笑いがあるのは日常的
「ツッコミ担当一人は大変だよな」
「そんなことないですよ?」
「瑞希先輩……」
「だって私に突っ込むことは楽しいでしょう!」
「先輩……」
◇ある日のこと(その一)
―ある日のことだった。
「わい、思うねん」
桂太はいつものように偽関西弁で話始める。
「何をですの?」
お嬢様のオーラを放つ美少女、北条瑞希は、紅茶を飲みながらそう質問する。
「わいら、漫才研究部なのに、漫才しとらんのや」
今さらの話だ。
「そういえばそうかもね~」
興味がなさそうに秋穂は、《今月のケーキトップ10》と書いてある雑誌を読みながらそう答えた。
「って、言っても桂ちゃん。漫才のネタあるの?」
プラモを組み立てながら、宏平は真剣な眼差しを桂太にぶつける。
「そこなんや!漫才って、ネタを作らんと始まんないんや!!」
当たり前のことだ。
「じゃあ、ネタを作ればいいじゃないですか?」
咲は正論をハッキリと言った。
「そうやな……じゃあ、十夜くんよろしく!」
桂太は親指を立てながら満面の笑顔で誰も椅子に向かって言った。
しかし、文章のとおり、そこには誰もいない。
正確に言えば、漫才研究部の部室に十夜の姿はなかった。
静まり返った部室。
部員はそれぞれ自分のやりたいことをやり、正直、ここが何部なのかわからない状態になっていた。
そして、数分が過ぎたところで今までプラモを作っていた宏平、雑誌を読んでいた秋穂、紅茶を飲んでた瑞希、とくに何もしていない咲、話題を作ろうと頑張った桂太、皆それぞれ動きを止めて黙り込む。
『おそい!!!!』
五人は同時にそう叫んだ。
「ねぇ?十夜はどうしたの?」
「私は知りませんわ」
「私もよ」
「宏ちゃん何か聞いとらんか?」
「部活には遅れるとは言っていた」
皆は、現在の時刻を見る。時計は丁度4時だった。
「いつまで、十夜は来ないつもなのよ!?」
咲は半分キレぎみだった。
「仕方ありませんわ!探しましょう!」
「わかった!でも、瑞希あなたはここに残りなさい!」
「なぜですか?」
「もし、十夜が部室に来たとき誰もいなかったら不思議に思うじゃない。だから―」
「でしたら、秋穂が残っててください!私が探しにいくので」
「いや、ここは瑞希が―」
「いえ、秋穂が―」今まで、笑顔でいた二人はその瞬間本性を見せた。
「ふん!瑞希あんた、十夜を一人占めする気ね!?」
「それはこちらの台詞ですわ!!」
バチバチと火花を散らしながらお互いに睨み合う。
『そこを動くな!!』
二人の叫び声は、部室から脱け出そうとする三人の動きを止めた。
隙をついて十夜を探しに行こうとした桂太、宏平、咲は苦笑いしながら秋穂、瑞希を見た。
「咲ちゃんどこ行く気ですか~?」
瑞希は笑っている。笑っているがその心は狂気に満ちているのを咲は理解する。
下手に動けばやられる。
咲はそう判断した。
しかし、ここで十夜を探しに行くの止めてはいけない。それならば、どうするか。
答えは一つ。
咲は少し落ち着いた様子で、こう言った。
「ちょっと、トイレに」
「ここでしなさい」
お嬢様風美少女がさらっと口にしてはいけないことを言った。
「いや、でも男子二人いますし」
瑞希はチラリと視線を横にそらす。
その視線の先を追った咲は、見てはいけないもの見たように顔を真っ青にする。
目線を先には、つい先ほどまで共に逃げようとしていた宏平と桂太の遺体があった。
死んではいないが、遺体に見えた。
部室に生き残っているのは、咲、秋穂、瑞希、美少女三人組だった。
「さてと残りは、二人。どう調理してあげようか?」
秋穂は獲物狩る百獣の王、ライオンの目をしていた。
「あなたレベルでは私には勝てませんわよ!」
そう言った。瑞希の後ろに突如巨大な亀が現れる。
「こ、これは!?」
咲は目を疑った。これは一体なんだ……と。
「咲ちゃんは知らなかったみたね。あれは、スタンド」
(スタンド!?)
瑞希はニヤリと笑みを浮かべた。
「そう、これが私のスタンド!玄武の力をもつ、その名も亀!」
(そのまま!?)
咲は唖然とする。
「仕方ない!私も見せてやるわ!いでよ!シェン○ン!」
その瞬間、緑色をした長い胴体、角があり、目が四角い黒線で隠されている龍が現れた。
(スタンドじゃない!!ジョ○の○妙な物語ちゃんと読んだ!?)
咲は二人についていけず、その場にしゃがみこんだ。
私じゃ無理だわ。この二人を止められるのは、十夜しかいない。
でも、十夜を呼ぶにはどうすれば!?
咲がそう考えている間に、秋穂と瑞希のスタンド(?)がぶつかろうとしていた。
咲はたまらずにこう叫んだ。
「十夜ーーーーーーーーー!!!!」
瞬間、咲の頭に重い痛みが生じた。
ハッと気がつけば、そこは教室だった。
咲辺りを見回すと、クスクスと同級生が笑っている。
ここは、自分のクラス。今は授業中。
つまり、あれは夢だ。
咲はそう思った。
一安心して、顔横に向けると隣には教師である桐島先生が笑顔で咲を見ていた。
笑っているが狂気に満ちた顔。デジャブを感じながら咲はニコッと笑って見せる。
「後でお話があります。宮本さん」
(あぁ、スタンドが見える)
そう思いながら、咲は頭をガクリと落とした。
◇ある日のこと(そのニ)
―ある日のことだった。
「十夜くん?」
窓の外を見ながら瑞希は十夜に話しかけた。
現在部室には二人しかいなかった。
先ほどまで、ずっと黙っていたからだろう、我慢できずに瑞希は動き出したのだ。
「何ですか?」
本を読んでいた十夜にしては静かな方が助かるのだが、さすがに無視するのは気が引けた。
「地球っていつ滅びるんですかね」
「知りませんよ。急にどうしたんですか?」
「私なら地球滅ぼせる気がするんですよ」
「頭打ちました?」
「信じてませんね?」
「いや、当たり前ですよ。普通に、えっ!滅ぼせるんですか!なんて反応見せる人なんていませんよ」
「私はエスパーなんですよ?」
「エスパーの全員が地球滅ぼせるほどの力をもってるとは限りませんからね!?」
「では、私の力を見せてあげますわ!!」
瑞希は自分のバックからトランプを一つ取り出して、十夜に視線を送る。
「さぁ、見てなさい。みたいな顔されても反応に困るんですけど。しかも、瑞希先輩やろうとしてるの手品ですよね?」
「……」
「図星だよ。この人手品やろうとしてるよ」
咳払いする瑞希は、机一つ十夜の前に持ってくる。
「さぁ、寄ってらしゃい見てらっしゃい!」
「どこの商売人!?」
「ここにあるのはトランプです」
「見ればわかる」
「ただのトランプだと思ったあなた!!バーカ!」
「お客様に何てこと言ってるんだ!!」
「頭の悪いあなたには、これ!」
瑞希は新たにバックから国語辞典を取り出す。
「国語辞典!」
「トランプの話どこいった!?」
「十夜くん?テレビだショッピングにはこういうインパクトが足りないと思いますわ」
「ダメだし!?素人のくせに!?」
「そんな彼らに、この商品!」
バックから姿を現したのは消しゴムだった。
「どこで使うの!?インパクトの足りない彼らはそれをどこで使えばいいの!?」
「あぁ、今日は上司に怒られた、仕事で失敗してしまった。そんな時はこれ!消しゴムで綺麗さっぱり―」
「消えないよ!?」
「えっ?」
「いや、消えないから!!いつから、消しゴムはそこまでハイスペックになったの!?」
「昨日ですわ」
「最近!!」
「では、最後の商品!」
「まだ、続くの!?」
「こちら!」
瑞希がバックから出したのは少し使い込んだ感じのノートだった。
「ノート!!」
「反応に困るんですけど!?」
「ノートにはしっかりと勉強した後があります」
「使い古しじゃねぇか!!」
「使い古しに困ったあなた!そんなときは―」
『消しゴム!!』
「言うと思った!」
「では、またお会いしましょう!さよなら~」
「誰に言ってるの?」
こうして、瑞希は手品も見せずにスタスタと部室の外へと飛び出していった。
「トイレ……かな?」
「ついに……完成したで~!最高の漫才が!!」