作戦会議も日常的
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明日、作戦会議を行います。
場所:学校―漫才部の部室
持ち物:ハンカチ、ティッシュ、お弁当、筆箱、おやつ(300円以内)※バナナはおやつに入りません
部長:瑞希より
「遠足気分かよ」
「えぇ~。では第一回作戦会議を始めますわ」
珍しく瑞希は部長らしく漫才部の部員を集め、一週間後に控えている校長先生の娘に披露する漫才について話し合う会議を開いた。
「漫才部は現在、大変な危機に面していますわ」
深刻な雰囲気。
漫才部の全員は皆黙り込んでいた。
「……どこの焼肉屋に行くか。私は最近できた。食べ放題の店がいいと思いますわ」
「いいや!!!!俺はみんな大好き肉Qがいいと思う!」
宏平は机を叩いてそう言った。
「宏平、もう古いわ。咲ちゃん言ってやりなさい」
「わかりました。秋穂先輩」
スッと立ち上がった秋穂は鞄から一枚のチラシを取り出した。
「これを見てください!この焼肉学園は高校生と言った学生の料金を半額にしてくれるお得な場所!つまり、ここしかない!!!!」
よく言った。
そんな様子で秋穂はうなずいていた。
皆は反対することもできず黙り込む。
その中で、一番暗い顔をして十夜は黙り込んでいた。
「十夜くん?あなたは、どう思いますか?」
「……」
十夜は立ち上がった。
息を吸い込み。腹に力を入れた。
「お前ら廃部の危機感じてる!?」
その言葉で皆はハッと何かを思い出したかのようにポンと手を叩いた。
『あぁ~』
「あぁ、じゃねぇよ!!!!なんで呑気に焼肉の話してるの?言っとくけど校長の娘さんが笑わなかったら焼肉もないんだかね!?」
「まぁ落ち着きや、十夜」
お茶を飲みながら桂太はホッと息をはく。
「落ち着きすぎだよ!!!!」
「十夜くん?しかたありませんわ。皆、心の中では焦っています」
「焦ってないよ!危機感ゼロだよ!!!!ヨダレたらして焼肉のことしか考えてないよ!!!!」
「人聞きの悪いこと言わないでくれる?これでも昨日はお笑い番組見て研究してたんだから」
「それはあんたの趣味だろ!!」
「そんなことない!」
「じゃあ研究の成果を見せてみろよ!」
「まず、一時間しかないのはもったいない!」
「堂々と番組の感想言ったな!!」
「それだけじゃない。小道具、大道具は良くできてた」
「せめて漫才誉めろよ!なんで道具を誉めたの!?」
「漫才はいまいちかな?」
「そこだけ辛口だな!おい!」
「結果!面白かった」
「だからそれ感想!!!!」
秋穂のボケをツッコミ、漫才については何も考えていないのが十夜にわかった。
残り四人。
「咲は何か考えたか?」
「最近ね?コンビニのチーズケーキがおいしいって感じたわ」
「よし。もういい」
残り三人。
「宏平は?」
「ドラ○エで―」
「帰れ!!!!」
残り二人。
「……瑞希先輩は、何か考えました?」
瑞希は不適に笑みを浮かべ、自信満々にこう言った。
「ないですわ!!!!」
「ドヤ顔で言うな!!」
もうダメかも知れない。
十夜がそう思った矢先、桂太が何かを言っているのに気づいた。
桂太のもとまで行った十夜は一枚の紙を渡され、中身を見た。
沈黙のあと、十夜は紙の内容を何度も繰り返し読む。
紙に書かれていたことは、こうだ。
ごめんね。なにも考えてないわ(笑)
「口で言えよ!!!!」
ガクリと膝を落とし、あきれた。
この部は危機感がないのか。
バカなのか。いや、バカなんだ。
十夜は泣いた。涙は出ていないが泣いた。
「十夜!!!!俺はネタを考えてきた!!!!」
宏平が十夜の肩を掴みそう言った。
チラリと視線を宏平に向け、眩しいほど輝いた笑顔を見て溜め息をついた。
「十夜、俺はいつもお前に迷惑をかけていた。だから、今回10分かけてネタを作ってきた」
(短いな、おい!大丈夫か、それ?)
「よし、行くぞ!」
「えっ!ちょっ!!」
十夜は宏平に腕を捕まれ、部室の外に連れて行かれた。
そして、五分後
部室の扉が開き、二人の少年が入ってくる。
部室の中は面接室の様に、右から瑞希、桂太、秋穂、咲、朝比奈―
(えっ!!朝比奈先生!?)
突然姿を現した朝比奈を見て驚きながら十夜は口を固く閉ざして、冷静を保つ。
宏平からアイズをもらい十夜はコクりとうなずいた。
「なぁ、十夜」
「何だよ、宏平?」
「最近な、俺人助けをしたいと思うんだよ」
「人助け?何だよいきなり。何かあったのか?」
「あぁ、漫画の○ケ○ト○ン○見てさ」
「うん。丸ばっかで何かよくわからないけど、漫画の影響を受けたんだな。でも人助けなんてやろうと思ってできるもんじゃないだろ」
「そんなことない!」
「そうか、例えばなんだよ?」
「例えば、ゴミが落ちてるとするだろ?」
「うん」
「あっ!ゴミだ!って言って」
「……うん」
「走る」
「なんで!?そこは拾って捨てろよ」
「拾って捨てたら俺が捨てたみたいになるだろ!!」
「ゴミ箱に捨てるって意味だよ!!まず走るって何!?なんで叫んだあと走るの!?」
「明日のマラソン大会に優勝するためにランニングをして―」
「いらない設定作るな!」
「そんなことより、人助けしたいんだよ!」
「めんどくさいな~」
「そう言うな。じゃあ、迷子を助ける十夜って言う人助けをしよう」
「それ、俺が人助けすることになってない?」
「よ~いスタート!!!!」
「何か始まったよ」
「え~ん、びぇ~ん、うぇ~ん」
「泣き方に統一感なさすぎだろ。えっと、君どうしたの?」
「パパとママが離婚しそうなの!」
「重っ!!!!泣いてる理由重すぎる!迷子じゃないの!?」
「最近ね。パパとママが帰るのが遅いの。それで、何してるのか聞いたの」
「何か話始めたよ。無理だわ。俺には助けることのできない領域だわ」
「そしたらパパは迷子になってしまうから帰るのが遅いって」
「ここで迷子の話きた!!!!それは考えてなかったわ」
「ママは夜勤だからだって」
「それは、遅いわ!!しかたないわ!仕事だもん」
「だから、もうはやっていけないって」
「なんで!?」
「きっと、気づいてたんだ!!パパが方向音痴だって」
「誰でも気づくと思う!迷子になって帰ってくるんだから」
「ぼくはどうすれば良いんだ!!!!……こうして物語は始まる」
「もう無理だわ!宏平この漫才落ちないわ」
「そんなことない」
「いや、結構前にお前のネタ終わってるもん。ほとんどアドリブだもん。本当に無理だわ。お前はボケれても俺はツッコミきれない」
「そんなんでいいのか!?勝てないぞ!!!!」
「誰にだよ!!」
「鈴木くん」
「本当に誰だよ!!」
「ところで、パパを知らないか?」
「迷子だよ!!!!」
ペコリと二人は頭を下げて、その場に正座した。
感想は右から
「13点」
(何点満点の?)
「まあまあやな」
(ほとんどアドリブだからな)
「昨日のお笑い番組のほうが面白かったわ」
(プロの人達と比べないで)
「がんばって」
(ファンか!!!!)
漫才部の部員が感想を言い終わると朝比奈は立ち上がり十夜と宏平に鋭い視線を送る。
「まず、漫才にしてはグダグダすぎだ。何の漫才をしてるのか全くわからない」
朝比奈の言うことは的確なダメ出しだった。
いつもふざけている先生の姿はどこにもなく漫才のことを真剣に考えている人の様に感じた。
きっと、漫才を仕事をしている人達は、どこかでネタを見てもらい誰かにアドバイスやダメ出しをしてもらうのだろう。
十夜は朝比奈の言葉をよく聞いていた。
どこが悪かったかを。どうすれば良いかを。
「それで、どこの焼肉屋に行くことになったんだ?」
「真面目だったの最初だけか!!!!」
漫才発表まで残り一週間。
「ねぇ、瑞希?」
「なんですか?秋穂」
「今度私と漫才やらない?」
「……フフ。面白そうですわ」