遅刻するのは日常的
「十夜、パンはパンでも食べられないパンは?」
「それ前もやったよね?」
「じゃあ、フライパンはフライパンでも食べられるフライパンは?」
「ないよ!!!!」
眩しい朝日が窓のカーテンの隙間から入り込む。
部屋に目覚まし時計の針の音が静かに鳴り響いていた。
ベットの中で眠っていた十夜は、ゆっくりと体を起こし目覚まし時計を見る。
時刻は八時二十分。
十夜はゆっくりとベットに横になり、思考を働かせる。
(八時二十分。今日は水曜日。学校は休みではない。家から学校まで三十分かかる)
「つまり……」
その瞬間、佐々木家に悲鳴が聞こえ、近くの木に止まっていた小鳥が一斉に羽ばたいた。
あれから五分。
十夜は通学路をもうスピードで走っていた。
「ヤバイヤバイ!遅刻確定だよ!」
息切れをしながら、十夜は曲がり道を曲がり進もうとしたが、そこで足を止めた。
「ふっ、何を焦っているんだい?少年」
ツンツンとした髪に眼鏡。宏平だ。
「ふっ、困っているなら何でも相談しなさい」
宏平がそう言うとキャッチャーミットを手に着ける。
「ふっ、さぁ、こい!」
「お前は何を受け止めようとしてるの!?」
「ふっ、恋だ!」
「意味わかんねぇよ!!!!」
「ふっ、まだまだ青いな」
「うるせぇよ!!」
「ふっ、まだまだ青いな」
「さっきから、ふっふっうるさいわ!少し黙れ!」
「ふっ、まだまだ青いな」
「それしか言えないのか!!」
「いや、他に言えるけど」
「普通にしゃべんなよ!!」
そこで、十夜はハッと我にかえる。
こんなことをしてる場合ではない。学校に行かなければ。
十夜が走りだそうと足を動かすがそこで宏平が十夜の腕を掴む。
「諦めろ……」
「ばか野郎!まだ、諦めるのは早いだろ!!」
「だが……!」
「宏平!!」
なんだこの茶番はと十夜は思ったがそんなことは今はどうでもいい。
「十夜……」
「何だよ?」
「トイレー」
「俺にどうしろって言うんだーーーーー!!!!」
あれから、どのくらい時はたったのだろう。
「三分です」
「答えんなよ!!と言うか俺の回想に入ってくるな!」
「それは、無理だ!」
「何で!?」
「回想はみんなのものだからだ!!」
「まともなこと言うな!ツッコミずらいわ!!」
宏平と十夜は通学路を未だに走っていた。時刻は八時三十分。残り十分でホームルームが始まってしまう。
二人は走るペースを落とさず、再び曲がり道を曲がった。
そこで、十夜は再び足を止めた。
金髪のツインテール。
「キャピーン!」
よくわからない性格、宮本咲が電柱によしかかっていた。
「お前はなにしてんの?」
「ふっ、見てわからないの?電柱によしかかっているのよ!」
「いや、そんなこと聞いてねぇよ。何でここにいるのって聞いたの」
「Really?」
「本当?じゃねぇよ!」
「朝から元気ね」
「お前のせいだよ。お前の!」
「Really?」
「お前、言いたいだけだろ!?」
「Really!?」
「自分に聞けよ!!!!」
三人揃って走りながら学校に向かい時刻は八時三十八分。
途中で変な同級生に会わなければ学校には到着していた気がした十夜はため息をついた。
「なにため息ついてるんだ十夜!道のりはまだ長いぞ!」
「なんでお前そんな元気なの?」
「毎日、テレビ欄見てるからだ!」
「テレビ欄にどんだけ元気もらってんだよ」
「だらしないわね~。十夜、それでも聖剣士?」
「俺はいつからそんなにカッコイイ職業を手にいれたんだ!?おい」
再度ため息をつくと十夜は口を開いた。
「ところで何でお前ら遅刻してんの?寝坊?」
「八時二十分に起きたお前と一緒にするな!」「何でお前がそんな詳しいこと知ってんの!?」
「俺は、ポワワワン」
「えっ!?何その音!?」
「回想に入る音だ」
目が覚めたのは午前三時のこと
まだ、辺りは暗く宏平は体にある異変が起きたのに気づいた。
「こ……これは…!?」
体から漏れそうな感覚、宏平は息を飲んだ。
「ちょっと待て!」
「何だよ、十夜」
「トイレ!それトイレに起きただけ!」
「それはどうかな!」
「じゃあ、なんなんだよ」
「便所だ!」
「変わらない!!!!」
「そして俺はトイレに行き、トイレのドアを開け……目が覚めたら、体が縮んだでいた!」
「話の流れが見えない!って言うか内容変わった!」
「と言うのは嘘で、トイレの中を見ると、妹がいたんだ」
「……うん。それで?」
「声をかける瞬間、マッハパンチ、メガトンキック、とどめの叫ぶ」
「とどめの一撃、ダメージ喰らってないよね?」
「そして俺は意識を失い……目が覚めたら!」
「「体が縮んでいた!」」
「言うと思ったわ。で、結局、目が覚めたら遅刻でしたってか?」
「違う!俺はお前みたいに安らかに眠っていたんではない!安らかに眠らされていたんだ!!!!」
「いや、知らねぇよ」
「それなら、まだいいわよ」
ずっと黙り込んでいた咲が口を開く。咲のニヤニヤとした表情を見て十夜は二人の会話を聞いて笑うのをこらえていたのだろうと思った。
「私なんて……ポワワワン」
「だから、その音なに?」
「回想に入る音よ」
「……」
平成二十四年、六月、高校生になった咲は学校生活にも…
「そこから!?」
「早いわよ、十夜!まだ物語の始まりよ!黙って聞きなさい!」
「断る!まず、遅刻の理由聞いて、平成二十四年から始めるバカどこにいんだよ!?」
「アメリカよ!」
「アメリカ人に謝れ!!」
「仕方ないわね~。省略してあげるわよ」
「うん、そうしてくれ」
戦いが繰り広げられる中、私は魔王、田中を探していた。
魔王城の頂上にいるだろう田中は―
「何の話!?平成の件からどうしたら魔王が出てくるの!?しかも魔王の名前、田中ってカッコ悪すぎるだろ!」
「世界に一つの隕石が落ちてきて、その隕石から生まれたのが魔王、田中よ」
「どうでもいいわ!!」
「ちなみに、生まれた魔王が初めて見たのが落ちていたゴミに書かれた田中と言う文字で、名前が田中になったの」
「ポイ捨てで魔王の名前が!!!!って、だから、どうでもいいわ!」
「ふふ、言っておくけど全部フィクションよ」
「うん、知ってた!」
「本当わね。パワワワン」
「回想に入る音変わった!」
朝の通勤電車の中、人混みは多く咲は窓の外を見ていた。
すると、ハァハァと言う嫌な音が聞こえた。
「おい!大丈夫かよ、それ!」涙目になりながら宏平は咲の回想に割り込む。
宏平も十夜たちの会話で笑うのを我慢していたのだろう。
「ううん、ハァハァと言う音はだんだんと近づいてきたわ」
「…なぁ、ちょっと待とう。咲」
「十夜は黙ってろ!咲がピンチなんや」
「なんで関西弁!?」
「そして私はソッと後ろを振り替えると……」
「振り替えると?」
「犬が!」
「「キャー!!!!」」
「電車に犬連れ込む人いないから!!!!それに……」
仲良く両手で顔を隠していた宏平と咲は指と指の間を少し開け十夜の顔を見る。
「咲……お前、電車通学じゃないよな。家から学校まで徒歩十五分くらいだし」
咲は咳払いをしたあと目を細め、前方に顔を向ける。
「この物語はフィクションです」
「フィクションかよ!」
「いや、気づけよ!」
そこで、十夜はあることに気がついた。
学校がすぐそこに見えたのだ。つまり、三人は学校に到着したのだ。
「学校だ!急ぐぞ!」
宏平がスピードを上げ走り出した。
そのあとを追う十夜に咲は突然、声をかけた。
「待って!十夜!」
「どうした?」
二人はその場で足を止め、沈黙が続く。
「実は、十夜に伝えたいことがあるの」
頬をを赤く染めながら、咲は十夜にそういった。
「な、何だよ?」
ドキドキとする気持。心臓がやけに速く動くのを感じながら十夜は息を呑む。
咲とは、幼稚園からの付き合いだ。恋愛感情は感じたことはない。
しかし、なぜこんなにもドキドキするのだろうと十夜は思った。
少しの沈黙の後、咲は口を開きこう言った。
「じつは、昨日ガラケーからスマホにしたんだー!良いでしょ~」
風がフゥ~と吹き、十夜は空を見上げた。
「今、言うことじゃねぇーーーーー!!!!」
こうして、彼らの日常が始まるのだ。
「十夜、ガラケーって、他になんて言うかしってる?」
「え~っと、フェーチャーホン?だっけ?」
「違うわよ。スーパーもしもしボックスよ!!!!」
「聞いたことない!!!!」
「間違った、もしもボッ―」
「世界変わっちゃうよーーーーー!!!!」