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96.アルファベット

 ひとしきり揶揄われた後で。


「カズヤ、自分のステータスを調べてみい」クラリスが真面目に言った。


 和哉は、頭の中に自分のステータス画面を描く。


 ——山田和哉 レベル4000 クラス冒険者:計測不能 クラス剣士:計測不能 クラス特級上竜騎士……


「計測、不能って……」


「ガルガロンを《たべ》たからじゃよ。近々、神殿辺りから何か言ってくるじゃろ」


 というより、これは多分、ナリディアが直に和哉に言いに来るだろう。

 だが、この小島で意識を無くすのは、ちょっとでなく嫌だ。


「あの、賢者様?」和哉はクラリスの端正な顔を覗くように見た。


「ここの魔法陣からは、ロー族の砦までは還れる、んですよね?」


「ああ——。忘れとった」


 クラリスは、巨大ガマ魔族と自分達が大暴れして粉砕された祠の瓦礫を、風の魔法で吹き飛ばす。

 来た時にあった魔法陣の辺りに、火精(ピュラリス)の火の玉を2つ、持って来させた。


「こりゃ使えんの」


「ええっ!?」


 和哉の驚きの声に、デュエルとロバートのものが重なる。


「じゃあ、どーやって俺らこの島から出るんですかいっ?」ロバートが、クラリスに詰め寄った。


「後先見ずに暴れまくって……、って、俺もやりましたけどっ。でも、せめて帰りの魔法陣くらい護っておいて下さいよっ」


「やかましいわっ」


 大賢者が、むっとした顔付きでロバートを睨んだ。


「魔法陣のことなんぞ考えながら戦っておったら、今頃おまえ達みぃんな、ガルガロンの胃の中じゃわいっ!! 難敵を倒すのが先決じゃろうがっ」


「っても!! アシが無きゃ還れませんってっ!!」


 クラリスは束の間、考え込むような顔付きになる。


「——カズヤ」


 上位魔族との、ある意味凄絶な戦いで消耗していた和哉は、騒ぎをぼんやり傍観していたところへクラリスに呼ばれ、「はい?」と、頓狂な声を出してしまった。


「おまえの特技の中に、ガルガロンの魔法が入ったじゃろ? その中に移動に関する術がある筈じゃ」


 と、言われましても。ガルガロンを《たべ》たばっかりで、《移動》だの《飛翔》だのなんていう便利な魔法があるかどうかなんて——

 内心文句を言いつつ調べた結果。


「……あった」


「なにぃ?」ロバートが目を剥いて顔を近付けて来た。


「どーしてそんな都合のいいことになるんだよっ!?」


「都合良くカズヤが覚えたわけじゃない」とオーガスト。


「上位魔族は大概、瞬間に自分の知っている場所へ飛べる《移動》の術か、高速で宙を飛べる《飛翔》の術を持っている。そのことを、大賢者様はご存知だったんだ」


「だったら先に言って下さいよー。賢者様ぁ」ロバートと同じく心配だったのだろう。デュエルが艶のないボサボサの金髪を両手で抱えた。


「あー、本気で忘れとったんじゃ」クラリスは、ぽりぽりと鼻の頭を掻く。


「何せ、上位魔族なんぞ、ここ何百年もお目に掛かっとらんかったからの。それよりわしゃ若いオーガストが、ガルガロンが移動に関する術を使える、というのを知っとったのが、不思議じゃわ」


 オーガストは、半ば呆れた、という目付きでクラリスを見ると、ぼそりと言った。


「竜には、竜珠(ドラゴン・オーブ)という、種族の知恵を蓄積している大切な品がある。竜珠には、どんな竜でも、特別な理由が無いかぎり触れることが出来る。……俺は竜珠で上位魔族の呪文の特性を知ったんだ」


「そうじゃった」クラリスは、杖で自分の額をぽんっ、と叩いた。


「わしも大概、耄碌したかの。——それはそうと。カズヤ、おまえの魔力ならわしら5人くらい、南レリーアまで運ぶのは容易な筈じゃて」


「えっ?」


 簡単に言われても、和哉は術をガルガロンから引き継いだだけで、どうやれば術が発動するのか、分からない。

 そもそも、和哉は今まで詠唱を必要とする、本格的な魔法を使用したことがない。

 そのことを大賢者に言うと、「アホか」と即座に睨まれた。


「《移動》の術に意識を集中してみい。魔法が頭の中に浮かんで来る筈じゃ」


「あの、《飛翔》ですが……」


「どっちでもおんなじじゃっ。集中っ!!」


 犬にしつけるような言い方で、クラリスは和哉を急かせた。

 素直に「はい……」と答えてみたものの。


 そんなことで術が使えるようになるものなのか?

 しかし、やらないことには、全員この小島から帰れない。

 和哉は、頭の中で「《飛翔》の呪文、《飛翔》の呪文……」と考えてみた。


 と。

 脳裏にこれまで見たことの無い文字が浮かんで来た。

 地球で言うところの古典のくずし字のような文体である。

 和哉は今までにないくらいに脳みそをフル回転させ、この文字を読もうとし——読めた。


「——風の翼よ、我らを乗せて翔べ。《飛翔》」


 突然、身体が浮き上がった。

 下から強風に煽られているかのごとく、和哉はどんどんと上空へと持って行かれる。


「どうっ、やったらっ、前へ行く、ん、ですかっ!?」


 持ち上げられるだけでどうにもコントロールが出来ない。

 大声でクラリスに助けを求めた。

 和哉のすぐ隣に浮遊していた大賢者は、「行き先を叫べっ」と怒鳴り返して来た。


「南、レリーアっ!!」


 途端。

 猛烈な速さで、和哉達は空の上を走り出した。


 ******


《飛翔》の魔法のおかげで、行きの3倍くらいの速さで南レリーアまで帰って来た。

 飛行中に、クラリスに怒鳴られながらも術のコントロール法を覚えた和哉は、身体を徐々に起こし、着陸の体勢に入る。

 無事に南レリーアの外郭璧の上へ降りた和哉達のところへ、女性陣が駆け寄って来た。


「おっかえりぃ!!」飛び付きそうな勢いで、エルウィンディアが満面の笑みで一番に出迎えた。


「ただいま。——と。鋼鉄巨人は?」


「あたし達で倒しちゃったわよー。見てみてっ」


 エルウィンディアは、派手に破壊された外郭壁の真下へ、和哉の腕を取って引っ張って行く。

 レンガと土塊と木組みのばらばらになった瓦礫の中に、大きな鉄の塊が倒れていた。


「……胴体のど真ん中に大穴が開いてんぜ?」


 その図体からは考えられない身軽さで、ぴょんとデュエルが鋼鉄巨人の巨体の上へ飛び乗る。

 和哉も後に続いた。


「その穴は、ジンが開けたものだ」いつの間にか側に立っていたガートルード卿が言った。

「ジンが?」


「そうだ。——降りてみるか?」


 和哉は《両生類の壁歩き》で、鋼鉄巨人の内部を伝って降りる。

 中はがらんどうだった。


「……これで、どうやって動いてたんだ? こいつ」


 和哉の常識では、いくら魔法人形(マジック・パペット)といっても、何がしかの駆動用の機械があるものとみていた。

 ボディが空洞、というのは、予想外である。

 思い返せば、レス湖の鋼鉄巨人も、ちゃんと確認しなかったが、同じように中身は空だったのかもしれない。


「内壁を見てみい」混乱する和哉に、クラリスが、小さな火球を2つ作り出し、1つを鋼鉄巨人の内壁に近付ける。


「なんか……、細かい文字がびっしり書いてある、っすけど?」


「古代語魔法じゃ。鋼鉄巨人(これ)を作ったのは、恐らく、レス湖の遺跡を造った連中じゃな」


「ロー族よりも古いっていう、伝説の?」


 デュエルの問いに、クラリスは「そうじゃ」と頷く。


「魔動力機械は腕や足を動かす関節部分にのみ。この古代語魔法で魔力を発動し、駆動部に魔力を送る仕組みじゃて。動かすには、この部分」と、クラリスは杖で文字の色が他とは違っている場所を指す。


「ここに、発動する最初の魔力を注入する魔術師の名を書き入れる。今書かれているのは、ガルガロンの名前じゃ」


 和哉はクラリスの杖の先をじっと見る。

 近頃やっと読めるようになったこの地域の文字とは全く異なる文字の中に、なぜかローマ字で『GARUGARON』と書かれてあった。


「これ……、アルファベットだ」


「なんだとっ!?」ロバートが、声を裏返させて駆け寄って来た。


「なんで……、上位魔族の名前がアルファベットなんだ?」


「ほう。この文字は、アルファベットというのか」


 ガートルード卿が、興味深げに『GARUGARON』と書かれた部分に顔を近付ける。


「『U』が余分じゃねえか?」


 ロバートの指摘に、和哉は、ああそうか、と思った。


「イングリッシュだと、『U』はいならいのか。でもこれ、多分日本語表記だね」


 和哉とロバートの会話に、クラリス始め仲間達はきょとんとしていた。彼等の不思議そうな顔に気付いた和哉は、「あ、これは、俺とロバートの故郷の言葉の話」と、曖昧に笑った。


「ガルガロンを目覚めさせた誰かが、書かせたのに違いないが。それがカズヤの故郷の文字、というのは興味深いな」


 ガートルード卿の言葉にクラリスも頷く。


「考えもせんだったわい。——ふむ。ということは、ガルガロンより上位の魔族に、カズヤと同じ生まれ故郷の魔族が居る可能性があるの」


 クラリスは、綺麗な顔の額に深い縦皺を作った。


「えっ? そっ、そんなことが……?」


 地球には、伝説や噂として、悪魔や魔物がいる、と言われていたが、実際に誰しもが目にした訳ではない。

 にも関わらず、魔族が地球から異世界(ここ)に転生しているというのは、どう考えたらよいのか?


『GARUGARON』の綴りを見詰めれば見詰めるほど、和哉は頭が混乱して来た。


「地球に、魔族が、居た?」


「そりゃ……、あるよーな、ないよーな、だろーが?」


 和哉の呟きに、ロバートが否定的な意見を返した。


「俺の故郷は妖精たの魔物だのの話には事欠かないところだったけどなぁ。実際にそういうヤツラが居るかどうかは、俺自身、見たこたあなかったし」


「けど、望めば誰しもが好きなものになれた」いつの間にか、ジンが和哉の背後に立っていた。


 金属の風鈴の音のような心地よい声が、和哉達に恐ろしい事実を告げた。


「知っていると思うから言う。月天使の御力でこちらへ来た人々の中に、人ではなく、魔物になることを願った者が幾人かいる」


 和哉は、唖然とした。

超スローロリス状態です。

すいません(-。-;

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