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深夜の微笑 2

作者: 穂高胡桃

浅い眠りから覚めると柔らかい温もりと寝息を素肌に感じて、その寝顔をそっと覗き込む。その気持ち良さそうな表情に、何だかくすぐったさを感じる。

そんな彼女をしばらく見ていたら眠気も冷めたので、タバコを吸うために彼女を起こさないようにベッドから降りる。

さっきまで伝わってきた彼女の熱を帯びた体温も今は落ち着いたようで、風邪をひかないようにブランケットを肩まで包むようにかける。そして汗でおでこに張り付いた前髪をそっと横に流してあげると、長いまつ毛がよく見える。

汗でメイクもすっかり取れていつもより童顔に見えるその寝顔が可愛く見えて、つい笑みが出てしまう。そっと頬に右手を添えて親指で軽く撫でても、目を覚ましそうもない。

冷蔵庫からミネラルウォーターを取りだして飲みながらリビングのソファーに座り、タバコに火をつけてゆっくり吸いながら視線をベッドルームへ向ける。


時々彼女をほんの少しからかうと、むきになって怒ったり応戦してきたりした。でも時々照れたように顔を赤らめる彼女を可愛いと感じていた。

そうやってからかうことは誰にでもするわけじゃない。僕にとって彼女は特別。


会社では先輩の彼女だけど反応が可愛くて、そんな表情が見たくてつい楽しんでしまう。

それはいつからだったかな?

思い出してみればほぼ毎日残業をしていて、一息つくためにタバコを吸いながらボーと彼女のことを考えることが増えた頃かもしれない。

最初は僕にとっても関心のある女性ではなかった。


彼女は僕に媚びた笑顔も、甘えた声も、一度だって表現したことがない。

僕のことは後輩という存在以外には感じていないみたいだし。それに周りの男性社員にだって僕と例外なくドライに接している。

そんな彼女が可愛がっている後輩が、僕の大切な人と同一人物という共通点から、2人が一緒にいると自然と視線が行くようになった。


いつも姉のように恋の応援をしていた。僕と同じように。僕と違うのは、同じ女性として気持ちも寄り添っていたのだろう。

人の恋なのに『幸せになって欲しい』と感情的になって涙を浮かべた時もあった。

『自分の恋と重ねてしまっただけ』と弁解していたけど、その正直さも何処か彼女らしくて。

涙ぐんだ自分を見られたくなくて『見ないで!』と顔を反らすところも彼女らしくて。


今まで女性の涙は僕にとって女の武器にはならなかったけど、あの時彼女の涙に惹かれてしまった。

不思議だな・・彼女は僕の中で静かに特別な存在となっていったんだ。


それからかな・・今までみたいに彼女をからかって楽しむことをやめたのは。

不倫をしていた過去を教えてくれて『人を好きになることに疲れている』と言っていたその気持ちをゆっくりと変えてあげたいと思った。

僕の気持ちの変化には気付いていないから、彼女は僕がまだ長い片想いをしていると思い続けてきた。


そして昨日その恋が完全に終わりを遂げたと思っている。

今まで気付かないふりをしてくれていた彼女が突然僕に気持ちを聞いてきた。

それが優しさだと分かって久しぶりにからかうように言葉をはぐらかして返した。そう、何となく怒る彼女が見たくなって。


なのに・・・予想外に彼女は僕に『頑張ったね』と声をかけて、優しく頭を撫でてくれた。


参った・・・僕の心が今の一瞬で完全にやられてしまった。


今までにないスイッチが入ってしまい、彼女の頭にもたれ掛かって『僕をなぐさめてくれますか?』と勝負をかけた。彼女はやけ酒に付き合う位にしか思ってなかっただろうけど。

僕は彼女のことが欲しいと思ったんだ。


彼女の肌の柔らかさと温かさを思い出してベッドに戻り彼女を見ると、さっきと変わらず気持ち良さそうに寝ている。起きたらどうするのかな?

思っていた以上に魅力的で、愛しく感じる自分に失笑してしまう。

困らせてしまうかな?僕は優しさに甘えてしまったね・・・


「ごめんね、咲季さん」


耳元でささやいてからベッドの中に入る。

そして彼女が起きないようにそっと抱きしめて自分の方へ引き寄せた。



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