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99.『悪魔』と再会

「はあい。和哉さま!! お久しぶりでございますう!!」


 最初に出会った時と変わらぬ、いや、あの時以上にフリフリリボンが増えた、ふわふわチュチュ姿の、銀色の月天使——宇宙空間管理システムエンジニア主任、ナリディアが居た。


「……どうして?」


 ジャララバの一件で上司から謹慎処分、というか、システム一時停止処分をされていたはずのナリディアである。

 和哉達の世界時間で一年半の謹慎だと言っていたのに、たった4ヶ月かそこらで解けたのか?


「あ、私の謹慎が、急遽解禁になった、とお考えですね?」


 思考を読まれて、和哉はムッとする。

 超高度な人工知能である御使い達は、人間の思考を探る能力を備えている。ために、隠しておきたい感情も暴かれて、時々神経を逆撫でされる。


 ナリディアは、それでもフィディアとは違い、和哉の思考を読んだことを普段は明かしたりしないのだが。


「……勝手に、人の頭の中を読むなよ」


 ムクれた和哉に、ナリディアは慌てた風に居住まいを正した。


「申し訳ございません。お気に触ったなら、お許しを。——実は、和哉さまがガルガロンを《たべ》ておしまいになったために、和哉さまの生体活動を一時停止しなければならなくなりまして」


「へっ? って、なんで?」


「和哉さまの総合レベルと魔力レベルが、私達の制御を超える大きさになってしまったためです」


「……まさか、真竜(リアディウス)とおんなじ、とか?」


 以前、真竜は宇宙空間の外、『ゆらぎ』の中すら渡っていく、と言っていた。

『ゆらぎ』は果てしない高エネルギーの海のようなものである。そこを、己の『意識』を保ったまま進んで行くのは、『ゆらぎ』と同等か、それ以上の高エネルギーを有していないと不可能だ。


 頷いて欲しくないなー、と内心怯えと期待が入り混じっていた和哉に、ナリディアは、あっさり「はい、そうです」と言い切った。


「実は、和哉さまがガルガロンを《たべ》ることは、私達でも想定外の出来事だったのです。あ、最も、なんでも和哉さまがお《たべ》になれるようにカスタマイズしたのは、私の責任なんですがぁ……」


 上限を設けることまでは考えていなかった、と、ナリディアは白状した。


「ガルガロンをお《たべ》になったことで、和哉さまの総合レベルは一挙に10万を超えてしまいました。この値はもう、成体の真竜(リアディウス)をすら超えております。知らずに和哉さまが全力で魔法をお使いになられれば、この宇宙に、どころか、『ゆらぎ』にすら支障が生じる可能性が出るレベルです。

 ですので、申し訳有りませんが、ガルガロンの魔力レベルを10分の1に絞らせていただきました」


 形だけは申し訳なさそうに言うナリディアに、和哉は「へっ?」と、頓狂な声を挙げてしまった。


「俺の身体に入ったガルガロンの……、魔力だけ、を、絞った……?」


「はい」ナリディアはにっこり、と笑った。


 和哉が驚くのを待っていました、とばかりの月天使の、さも楽しげな笑顔に、和哉はますますムカついてくる。


「なあんだよっ、それ? 上限ナシで《たべ》放題オプションスキルを勝手にくっつけといて、後になって、これ以上はダメよん、ってえのはっ」


「お怒りは、ご尤もと、我ら宇宙空間管理システムエンジニア及び『ゆらぎ』形成監視官一同、深あく、反省しております。——そちらはまた後ほど、一同を代表して、ナチュラルウェーブ・フォルト管理監視総責任者が、和哉さまにお詫びを申し上げに参る所存でございますので、今はひとまず、お怒りをお納めくださいまし〜〜」


 途中までは超絶真面目モードだったのに、自分で耐え切れなくなったらしいナリディアは、最後に語尾を伸ばして「テへペロ」ポーズを決める。


 月天使の、照れ隠しなのかは知らないが、相変わらずのおふざけスタイルへの転落に、和哉は口の中で「ぶっ飛ばすぞっ」と呟いた。


 聞こえているはずだろうに、ナリディアは素知らぬ顔で話を続けた。


「それで、ですね。今回和哉さまに行わせていただいた処置は、総合レベルと魔力レベルのバラメータ改竄です。

 実際のレベルをご自身がご覧になった時、計測不能ではなくきちんと値が表示されるよう、最先端の管理システムを導入する運びとなりました。これによって、まだ任意の段階ではありますが、高位の値も計測されるようになります。それと」


 ナリディアは、わざとらしい咳払いをひとつ、した。


「先程も申し上げましたように、ガルガロンを《たべる》により吸引されたことにでオーバーしました総合レベルと魔力レベルにつきまして、ある程度の削除処置をさせていただきました。

 えー、この削除処置は、今まで宇宙空間管理システムエンジニアチームが手掛けたことのない処置でしたので、致し方なく、宇宙生命研究開発システム班の手を借りました。

 和哉さまに、万が一にも処置の後遺症等出ないように、細心の注意を払わせましたので ご心配は無用と存じますが」


「ちょっ……、ナリディアっ!?」


 聞き捨てならない言葉に、和哉は月天使の説明をストップさせた。


「処置の後遺症って、なんだよ?」


「あーっ、と、ですね……」うっかり口を滑らせた、という感じで、ナリディアは両手を口に当てた。


「実は……、宇宙生命研究開発システム班のメンバーには、約1名、1名っですよっ、実験大好きちゃんがおりまして。その、今回の和哉さまの異例の処置に、是非とも自分の研究成果を活用しろと」


 何をされたのか?

 和哉は青くなった。


「その人って……、人間を、ちゃんと人間として、扱う?」


 問いに、ナリディアが曖昧な笑みを見せた。

 和哉はパニックになる。


「もっ、もしかしてっ!! 今まで以上にっ、なんか訳のわっからない状態にっ、されてたりって!! しないんだろ〜なっ!?」


「だぁいじょーぶ、でございますう」


 ナリディアは、両手の指を顔の前で組んで、クネッ、と身体を捩って微笑んだ。


 いつも思うことなのだが。

 こういう動作をする時のナリディアほど、怪しいことは、無い。


 いかにも胡散臭い、という気持ちを込めて、和哉はギンギラギンのフリフリファッションに身を包んだ、宇宙空間管理システムエンジニア主任という肩書きが全く信じられない美少女をジトっ、と睨んだ。


 ナリディアは、思いっきりの作り笑いを顔に貼り付け、「ほぉんとのほぉんとおに、大丈夫でございますって」と言い切った。


「実験大好きちゃんには、和哉さまの処置を任せる前に、徹底的に念を押しましたし。もし処置中に妙なコトをしようものなら、このわたくしががっつり吊るし上げる積りで、最初から最後まで付き添いましたし。ですので、絶対に、何事も起こりません」


「……本当だろうな?」


 まだ、胡散臭い。

 が、笑い顔が泣き顔になりそうになりながら、「信じて、いただけませんかぁ?」と小首を傾げるきゃぴりん美少女に、和哉は降参した。


「わあかったっ!! 信じるよ」


「わあっ、ありがとうございますうぅ!! これで、わたくしの謹慎も本格的に解けますですっ」


 和哉が納得するかどうかが、ナリディア復帰の試金石でもあったのか。

 どこまで信頼されてない主任なんだ、と、和哉はぴょんぴょん跳ねて喜ぶ月天使に、半ば呆れる。


「あ、そうだ」


 ナリディアの衝撃的な登場と、自分の身に起きたトンデモ事実に、尋ねたいことがあったのを思い出した。


「ここに来る前に、さ、俺、」


 和哉は言い掛けて、口を閉ざした。

 言おうとしたことが、出て来ない。

 寸前まで記憶していた、ナリディアと再会する直前の出来事が、綺麗さっぱり記憶から無くなっている。


 ——さっきまで、どこに居たんだっけ? 俺。


 思い出そうとしても、もやもやとした景色しか浮かばない。

 考えれば考えるほど、その景色は黒くなり……。


「どうなさいました? 和哉さま」


 顔を近づけて来たナリディアにびっくりして、和哉は思考を止める。


「あ……、えっと、ナリディアにここで会う前って、俺、どこに居たのかなって……」


「お身体は眠っていらっしゃいますよ? いつもとおんなじですが?」


「どこで?」


 和哉の問いに、ナリディアは、いつものきゃぴりん笑顔とは全く違う、神々しいほどの微笑を見せた。


「それは、お目覚めになれば、お分かりになります」


 ではまた、と、月天使は深々と頭を下げた。

 別れの挨拶と同時に、ナリディアの姿は銀色の闇の中へと消えていく。


「あっ、ちょっと……」


 まだちゃんとした答えを聞いてないっ、と、和哉は叫びながら手を伸ばした。

 ……手が、握り返される感触がした。


「ナリディアっ!!」


 握られた手を思い切り引き寄せる。

 目の前に現れたのは、アーモンド型の、綺麗な黄銅(ブラス)の瞳に、オレンジゴールドの薄い唇。

 細い肩から滑り落ちて来た、絹糸のようにしなやかなステンレスシルバーの髪が、和哉の顔をくすぐった。


「……ジン?」


 名を呼ぶと、少女はブロンズの肌をほんのり朱に染めて、頷いた。


「よかった……」


 涼やかな金属のウィンドチャイムのような声音が、一粒の涙と共に落ちて来た。


「俺……、寝てた?」


 和哉の問いには答えず、ジンはいきなりオレンジゴールドの唇を、和哉の頬に押し付けた。

久し振りに、月天使様のご登場です^^;;


やっぱり色々、問題だらけ・・・

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