都市伝説の掲示板では、被害者はこのパソコンに飲み込まれたんじゃないのか、なんて言う奴もいてな。そこから取って、『人喰いディスプレイ』という題の都市伝説で広まってるようだ」

「人喰いディスプレイ……これが、飲み込んだなんて」

「まぁ有り得ないわよね」

「さすがにないとは思うが、ネットの情報を真に受けて、それを前提に捜査するというのだけは控えてくれよ」


 アナログ時代のブラウン管テレビでしか見たことはないが……ザァーッという、永遠に何かが破れ続けているような不協和音と、無数に横切る白黒の線。

 それが何故か、ノートパソコンの画面に写り込んだまま、どこのキーを押しても、電源を切ろうとしても、砂嵐のままになっている。……と、二垣さんがメモを開いて説明してくれた。


「パソコンと周辺機器は少々触ったり手がかりとして押収したりしたが、それ以外の物の配置は動かさずそのままにしてある。これが失踪確認当日のこの部屋の写真だ」


 二垣巡査に渡された写真は、大体現在のこの部屋の状況と同じだ。

 ……ただ、明らかに違う部分が1つ。


「押収したものって、この写真のパソコンに繋がれてるイヤホンとかのことよね」


 写真では、パソコンに繋がったイヤホンは重力のままにだらしなく垂れ下がり、椅子の上に耳に差し込む部分を落としている。

 しかし、今、この部屋に、少なくともパソコンの周りには、そのイヤホンのようなものは見当たらない。


「不自然だね……。これ、引っ張ったら収縮するやつだから、いつものロンっちなら、こんな風に、雑に置きっ放ししないと思うけど」

「ほう……。これはいい情報を聞けた。バカにしては優秀だ」

「な!?バ、バカ!?何よ、ケーサツがどんだけ偉いってのよ!えらそーに!」

「……そういうのがバカっぽいって思われてるんだと思うけど」


 聞こえない程度にボソリと呟き、写真と部屋の状況とをもう一度見比べ、やはり違いはイヤホン以外にないことを確認する。

 次はパソコン本体を調べてみようか……そう思い、俺は机上のノートパソコンの前に立った。

 ………………と。


「うわっ!?」


 突如俺のズボンのポケットから、銀色に輝く何かが飛び出た。

 ……鍵だ。トゥエルブスターオンラインの世界へ行くための、意識の鍵が飛び出して、橋の下での最初の出会いを再現するように、宙に留まった。


「おい、何デカイ声出し……て…………ハァァッ!?」

「ちょ……レイっち!?何それ、どうなってんの!?」

「かっ、鍵が浮いてます!しかも、なんか光ってますよ!?」


 し、しまった。この鍵のこと、なんて説明すりゃあいいんだ……っていうか、なんでこんな不思議反応起こしてるんだ?

 鍵というワードに反応したのか、本棚を調べていた斗月と夏矢ちゃんがこちらを振り向き、あっ、と声をあげた。


「怜斗!おまっ……ちょ!?その鍵……ちょっ、おまっ!?」

「あ、あんた、ダメだって!ネカフェの時、言い訳が大変だったの忘れたわけ!?」

「し、知らねーよ!パソコンに近づいたらこの鍵が勝手に……」


 待てよ。パソコンに近づいたら、この鍵が?

 斗月と夏矢ちゃんは、俺の鍵を見て、慌ててこちらへ……パソコンの方へ駆け寄ってきている。

 ってことは……。


「おわぁっ!?」「きゃぁっ!?」


 斗月のズボンのポケットから、夏矢ちゃんの胸ポケットからも同じように鍵がスポーンと飛び出し、俺の鍵に並んで浮かぶ。

 ……ヤバイ。これは非常にヤバイ……!

 振り向くと、二垣巡査が今にも倒れそうな勢いで頭を抱え、俺たちを睨んでいる。


「……君ら。ちょっと事情を聞かせてもらえるな」

『………………はい』


 砂嵐のパソコンと浮かぶ鍵の前で、俺たちは二垣巡査とチー子とポン子に、ゲーム世界に行ける鍵についての電波な説明を行ったのだった。



「……頭に差し込んだらゲームの世界に行ける鍵、だと?……あまり大人を馬鹿にするなよ、いい加減に……」

「ほら」

『うわああああ!?』


 説明を終えた途端文句をつけようとしだした二垣巡査と麻雀部の二人に俺は、鍵を半分だけこめかみに埋めて見せる。

 血が出ているわけでもないのに鍵が人間の頭に刺さっているというのは、見ていてなかなかに異様で奇妙なものである。

 俺たちはもう慣れてしまったのだが、当然三人はそんなのに耐性あるわけがなく、すっかり腰を抜かしてしまった。はい、1/1D6のSANチェックです。


「も、もういいよレイっち。それは信じるけど……でも、その鍵がなんで、砂嵐のパソコンに反応したの?」

「それは俺にも分からないけど……」


 こめかみから鍵を抜き手から放すと、鍵はまたふわりとパソコンの前に浮かんだ。

 ……チー子の疑問はもっともだ。何故、このトンチキな鍵が、砂嵐のパソコンに反応して浮かび出すというのだろうか。

 もし、俺の予想……というか、『これがよくあるゲームの設定なら』という考えでいくならば、この鍵とパソコンは……。


「……俺たちが鍵を手に入れたのは、もしかしたら、いや、もしかしなくても……この一連の失踪事件と、何か関係があるんじゃないか?」

『………………………………』


 同意見だがあまり信じたくはない、という意志が、この場にいる全員からひしひしと伝わってくる。

 それはそうだ。津森さんの失踪に非科学的要素が加わってくるとするなら、それは下手をすれば津森さんが誘拐されていたとかいうのよりもたちが悪いかもしれない。どこか異次元で異時空の異世界に飛ばされたとか言われても、対処のしようがないからだ。


「……いや。関わってるっていうより、むしろ、失踪者を助けるためにこの鍵が作られたんじゃないのか?」


 みんなが暗い顔をする中、斗月だけが、閃いたように口角を上げる。


「どういうことよ?」

「津森さんや失踪事件の被害者は、あのゲームの世界に閉じ込められてるんじゃないか?それを俺たちがゲームの世界に飛ぶことで、救出することができる」

「……私たちが意識だけあの世界に行けるのに対して、津森さんは、体ごとゲーム世界に飛ばされたってわけ?」

「ああ」

「ああ……って、そんな根拠も何もないのに……。怜斗はどう思うの?」

 …………………………。

 既に話についていけていない二垣巡査たちをすがめ見つつ、俺は少し考えて、ひとまず即席的な結論を出した。


「確かに根拠も何もない突飛な考えだと思う。……だが、鍵が浮いてたりその鍵でゲーム世界に行けたりしてる時点で、常識や筋道立てて考えることなんざクソの役にも立たない」

「ちょっ……マジで言ってんの!?」

「流石!お前ならそう言ってくれると思ってたぜ!」


 ああ、と頷き、二垣巡査たち不思議な鍵を持っていない一般人三人に振り返る。

 あ、やっと私たちにも分かるように説明してもらえるぞ、という表情に向かってこんな突拍子もないことを言うのは気がひけるが……。

 俺は手に持った鍵と砂嵐のパソコンを交互に指差して言った。


「これから、この鍵を使ってパソコンをいじってみます」

『えぇっ!?』

「なっ……アホか!警察で既に色々と調べているとはいえ、それは重要な手がかりだ!素人に、しかも胡散臭い鍵を使っていじらせるなど言語道断だ!」

「でも、他に手がかりはないんでしょう。この鍵が砂嵐のパソコンに反応しているのは事実なんです」

「…………しかし!」

「二垣さん、あなたにも薄々分かってるはずです。これ以上普通の捜査を続けても、何かが出てくる見込みはあまりないってことくらい」

「………………っ!」


 言葉に詰まり、一瞬苦い顔をする二垣巡査は、しかしすぐに、凄むような顔を作った。


「ふん。なら他の捜査員が来る前にさっさと調べるといい、責任は俺が取ってやる。……そこまで大口叩いといて、成果が無かったらどうなるかは分かってるよな?」

「……………………」

「今度こそお遊びは終わりだ。現場から立ち去ってもらう」

「なっ……ちょっと、そんなのって!」

「…………上等です」

「レイっち!?」

「大丈夫さ」


 試すように俺をまっすぐ睨み付ける二垣巡査の眼光を、そのまま睨み返し、自分の覚悟を示す。

 正直、ハッタリだ。

 ただの予想、それも『これを使って調べれば何か得られる可能性がある』という遠回りな希望的観測をタテに、俺はふてぶてしく笑ってみせた。

 数秒睨みあうと、一瞬微笑んだような顔をしたあとすぐに顔を引き締め、やってみろ、と顎で砂嵐のパソコンを指した。


「……よし、やるぞ。斗月、夏矢ちゃん」

「おう!」

「マジでやるのね……」


 よし、早く津森さんを助け出すためにも、気合い入れて調べないとな。

 さて、鍵を手に取って、いざ捜査開始!!

 そんな感嘆符が2つも付いちゃうほどの気合いを入れた俺だったが、十秒もしないうちに手がかり、いや、突破口は見つかることとなる。


「お?」


 鍵をもう少しだけ画面の方へ近づけただけで、砂嵐が途切れ、何かが映し出された。


「ん、何だこれ……?」

「女の後ろ姿……のようにも見えるが……」

「あっ!?ろ、ロンっちだ!ロンっちだよ、ロンっちが映ってる!」

「何だと!?」

「ほ、本当です!ぼやけてますけど……髪飾りとかも見えるし!」


 言われてみれば、確かに似ている気がする。というか、親友であるチー子とポン子がそう言うくらいなんだから、多分この映っている女子は本当に津森さんなのだろう。

 ……にしても、これ、どこを映しているんだ?津森さんはどこにいるんだ?

 考えようにも、映りがあまりよくないので分からない。

 なんとかして映りを良くする方法はないか……。


「怜斗、他の2つの鍵もディスプレイに近付けてみたら?」

「え、なんで?」

「え、なんとなく」

「…………まぁ、やってみようか」


 さっき鍵をディスプレイに近づけてみたのも、ただ『なんとなく』の操作だしな。こういうのは直感が大切なのかもしれない。

 俺は宙に浮く残り2つの鍵を、手のひらで押してディスプレイの方へ寄せた。

 すると、見事に画質がよくなり、津森さんとその周りの光景を鮮明に映し出した。


「これは……!」


 津森さんの体が、どでかいジャム瓶のようなものに入れられ、ぐったりしているのが見える。

 そしてその瓶の傍らには、黒々しい粒子を体全体から放出させている、邪悪で巨大な、虫のような怪物が立っていた。


「ぶ、部長!」

「ロンっち!」

「……まずいな」


 巨大怪物の存在は、俺たちに、津森さんが今ゲームの世界にいることを確信させる小さなメリットと、津森さんの身が危険に晒されているという特大のデメリットを与えた。

 しかも、津森さんがゲーム世界にいることが分かったとはいえ、トゥエルブスターオンラインのマップは広大だ。どこのダンジョンにいるのか、はたまたどこかの街か、もしやラスボスの城に囚われているのでは、と悪いシナリオ悪いシナリオと考えてしまったらキリがない。


《………フフッ》


「これは……!」

「あの時の……、昨日、ダンジョンの中で聞いた声じゃねーか!?」

「ほんとだ、じゃあ……。ダンジョンをハッキングした犯人は……?」

「……津森さんをこのゲームの中に閉じ込めた犯人だろ……間違いねぇ」


 パソコンから聞こえだした声が、昨日、ダンジョンで聞いた謎の笑い声と同じものだということに気付き、戦慄する。

 俺たちはサービス開始以来破られることのなかったセキュリティを破ったハッカーと戦い、津森さんを救い出さなければならない。

 チートや改造、何を使ってくるかも分からない相手に、俺たちは……ゲームを始めたばかりの俺たちは、勝てるのか?

 そもそも勝ったとして、津森さんをこの現実世界へ連れ戻す方法はあるのか?


「……考えても仕方ないよな」


 鍵をディスプレイから遠ざけて画面が砂嵐に戻るのを確認し、斗月と夏矢ちゃんに鍵を返す。

 その動作と目線で言いたいことが伝わったのか、二人はそれを頭に突きつける真似をして、微笑んでくれた。


「レイっち……?」

「門衛くん、さっきから、何を話して……?」

「……ああ。説明するよ。二垣巡査も聞いてください」


 俺は、昨日ゲーム世界で獣たちから聞いたこと……トゥエルブスターオンラインに前代未聞のハッキングが起きていることと、津森さんの失踪との因果関係をざっくりと説明した。

 ……ゲームをハッキングしたハッカーが、おそらく、津森さんをゲームの中に連れ去った犯人と同一人物であることも踏まえて。


「……なるほどな。有り得る有り得ないとかそういう次元は別にして、いちおう理解はできた。警察が普通に捜査していたのでは、手がかりのひとつも得られないわけだな」

「はい。で、今から、女子高生をゲームの世界に閉じ込めたあげくジャム瓶で真空保存しやがった、その変態ハッカークソ野郎をぶちのめしに行きます」

「オイオイオイオイ……。ハッカーだぞ?俺はゲームやサイバー犯罪について明るくないが、違法にプログラムを操作して自分の有利を作り出しているんだろう?それにお前らがそのゲームを始めたのはつい数日前のこととだと言ったな。ゲームの世界に入れるとはいえ、反則を使っていない上にレベルも低いお前らが、しかもまだゲームに慣れていないお前らが、そんなヤツに勝てる見込みがあるのか?大体君らには」

「『反則』をします」

「だから気に入った」


 驚いたな。二垣巡査もジョ○ョ読者だったのか。二垣巡査はニヤリと悪役っぽく笑うと、鍵を指差して言う。


「お前がどんな作戦やどんな『反則』とやらを使うのかは知らんが……気に入った。やってみろ」

「ありがとうございます」

「ゲームやらハッキングやら、そんなデンパな世界の話じゃ、上に責任どうこうでドヤされることもないしな。それに……」

「それに?」

「…………普通に捜査して迷宮入りするより、使える手はどんなものでも使うべきだろう。俺たちの仕事は捜査じゃなくて、今は失踪者を見つけ出すことだ」

「…………………………」

「俺がその捜査をできないなら、出来る奴に探しに行かせるだけさ」

「感謝しますよ」


 こめかみに鍵を当て、ゲーム世界に赴く準備を整える。

 それぞれ鍵を構えている俺たちを一人ずつ見て、麻雀部の二人は、心配そうな、しかし俺たちに全幅の信頼を寄せていることが分かる眼差しを向けてきた。


「レイっち……、ヅッキー、カヤっち……!」

「絶対に……部長を……ロンちゃんを連れ帰って下さいね……!」

『おう!』


 覚悟と強く持った意志を胸に、鍵を頭に。ハッカーもとい犯人への強い怒りと、津森さんへの想いを力に変え、ゆっくりと、鍵を差し込む。

 視界がひび割れたガラスのように破壊され……意識が、一瞬だけ飛んだ。


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