ホワイトクリスマスの夢
『近年まれに見る大雪です。お出掛けの際は充分に注意してください』
テレビのニュースキャスターがそう言うのを聞き、朝のホワイトクリスマスがどうとかはどうしたんだろ? 雪が積もったなら明日は友達とそり遊びができて楽しいのに。雪は明日の朝までは降ってるらしいしこのあとみんなで相談しよう。そう思っていると、
「うららちゃん、もう夕方なんだから着替えなさい。うちは今年理事なんだから早めに行かないといけないんだから。それとりつくんの着替えも手伝ってあげて」
お母さんがそう言って弟のりつを押し付けてきた。今日のマンションのクリスマスパーティーの準備を理事はやらないといけないんだって。今年は理事で子供のいる家は私の家ともう1軒だけだからマンションの子供全員分のプレゼントを用意する係になったと言ってた。私も買い物に付いていきたいと言ったが公平にプレゼントを用意するためと言って家に置いていかれたのを覚えている。
そんなことを思いながら私は普段は絶対に着ないピアノの発表会の時に買ってもらったフリルの付いた水色のドレスを着て、りっくんにもこの間の入学式で着た紺色のブレザーを着せた。そして私達の服装をチェックしたお母さんは
「うららちゃん達もこれ持って行くの手伝って」
そう言って大きな白いビニール袋を私に渡してきた。中身はお菓子とかが入っているみたいで大きさの割りに重くはない。
りっくんも下で支えてくれてるし大丈夫だろう。お母さんはさらに大きな白い布袋を背負って家をあとにした。
1階の多目的ホールはクリスマスの飾り付けもされていて真ん中の壁際にはお父さんと同じくらいの高さのクリスマスツリーも置かれていた。
なかにいる人で知り合いを探すと同級生の女の子達が何人かいたのでその集まりに入る。
「うららちゃんだ、その服かわいいね。後ろの子は弟くんかな? 名前は何て言うの?」
話しかけて来たのは6年生のかれんちゃん。子供会の小学生内のリーダーだ。
「そうだよ。弟のりっくん。ほらりっくん挨拶しなさい」
「こんばんは、まきたりつです。1年生です」
恥ずかしいのか自己紹介が終わると私の後ろに隠れてしまった。男の子は男の子のグループであまり女の子と遊ばないから慣れてないんだよね。
「他の男の子達はどこにいるの?」
「飲み物買いに行ったよ。まだ低学年の子達も来てないしりつくんも私達と一緒にいようか」
まだ私の後ろに隠れていたけどりっくんは頷いていた。
その後男の子達が戻って来たらりっくんはそちらに行ってしまった。女の子達は部屋やクリスマスツリーの飾りつけをやり、窓が赤く染まる頃子供たちのパーティーは始まった。
用意されたケーキやお菓子を食べているとプレゼントのくじが始まった。女の子のプレゼントは人形やハンカチ、髪飾りが多かったけど、男の子のプレゼントはビニールの大きな剣や引き金を引くと音が鳴る銃だった。他にもお菓子がたくさん入っている赤いブーツみたいなプレゼントもあったが、男の子達にとってはそれは外れらしい。りっくんもビニールの大きな剣をもらって周りの子に膨らましてもらっていた。私は何を当てたのかと言うとかわいいお姫様の人形だった。白いドレスにきれいなティアラをしている。
そして次第にお父さんたちも仕事から帰ってきてパーティーに加わっていく。私のお父さんもいつの間にかいる。おかえりなさいと言うために近づくとお父さんもこちらに気づいたのか歩いてきて私たちを持ち上げた。
「ただいま~。うららとりつ。プレゼントは何をもらったんだい?」
ちょっとお酒を飲んで普段より明るくなったお父さんに、私は人形を、りつは剣を見せる。
「うららは人形でりつは剣か、大事にしなよ」
そう言ってお父さんは私たちを下ろす。隣にはお母さんもいるが酔ったお父さんを冷ややかな目で見ていた。
そしてホールが人でいっぱいになった8時頃さっきから司会をしていたおじさんが真ん中に立つ。
「今夜は忙しい中クリスマスパーティーにようこそおいでくださいました。これからショーを皆様にお見せしたいと思います。彼には種も仕掛けもありませんどんなところから見ても大丈夫。稀代の魔術師、ミスターマイヤー!」
そういうと突然電気が消えて明かりはイルミネーションが瞬いているだけになりました。そして数秒後に明かりが点くとクリスマスツリーの前に小さな杖を持った白髪で外国人のおじさんがいました。服装も金や銀の刺繍が入った黒のタキシードの上にマントを羽織っており、物語の中から抜け出してきたような雰囲気があった。
そしてマジックが始まった。テレビで良く見るコインやトランプを使ったマジックを披露したあとミスターマイヤーはおもむろに人形を取り出した。
その人形は男の子と女の子のセットでそれを机の上に置いた。すると更にマントの中からバイオリンを取り出し、弾き始めた。
すると音楽に合わせて机の上の人形が動き出した。ミスターマイヤーの両手はバイオリンを弾いていて塞がっているし何よりも糸とかで操っている風にも見えない。更にすごいのが動きだした人形を触ろうと低学年の子が手を出してもそれから飛んで避けるという動きぶりだ。そして音楽が乗ってくると二人で軽やかなステップで踊り始めた。
結局そこからは音楽が止まるまでみんな見入っていて音楽が終わると大喝采だった。更にそれでは終わらず、
「拍手ありがとうございます。さて今日はクリスマス、私も子供たちにプレゼントを用意してきました。この人形たちもプレゼントの一部です」
そう言ってミスターマイヤーは更にマントの中から人形をどんどんと取り出した。本当にあのマントの中はどうなっているのだろう。
「さて、もう何曲かお付き合いください」
そう言うとまたバイオリンを弾き始めた。曲によって兵士の人形の行進だったり、舞踏会みたいな優雅なダンスだったりとにかく面白かった。一通り終わると、
「それではこの不思議な人形を子供たちにプレゼントです。これが欲しい人?」
一瞬静まりかえったが、一人が手を上げると我先にと他の子も手を上げていく。
結局欲しい人でじゃんけんをすることになりどんどんと人形は配られていくが私はまだ手を上げなかった。なぜなら欲しい人形があったからだ。
それはさっき一人で踊っていた王子様みたいな人形だった。
そしてミスターマイヤーがその人形に手をかけて「欲しい人?」と言ったときに手を上げた。しかし他にも欲しい子がいるみたいでじゃんけんになってしまった。
結果は負けた。
その人形は他の女の子にプレゼントされて更に机の上を見るともう人形がなかった。そして私以外のみんなが人形を持っているのだ。いたたまれない視線から逃げるようにミスターマイヤーを見ると彼はしまったという顔をしていた。
「ごめんね。人形の数を間違えたみたいだ。だけど悲しまなくていい。まだ人形はここにあるからね」
マントの中に手を入れてそういうが、
「あれ? あ~、そうそう これだけか」
彼の独り言に私は不安を感じる。
「いま渡せるのはこれしかないんだ。しかしこの人形には特別な機能があるんだよ」
そう言ってマントの中から取り出したのは木で出来た厳めしい顔の兵隊の人形だった。周りのみんなも一歩下がってしまっている。しかし私はちょっとその人形のことが気になってしまった。そしてミスターマイヤーが人形と一緒に取り出したのは小さな木の実だった。
「さあ、見ててごらん。この木の実はくるみというんだが見ての通りこの硬い殻は手では剥けない。しかしこの人形の口にいれて後ろのレバーを引くと」
『ガキン!!』
「ほらこの通り中身の美味しいところが食べられるのさ」
人形の口で割れた木の実から中の実を取り出して食べていた。
「君にはこのくるみ割り人形をあげよう。踊りはしないけど大切にしてあげてくれ」
思わぬ人形を受け取ってしまったが今日もらったもうひとつの人形と共に大切にしようと思った。
これでミスターマイヤーのマジックショーは終わりなんだそうだ。だけど今日は帰れないからゲストルームに泊まっていくそうで、パーティーに参加していた。
人形をもらった子供たちはみんなが必死に人形を動かそうとしていた。しかし男の子達は飽きるのも早くビニールの剣やおもちゃの銃でチャンバラを始めていた。
私達はお人形を使ってままごとを始める。しかし次第に熱くなってきた男の子達がこっちも巻き込んで戦い始めるがかれんちゃんが注意して収まった。しかしまた熱くなり、2度目は私のくるみ割り人形を攻撃してきた。あとから聞いた理由は敵の兵隊としてなんだそうだ。
そして攻撃をされたくるみ割り人形は腕が壊れてしまった。ちょっと愛着を持ったころに壊されてしまったので泣きながら男の子達と喧嘩してしまった。その騒ぎを聞き付けた大人たちの仲裁により喧嘩は収まったが、
「人形が直らなかったら許さない!!」
くるみ割り人形を壊した子も親に怒られていたけどもし人形が治らなかったら絶対に許さないと言ったら向こうも泣いてしまった。
大人達が困っていると、
「それでは私が治しましょう。すぐには無理ですが明日の朝までにはね」
ミスターマイヤーはそう言いながらくるみ割り人形を持っていった。
そして私はここで記憶が途切れた。
目が覚めると私はベットで寝ていた。服装も寝間着になっていた。喉が渇いてたので台所に行くとお母さんがいて、
「起きたのね。多目的ホールで寝ちゃって大変だったんだから。人形は明日の朝までにミスターマイヤーさんが直してくれるそうだから明日の朝、ちゃんとお礼言いなさいよ。あと相手の子も反省していたみたいだから許してあげて。それじゃお母さんはもう寝るからうららちゃんも早く寝るのよ。おやすみなさい」
「わかった。おやすみなさい」
寝室に向かうお母さんを見送る。しかしくるみ割り人形のことが気になってしまった。一度多目的ホールに行って確認したい気持ちが大きくなってしまったのだ。こっそりコートを羽織り多目的ホールまで行くことを決意する。しかし一人では寂しいので今日のパーティーでもらった女の子の人形も持っていくことにする。
そしてこっそりと寝静まったマンションの廊下を歩き多目的ルームにたどり着いた。外はまだ雪が静かに降っており街灯に照らされて幻想的だった。
部屋に入ると外の街灯の灯りで多少は見えるが遠くまでは見えない。しかしゲストルームの入り口横にあるソファーの上にくるみ割り人形が置いてあるのがわかった。近寄ると折れた腕に布が巻いてあり、直している途中だとわかった。思わず持ってきた人形でくるみ割り人形を撫でる。すると不思議なことが起きた。
途端に室内のイルミネーションが光り、さらに周りの物が少しずつ大きくなっていくのだ。そして私は床の上にいるがクリスマスツリーは遥か遠く巨大になっていた。
そして多数の足音が近づいてきていた。近くにあった椅子の足の影に隠れるとやって来たのは私より大きいネズミたちだった。思わず声が出そうになるが頑張ってこらえた。そのまま隠れてやり過ごそうとしたけど目線があってしまって見つかったのがわかった。
後退りしながら逃げようとしても回り込まれてしまった。襲われると覚悟して目を瞑る。しかしいつまで経っても衝撃は来なかった。恐る恐る目を開けてみるといつの間にかネズミと睨み合っている兵隊達がいた。そしてその兵隊たちを指揮しているのはあのくるみ割り人形だった。
しかし睨み合いも長く続かずネズミと兵隊の戦いが始まった。
剣や銃でネズミを討ち取っていくが同じぐらいの被害を兵隊も受けていた。そして戦闘が膠着したときネズミの中からあからさまに大きいネズミが一匹出てきた。そいつは前線にいた兵隊をなぎはらいこちらに向かってくる。しかしあのくるみ割り人形が立ちふさがり守ってくれた。応戦するがくるみ割り人形は片手が怪我で使えずにおり少しずつ押されて来ていた。ネズミはボスが作った突破口からやって来て兵隊たちも押されている。そこで私も戦いから逃げないで何かできることを考えた。
そこで私は靴を脱ぎネズミのボスに投げつけた。すると一瞬こちらに気が逸れたネズミのボスの隙を見逃さずくるみ割り人形はネズミのボスの喉元を一突き、そして腹をバッサリと斬りつけた。その一撃で絶命したようでネズミの部下達はボスの死体を持ち逃げ去っていった。
しかしこちらの被害もそれなりでくるみ割り人形も倒れてしまった。私が近づいて介抱するといつの間にか後ろにはミスターマイヤーがいた。彼がくるみ割り人形を杖で叩くと叩いたところからポロポロと木が剥げていき、そこからは光が溢れている。眩しくて目を瞑り、落ち着いた頃に目を開けるとそこに倒れていたのはカッコいい男の人だった。彼が目を覚ますとこちらを見る。
「お嬢さん大丈夫でしたか? 私はある国の王子なんです。毎年この時期に行われるお城のパーティーにお客を招待するためにマイヤーおじさんに人形にしてもらってこのせかいにくるんだ。しかし今年はしくじったね。あんなネズミの大群と戦うはめになるなんて。護衛の歩兵にも被害が出ちゃったしね。あ~、父上に怒られる。だけどあんな危機的な状況から良くやった僕。てかなんであんなにたくさんのネズミがいたんだよ。去年は簡単に魔法を解いて一緒に行こうって誘うだけだったのに。しかもその前の子供たちのいたずらで腕も折れるし、今年は踏んだり蹴ったりだったな。本当に良くやった僕。ちゃんと説明したら父上も怒らないだろうか? じゃあちゃんと言い訳を考えておこう。……」
この王子様話が長い。最初の方は状況説明だったけど途中から王様を誤魔化すための作戦考えているし、後ろに立っているマイヤーさんを見ると凛と前を見ているだけでこちらを気にした様子がない。あまりにもこちらを見ていないので話しかけづらいのだ。
「……というわけで我が国のパーティーに今すぐいこう。マイヤーおじさん、扉はどこにあるんだい?」
「王子、クリスマスツリーの根本です。その先雪の国には馬車が用意してあります」
途中から聞き流していたけどなぜか私は王子の国のパーティーに参加させられるようだ。それは困る。朝までに帰ってくることはおろか今日中に帰ってこれそうもないので辞退させていただきたい。そういまの日本にはこんな台詞がある。
「ごめんなさい。お母さんから知らない人に付いていってはいけないと言われていますので行けません」
「大丈夫、朝までには返すからお母さんにも気づかれないよ。さあ行こう」
そういう問題ではないと思うのだがすがるような目でマイヤーさんを見ると
「王子も招待客がいないと参加権がなくて必死なんだ。申し訳ないが一緒に来てもらえないだろうか。この国の日の出までには帰そう」
本当は止めて欲しいのだがあのマイヤーさんの諦めきった目を見るとこの王子様は言うことを聞かないんだろう。まあ少し興味もあるし付き合ってあげようか。
「わかりました。行きます。だけどちゃんと帰して下さいよ」
「よし、それじゃ早く行こう」
そう言って王子はクリスマスツリーの根本にあった扉を開ける。すると扉の向こうから雪が舞い込んできた。しかし寒くは感じなかったのは不思議だ。そして王子を先頭に私、マイヤーさんの順で扉をくぐった。
扉の向こうは一面の銀平野。雪もしんしんと降っている。そして一台の大きな車輪の代わりにそりのついた馬車。良く見ると引くのは2頭のトナカイなのでトナカイ車なのかな? 語呂が悪いので馬車でいいや。それに乗ると中は思ったより広く椅子もふわふわだった。正面に王子、横にマイヤーさんが座り馬車が動き始めた。
「誰がトナカイを操っているんですか」
テレビで見た御者の位置に誰もいないのが気になり尋ねると
「トナカイに見えるが雪の精なんだ。ここは雪の国。雪が降っている世界同士を行き来できるから他の世界に行くときの通り道なんだよ」
マイヤーさんにそう説明された。しかしそれでは日本の雪が止んだらどうなるんだろうか。やはり帰れなくなるんだろうか?
「そんな心配な顔をしなくても大丈夫だよ。もし雪の国が通れなかったら日の出前なら夜の国も通れるからちゃんと帰れるよ」
不安が顔に出ていたらしい。
しかし窓の外を見ても一面の銀世界は変わらない。退屈になって馬車の中に視線を戻すと男の人と女の人が一人ずつ増えていた。びっくりして見つめるとこちらをその二人がみた。二人とも雪のように白い肌にプラチナのような髪の色、そして宝石のような青い瞳に圧倒された。王子もカッコいいと思ったけどこの二人は美男美女で美しいという言葉がぴったりだった。
「あなたが今年のパーティーのお客さんの一人ね。お名前は?」
「牧田うららです」
「私たちはこの雪の国の王と女王よ。毎年どんな子が来るのか楽しみにしてるの。ほら精霊も集まってきた。みんなあなたに興味津々よ」
「ようこそ雪の国へ。お嬢さん。短い間だが少しおしゃべりに付き合ってくれ」
いつの間にか雪が馬車の中に入っているが浮いているだけで下には落ちない。女王が言うには雪の精らしい。雪の精は気にせずに質問に答えたり、逆に質問してみたり楽しんでいると
「もう時間のようだな。短い間だったが楽しかったぞ、お嬢さん。それではまたな」
「雪が降れば私達はそこにいるわ。忘れないでくれると嬉しいわ」
そう言って風にさらわれたようにスーッと消えてしまった。
「さて我が国に到着だ。うらら、早く行くぞ」
そう言って王子は馬車を降りてしまった。私も王子に続くと王子はこちらに手を差し出してくれていた。王子の手を借り馬車を降りるが足を踏み外してしまった。転ぶと思った瞬間目を瞑るが痛みは襲ってこなかった。逆にふわりと持ち上げられたのだ。
「危なかった。怪我とかないか?」
転びそうになったところで王子に持ち上げられたらしい。ちょっとドキドキしてしまう。これは吊り橋効果で恋愛感情ではないと心に言い聞かせながら。
そして後ろからマイヤーさんが降りると馬車は来た方向に帰っていった。
「トナカイさんたちありがとね」
そして降りたところを見ると大きな宮殿があった。
「これが我が国の城だ。さてパーティー会場に案内しよう」
そしてやはり王子様を先頭に城の中に入っていく。
パーティー会場は立食形式のようで外側に椅子がおいてあり、何ヵ所かに料理も置いてあった。そして正面には王様と女王様がいた。
「まずは王に挨拶だ。ついてきてくれ」
王子が背筋を伸ばして歩いていく。ここだけ見るとやはりカッコいい。そしてそのあとにおっかなびっくりついていく。出来るだけ背筋を伸ばして優雅に見えるように歩いたつもりだ。そして玉座の前で王子の真似をして頭を下げる。
「王太子チャーミング帰還しました。日本国からのお客様、牧田 うらら様です」
「良い、頭を上げよ」
そう言われて頭を上げる。
「この度は突然の招待に参じてくれて感謝する。些細なパーティーだが時間の許す限り楽しんでいってくれ」
「ありがとうございます。楽しませていただきます」
緊張していたがかろうじて言葉が出てきた。
そして後ろに控えていたマイヤーさんに連れられて王様の前からパーティー会場に戻った。用意された椅子はやはり柔らかくそして使用人の方が飲み物や食べ物は用意してくれる。いつの間にかマイヤーさんはいなくなっていた。
隣の椅子を見ると同じくらいの歳の女の子が座っていた。思いきって話しかけてみるとその子は中国から来たらしい、その隣に座ってた子はロシアらしい。なぜか言葉が通じることに対してつっこみたいが、なんでもありなのかなと思い気にしないことにした。
そして私の隣に新しい子も来た。この子はオーストリアからだそうだ。
王様の方を見るとまた新しい子供がいた。今度はお兄ちゃんと妹みたいだ。そして空いている椅子がどんどん少なくなっていくと王様が立ち上がり
「まだ来ていないものもおるがパーティーを始めよう。冬の一番強い日を祝うパーティーだ。音楽を頼む」
音楽が流れると同時に広間の真ん中に踊り手が現れた。音楽もスローテンポでしっとりした感じだが踊りに見いっているとだんだんと音楽が変わり始めた。ロシア音楽、中国音楽、そして日本の琴や尺八みたいな音色も響く、踊り手はその曲に合わせて踊りを変える。ロシア音楽ではコサックダンスだったし日本の音楽では日本舞踊、ヨーロッパだとペアダンスのようだ。
そして音楽が最初の曲に戻ってきた。そしてどこからか王子が現れて座ってる私に手を差し出す。横の子を見ると彼女にも王子と似た雰囲気の男の人が手をさしだしていた。
恐る恐る手を取ると優雅に立たされた。
「最後はみんなで踊るんだ。音楽に合わせてステップをしてみて。俺が合わせるから好きに踊って大丈夫だよ」
いや、踊れって言ったってそんな簡単に踊れるものじゃないよ。良くわからずに音楽に合わせてステップらしきものを踏むと、王子もそれにノッてきた。だんだんと楽しくなってステップを大きくしてみると王子はさっきより派手に踊り始めた。そのあとは私を回転させたりと自分でもどうしてこんなに踊れるのか不思議なくらいダンスに夢中だった。
「それではお姫様ももうお帰りの時間だ。参加してくれてありがとう。それじゃあ、またね」
音楽が終わった。そして後ろにはマイヤーさんがいて、私は皆から見送られて広間から外にでた。やはり城の前には馬車が止まっていてそれに乗るように促される。椅子に座ると疲れから寝てしまった。
目が覚めるとマンションの多目的ホールのソファーだった。隣には腕が治ったくるみ割り人形と片足だけ靴が脱げている女の子の人形が座っていた。
もしかしたら夢かもしれないけどこの二人の人形は大切にしようと心に決めて朝日に照らされ輝いた銀世界に飛び出した。
うららはこっそりと家に入った。まだ家族は寝ていたみたいで恐らく外出はバレていないだろう。そして自分の机の上にくるみ割り人形とクララと名付けた女の子の人形を並べて置いた。
また来年彼らに会えることを願って。
~~Fin~~